論 文 要
旨等 報
告書
氏 名 章 貴 行
授 与 し た 学 位 博 士 専 攻 分 野 の名 称 歯 学
学 位 授 与 の番 号 博 甲 第 4 0 9 5号
学 位 授 与 の 日付 平 成 2 2 年 3 月 2 5 日
学 位 授 与 の 要 件 医歯薬学総合研 究科機 能再生 ・再建科 学専攻 (学位 規則第4条第1項該 当) 学 位 論 文 題 名 A 15‑yearclinicalcomparativestudyofthecumulativesuⅣivalrateofcast
metalpos卜and‑coreandresincorerestorationslutedwithadhesiveresin cement(接着性レジンセメントで装着されたメタルコアとレジンコアの15年 間の コホート研 究)
論 文 審 査 委 員 教授 撞木 拓男 教授 皆木 省吾 教授 森 田 学
学 位 論 文 内 容 の 要
旨【緒 言 】
支台築造は補綴 臨床 におい て 日常的 に行 われ る重要 な処置 で ある。 その方法 は既製 の ポス トとレジ ンを用 い る レジン コア と,鋳造金 属 を用 い るメタル コア に大別 され るが, その予後 を調査検討 した臨床疫学研究は ほ とん ど行 われ てい ない のが現状で ある。 特 に, これ らコアの生存率 を比較調査 した臨床疫学研 究報告 は散 見 され るが , コアの失敗 に関 わ る リスク因子 にまで踏み込 んだ研 究 はほ とん ど絡 め られ ない. さらに, これ らの処置 におい ては,近年接着性 レジンセ メン トが頻繁 に使 用 され てい るに もかかわ らず ,その 予後 について は十分 に明 らかに され てい ない。 そこで、接着性 レジンセメン トを用いた支 台築造 に関す る15年間の前向きコホー ト調査を行い,コアの種類による生存率を明 らかにす
るとともに, コアの失敗 に関わる リスク因子 を検討 した。
【方法
】
1
.調査対象 :対象 は,1988年 4月 か ら1991年 12月 の 間 に 岡山大学歯学部附属病院第 1補綴科で支台築 造 が施 され ,支台築造記録プロ トコル (コアカルテ)に記 録 され た 全 患 者 1024名.(2174本 ) で あ る。 これ らか ら, 患者 ID,患者 氏名が記載 されてい ない もの,診療録 の記載 (コアの種類)と診療録内容 に不一敦が認 め られた ものを除 外 し た 結 果, 最 終 対 象 は 991名 (2124本 ) とな った 。 この うち直 接 法 の レジ ン コア で 築 造 され た 患者 は794名 (1752本 ),鋳 造 メ タル コア が装 着 され た患 者 は 197 名 (372本 ) で あ った。2.支 台 築造 の方 法 :メタル コア は ,間接 法 に て作 成 した鋳 造 コア をPanaviaE‡○(ク ラ レ社) また はSuperBondC&Bo(サ ン メデ ィカル 社 ) を用 い て 装 着 した。 この際 の 根 管 ・歯 面 処理 は,PanaviaEXoを用 い た 場 合 に は ,藤 田の方 法 に従 っ て,40%
正 リン酸 30秒, 10%次 亜 塩 素 酸 60秒,clearfilNewBond●(ク ラ レ社 ) も しくは clearfilPhotoBondo(ク ラ レ社 ) と した。 また,SuperBondC&Boを用 い た 場 合 に は, 10‑3処 理 を行 った . レジ ン コア は,PanaviaEXoで ADポ ス ト (ク ラ レ社 ) を 根 管 内 に 装 着 し, フ ォ トコ ア (ク ラ レ社 ) を用 い て 直 接 法 で レジ ン築 造 した。
ま た ,支 台 築 造 は45人 の歯 科 医 師 (歯 科 医師経 験 年 数 5年 目以 上/未 満 :6人/39 人 ) が行 って お り,支 台築 造 の種 類 選 択 は担 当 医 が 行 っ た。
3.生 存 ・非 生存 の判 定 :診療録 に記載 されてい る築造処置 を行 った 日を観察開始 日とし, 2004年11月16日を追跡最終 日として観察 を終了 した。追跡最終 日以前に 「コアが脱落
した」
,
「コアを除去 した」,
