博 士 ( 工 学 ) 奥 野 和 昭
学 位 論 文 題 名
大 腸 菌 外 膜 エ ン ド プ ロ テ ア ー ゼ OmpT . を 利 用 し た 融 合 夕 ン パ ク 質 発 現 法 に よ る
生 理 活 性 ベ プ チ ド 生 産 方 法 の 開 発
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
生活環境の変化や社会環 境の多様化に伴い、病気の原 因が病原菌のような外因性のものから、
循環器疾患や癌のような内 因性のものーと移行してきている。そのため、内因性因了Iであるペプ チドやタンパク質が治療薬 として利用されるようになっ てきた。さらに今後も様々な生理活性ペ プ チ ド が 医 薬 品 と し て 開 発 さ れ、 高齢 化社 会 の健 康医 療を 支え て いく もの と推 測さ れ る。
ペプチドの大量生産には融合タンパク質発現法がよく用いられている。融合夕ンノくク質発現法 は保護ペプチドとよばれるp−ガラクトシダーゼのよう なタンパク質と切断に必要と される部位 を含むりンカー配列を介し て目的ペプチドを融合した形 で安定的に発現させる方法である。発現 され た融 合タ ンパ ク 質から目的ペプチド を得るために保護ペプチド と切り離す際にはプロテア ーゼがよく用いられる。こ の方法による生理活性ペプチ ドの生産コストのうち、融合タンパク質 の切断に使用する酵素の占 める割合は非常に高い。また 、多くのプロテアーゼは哺乳類由来のも ので あル ウイ ルス 汚 染あるいは狂牛病の 原因因予である変性プリオ ンタンパク質の汚染も懸念 さ れ る 。 そ こ で こ の 酵 素 切 断 に大 腸菌 由来 の 外膜 タン パク 質エ ン ドプ ロテ アー ゼOmpT (EC 3.4.21.87)を利用すること により、精製したプロテアーゼを反応系外から添加することなく、成 熟型生理活性ペプチドを遊 離して、安価で安全な生理活 性ペプチド医薬品の製造が可能であると 考え、本研究を始めた。
OmpTは主に連続する塩基 性アミノ酸残基(アルギニン とりジン)の間を選択的に切断するプロ テアーゼである。ところが2つの連続する塩基性アミノ 酸残基の配列は本プロテアー ゼによる切 断にとって必要であるが、 十分ではない。このように本 酵素による切断には基質切断部位のアミ ノ酸配列だけでなくその周 辺のアミノ酸配列も関与して いることが推測される。しかし、どのよ うなアミノ酸配列があれば 切断されるのか、その詳細は 不明である。
本 論文fま OmpTの 切断部位およびその 周辺のアミノ酸残基に対す る基質特異性を系統的に明 ら かに した 。さ ら にOmpTを プロ セッ シ ング 酵素 とし て広 範 に利 用す るた め に、OmpTのAsp97 にアミノ酸置換を導入して 、Pl 部位の基質特異性を変 化させた変異酵素を作製し、それらの生 理活 性ペ プチ ド生 産 への 応用 にっ い て検 討し たものであり、以下の5章から構成されている。
第1章は序論であり、本研 究の背景と目的を明らかに した。
第2章 で は主 に連 続す る塩 基 性ア ミノ 酸残 基 の間 のペ プチ ド結 合 を切 断す る大 腸菌OmpTの −1011−
よ り正 確なPl 部位の基質特異性 を184アミノ酸残基からなる グルカゴン様ペプチド−1(GLP‑1) 融 合 タ ン パ ク 質PRXを 用 い て 系 統 的 に 見 出 し た 。GLP‑1融 合 タ ン パ ク 質PRRの 切 断 部 位 は Arg140‑Arg141であり、GLP‑1融合 タンパク質PRXは切断部位のPl 部位のArg141を19種類の アミ ノ 酸残 基 に置 換し た基 質 であ る。 変性 条件(4.0M尿 素存在) 下でOmpTは連続する塩基性ア ミノ 酸残 基の間だけでなくArg140‑Asp141、̲Glu141、̲Pr0141以外はArg140のC末側の部位でPRXを切断 し た。 以 上の こと からOmpTにより 基質が切断される場合、基 質のPl 部位のアミノ酸残基 をプ 口リ ンと酸性アミノ酸(アスパラ ギン酸とグルタミン酸)以 外のアミノ酸残基で置換すると同じ 部位での切断が可能であるニとを明らかにした。
