博 士 ( 農 学 ) 大 浦 良 三
学 位 論 文 題 名
反 芻 家 畜 に お け る 粗 飼 料 の 物 理 的 特 性 と 消 化 動 態
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
粗飼 料の持つ 種々の物理的特性は,反芻家畜における粗飼料の消化率および自由採食 量を ,規制す る要因のーっと言われている。しかし,これまで繊維質飼料の物理的特性 の評 価方法に 関して充分な検討が行われておらず,粗飼料の物理的特性と消化動態との 関係 および消 化動態を介した消化率,自由採食量への影響については不明な点が多い。
そこ で,本研 究は飼料片の物理性と消化動態との関係を明らかにすることを目的に実 施し た。まず 粗飼料粒子の破砕強度,粒子径,粒子形状,比表面積という物理的特性の 評価 方法につ いて検討を行った。さらに,これらの物理的特性が反芻胃における粗飼料 の分 解,通過 および微細化という消化動態にたいしどのように関与しているかを総合的 に検 討し,粗 飼料の消化率および自由採食量を規制する物理的要因について考察レた。
主な成果は以下のとおりである。
1)摂 取された 粗飼料片 粒子の消 化管での 微細化について,以下のことが明らかにな った。
、ヨ緬羊では摂取された粗飼料の大飼料片(篩別法で1.16mni以上の粒子)のうち採食時 および反芻時の咀嚼によって微細化される害4合がそれぞれ34‑53Zおよび42‑50名を占め,
咀嚼 による微 細化が大飼料片の反芻胃からの消失にとって主要な要囚であることが示唆 された。
魯緬羊の消化管各部位における飼料中の不消化成分である酸性デタージェントリグニ ンの 粒度分布 より,飼料粒子の微細化は第三胃以降の消化管では生じないことが明らか にな った。ま た,反芻胃における微細化は反芻時の咀嚼時間にたいして一次の反応速度 にしたがって進行した。
t塾反 芻胃内微 生物の消化により,培養48時間で大飼料片の約3割が微細化されて小粒 子と なるが,7剖の粒子 はその構 造を維持 された。また,この消化にともなう大飼料片 の微細化は培養時間にたいレ一次の速度で進行するが,微細化が起こるまでに4から14時 間の遅滞時間を要した。
(蚤牛では粗飼料の種類によって単位摂取量当たりに要する採食および反芻時間は異な るとともに,それぞれ自由採食量と有意な負の相関関係が認められた(r=‑0.820,Pく0.0 lおよびr=‑0.822,P<O.01)。このことから,粗飼料の破砕抵抗性という物理的特性が粗 飼 料 の 採 食 量 を 左 右 す る 重 要 な 要 因 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 2)飼料片の破砕強度の計測方法を確立するため,遊星型ボールミルを用いた粗1.飼料
‑ 348−.