「抜歯」または 「分割抜歯 した」 と診療録 に記載 され ていた 日を "非生存''と判定 し,観察 を打ち切 った。追跡最終 日まで,"非生存''に該 当す る記 載 が静め られない ものは "生存" として判定 した。追跡 不能患者,す なわち転 医 ・死亡 に よ り来院不能 となった患者 は最終来院 日をもって ̀̀生存" と判定 し,観察を打 ち切 っ た。4・コア非生存 に関 わ る リス ク因子 の検討 :診療 録 な らび に コア カル テ よ り抽 出した 予測因子は,コアの種類,コア装着時年齢,性別,歯冠歯質の有無,コアマージンの位置 (線 上/縁 下),根管形態,部位 (上顎/下顎 ),歯種 (前 歯 ・小 臼歯 /大 臼歯 ),D肝T である。これ らのベースライ ンの予測因子を基にコアの非生存 を推 定す る多変 量 統 計解 析 に よ りコア非 生存 に 関わ る独 立 した リス ク因子 を同定 した。
5.統計処理 :調査対象の基礎データの比較は,カイ二乗検定 とt検定を用いて行った。コア の生存率は生命保険数理法 とKaplan‑Meier法により生存曲線 を描いた後,Logてank検定 (有意水準 :itO.05)を用いて検討 したOまた,Cox比例ハザー ドモデル を用いてコアの 失敗 に影響 を及ぼす独立 した リスク因子を検討 した。なお,本研究は岡山大学大学院医歯 薬学総合研究科疫学研究倫理審査委員会の承認のもと行った (承認番号#176)0
【結果 】
1. 基礎データ比較 :メタル コア とレジンコア両群間のベースライ ンデータの比較 を,コア 装着時年齢,性別,DMFT,および欠損歯数において行った結果,有意差は認められなく, データ不備によるサンプル除外前後においても両群間に有意差は認 められなかった0 2.生存分析 :15年の累積生存率は, レジンコア (78.7%)がメタル コア (55.4%) に比べて
有意に優れていた (Log‑rank検 定;p
( . 0 0
01)。なお,メタル コアの装着の際には2種 類 の異なった レジンセメン ト (PanaviaEXo,SuperBondC&B.)を用いていたが,それ ら2群間の15年累積生存率に有意差 (Log‑rank検 定 ;jt.2921)が認 められ な か った た め、それ らを レジンセ メッ トにより装着 されたメタル コア群 として統合 したOまた, 歯科医師経験年数5年未満,5年以上の歯科医師が装着 したコアの15年累積生存率に有 意差は認 められなかった (Log‑rank検 定 : コア P=.2120[メタル コア :jt.4430レジンコア:jt.4782])0
3. リスク因子の同定 :cox比例 ハ ザー ドモデル に よる と,年齢 が高 い こ と (jt.0380), 男 性 で あ る こ と (i(.0001),メ タル コアで あ る こ と (Jt.0186),歯 冠部 の残存 歯 質 が ない こ と (FE.0057)が , コア の失敗 に 関連 した独 立 した リス ク因子 ,と して あ げ られ た。
【考察】
臨床疫学研究において複数の治療法の効果を比較す る場合,群間比較試験を行 うことが多 い。その際,内的妥当性を担保す るため,無作為割 り付けやマ ッチング といったベースライ ンデー タを均質にす る作業が必要 となるが,無作為割 り付 けは倫理的に臨床現場では受け入 れ られ ない場合 も多い。また,マ ッチングを行 う場合 には,複雑なサンプ リング作業を必要 とす ることが多 く,人的介入が増 し,サンプ リングバイアスの問題が生 じる。その結果,自 然な臨床環境 を反映 しないデータを生んだ り,研究結果の外的妥 当性 を低下 させ る可能性が ある。一方,全数調査によるコホー ト研究は,多変量解析 (Cox比例ハザー ド)を用いるこ とで,既知の測定できる交絡因子 を調整 しベースライ ン特性の補正を行 うことができるため, 近年多 くの臨床研究で採用 されている。本研究においても,前向きコホー ト研究に多変量解 析を用いることでベースライ ン特性の補正を行ってお り,臨床現場で受 け入れやすいデザイ ンなが ら妥当性の高い結果 を得 ることができた と考えるO‑方,予測因子 として計測 されて いない因子は,交絡因子 として調整することが難 しく,結果の解釈 には注意が必要 と思われ た。
【結論
】
1
5年間の前向きコホー ト研究により,将来のコア非生存の独立 した リスク因子 として,午 齢 が 高 い こ と,男性 で あ る こ と,メ タル コア を選 択 した こ と,歯 冠部 の残 存 歯 質 が 失 われ てい る こ とが あげ られ た。論 文 審 査 結 果 の 要 旨
支台築造 は補綴臨床 において 日常的に行 われ る重要 な処置 で あ り,既製 のポス トと レジンを用い る レジンコア と,鋳造金属 を用いるメタル コア に大別 され る.近年 ,支 台築造 の予後 を向上 させ るた め,歯質接着性 レジンセ メ ン トが頻繁 に使用 され るが, 接着性 レジンセ メン トを用いた支 台築造 の予後 に関す る十 分 な臨床 エ ビデ ンスは蓄 積 され ていない.
