友達と思いを重ね合う楽しさを感じて
−3年1組『リコーダーの音で措こう』の実践から−
小 田 泰 子 1.教材について
日記を読んでいて、子どもたちの表現にはっとさせられることがある。校庭に舞う桜の花びらを見 て、「花びらが踊っている」と書いていたり、道端の草に心をよせ、「がんばって花を咲かせていた」
と表現したり、子どもの目には、こんなふうに映るのだと、感心させられる。子どもたちは、ふとし た自然の変化にも目を向け、自分たちと同じように命あるものととらえ、さまざまな思いをふくらめ ていく。『新聞紙の音で描こう』では、細くちぎった新聞紙を振って、「そよ風が吹いている音」を表 したり、ちぎった新聞紙を丸めて「虫が歩いている音」をつくったりしていた。子どもたちは、この ように新聞紙の小さな昔からも、次々と発想を広げていった。こういった子どもたちの姿に出会うた び、その感性や想像力を素敵だなあと私は感じた。そんな子どもたちだからこそ、浸り込んでいくこ とができる空想の世界で、思いきり楽しんでほしいと思った。そうすることで子どもたちは、自分の 思い描いた様子が音として表せる満足感や喜びを、いっそう強く感じられるだろう。
本教材は、自由にリコーダーで音を出す中で、見つけた音を使い、音づくりをしていく活動である。
子どもたちは3年生から始まるリコーダーの学習に、今までとは違った音楽活動の展開を期待してい た。初めてリコーダーを手にした子どもたちは、自由に音を出す中で、穴の押さえ方や息の吹き込み 方の工夫により、音高や音色が変化することに気づいていく。そしてさまざまな音を出し、「〜のよ うな昔が出せる」「〜みたいに聴こえる」と感じたことを語りながら発想を広げていく。こうしてひ とりひとりの中に思い描かれた世界は、友達と語り合うことで、さらにより具体的なものとなってい くだろう。こうして、子どもたちは豊かな想像力を生かし、昔づくりを楽しんでいくことができると 考える。また、友達と語り合ったり、音を重ねていくことで、自分にはない発想のよさにも気づいて
いくことが期待できる。そして友達との考え方の違いにふれ、自分の思いを振り返ることで、新たな 表現を生み出すことにもつながっていくこともあるだろう。このようにして、自分の思いと友達の思
いを重ね合わせながら、共につくりあげていく楽しさを感じてはしいと願った。
2.K男君のとらえと厭い
K男君は友達との考え方の違いを感じると、蒔躇することなく、自分の思いを主張していく。使っ たボールの後片づけについて、彼は「最後まで使っていた人が片づけるべきだ」と主張した。友達の 反対意見を受けてもなお「最後の人が責任をもっべきだ」と主張して譲らなかった。彼は、自分自身
が考える正しさに忠実でありたいという気持ちを強くもっているため、自分一人でも考えを曲げるこ となく主張していくのだ。私はそんな彼を、いいなあと感じた。
彼は前教材の新聞紙の昔づくりでは、おもしろい音を見っけたいと考えていたが、自分の思いに合 う昔が見つけられずにいた。そんな彼の参考になればと、友達のつくった「波の音」を聴かせると、
彼は「あっ」と小さな声で言い目を輝かせた。そして彼は、さらによく聞こえるようにと友達の輪の 中に入り、新聞掛こ耳を近づけた。友達の昔に聴き入っていた彼は、友達の発想のよさ■を感じていた のだろう。
