自分なりの納得を求める中で、運動の楽しさを広げていく
− 5年1組『越える!高く タイミングよく』の実践から−
高 須 達 也 子どもたちが運動(教材)に出会った時、個々がいだくその運動によせる思いはそれぞれ違う。例 えば、高く積み上げてある跳び箱を見た時「あんな高い跳び箱を跳んでみたい」「跳べないかもしれ ないけど挑戦してみたい」「跳べなそうもない」など、さまざまに思うだろう。それは、その子がそ れまで培ってきた思いをも含みこんだ運動経験の違いによるものが大きいのではないかと考え為。運 動によせる個々の思いはさまざまであっても、きっとどの子にも「こうしたい」「こうなりたい」な ど自らが思い描いている姿があるのではないだろうか。だからこそ子どもたちは運動に立ち向かって いくのだ。自分なりに思い描いている姿に少しでも近づいた時、自らに動きの高まりを感じるのだろ う。それは言い換えれば、その子なりの納得である。納得を得た子どもたちは、意欲を強め、さらな る納得を求めて運動に立ち向かっていく。「こうしたい」「こうなりたい」という自分なりの思いを強 めていく中で、運動の楽しさを広げていくのではないだろうか。
私は、子どもたちが自分なりに納得を求めていく姿をとらえる中で、子どもたちの運動によせる思 いを感じていきたい。そうした子どもの思いをより多く感じることは、自分自身の運動に対する見方 を広げ、より広く子どもをとらえていくことにつながると考えている。
1.教材に込めたもの
本教材は、跳び箱運動の切り返し系の技「開脚跳び」「抱え込み跳び」に挑戦していくものである。
自分がやってみたい跳び方や自分が跳んでみたい高さを自分なりに思い描き、その中で、高さやきれ いさに挑戦してみる、あるいは、運動に立ち向かう自分を見っめるなど、その子なりの納得を求めて
この運動に挑戦する姿を私は期待した。
「できそうだ」「やってみたい」という思いをもった子は、自分なりに考えた跳び方や挑戦したい高 さの跳び箱でこの運動に取り組んでいくだろう。そこでは、空中での切り返しや手を突き放すタイミ
ングなど、この技の難しさと向き合うことになる。また、跳び箱の高さや、跳び箱から落ちてしまう かもしれないという怖さと対時することにもなる。しかし、自らの動きを良くしたいという思いが強 い子どもたちは、決してあきらめることなく挑戦していくだろうd そして、繰り返し練習したり、動 きのポイントに目を向けたり、あるいは、友達とより効果的な練習方法や場を考えるなどしていきな がら、自分なりに納得のいくまで挑戦していくだろう。
一方で、技能面の難しさや怖さに直面し、なかなか思うような動きができなくて思い悩んでしまう 子もいるだろう。そんな時、まずは自分の力で一歩を踏み出してほしい。「もう少しがんばってみよ う」「今度はできるかもしれない」と自らを奮い立たせ、一歩を踏み出すことは自らの自信となる。
なぜならば、跳び箱は個人種目であり、運動への立ち向かい方はその子の判断に委ねられ、その結果 もその子に返っていくものだからだ。私はそのような子どもたちの取り組みを見守り、認め、場合に よっては、その子の思いや悩みを聞き、共に考えたり、技術支援をしたりして支えていこうと考えて いた。
自分なりに思い描いた姿に近づこうと、この運動に立ち向かう中で、納得のいく動きができた時、
そこには、挑戦し続けた達成感や満足感、自らに自信を感じている子どもたちの姿があるに違いない。
それは、その子の運動経験となり、これからも自らに納得のいく動きをめざし、運動に立ち向カモって いく姿へとっながるものと私は考えたのである。
2.Q子さんのとらえと願い
彼女は運動が大好きで、休み時間はいっも外せ元気よく遊んでいる。昨年マット運動をした時、自
分なりに納得のいく動きができるまで何度も挑戦したり、友達がやっている技を見ると自分もやって
みたりする姿があった。また、学年のサッカー大会では、ボールをもっている相手に果敢に向かって
行ったり、ラインから出てしまいそうなボールに対しても決してあきらめることなく、ひたすらボー ルを追いかけコートを縦横無尽に走り回ったりする姿が見られた。このような姿から、どんなことに も挑戦していこうと立ち向かっていく、そして自分なりに納得するまで決してあきらめないという彼 女らしさを私は感じた。また、そんな彼女の姿を見た友達からは、彼女の動きを認める言葉が聞かれ
