友達の存在を感じながら、運動の楽しさを広げていく
−2年2組『ヒット&キャッチードッジ』の実践から一
内 山 勝 也
「さあ、こい!」と言わんばかりに両手を広げ、ボールを待ちかまえているG男君。彼の全身から、
「楽しい」キいう言葉が発せられているようだ。また、それを見ている味方の子どもたち、そしてそ んな彼を狙ってボールを投げようとしている相手の子どもの目も、実に輝いている。休み時間、ドッ ジボールをしている子どもたちの姿である。私は、これまでの営みを通して、,子どもたちが運動に楽 しさを感じているであろう場面に数多く出会ってきた。その中七、子どもたちが運動に感じている楽 しさをできる限りとらえてみたし、、という思いを強くもつようになった。それはヽそうした子どもたち の姿から、子どもたちを運動に駆り立てるものの一つに、「運動の楽しさ」というものが存在してい ることを感じたからである。
1.教材に込めたもの
本教材は従来のドッジボールとは異なり、内野にいる子にどれだけボールを当てたか(1回当てる と1点)で勝敗を競うゲームである。子どもたちのこの運動に寄せる思いや楽しさをより際立たせた いと願い、「内野で当たっても、外野へ出なくていい」というルールを設けることにした。このルー ルにより、子どもたちは「相手にボールを当ててみたい(ヒット)」「ボールを捕ってみたい(キャッ チ)」「うまくボールをかわしてみたい(ドッジ)」などの思いをより強めながら、夢中になってこの 運動に取り組んでいくだろう。
やり方・ルール
・1チーム10人、男女混合4チーム
(前後半制で内外野5人ずつ)
・内外野の入れ替えはハーフタイムのみ行う
(入れ替えについてはチームに委ねる)
・ポールはスポンジポールを朗(1個)
・脚潤は郁絆4分ずつ
・ゲームは得点制で行う
(内野の子に当てると1点)
・ヒットは全身どこでも可
・バウンドしたポールがヒットしても有効 とする
・外野の搬げあり
ゲームが進んでいく中で、子どもたちは、勝ちた いという思いの強まりとともに、徐々にチームの作 戦に目を向けていく。そうした中で、子どもたちが 最も思い悩む場面、それは内外野の入れ替えをどう するかであろう。チームの作戦と自らの思いの間で 揺れる中で、どのような判断をしていくのか。そこ
にこそ、その子が感じているこの運動の楽しさがよ り色濃く出されてくるに違いない。
私は、そうした、子どもたちが思い悩む中で自ら決めていく姿を、できる限りとらえ、支えていき たいと考えていた。そこでは、 共に取り組む友達の存在に目を向けながら、さらに意欲を高めたり、
お互いを認め合ったりする中で、より自分らしくこの運動に立ち向かっていく姿に出会えるに違いな い。それは、その子にとってこの運動の楽しさを広げている姿であると考えたのである。
2.6男君のとらえと顧い
明るく活発な子が多い2組の中にあって、一際明るく元気な子どもがいる。それがG男君である。
彼の周りには、いっも友達の姿がある。それは、彼の屈託のない笑顔と優しい人柄に惹かれているか らだろう。休み時間に友達と遊んでいる時や体育でチームゲームを行う時などの彼は、友達と一緒に できるといううれしさから、実に楽しそうに取り組んでいる。
7月に『ドッジボール』を行った時、内野に入り、身体を低く構え、向かってくるボールを巧みな 動きでかわしていく彼の姿に出会った。その実に見事なかわし方に、私自身驚きを隠せなかった。ま た9月に行った『的当てゲーム』では、果敢にボールを捕り甲、く彼の姿も見ることができた0この
ような姿から、彼はかわす、括るといった動きに楽しさを感じていると私は思った。
本教材に出会った彼は、友達と共に活動する喜びを感じながら、夢中になってゲームに取り組んで いく中で、かわす、捕るといった自分が自信をもっている動きを、存分に楽しんでいく。そして彼は
