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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 教 育 学 ) 桐 山 希 一

学 位 論 文 題 名

足底圧の動的変化を指標とした健常成人の歩行制御 および片麻痺歩行に関する研究

学位論文内容の要旨

  本論文では,ヒトの二足歩行における体重移動の制御を,足底の圧力変動から論じた。測定 の対象は健常歩行と片麻痺歩行とした。健常成人については,解剖学的に規定した足底の領域 から歩行時の圧力変動を調べた。次に,病的歩行とくに片麻痺歩行を対象とした臨床評価の指 標 と し て 足 底 圧 変 動 を 用 い た 。 そ し て , こ の と き の 有 用 性 を 検 討 し た 。   ヒトが歩行を行う際には,足底が唯一の荷重基底面である。他の動物と比較して細くて長い ヒトの足底は,足底面上を前方に体重移動する動作には機能的な形態であると言える。また,

足部に求められる安定性と運動性はアーチ構造によって同時に機能している。しかし,歩行時 の足底圧変動には,足部の形態や構造のみならず歩行方略などの動的な因子が影響している可 能性がある(Cavanagh猷刮.,1997; Morag猷a1.,1999)。動的な因子としては,神経機隣カ瀧能し て働く体重移動の制御が挙げられる。歩行に関与する神経機構には視覚情報処理や注意・判断 といった高次脳機能,姿勢反射・反応,あるいは上下肢や左右の交互運動を自律的に制御する 脊髄のパターン生成回路などが関与する。そして,その制御の結果は足底に反映されると考え た。

  足底圧を指標として歩行を分析する上で,その方法論から検討した。体重移動を測定する方 法には,重´t勸揺計や床反力計がある。しかし,重´こ働揺計は歩行などの動的な場面における 重心移動を測定することはできない。床反力計では身体の重心から足底の圧力中心(oenほ所 ぴ齬鍬盻,COP)に向かうベクトルに対するカ学的な作用を,動的な場面であっても測定できる。

しかし,足底表面の圧力変動をとらえることはできない。足底圧は,FSGANシステムなどの 時間的にも空間的にも高い精度をもった装置により計測することができる。しかし,既存の足 底圧分布の測定装置から得られた結果は,歩行周期を通じた変化の特徴を簡潔に表現すること ができない。このため,足底圧を指標とした歩行制御に関する議論にまでは至っていない現状 がある。

  そこで,本研究では足底面内における足底圧変動を波形として示す方法をとった。まず,足 底の各鋲曦から得られる歩行中の圧力曲線を求めた。そして,COPの移動方向に相当すると考 えられる踵骨隆起と第3中足骨頭(前後方向)との,そして横アーチの体重支持部位に相当する第 1およぴ第5中足骨頭間く傾蜘との,圧力曲線の差波形を求めた。これにより,それぞれの方向 にっいて,二っの領域の相対的な圧力差とその時間的な変動が示される。すなわち,歩行時の 足底圧変動を時間的な精度を保ったままに,空間情報をも簡潔に表現することができると考え た。この方法は,身体装着型の測定装置であることが利点である。測定は歩行環境に左右され

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に く く , 適 続 し た 歩Rあ る い は ト レ ッ ド ミ ル の 上 で の 測 定 も 可 能 で あ る 。 健常成人にっいての課題は,自然歩行場面において前後・側方それぞれの足底圧変動の様相 を分析することであった。そして,これらが速度変化や方向転換といった実験条件を,どのよ うに反映ナるのかを検証した

  自然歩行場面での足底圧変動について,前後方向は踵側の足底圧が第3中足骨側を上回る「後 向 に相 当す ると 考え られ る踵 骨隆 起と第3中足骨頭(前後方向)との,そして横アーチ の 体重 支持 部位 に相 当す る第1およ び第5中足 骨頭 間( 側方 )との,圧力曲線の差波形 を 求め た。 これ によ り, それ ぞれ の方 向 につ いて ,二 っの 領域の相対的な圧力差とそ の 時間 的な 変動 が示 され る。 すな わち , 歩行 時の 足底 圧変 動を時間的な精度を保った ま まに ,空 間情 報を も簡 潔に 表現 する こ とが でき ると 考え た。この方法は,身体装着 型 の測 定装 置で ある こと が利 点で ある 。 測定 は歩 行環 境に 左右されにくく,連続した 歩行,あるいはトレッドミルの上での測定も可能である。