たこともあった。自分なりに納得する動きができたり、それを認められたりしてきた中で、彼女は徐々 に自らの動きに自信をもち、運動の楽しさを感じ始めているのではないかと私は思っている。そんな 彼女が、新たな挑戦をしていく中で、納得するまであきらめないといった彼女らしさを強めてはしい
と私は願い、本教材を彼女に出会わせることにした。
本教材に出会った彼女は、これまで低い跳び箱で開脚跳びを跳んだことがあるので、まずは開脚跳 びに挑んでいくだろう。低い跳び箱を成功させた彼女は「高い跳び箱を跳びたい」という思いを強め ていく。挑戦していく気持ちの強い彼女は「踏み切りでスピードを緩めない」「手は遠くに着く」な ど自分なりに考えながら取り組んでいく中で、自分なりに動きの高まりを感じていくことだろう。私 はそんな彼卒の姿を認めていきたい。そうすることによって自信を深め、さらに意欲的に運動に立ち 向かっていくはずだ。そんな彼女であっても、なかなか跳び越せない高さに直面することになる。そ うした時私は、じっくり彼女の様子を見守っていきたい。それまでも自分なりに納得のいく動きを求 めてきた彼女なら、きっとあきらめないはずだからだ。もう一度自らの動きを見っめ直したり、友達 の動きを見たりしながら自ら動き出すはずだ。私は、そんな彼女の動き出しを大いに認め、励まして いきたい。場合によっては、動きの問題点などを共に考えながら支えていきたいと考えた。
納得のいく.動きを求めて取り組む中で、困難を乗り越え、動きの高まりを感じた時、自信を強めた 彼女の姿があるに違いない。このような経験は、彼女がこれからも納得する動きを求めて、運動に取
り組んでいく気持ちを強めていくものと考えた。
3.納得を求め、挑戦し続けるQ子さん
最初は不安げな表情で師範の演技を見ていた彼女であったが、い ざ練習が始まると持ち前の挑戦心から跳び箱に向かっていった。2 番目に低い縦置き5段を開脚跳びで難なく成功した彼女はその後、
6段、7段の縦置きを開脚跳びで成功させ、第1時のうちに、1番 高い8段へと挑戦していった。挑戦する友達がまばらな8段の跳び 箱を目の前にしても、彼女は躊躇することなく挑んでいった。「跳
びたい」という思いをもちながら挑戦してきた彼女は、自分が跳べ <開脚跳びに挑むQ子さん>
そうな跳び箱を次々と成功させていく中で、踏み切りのタイミングをつかみ、うまく跳ぶためには着 手の位置が大切であることに気づいていった。そして、やれそうな自分を感じ「より高く跳びたい」
という思いをふくらめたのだろう。そのままの勢いで結局この時間彼女は、縦置き8段の跳び箱を開 脚跳びで跳ぶことができたのである。私は改めて彼女の挑戦していこうとする気持ちの強さと、動き
のよさを感じた。
第2時からは「もっと高い跳び箱を跳びたい」という子どもたちが多かったため、同じ8段でも、
それまでの跳び箱より1段分程高い別の跳び箱(高い8段)を用意した。「より高く跳びたい」とい う思いをもっているQ子さんも、当然この高い8段に挑戦していった。初めての挑戦で、バランスを くずしながらも何とか成功させた彼女は、その日の学習カードに「今度は10段を跳びたい」と腐り
「より高く跳びたい」という思いを強めていった。ところが第3時、前時に跳べたはずの高い8段が
跳べない彼女の姿があった。しかし、お尻が着いてしまい「痛い」と言っている彼女の表情には笑顔
があった。彼女の中には、痛さよりも「やれそうだ」「挑戦したい」という思いの方が強いのではな
いかと、その笑顔を見ながら私は感じた。彼女は決してあきらめることなく跳び続けた。その姿を目
の当たりにした私は、前時に跳べたことに満足することなく、いっでも跳べるようになりたいという
彼女の思いを強く感じ、こうして挑戦し続けることが彼女なりの納得につながっていくのではないか
と思った。この時間、彼女は高い8段縦置きの跳び箱を開脚跳びで、失敗することなくはぼ跳べるよ
うになった。
<Q子さんの学習カード>
全制覇、成功やった−!