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内野への思いを強めていくだろう。また、彼の動きのよさを認めた友達からは、彼に内野での活躍を 託す声も聞かれるに違いない。
子どもたちの動きが高まったり、勝敗へのこだわりが強くなってくると、チームでの内外野のメン バーの相談にも、個々の思いが出されてくる。そこでは「内野にいきたい」という友達の思いも出さ れるだろう。友達を大切に思う彼は、そういう友達の思いを聞いた時、「自分が外野へいこうか」と いう思いと「内野にいたい」という思いの問で揺れながらも、自分が外野へいくことを決めるだろう。
私は思い悩む彼の姿をとらえながら彼の決断することを認めていきたい。G男君の思いを感じたチー ムの友達からも、そういう彼を称える声や、彼の思いに応えようとする声が聞かれるだろう。こうし た中で彼は、友達をかけがえのないものだと実感しながら、さらに意欲を高め、このゲームに取り組 んでいくに違いない。そういう姿こそ、友達とのかかわりを通して、自分らしく運動の楽しさを広げ ていく彼の姿であると私は考えていた。
3.内野への思いを強めていくG男君
試しのゲーム前、どのチームも前後半のメンバーをどうする かで話し合いが行われていた。G男君のいる赤チームもR子さ んが中心になり、みんなのやりたいことを聞きながらメンバー を決めていた。相談の結果、G男君は前半は外野、後半は内野 になった。「前半外野になっちゃった」という彼の言葉から、
彼はすでに内野への思いをもっていることが感じられた。
ゲームが始まると、G男君は前半外野という、思いとは違う ポジションではあるにもかかわらず、常にボールを意識して動 き回っていた。相手にボールをヒットさせては全身で喜びを表
す彼の姿から、このゲームを本当に楽しんでいることが感じら くゲームの様子〉
れた。そして後半、内野に入ったG男君は、早くも彼本来の巧みな動きを見せる。足下にとんでくる ボールをジャンプ一番、さっとかわしたかと思えば、頭付近を狙ってくるボールに対しては、身体を 低くしてすれすれでかわしていく。その見事なかわし方は、きっとチームの友達の目にも焼き付いた はずである。ゲームには敗れたものの、「僕、よけるのうまかった?」と教師に尋ねてくる彼の顔か
らは、思うように動けたという満足感がありありと伺えた。
G男君は1試合日で見せた巧みな動きを、その後の2試合でも遺憾なく発揮していた。かわすこと に自信をもっている彼だが、きわどいボールはかわし、正面にきたボールは確実にキャッチし、ヒッ
トにつなげてようとする動きも見られるようになってきた。ゲームを進めていく中で、彼の動きは確 実に高まってきていることが感じられた。しかしながら赤チームは、試しのゲーム3試合を1勝2敗
という結果で終えた。
第3時、いよいよリーグ戦に入った。赤チームの初戦の相手は、青チーム。試しのゲームで3連勝 と、圧倒的な強さを見せたチームである。準備運動後、すぐにメンバーの相談を始めた赤チームのど の子の顔からも、絶対に勝ちたいという思いが感じられた。ここで、赤チームは「前半は男子が全員 内野、女子が全員外野」という作戦に打って出る。これは、女子よりもキャッチやかわす動きが得意 な男子を全早内野にして、青チームのポイントゲッターであるE男君の速くて強いボールに対抗しよ うということなのだろう。この作戦により内野へ入ったG男君は、もち味であるかわす動きばかりで なく、キャッチやヒットにも果敢に挑戦し、得点をあげていった。そして、前半を7対8と青チーム の1点リードで折り返した赤チームは、この作戦を後半も続け、22対19で青チームに勝利したのであ
る。結果を聞き、バンザイをしながら友達と喜び合うG男君の姿があった。
C 前より少し上手になったから、よかった。
T G男君は、どういうところが上手になったの?