友達の活動を手がかりに、音から発想していくことに目を向け始めた彼は、本教材でリコーダーの 音に出会うと、どんなふうに聴こえるのかと一生懸命耳を働かせていくだろう。彼は感じたことを友 達と語り合い、より具体的な様子を思い描いていく。そして思い描いた様子を音で表現したいという 思いから、自分と似た思いをもっ友達を求めていくだろう。そこで彼には音づくりの中で、思いを支 えてくれる友達と深くかかわらせたいと考えた。友達の思いや発想のよさに出会うことによって、彼 はさらに表現の幅を広げることができるだろう。思いを出し合う中では、友達との意見の違いもある。
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そんな時には、彼自身が思いを見っめられるよう関わっていきたい。このようにして、自分の思いを 大切にしながら、友達と昔を重ね合い思いを出し合って、共につくりあげる楽しさを感じていく彼の 姿を願った。
3.森の一日を表現したい
駿府公園で、リコーダーを手にしたK男君は、自由に音を出すことを楽しんでいた。鳥の鳴き声の ように聴こえてくる友達のリコーダーの音に興味をもった彼は、自分も真似をしてカッコウの鳴き声 を吹き始めた。「鳴き声と間違えて鳥が寄ってきた」という友達の話に関心を示し、A子さんや数人 の友達と共に、鳥が鳴いていると思われる木の方に向かい、小鳥の鳴き声を真似て、リコーダーを吹 き始めた。その昔に答えたように鳥が鳴いたのを聴くと、表情が明るくなり、鳥とおしゃべりをして いるかのように、夢中になってリコーダーを吹き続けた。
彼は公園で共に活動していたA子さんたちとグループを組 み、鳥の鳴き声で音づくりを始めた。彼はカッコウの音を担 当し、友達の昔と重ねることで、「たくさん鳥がいる森にし たい」と考えていた。活動が進み、自分たちの演奏を紹介し 合うグループも出てきた。いくつかのグループが集まって練 習している所に、彼がやってきて、自分たちの演奏も聴いて ほしいと働きかけた。K男君たちの演奏は、それぞれの表す 鳥の鳴き声が重なり合い、森の中の鳥たちの様子を表したも のだった。突然、彼が「ストップ」と声をかけると、演奏が 止まり、A子さんのふくろうの音のみになった。これは彼の 提案によるものであった。
〈K男君のワークシートから〉
く相談するK男君たち〉
だんだん夜になって夜でも目の見えるふくろうの声をのこす
ふくろうの音を残したことで、彼は森が昼から夜に変化したことを表そうとしていたのだ。聴いて いた友達から、ふくろうの声で夜の様子を表すという、アイデアのよさを賞賛されたことで、自信を 強めた彼は、朝の感じも加えて、「森の一日」を表そうと、グループの友達に働きかけていった。そ して、一人ずつ音を重ね、朝になり鳥が集まってくる様子を表していこうと、何度も練習を繰り返し た。彼は自信に満ちた表情で、中間発表に臨んだ。何度も練習を重ねただけあって、タイミングもしっ かりそろった自分たちの演奏に、満足げな表情の彼だったが、友達の感想を聞.くと、その表情が一変
した。
C(N男)K男君たちの鳥の音は、すごいいい音出してたんだけど、鳥の音とか少し重ねすぎて いたから、いい書出しているのにもったいなかったと思う。
朝の感じを出すために、意図的に音を重ねていったことが、伝わらなかったことへの悔しさが、表 情に表れていた。練習を繰り返し、自分のアイデアにも自信を強めていただけに、その悔しさは、さ ぞかし大きかったことだろう。しかし、私は聴いている友達の感じたことも、事実として受けとめ、
活動に生かしてはしいという思いから、K男君たちがこの感想をどう考えていくのか見守った。彼は
「朝の感じがわかるようにするには、どうしたらいいのだろう?」と再び考え始めたが、なかなかよ いアイデアがうかばなかった。
4.ピアノの音が合うだろうか?