痛さをこらえながら挑戦し続けた彼女を支えたもの、それは「やれそうだ」「挑戦したい」という 思いであった。「全制覇、成功やった−」という学習カードの言葉には、どんな高さの跳び箱も、い
つでも跳べるようになったという彼女の納得した思いが込められているのだ。
4.新たな挑戦
「10段を跳びた早」と言っていた彼女であったが、これ以上高い跳び箱がないことを知ると、残念 そうな顔をしていた。そんな時、高い8段横置きで開脚跳びに挑戦している友達の姿を彼女は目にし た。もっと高い跳び箱を跳びたいという彼女の挑戦心は、この横置きの跳び箱へと向けられた。「全 制覇」することに納得を得てきた彼女にとって、高さこそ同じだが、跳び箱の向きが違う場は新たな 挑戦の場となったのだ。そこでも彼女は「蛙になりきった」と自らの動きを表現しているように、足 を大きく広げるといった動きのポイントに目を向けながら高い8段横置きの跳び箱を開脚跳びで成功 させた。どんなことにも挑戦していく彼女らしさを発揮しながら立ち向かっていたのだ。
<Q子さんの学習カード>
横の高い8段が跳べてうれしかった。先生は跳べないのに!よっしゃ−
今の彼女なら、さらなる困難にも立ち向かっていくだろう、
そして自分なりの納得を求めて挑戟し続けるだろう。また、
次々に挑戦をし納得を得ていた彼女自身も、きっと新たな挑 戦を求めているだろうと考えた私は、彼女に新たな挑戦「抱 え込み跳び」を勧めてみようと思った。抱え込み跳びは、瞬 時に支持する腕の間に両足を抱え込むという難しさを感じた り、跳び越える際に脚が引っ掛かり、上半身からマットに落 ちてしまうかもしれないという、恐怖心をいだいたりするこ とがある。それ故、彼女にとっては、これまでにない困難さ
<抱え込み跳びに挑むQ子さん> を感じるものとなるだろう。だからこそ、私はあえて彼女に、
この技に挑戦してほしいと願った。Q子さんであったならば、きっとこの困難も乗り越え、自分なり に納得を得ていくだろう。未知なる運動に挑み、それを乗り越えていくことは、自らの自信となり、
これからもさまざまな運動に挑戦し続けていくことになる。それは、彼女の立ち向かい方の強まり、
つまり、運動の楽しさの広がりにつながっていくものと私は考えたのである。
第5時、みんなの前で高い8段縦置きの跳び箱で開脚跳びを師範し見事成功させ、自信を強めてい た彼女に、誰も挑戦していない抱え込み跳びをやってみないかと声をかけてみた。最初は「無理」と 言っていた彼女であったが、新たな挑戦に挑んでほしいと強く願った私は、彼女と一緒に場を設定し て、手の着き方や突き放すタイミングなど大まかな動きのポイントを伝え彼女の動き出しを待っこと にした。きっと彼女なら一歩を踏み出すだろうと信じながら。しばらくすると「先生、見てて」と彼 女の声がした。手の突き放しが弱いものの2段横置きの跳び箱を抱え込み跳びで跳んでいたのだ。彼
女が新たな挑戦に向けて動き出したことを私は嬉しく思った。結局彼女はこの時間、初めて抱え込み 跳びに挑戦したにもかかわらず、6段まで跳ぶことができた。
<Q子さんの学習カード>
抱え込み跳びで6段の横が跳べた!
私は、躊躇しながらも新たな技に挑戦していき、自らの力で動きを高めていく彼女のよさを強く感
じ、この抱え込み跳びにも納得いくまで挑戦し続けることを願わずにはいられなかった。
5.困難に立ち向かうQ子さん
ところが第6時、高い8段縦置きで開脚跳びを練習している彼女の姿があった。開脚跳びの時、ど こまでも高く跳びたいと高さに目を向けていた彼女なら、きっと抱え込み跳びも6段で満足すること なくより高い跳び箱への挑戦が続くものと思っていた私にとっては、意外な姿であった。彼女にあき らめてはしくない、もう一度挑戦してほしいと私は願い、彼女に前時に跳べた6段をもう一度抱え込 み跳びで跳んで見せてもらうことにした。彼女は6段を私の目の前で跳んだ。
T お−、跳べるじゃん!7段どうする?
C 跳びたくない。
T どうして?
C だって、怖いもん。
T そうか。じゃあ、抱え込みは6段で満足?