C 捕ったりとか、投げたりするのが…‥_・。
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キャッチやヒットにも意欲的に取り組むことで、彼は自らの動きにさらに自信を深めたことだろう。
そして、そうした中で、内野への思いを強めてきているに違いないと私は考えていた。
4.まさかの敗戦
リーグ戦1回戦の第1試合、青チームとの対戦を「男子が全員内野、女子が全員外野」という作戦 で見事に勝利した赤チームは、その後もこの作戦を続け、勝利を重ねていく。G男君も、ずっと内野 にいられるということもあり、ますます意欲を高めてきているようだった。常にセンターライン付近 に立ち、ボールを呼び込もうとする。きわどいボールはかわすが、正面に来るようなボールに対して は確実にキャッチし、ヒットにつなげていく。こうした動きは、チームの友達からも信頼されるもの になり、G男君にボールがパスされる場面も多く見られるようになってきた。G男君自身も、きっと そうした友達の思いを感じていたのだろう。顔面にボールを受けても、怯むことなく立ち向かってい く彼の目には、共に勝利をめざす友達の存在が映っていたはずである。
リーグ戦2回戦の初戦、青チームとの対戦である。前回勝っていることもあり、どの子の顔にも余 裕が感じられた。G男君もいっにも増して気合いが入っている声うだった。
前半、内野に入ったG男君は、これまで通り果敢にかわす動きやキャッチ、ヒットに挑んでいく。
しかし、ここで彼にとってはこれまでにない壁に直面することになった。青チームのE男君が、彼を 集中的に狙ってきたのである。前回負けていることから、E男君なりに考えてきた作戦なのだろう。
このE男君の作戦は見事に的中する。明らかにG男君がこれまでよりヒットされる回数が多くなって きたのだ。いくら懸命にかわそうとしても、E男君の投げる速くて強いボールはかわしきれない0そ のことが余計にG男君の焦りを誘い、立て続けにヒットされてしまう。結局、前半は8対15という大 差で青チームにリードを許すことになった。G男君を含め、赤チームの誰もがこの結果に焦りを感じ ていたに違いない。後半に入る前の話し合いも、とにかくいっも通りにやっていこうという確認をす るのが精一杯で、余裕のないものだった。そして後半、一度青チームに傾いた流れを引き戻すことは できなかった。負けられないという思いの強さが、G男君にも大きなプレッシャーをかけたのだろう。
動きはさらに硬くなり、ヒットされる回数も前半以上に多くなっていく。今までの彼ならば簡単にキャッ チしていた弱いボールまでもキャッチミスを繰り返すようになり、相手に得点を与える結果となって
しまった。結果は16対24で青チームの勝利である。赤チームは、リーグ戦に入って初めての敗戦を喫 してしまったのだ。
5.敗戦の中で見つめたものは
赤チームにとって、リーグ戦初めての敗戦。ゲーム後、「くそっ!」と悔しさを全面に表すG男君 にとっては、ゲームに負けたことは勿論、自分がこれまでにないほどヒットされたことも予想外のこ
とだったのだろう。
T どうして負けちゃったのかな?