の破砕試験を行なったところ,咀嚼による微細化と同様,大飼料片の残存率が破砕時間 に対して一次反応速度式に従い減少し,遊星型ボールミルによる粗飼料の破砕が口腔内 における咀嚼のメカニズムと共通することが示された。また,この遊星型ボールミルの 破砕にたいする抵抗性が高い粗飼料は,大飼料片を微細化するのに緬羊が要する採食時 間ならびに反芻時間が艮く,この遊星型ボールミルによる粗飼料の破砕強度測定髄が咀 嚼にたいする抵抗性を示す指標となることが明らかになった。
3)飼料片粒子の粒子径および形状の測定に光学的測定方法の適用を・倹討したところ,
従来の画像解析装置による自動計測では細長い粒子の測定の場合,誤差が生じ易く,ま た重なった粒子の処理に問題があった。この点を改善するため,パーソナルコンピュー タと手動の図形入/亅装置を組み合わせた独自の計測装置を開発した。この言fI測装置で測 定した緬羊消化管内飼料片の50:x平均ヘイウッド径(投影面積円相当径)は反芻胃から第 三胃にかけて急激に低下し,反芻胃内粒子が第三胃以降の消化管各部位に出現する確率 は粒子のへイウッド径により規佑|されることが明らかとなった。二・方,内容物の粒子形 状はいずれの消化管においても違いは見られず,粒子形状という物理性が反芻胃からの 通過に関与している可能性は低いことが示唆された。
4)流体透過法および窒素ガス吸着法により粗飼料の比表面積測定を行ったところ,
微細化にともなう比表面積の増加は認められず,乾草などの繊維質飼料では内部に多く の微細な隙間が存在することが明らかとなった。窒素ガス吸着法による計測では,得ら れた値が液体透過法による計測値よりも5から10倍高く,より微細な空隙内の表面につい て計測できることが明らかになった。また,窒素ガス吸着法による比表面積が大きい乾 箪ほど乾物および細胞壁成分の反芻胃ににおける消化速度定数は商く,粗飼料の比表面 積という物理的特性が反芻胃内における微生物の付着および分解作用と密接に関連する ことが示された。
以上のように,本研究でな租飼料の物理的特性が反芻胃内における消化動態のなかで 重要な役割を果たすとともに,粗飼料の消化率や自由採食量を規制する要因となること を明らかにしており,ここで確立された飼料片粒子の破砕強度,粒子径,粒子形状なら びに比表面積という物理的特性の評価方法が,反芻胃内における消化動態を解折し,粗 飼料の消化率や自由採食量について検討するうえで有効な手段となることを示した。
‑ 349ー
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査
教授 教授 助教授
朝日 田 上山 大久 保
学 位 論 文 題 名
康司 英一 正彦
反芻家畜に おける粗飼料の物理的特性と消化動態
本 論 文 は , 表27, 図22お よ び 引 用 文 献111を 含む 総 ペ ージ126の 和 文 論文 で あ り ,7章 に 分 けて 論 述 さ れて い る 。
租 飼 料 の 持 つ 種々 の 物 理的 特 性 球 反芻 家 畜 にお け る 粗飼 料 の 消化 率 お よび 自 由 採食 量 を , 規 制 す る 要 因 のー っ と 言わ れ て い る。 し か し, こ れ まで 繊 維 質飼 料 の 物理 的 特 性の 評 価 方 法 に 関 し て 充分 な 検 討が 行 わ れ てお ら ず ,粗 飼 料 の物 理 的 特性 と 消 化動 態 と の関 係 お よ び 消 化 動 態 を 介 し た 消 化 率 , 自 由 採 食 量 へ の 影 響 に つ い て は 不 明 な点 が 多 い。
そ こ で , 著 者 は粗 飼 料 の物 理 的 特 性と 反 芻 家畜 に お ける 消 化 動態 と の 関係 を 明 らか に す る こ と を 目 的 に 本研 究 を 行っ た 。 ま ず粗 飼 料 粒子 の 破 砕強 度 , 粒子 径 , 粒子 形 状 ,比 表 面 積 と い う 物 理 的特 性 の 評価 方 法 に 関し て 検 討を 行 い ,つ い で これ ら の 物理 的 特 性が 反 芻 胃 に お け る 粗 飼料 の 分 解, 通 過 お よび 微 細 化と い う 消化 動 態 にた い し どの よ う に関 与 し て い る か を 総 合的 に 検 討し , 粗 飼 料の 消 化 率お よ び 自由 採 食 量を 規 制 する 物 理 的要 因 に つい て 考 察 した 。