C (しばらく考えて)満足じゃないけど、怖い。
「怖さ」それは、彼女が感じる初めての大きな壁でもあった。それまで持ち前の挑戦心で困難に立 ち向かい自らに納得を得てきた彼女が、怖さに立ち止まり、自分自身と葛藤している姿であった。そ んな彼女を見た私は、ここであきらめてはしくはない、挑戦してほしいと心の中で願わずにはいられ なかった。そして、彼女の動き出しを待っことにした。それは「満足じゃない」という思いをいだい ている彼女を感じたからである。納得しても挑戦し続ける彼女がそんな思い をいだいたままあきらめ るはずがない、きっと自らの力でこの困難を乗り越えることができるだろうと彼女を信じたのだ。彼 女にとっても、自らの力で一歩を踏み出すことは、この先自分が別の困難に出会った時にも、あきら めないで挑戦していこうとする姿につながっていくのではないかと私は考えたのだ。怖さに立ち向か うことこそが新たな挑戦であり、それを乗り越えた時、そこには自らに納得している彼女の姿がある のだ。
跳び箱を目の前にした彼女は、それまで共に取り組んできたJ子さんと何やら相談しながら、跳び 箱を縦置きにしたり、横置きにしたりしている。今の彼女にとって、自分の思いを受け止めてくれる J子さんの存在は大きな支えとなっているのだろう。私はこのように、少しでも前に進もうとしてい る彼女の姿を見ながら、きっと彼女なら一歩を踏み出すだろうという思いを強めていった。他の子に 関わっている間も彼女のことが気になってしょうがなかった。そして、次に彼女の方に目を向けた時、
そこには、抱え込み跳びの練習を始めた彼女の姿があった。遂に彼女は自らの力で困難を乗り越え新 たな挑戦への第一歩を踏み出したのだ。そこには、どこまでも納得を求めて挑戦しようとする本来の 彼女らしい姿があった。この時問の最後、彼女は踏み切り板なしで6段横置きを抱え込み跳びで見事 跳ぶことができた。私は思わず「お−、いいじゃん」と声をかけていた。踏み切り板がないので実際 は7段の高さを跳んでいることを伝えた時、歓声をあげ、喜びの笑顔を浮かべた彼女の表情は今でも 忘れられない。
6.Q子さんの納得とは
この運動に立ち向かう彼女の姿を見っめながら、彼女の納得とはなんだろうと考えてみた。最初は、
できたことで、次々に高い跳び箱に挑んでいく彼女の姿があった。しかし、前の時間に跳べたはずの 跳び箱が思うように跳べなくなると、いっでも跳べるようになるまで繰り返し練習する、さらに怖さ と対略しながら新たな技に挑んでいく彼女の姿があった。このように常に挑戦し続ける姿を見ている と、彼女にとって納得は終りではなく、新たな挑戦の始まりとなっている。一つの納得がまた新たな 困難に立ち向かっていこうとする姿へと続いているのである。
私は、その子がどんな自分の姿を思い描いているのか、何に納得を求めているのかを常にとらえ続
け、その子が納得していけるように支えたり、関わったりしていくことの大切さをQ子さんの姿から
感じた。自らの納得が新たな原動力となり、子どもたちはまた運動に立ち向かっていく。そうした中
で、子どもたちは運動の楽しさを広げていくのではないかと私は考えている。納得が新たな挑戦につ
ながっていくという子どもの姿が実感できたことは、私自身の運動に対する見方の広がりであったと
私は考える。
5年1組『越えろ!高く タイミングよく』追究のあらまし
●
−
.
﹂
ろう跡 ÷㍗
①︹
高〔全体の流れ〕
タイミングよく」(跳び箱運動)を
」「抱え込み跳び」をD子さんに師範しても
・「開脚跳び」に25人、「抱え込み跳び」に15人くらい 集まり、練習を始める
・10人程が8段の「開脚跳び」に挑戦する
I
C:今度は10段用意して
②
・高い8段(普通の跳び箱の9.5段位の高さ)を跳びた いというので子どもたちが用意した
・高8,段で跳んでいたJ男が、簡単に跳べるので、ロイ ター板から踏み切り板にして欲しいと言ってきたた め、踏み切り板に変える
C・J男君成功
C:休みの時ね、インターネットで調べて、『10分で跳 び箱が跳べる』というのを練習したんだよ
T:うまくいった?
C:跳べたよ
④
T:今、自分のやっていることに納得している?
C:8段の縦が跳べてない C:高い8段を跳びたい
*やはり、「高さ」へのこだわりと納得を求めて子どもた ちが追究していることを感じた。
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