第3章 で はこ れま で にP2とP2 部 位 以外 のOmpT切 断部 位 周辺 のア ミノ 酸置 換 の切 断効 率に 対 する 影 響は 研究 され て いなかっ たので、184アミノ酸残基か らなるGLP‑I融合タンパク質 を用 い て変 性条件(4.OM尿素存在)下 で系統的にOmpT切断部位周 辺のアミノ酸残慕の切断効率 に対 す る影 響 を検 討し た。P4とP6部位 が塩基性アミノ酸残基であ れば、切断部位の切断率は高 <な り、 逆に酸性アミノ酸残基であれ ば、切断率は低くなるニと を明らかにした。また、合成デカベ プチ ドを用いた反応速度論的な検 討結果から、これは主に疋 ‥値の影響により触媒効率が変化す る ため で ある こと が示 唆 された。 さらに、P4とP6部位以外の 部位でのアルギニン残基の切 断効 率 に対 する影響を調ぺた。その結 果、Pl0からP5 部位までの 領域においてP2およびP2 部 位以 外の 部位をアルギニン残基で置換 することにより、切断率が 上昇することがわかった。また、―
アルギニン(Pl)‐アラニン(Pl )−を効率よく切断するアミノ酸配列―アルギニンーアルギニン‐ア ル ギ ニ ン . ア ラ ニ ン ‐ ア ル ギ ニ ン(Pl) ‐ ア ラ ニ ン(Pl ) ― を 新 規 に 見 出 し た 。 ペプ チ ド生 産時 の融 合 タンパク 質のプロセッシングへの大 腸菌OmpTの利用はアルギニン (ま た はり ジン)‑Xaa (Xaaは目的ペプ チドの塩基性でないN末端ア ミノ酸残基)での切断率が低 いた め に 限 定 され てき た。 第4章で はこ れ を解 決す るた めにOmpTの 基質 特異 性を 変 化す るこ とに より 、様々なぺプチドを生産する ためのプロセッシング酵素 として利用できろ、特異的で効率的 なOmpT変 異酵 素を 創り 出す こ とを 目的 とし て検 討 を行 った 。OmpTのAsp97が 基 質のPl 部位 のア ミノ酸残基と相互作用してい ることが立体構造解析の結 果から示唆されていた。そのため、
Asp97を19種類 のア ミ ノ酸 残基 に置 換 して 、そ れら と184ア ミノ 酸 残基 から なるGLP‑1融 合タ ン パク 質PRXを用いてそれらの反応 性を調ペ、アルギニン(Pl)‑Xaa (Pl )で特異的に切断 する OmpT変 異 酵 素 を 見 出 し た 。GLP‑1融 合 タ ン パ ク 質PRXのPl部 位 のArg140のC末 側 にN末 端 ア ミノ 酸 残基 がフ ェニ ル アラニン であるヒトモチリンをモデ ルペプチドとして連結したモ チリ ン 融合 タ ンパ ク質PRMTを 野生 型OmpTと 作用 さ せて もモ チリ ンは 遊 離さ れな かった。しか し、
Asp97をメチオニンに置換した変異 酵素(D97M)を用いたところ 、モチリンを遊離することが でき た。また、―アルギニン・アルギニン・アルギニンーアラニン‐アルギニン‐モチリンからなるアミノ 酸 配列 を 有す るモ チリ ン 融合 タン パク 質PMTを 変異 酵素(D97M)と作用させたところ、モチ リン 融 合タ ン パク 質PRMTよ り もモ チリ ンを 効率 よ く生 成し 、こ れか ら モチ リン を精製するこ とに 成功した。さらに、―アスパラギン酸.アラニン―アルギニン‐アルギニンーアルギニン‐アラニン―
ア ルギ ニ ン― モチ リン か らな るア ミノ 酸配 列 を有 するモチリ ン融合タンパク質PMT7Dを用 いる と 変異 酵 素と の反 応に お いて 副産 物の 生成 を 抑え ることがで きた。OmpTのAsp97を口イシ ンと ヒス チジンに置換した変異酵素は それぞれ融合タンパク質か らヒ卜副腎皮質刺激ホルモン(1‑24) と ヒ ト カ ル シ ト ニ ン 前 駆 体 を 生 成 し 、OmpT変 異 酵 素 の 汎 用 性 を 示 す こ と が で き た 。 ‑ 1012―
第5章 は総 括で ある 。Asp97を 置換 したOmpT変異 酵 素を プロ セッ シ ング酵素として利用した 融合 タン パ ク質 発現 法に より 、 従来 用い られ てき た 野生 型OmpTの 場 合よりも、多くの種類の 生理 活性 ペ プチ ドを 医薬品として安全で安 価に生産できる新規なペプ チド生産系を本研究結果 から示すことがで き た。本研究で得られた成果はそのまま生理活性ペプチド医薬品の実生産に応 用可能である。
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学位論文審査の要旨
主査 教授 木下晋一 副査 教授 棟方正信 副査 教授 清水達雄 副査 助教授 大井俊彦 副査 教授 田中一馬