主な 成 果 は 以下 の と おり で あ る。
1) 摂 取 さ れ た 粗 飼 料 片 の 消 化 管 で の 微 細 化に つ い て, 以 下 のこ と が 明か と な った 。 @摂 取 さ れ た大 飼 料 片( 篩 別 法で1.18mm以上 ) の 全微 細 化 に 占め る 採食 時および 反芻 時 の 咀嚼 に よ る 害lJ合は,そ れぞれ34 ‑53%およ び42‑50%で, 咀嚼に よる微細 化が大飼 料片 の 反 芻胃 か ら の 消失 に と って 主 要 な要 因 で あっ た 。 また 第3胃以 降 の 消 化管で は,飼料 片 の 微 細化 は 生 じ なか っ た 。
(奮 一 方 反 芻胃 内 微 生物 消 化 に伴 う 微 細化 速度 は,き わめて遅 く,反 芻胃内培 養法で48 時 間 培 養 し た 後 も , 約 7割 の 大 飼 料 片 が , そ の 組 織 構 造 を 維 持 し て い た 。 f蟄 単 位 採 食量 当 た りの 採 食 およ び 反 芻時 間 と 自由 採 食 量と の 問 に 負の 相関関 係が認め ら れ , 粗 飼 料 の 破 砕抵 抗 性 とい う 物 理 的特 性 が 採食 量 を 左右 す る 要因 の ー っで あ る こと が 示 唆さ れ た 。
2) 飼 料 片 の 破 砕 強 度 を 計 測 す る た め 遊 星 型ボ ー ル ミル を 用 いた 粗 飼 料の 破 砕 試験 を 行 っ た 結 果 , 咀 嚼 によ る 微 細化 と 同 様 ,大 飼 料 片の 残 存 率が 破 砕 時間 の 進 行に 従 い 減少 し , 遊 星 型 ボ ー ル ミル に よ る粗 飼 料 の 破砕 が 口 腔内 に お ける 咀 嚼 のメ カ ニ ズム と 共 通す る こ と が 示 さ れ た 。ま た , この 遊 星 型 ボー ル ミ ルの 破 砕 にた い す る抵 抗 性 が高 い 粗 飼料
一.350 ‑
は,大飼料片を微細化するのに要する採食時間ならびに反芻時間が長く,この遊星型ボ ールミルによる粗飼料の破砕強度測定値が咀嚼にたいする抵抗性を示す指標となること が明らかになった。
3
)飼料片の粒子径および形状の測定に光学的方法の適用を検討したところ,画像解 析装置による自動計測では細長い粒子の測定において測定誤差が大きかった。この点を 改善するため,パーソナルコンピュータと手動の図形入力装置を組み合わせた独自の計 測装置を開発した。この計測装置による緬羊消化管内飼料片の粒子計測の結果,飼料片 の粒子形状が反芻胃からの通過に関与する可能性は低く,反芻胃内粒子が第三胃以降の 消化管各部に出現する確率倣粒子径(ヘイウッド径)により規制されることが明らかと なった。4
)飼料片の微細な空隙をふくめた比表面積の計測は窒素ガス吸着法により,可能と なった。比表面積が大きい粗飼料ほど,乾物および細胞壁成分の反芻胃ににおける消化 速度定数は高く,粗飼料の比表面積という物理的特性が反芻胃内における微生物の付着 および分解作用と密接に関連することが示された。以上のように,本研究は粗飼料の物理的特性が反芻胃内における消化動態のぬかで重 要な役割を果たすとともに,粗飼料の消化率や自由採食量を規制する要因となることを 明らかにしており,学術的に高く評価される。また,ここで確立された飼料片粒子の破 砕強度,粒子径,粒子形状ならびに比表面積の評価方法は,反芻胃内における消化動態 を解析し,粗飼料の消化率や白由採食量について検討するうえで有効な手段となること が 示 さ れ て お り , 実 用 面 に お い て も 貢 献 す る と こ ろ が 大 き い 。
よって,審査員一同は,別に行った学力確認試験の結果と合わせて,本諭文の提出者 大 浦 良 三 は 博 士 ( 農 学 ) の 学 位を 受け るの に十 分な 資格 があ るも のと 認定し た。
―351―