  健常 成人 につ いて の課 題は ,自 然歩 行 場面 にお いて 前後 ・側方それぞれの足底圧変 動 の様 相を 分析 する こと であ った 。そ し て, これ らが 速度 変化や方向転換といった実 験条件を,どのように反映するのかを検証した。

  自 然歩 行場 面で の足 底圧 変動 につ いて , 前後 方向 は踵 側の 足底 圧が 第3中 足骨 側を 上 回る 「後 足部 荷重 期」 から ,第3中 足骨側の足底圧が踵側を上回る「前足部荷重期」

へ と移 行す るこ とが 明確 に示 され た。 各 領域 の圧 力曲 線か ら位置づけると,前後方向 はCOPの 移 動 に 伴 う 圧 変 化 を 反 映 す る と 確 認 さ れ た 。 同 様 に , 側 方 の 変 動 も2相 に 分 け る こ と が で き た 。 こ こ で は 第5中足 骨 側へ の足 底圧 が第1中 足骨 側 を上 回る 時期 を 「 外 側 バ ラ ン ス 」 と 呼 び 、 第1中 足骨 側 への 足底 圧が 第5中足 骨側 を 上回 る時 期を

「 内側 バラ ンス 」と 呼ん だ。 側方 の変 動 は歩 行周 期を 通じ て,外側バランスから内側 バ ラン スヘ と移 行す るの が被 験者 を通 じ た特 徴で あっ た。 ただし,個人差が大きく,

また歩数ごとにも変動が大きかった。

  トレ ッド ミル 上で の歩 行で は, 速度 に 対す る足 底圧 の変 化を分析した。速度が増す に 伴っ て, 歩行 率は 増加 し, 立脚 時間 は 短縮 した 。歩 行速 度が比較的遅い場合には,

前 足部 荷重 期よ りも 後足 部荷 重期 が長 く なる 。そ して ,走 行では前足部に対する足底 圧 は歩 行よ りも 大き くな った 。し かし , 前足 部へ の足 底圧 や前足部荷重期と後足部荷 重 期 の 時 間 的 比 率 は , 時 速4kmか ら 時 速8kmの 歩 行 速 度 の 変 化 に は 影 響 を 受 け な か っ た。 以上 のよ うに ,前 後方 向の 変動 か らす ると ,遅 い歩 行と通常の歩行,そして走 行 は体 重移 動の 制御 のさ れ方 が異 なる と 考え られ た。 また ,側方の変動に関する個人 差 と, 歩数 ごと の変 動は ,速 度に よっ て も変 化し なか った 。ただし,トレッドミルで 連 続し た歩 数を 解析 する と, 内側 バラ ン スと 外側 バラ ンス が周期的に繰り返す相反機 構 を認 めた 。こ の相 反機 構は 側方 への 過 度の 体重 移動 の制 御に関与していると考えら れた。

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  側 方 の 足 底 圧 変 動 は , 自 然 歩 行 や ト レ ッ ド ミ ル 上 で の 歩 行 で は , 連 続 歩 数 に お け る 相 反 機 構 の 他 に 一 定 の 傾 向 は 認 め な か っ た 。 し か し , 方 向 転 換 を 連 続 さ せ る 回 転 歩 行 で は , 内 足 の と き に は 外 側 に , 外 足 の と き に は 内 側 に 相 対 的 に 足 底 圧 が 偏 倚 し た 。 ま 足 翻寄 重 期」 から ,第3中 足骨 側の 足 底圧 が踵 側を 上回 る 「前 足部荷重期」^と移行 すること が 明確 に 示さ れた 。各 領域 の 圧力 曲線 から 位 置づ ける と, 前後 方向はCOPの移動に伴 う圧変化 を 反映 す ると 確認 され た。 同 様に ,側 方の 変 動も2相に 分 ける こと がで き た。 ここ では 第5 足骨佃 卜の足底圧が第1中足骨惻を 上回る時期を「外イ叫ベラ ンス」と呼び、第1中足骨佃ト`の 足 底旺 が 第5中 足骨側を上回る 時朔を「内佃レくランス」と 呼んだ。側方の変動は歩行 周期を通 じて,タlqlIIJ/くランスから内伽レヾランスへと移行するのが被験者を通じた特徴であった。ただし,