その翌日、A子さんから、ピアノで朝の曲をっけたいという相談をうけた。K男君に相談してみた らどうかとアドバイスをし、様子を見ることにした。そのことが、彼が自分の思いを改めて見っめる いい機会となるだろうと考えたのである。A子さんの提案を聞いた彼は、自分が思い描く森の情景と
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照らし合わせて、ピアノの音が合うかどうか考える。彼は自分の思いとは違うことを感じるだろう。
彼がこのA子さんの提案にどのように答えを出していくのかを、私は見守ることにした。そこには、
きっと彼のこだわっている思いが表れるだろうと考えたからである。しかしA子さんの言葉を黙って 聞いていた彼は、この提案をすんなりと了承した。私はピアノをつけることで、彼たちの音楽が変わ ることを予想し、彼の思いが生かされなくなってしまうのではないかと不安を感じた。
A子さんの提案のもと、リコーダーにピアノを重ねる練習が始まった。ピアノを加えたことで、彼 らの音楽は、やはりそれまでとは違った感じになった。彼らの様子を見ていく中で、張り切ってピア ノに向かっているA子さんとは対照的な彼の様子が気になった。その表情から、ピアノをつけること をよく思っていないように感じ、彼の感想を聞いてみた。彼は「まあいいと思う」と曖昧な答え方を
した。「今までの方がよかった」と言うだろうと考えていた私は、ピアノの音を加えたことがよくな いという、明確な理由が見つからないのかとも思い、さらに聞いてみることにした。
C(M男)少しピアノの音が大きいんだよね。リコーダーの音が聴こえなくなる。
C■ そのことなんだよな、言いたかったのは。
隣にいたM男君が答えて、その言葉に彼は、ためらいがちに付け加えた。ピアノの音を小さくして みたが、彼はすっきりとしない表情だった。そこで何とか彼の思いを引き出そうと試みたが、明確な 返事は得られなかった。それでも友達に声をかけ、何度か音を合わせていく彼には、何か言い出せず にいる思いがあるのではないかと感じた。私はそれまでのとらえから、彼なら自分の思いは主張して
いくだろうと考えていたため、なぜ自分の思いを言 い出さないのか、彼の気持ちを知りたいと思った。
そして、彼の様子を見っめるとともに、これまでの 彼の取り組みを振り返って考えてみた。
公園で初めてリコーダ」を手にしたときから、共 に音づくりを進めてきたA子さんは、彼にとって同
じ思いで音づくりを進め、彼の思いを支えてくれる 心強い存在だった違いない。彼の「朝の感じを出し たい」という思いを受けとめたA子さんは、彼女な りにどうしたら朝の感じが出せるか考え、朝の感じ がする曲をつけることを思いっいた。そして楽譜を 用意し、家で練習までしてきたのだ。そんなA子さ くピアノの音があうだろうか?〉 んの気持ちを感じて、彼はピアノをっけない方がい いとは言い出せなかったのだろう。私は、友達の思いを大切にしようとしていた彼の姿を、うれしく 思った。それと同時に、このような友達の思いも感じながらも、彼には再び自分の思いを生かそうと 動き出してほしいと思った。思いを出し合い、共に考え合うことが、音づく■りの楽しさにつながると 考えていたからである。
5.もとに戻そう
そこで次の時間私は、K男君たちの演奏をテープに録音し、ピアノをっけたものと、つけないもの を、比べてみることを提案することにした。2つの演奏を聴き比べることで、彼はどちらが自分の思 いにあっているのか、明確に感じることができるだろう。さらに、ピアノをつけないほうがリコーダー の音が響くという、グループの友達の言葉を参考にし、彼が自分の思いを語り、再び動き出せるので
はないかと考えた。そしてA子さんの思いも受けとめた上で、自分の思いも語り、共に考えていこう とする彼の姿を願った。
彼は録音の提案を聞き、明るい表情になりすぐに準備を始めた。2つの演奏を聴き比べ、ピナノを っけることで、リコーダーの昔が目立たなくなってしまうことを理由に、グループの友達が「ピアノ
がない方がいい」という意見を述べた。そんな友達の声に、A子さん自身も「ない方がいいかな」と