(北海道大学大学院医学研究科)
学 位 論 文 題 名
大 腸菌 外膜 エン ドプ ロテ アー ゼ OmpT を利用した 融合夕ンパク質発現法による
生理活性ベプチド生産方法の開発
組換えDNA法による生理活性ベプチド生産の多くは融合タンパク質法によるものであり、発現され た融合夕ンノくク質から目的ペプチドを得るために保護ペプチドと切り離す際には酵素的切断法がよ<
用いられている。生理活性ペプチドの生産コス卜のうち融合タンパク質の切断に使用する酵素の占め る割合は非常に高く、また多くのプロテアーゼは哺乳類由来のものであルウイルス汚染あるいは近年 では狂牛病の原因因子であるプリオンの汚染が懸念されている。そこでこの酵素的切断に大腸菌由来 OmpT (EC3.4,21. 87)を利用することにより、精製したプロテアーゼを反応系外から添加することな く、融合タンパク質から成熟型生理活性ペプチドを直接遊離することにより、安価に安全な生理活性 ペプチド医薬品の製造が可能であると考え、本研究を始めた。本論文はOmpTの切断部位およびその周 辺アミノ酸に対する基質特異性を体系的に明らかにし、さらにOmpTをプロセッシング酵素として広範 に利用するためにOmpTのAsp97にアミノ酸置換を導入することによりPl 位基質特異性を変化させた 変異体を作製し、それらの生理活性ペプチド生産への応用について検討したものであり、以下の5章 から構成されている。
第1章は序論であり、本研究の背景と目的を明らかにした。
第2章では 主に連 続する塩 基性アミ ノ酸の 間のペプチド結合を切断する大腸菌OmpTのより精確な Pl 位基質特異性をグルカゴン様ペプチド―1(GLP―1)融合タンパク質PRXを用いて体系的に見出した。
融合タンパク質基質PRRの切断部位はArg140―Arg'41であり、融合タンパク質基質PRXはPRRのPl 位 Arg111を19種 類のア ミノ酸に 置換し た基質で ある。変性条件(4M尿素存在)下でOmpTは連続する塩 基性アミノ酸の間だけでなくArg'40―Asp'41,―Glu141,―Pr0141以外の場合においてArg"oのC末端側でPRX
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を切 断し た。Pl位 がArgII0で ある 場 合に 加え て、 同様 の 結果 ほPl位がLys'40であ る場合にも得られた。
合 成 ペ プ チ ド 基 質 をOmpTと 反 応さ せ たと ころ 、Pl 位 が アス パラ ギン 酸だ と 切断 され なか っ たが 、そ れ 以 外 の 基 質 は 切 断 さ れ た 。OmpTは 切断 部位 が塩 基性 ア ミノ 酸対 であ る基 質 によ り高 い基 質 特異 性を 示 し た 。 以 上 の こ と か らOmpTによ り 基質 が切 断さ れる 場 合、 基質 のPl 位 ア ミノ 酸を プ口 リ ンお よび 酸 性 ア ミ ノ 酸 で あ る ア ス パ ラ ギン 酸 、グ ルタ ミン 酸以 外 のア ミノ 酸で 置換 し ても 正確 に切 断 が可 能で あると結論した‥
第3牽 で は こ れ ま で にP2お よ びP2 位 以 外 のOmpT切 断 部 位 周 辺 ア ミ ノ 酸 の 切 断 効 率 に 対 す る 影 響 は 知ら れ てい なか った ため 、184ア ミ ノ酸 残基 から なるGLP―1融合 タン パク 質 を剛 いて 変性 条 件(4M尿 素 # 托 )rで 体 系 的 にOmpT切 断部 位周 辺ア ミノ 酸 の切 断効 率に 対 する 影響 を検 討し た 。P4およ び| 6 位か塩艤´H!アミノ酸のア ルギニンまたはりジンであれば同切断部位の切断率は高くなり、逆に酸´I´トア ミ ノ酸 で ある アス パラ ギン 酸 また はグ ルタ ミン 酸 であ れぱ 切断 率 は低 くな るニ とがH)lらか と なっ た‥
また、合成デカ′くブチドを月]いた反応速度論的な検討結果からこれは主にKii1値の影響により触媒効ニキt が 変化 す ろた めで ある ニと が 示唆 され た。 さら に 、P4およ びP6位 以外 の部 位で のア ル ギニ ンの 切f斬効 率に 対す る影 響を 調 べた 。そ の結 果 、Pl0からP5 位 まで の領 域 にお いてP2お よびP2 位以外の嗣If1ア をア ルギ ニン で暹 換 する こと によ り 切断 率が 上昇 する こ とがわかった。また 、−アルギニン(I)1)アラ ニン(Pl )一を効率よ く特異的に切断するアミノ 酸配列一アルギニン―アルギ ニン―アルギニン―アラニ ン―アルギニン(Pl)ーアラ ニン(Pl )−を見出した。