個人勘獣きく,また歩数ごとにも変動が大きカめた

  トレッドミノレ.上での歩行では,速度に対する足底旺の変化を分析した。遊渡が増すに伴って,

歩 行率 は 増加 し, 立脚 時間 は 短縮 した 。歩行速度が比較的 遅い場合には,前足部荷重 期よりも 後足部 荷重期が長くなる。そして ,走行では前足部に対する足 底圧は歩行よりも大きくなった。

し かし , 前足 部へ の足 底圧 や 前足 部荷 重期 と 後足 部荷 重期 の時 間的比率は,時速4kmから時速 8kmの 歩行 速度 の 変化 には 影響 を受 け なか った 。以 上の よ うに ,前後方向の変動から すると,

遅 い歩 行 と通 常の 歩行 ,そ し て走 行は 体重移動の制御のさ れ方が異なると考えられた 。また,

側 方の 変 動に 関す る個 人差 と ,歩 数ご との変動は,速度に よっても変化しなかった。 ただし,

ト レッ ド ミル で連 続し た歩 数 を解 析す ると,内側バランス と外側バランスが周期的に 繰り返す 相 反機 構 を認 めた 。こ の相 反 機構 は側 方への過度の体重移 動の制御に関与していると 考えられ た。

  側方 の 足底 圧変 動は ,自 然 歩行 やト レッドミル上での歩 行では,連続歩数における 相反機構 の 他に 一 定の 傾向 は認 めな か った 。し かし,方向転換を連 続させる回転歩行では,内 足のとき に は外 側 に, 外足 のと きに は 内側 に相 対的に足底圧が偏箭 した。また,このときにも 歩数ごと の 変化 に 相反 機構 を認 めて い た。 した がって,側方の足底 圧変動は,体重の移動方向 の変化を 反映していると考えられた

  足底 圧 変動 を臨 床評 価の 指 標と して 応用するために,片 麻痺歩行の分析を行った。 健常成人 の パタ ー ンと 比較 して 検討 を 行っ た結 果,麻痺側の足底圧 の変動は四つのタイプに分 類するこ と がで き た。 タイ プIでは ,前 後方 向 は前足部側に,側方 は外側に足底圧が偏倚した。 タイプn で は, 前 後方 向に は健 常成 人 と同 様に 二相性の圧力変動を 認めるが,側方は外側に偏 倚した。

タ イプmも 前後 方向は健常成/,と同謙に二相性のlvj変動を 認めるが,佃防1ま内側に偏 綺した。

タ イプIは 前後 お よぴ 側方 とも 健常 成 人と 同様 の足 底圧 変 動を 認めた。しかし,足底 圧の動的 変 化を 分 析す ると きの 徴表 と する こと ができると考えた。 また,片麻痺歩行における 足底圧変 動 の 分 析 で は 体 重 移 動 の み な ら ず 足 底 閉 也 の fユ 方 を 評 価 す る こ と が で き た   次に , 片麻 痺歩 行を 呈す る 症例 につ いて,発症からの治 療経過を報告した。歩行速 度や歩数 と いっ た 遂行 能カ と, 足底 圧 変動 との 対応について検討し た。足底圧変動の分析は, 個別の対 象 者に お ける 歩行 の特 徴も 表 すこ とが できた。このとき, 歩数ごとの変動を解析する ことによ り 評価 の 信頼 性を 得る こと が でき た。 また,治療経過にお ける変化を把握する際にも 足底圧変 動|湘な指瞭となった。

  最後 に 本論 文の 結論 を述 べ る。 歩行 中の足底における圧 力変動は,前後・側方に圧 力曲線の 差 波形 を 求め るこ とで 特徴 的 に表 され た。 特 に前 後方 向の 圧力 変動は,COPの移動に 伴う圧力 変 化を 反 映し た。 また ,側 方 の圧 力変 動は体重の移動方向 の変化を反映すると考えら れた。そ