C(D男)G男君が悪い。
ゲーム後、負けたのはG男君のせいだというD男君の言葉があった。これまではその動きのよさを 認め、内野を任せてくれていた友達に、ここで動きを問われたのである。G男君はこのD男君の言葉 をどう聞いたのだろう。友達を大切に思う彼にとっては、きっとやりきれないものだったに違いない。
しかし、そんな彼を奮い立たせたのは、やはり友達の言葉だった。
C E男君のボールって、足下に来たじゃん。左側によく曲がってきていた。
C(J男)E男君も、G男君を狙っていたじゃん。
これまで、G男君同様、チームの中でもポイントゲッターとして活躍してきたJ男君。そのJ男君 が、明らかにG男君が狙われていたことを告げたのである。この言葉の中には、あれだけ狙われたら、
いくらG男君でも逃げ切れないということと同時に、常にボールに挑んでいっているG男君だからこ そ狙ってきたんだという彼の動きをあらためて認めるJ男君の思いが込められているように感じられ
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る。そうしたJ男君の思いをG男君も感じたのだろう。彼は自らの動きを見つめ、今一度、友達と共 に勝利をめざそうと動き出したのである。その日の学習カードに、「作戦を考えた」という言葉とと もに、図入りで動きの説明を書いてきたG男君。私は、自らの動きを認めてくれる友達の存在を感じ る中で、悔しさをバネにさらに意欲を高め、立ち向かっていこうとする彼に達しさを感じていた。
リーグ戦2回戦の2試合日のゲーム前、自らが考えたかわす動きをチームの友達に伝えていくG男 君の姿があった。
C まず、ボールがくるのを待ってて、近くにきたらすぐに横にいく。
T 今、G男君が言った作戦っていうのは、止まって待っていて、ボールがきたらすっと……。
C バラバラになって待ってて、ボールがきたらすぐに横にいく。
C (M子)描れるボールは捕って、速いボールはよける。
C ボールを投げた瞬間よけると当たっちゃうから、ボールが近くにきたらよける。
彼は、どうしたらうまくボールをよけることができるのか、自分 なりに考えてきたのだろう。それを友達に必死になって伝えていた。
また、友達からもそういう彼の考えたかわす動きをさらによいもの にしようとする言葉が聞かれた。G男君の考えた動きをもとに、も う一度みんなで勝利をめざし取り組んでいこうとする意気込みが伝 わってくる。いよいよ、ゲーム開始。前半、内野に入り、開始早々 相手にヒットさせ、大きなガッツポーズを見せるG男君。また自分 がキャッチしたポールをチームメイトに渡す姿からは、友達と共に 勝利の喜びを味わいたいという彼の思いが感じられた。そして何よ り印象的だったのは、ただかわすだけでなく、正面のワンバウンド
ボールは確実にキャッチした姿だった。彼は自らが提案し、友達と 〈共に勝利をめざして〉
共に考え出した動きを実践していたのである。この時の彼には、もう本来の巧みな動きが戻っていた。
そしてそれをチームの友達も感じていたのだろう。「G男君はこのまま内野でいいの?」という私の 問いかけに自信をもって「いい」と答える友達の声は、きっと彼の心にも響いていたに違いない。
赤チームは、残り2試合を見事に勝利し、5勝1敗でリーグ戦優勝を果たした。G男君にとって友 達と共に成し遂げたこの優勝は、何にもかえがたい喜びと大きな自信になったことだろう。常に意欲
を高めながら、この運動に立ち向かってきたG男君。彼のそばにはいっも、共に取り組む友達の姿が あった。その動きを友達に認められ、内野を任されたこと、敗戦により自らの動きを見つめる中で、
友達の言葉に支えられながら、さらによりよいものへと高めてきたこと、そして友達と共にやってき たことが結果に結びっいたこと。このような中で、G男君は友達の存在をより大きなものとして感じ ていったに違いない。
6.G男君らしく運動の楽しさを広げていく
追究を終え、あらためてG男君にとってこの運動における楽しさとは何だったのかを考えてみた。
彼にとって、共に取り組む友達の存在は大きかった。なぜなら、友達に自らの動きを認められること で、彼は内野への思いをふくらめながら、この運動に立ち向かい、その動きを高めていくことができ たからである。そんな彼は、敗戦により友達からその動きを問われ、一方でそれでも彼の動きを認め る友達の言葉を聞くことになる。彼にとっては友達の存在を感じていく最も大きな瞬間であった。そ の中で、自らの動きを見つめていくG男君。そして、そこからもう一度、勝利のために動き出すので ある。彼の中では、自らの動きをさらに高めていこう、そして友達ともう一度勝利をめざして頑張っ てみようとする意欲が大きくなっていった。こうした中で、彼の友達をかけがえのないものだと思う 気持ちは広がっていたはずである。共に取り組む友達の存在、自らの動きの高まり、こうしたものを 感じながらこの運動に立ち向かっていったことが、G男君にとって、自分らしく運動の楽しさを広げ ている姿と言えるのではないかと私は考えている。