本研 究では,岡山大学歯 学部 附属病院第 1補綴科 にて支 台築 造 が実施 され ,支台 築造 プ ロ トコル (コアカ′レテ)に記 録 され た全 患 者1024名 (2174本 ) を対象 に, レ ジ ン コア とメ タル コア に分類 し,長期 生存 率 をKaplan‑Meier法 に よ り生存 曲線 を措 いた後,Log‑rank検 定 (有意 水 準 :p =0.05)を用 い て 明 らか にす る とともに, コアの失敗 に関わ る リス ク因子 の検討 をCoxの比例ハザー ドモデル を用いて行 った.
その結果,15年後 の累積 生存 率 は, レジ ン コア(78.7%)が メ タル コア(55.4%)に比 較 し有意 に優 れ てい た(Log‑rank検 定;p く.0001).Cox比 例 ハ ザ ー ドモ デ ル に よ る と,患者 が男性 で あ る こ と(pく.0001),歯 冠 部 の残 存 歯 質 が ない こ と(p =.00 57),メ タル コア を選 択 した こ と(p=.0186),装 着 時 の 患者 の年 齢 が 高 い こ と(p
=.0380)が, コア の非生 存 に 関連 した独 立 した リス ク因 子 と して あ げ られ た . 本研究は,前 向きコホー ト研究デザイ ンによ り遂行 された全数調査であ り,患者の臨 床決断を促す最新の臨床エ ビデ ンスを提供 している. さらに単変量解析(Ⅹaplan‑Meier 法)に加 え,多変量解析(Cox比 例 ハ ザ ー ドモ デル)を用いて多角的に検討 を行 っている.
従来 ,臨床 疫 学研 究 にお い て は,複 数 の治療 法 の効果 を比較 す る場合 ,群 間比較試 験 が行 われ て きた.その際 ,内的妥 当性 を担保す るた め,無作為割 り付 けや マ ッチ ング とい ったベ ー ス ライ ンデー タを揃 える作 業 が必 要 で あ ったが,この作業 に よ り 自然 な臨床 環境 を反 映 しないデ ー タを生 み ,外 的妥 当性 を低 下 させ る懸念 が あっ た . しか し,全数調査 に よる コホー ト研 究 は,多変 量解 析(Cox比 例 ハ ザー ドモ デ ル )を用 い るこ とで,既知 の測 定で きる交絡 因子 を調整 し,ベ ー ス ライ ン特性 の補 正 を行 うこ とに よ り診療 環境 を想 定 した研 究 デ ザイ ンと して,近年 多 くの研 究 で採 用 され てい る.本研究 も適切 な研究デザインによ り全数調査 を行い,統計解析 にCox比 例 ハ ザ ー ドモ デル 用 い る こ とで診 療 環境 を想 定 した もの とな っ てお り,この研究 は歯科臨床 において非常に有意義 な研究である.
よって本論文は博士 (歯学)の学位授与に十分値す るも との判断 した.