ベ プ チ ド 生 産 時 の 融 合 タ ン パク 質 プ口 セッ シン グへ の 大腸 菌OmpTの 利用 は アル ギニ ン( ま たは りジ ン )−Xaa (Xaaは 目的 ペプ チ ドの 塩基 性で ないN末 端ア ミ ノ酸 残基 )で の切 断 率が 低い ため に 限定 され て き た が 、 第4章 で は こ れ を 解 決 す る た め にOmpTの 基 質 特異 性を 変換 する こ とに より 様々 な べプ チド を1: 産す るた めの プ ロセ ッシ ング 酵 素と して 利用 でき る 特異 的か つ効 率的 なOmpT変異 体の 検 討を 行つ た 。OmpTのAsp"‑が 基 質 のPl 位 ア ミ ノ 酸 残 基 と 相 互 作 用し てい るこ とが 立 体構 造解 析の 結 果か ら示 唆 さ れ て い た た め 、Asp97を19種 類の アミ ノ酸 に 置換 して それ ら と184アミ ノ 酸残 基か らな るGLP―1融 合 タ ン パ ク 質PRXを 用 い て そ れら の反 応性 を調 べ るこ とに より 、 アル ギニ ン(Pl)‑Xaa (Pl )で 特異 的 に 切 断 す るOmpT変 異 体 を 見 出 し た 。 融 合 タ ン パ ク 質PRXのPl位Arg'40のC末 端 側 にN末 端 ア ミ ノ 酸 が フ ェ ニ ル ア ラ ニ ン で あ る ヒ ト モ チ リ ン を モ デ ル ペ プ チ ド と し て 連 結 し た モ チ リン 融合 タ ンパ ク質 PRMTを 野 生 型OmpTと 作 用 さ せ て も モ チ リ ン は 遊 離 さ れ な かっ た がAsp97を メ チオ ニン に置 換 した 変異 体D97Mを 用 い た と こ ろ モ チ リ ンを 遊 離す るこ とが でき た 。こ れに よル モチ リ ンの 遊離 には 変 異体D97M を用いることが必要である ことがわかった。また、ーア ルギニンーアルギニンーア ルギニン―アラニン→ア ル ギ ニ ン ― モ チ リ ン か ら な る り ン カ ー ペ プ チ ド を 有 す る 融合 タ ンパ ク質PMTを変 異体D97Mと 作用 させ た とこ ろ モチ リン を効 率よ く 遊離 する こと がで き た。 さら に、OmpTのAsp97を ロイ シン およ び ヒス チジ ンに 置換 した 変異 体 はそ れぞ れ融 合 タン パク 質か らヒ ト 副腎 皮質 刺激 ホル モ ン(1ー24)およびヒトカル シトニン前駆体を遊離する のに有用であり、OmpT変異体 の汎用性を示した。
第5章 は 総 括 で あ る 。Asp97を 置 換し たOmpT変 異体 を プロ セッ シン グ酵 素 とし て利 用し て 融合 タン パ ク 質 法 に よ り 医 薬 品 と し て 多く の 種類 の生 理活 性ペ プ チド を安 全か つ安 価 に生 産で きる 系 を本 研究 結 果 か ら 示 し た 。 ま た 、 こ こ で提 示 したOmpT変異 体を プ ロセ ッシ ング 酵素 と して 利用 する 新 規な 融合 タ ン パ ク 質 法 を 今 後 開 発 す る 生 理 活 性 ペ プ チ ド 医 薬 品 の 実 生 産 に 応 用 し て い く 方 向 性 を 示 し た 。 こ れ を 要 す る に 、 著 者 は 、 大 腸 菌 を 用 い た 組 換 えDNA技術 を利 用し た生 理 活性 ペプ チド の 生産 にお
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いて、高発現させた融合タンパク質の封入体をOmpTで処理して効率よく生理活性ペプチドを生産する 方法和開発した。これにより生理活性ペプチド生産の研究分野において多くの新知見を得たものであ り、生物工学の 進歩に寄与するところ大なるものがある。
よ っ て 著 者 は 、 北 海 道 大 学 博 士 ( 工 学 ) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。
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