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感想をもらした。そう言いっつも、寂しそうなA子さんの表情を、彼は気にしていたのだろう。彼は なかなか自分の思いを口にできずにいた。しかしグループの友達が、ピアノを重ねない方がいいとい う思いを強めていることもあり、「もとに戻そう」と決断した。グループの意見がまとまり、練習が 始まったことに、ほっとした表情を見せた彼であったが、せっかく張りきっていたA子さんの思いを、
汲んであげられないことに、後ろめたい思いを感じていたようでもあった。
6.そして迎えた発表会
その後のK男君たちのグループは、順調に練習を進め、発表会を迎えた。友達の前に立った彼の表 情は実に生き生きとしていた。発表の準備を始めた彼らに私は驚いた。A子さんがピアノの前に座っ ていたのだ。彼らは話し合って、ピアノはつけないことに決めたはずであった。いったいどうしたこ とだろうと戸惑いながら見っめていると、彼はA子さんに合図を送った。なんと彼らの演奏は、A子 さんのピアノから始まったのだ。A子さんがピアノを弾き終わったところで、K男君のリコーダーが 始まる。そしてリコーダーの音が、重なっていくことで、たくさんの鳥が鳴き交わす、森の情景が広 がっていった。ピアノを加えることは彼の提案だそうだ。彼らのグループは一度はピアノをなくそう
と全員が同意した。しかし彼は、何とかA子さんのピアノも生かせないかと、考え続けたのだろう。
ピアノを重ねるのではなく、演奏の前につけるという方法を考え出し、友達に提案していったのだ。
彼は音づくりの中で、自分の思いへのこだわりをもちつつも、友達の気持ちを思うがゆえに、言い 出せずにいる自分自身を、立ち止まり見っめていた。こうして立ち止まり考えた時間が、彼にとって 価値があったことを改めて感じた。こうした時間の中で彼は、自分の思いを生かすことができない悔 しさや、思いを語る事ができない苦しさを感じていたのだろう。だからこそ、ピアノの音を加えたい という思いを生かせないA子さんのつらい気持ちが、彼には理解できたのだ。そのことが、何とかA 子さんの思いも汲んでいこうとする、彼の取り組みにつながったと考える。そして彼は、リコーダー とピアノの音を重ねたくないという友達の思いと、A子さんの思いを、重ね合わせられるような音づ くりができないかと考えていったのだ。自分の思いと友達の思いの両方が、音に生かされてこそ、自 分たちの音楽になっていくということを、彼自身強く感じていたのかもしれない。
ピアノのメロディーとリコーダーの音の構成を工夫したことにより、彼らの演奏はさらに素晴らし いものになったことを、私も感じた。自分と友達の思いを重ね合わせ、自分たちの音楽をつくりあげ た彼は、演奏を終えたあと、少し照れながら友達に向かって「聴いてくれてありがとう」と言い、頭 を下げた。私はその言葉に、納得のいく音づくりができた彼の自信と達成感があふれているように感
じた。
7.追究を終えて
追究の中で、時に彼が何を考えているのかがわからなくなってしまった。彼が立ち止まってしまっ た時、私自身も立ち止まり、それまでの自分自身の彼に対するとらえを見つめ直した。そして、それ まで彼を一面からしか、とらえようとしていなかったことに気づいた。だから立ち止まっている彼の 気持ちをとらえることができなかったのである。このことから私は、より深く子どもをとらえていく
ことの大切さを、強く感じた。それとともに、追究の中で、子どもをとらえようと教師が子どもを見 っめていくことや、それまでのとらえを見直してみることの大切さも実感した。そうすることで、そ れまで気づかなかった新たな子どもの姿が見えてくるのだと考える。
追究の中でK男君たちは、音を重ねながら自らの気持ちを重ね合わせていったのだと私は感じた。
このようにして子どもたちは、考えを出し合い求める音楽を探りながら、友達との気持ちの重なりを 感じていくのだろう。心をも響き合わせつくる音楽だからこそ、その過程に楽しさや、満足感を感じ
られるのだと、私は考える。このように、子どもたちの思いを重ねていけるような活動を支えていく ために、これからも子どもをより深くとらえようとする姿勢を大切にしていきたいと思っている。
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