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して,この知見をもって片麻痺歩行を分析することにより,足底圧変動は歩行病態を臨床にお いて評価する指漂として有用であると考えられた。

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学位論文審査の要旨 主査    教授    室橋春光 副査   助教授   山田憲政 副査   助教授   保延光一 副査   名誉教授加藤正道

ー   学 位 論 文 題 名

足底圧の動的変化を指標とした健常成人の歩行制御 および片麻痺歩行に関する研究

  本論文は、歩行における足底の前後と左右の圧力差分の動的変化を指標として、健常成 人における歩行のありかたを検討するとともに、片麻痺患者における歩行障害特性の解明を 試みたものである。

歩行障害におけるりハビリテーションにおいては、従来、治療者の経験に基づいて訓練プロ グラムが組まれてきた。適切な訓練を行うためには、歩行特性の客観的データに基づいて治 療戦略をたてることが望まれる。しかし、臨床場面では、歩行特性を簡易に測定しうる手法を 必要とする。本研究では、足底5カ所に圧カセンサーを直接装着してその値の差分変動を算 出する手法を用い、健常成人における歩行特性を分析するとともに、片麻痺患者に協カを求 めて歩行障害特性を分析し、歩行訓練プログラムの開発・工夫に資することを目的とした。

本論文は、5章より構成されている(第1章:序論、第2章:本研究の課題設定、第3章:健常 成人の足底圧の動的変化(実験)、第4章:片麻痺歩行の足底圧における動的変化(症例検 討)、第5章:総括)。

第1章ではヒトの足部の 機能解剖的特性と歩行制御システムが概括され、運動力学的視点 からの歩行分析の方法が検討されている。

第2章では、本研究の方法が詳述されている。歩行時 に重要な役割を果たす足底の5つの 部位(第1、3、5中足骨頭部、踵骨隆起部、及び母趾部)に圧カセンサーが直接装着された。

そして足底内の動的な圧力変動を把握するため、前後方向(第3中足骨頭部一踵骨隆起部)

及び左右方向(第1中足 骨頭部―第5中足骨頭部)の圧力値の差分を算出し足底圧変動波形 として表示する方法が採用された。これは、病的歩行を示す患者に対して歩行特性を簡易に 測定することを可能にする1つの方法であり、臨床的評価のための有用な指標となりうる。

第3章では、健常成人を対象とした歩行実験の結果が示されている。実験は、自然歩行、ト レッドミル歩行、回転歩行の3条件で実施された。自然歩行実験では、前後方向の足底圧変

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動波形において後足 部荷重期と前足部荷重期からなる2相の曲線が明瞭に認められた。他 方、左右方向では足 底圧変動波形において外側に圧力分布が偏る時期と内側に偏る時期か らなる2相性の曲線が認められる場合もあったが、被験者聞及び被験者内のばらっきが大きく 明確ではなかった。トレッドミル歩行実験では、歩行速度の変化に対応して前後方向における 体重移動動態が変化することが示された(Kiriyama etal.,2004)。他方、左右方向では第1中 足骨部と第5中足骨部の圧力値の間には負の相関が認められ、かつ周期的に変動した。この ことは、歩行中に外側偏移と内側偏移が繰り返される相反的な機構が存在することを示唆して いる。回転歩行実験 では、前後方向における足底圧変動波形の最大振幅値は、直線歩行時 よりも回転時の方が減少した。また左右方向では内足時には外側偏移が、外足時には内側偏 移が主となった。側 方の足底圧変動波形は、従来の方法では測定できなかった歩行時の側 方 体 重 移 動 を 反 映 す る も の と 解 釈 さ れ た (Kiriyama etd. , 2005)。 第4章 では 、 片麻 痺患 者に 協カを求め、足底圧変 動波形の臨床的評価への応用について 検討した。その結果、前後方向と左右方向の足底圧変動波形における2相性の有無に関して 4つのタイプに分類することが可能であった。このうち、左右方向においては2相性を認めない が前後方向において明瞭な2相性を認めた一患者について詳細に検討した。その結果、治療 経 過に対応して後足部荷重期と前足部荷重期の変 化点延長および外側偏移期の延長が認 められた。このことは、足底圧変動波形が片麻痺患者の病態把握及び治療評価に有効である ことを示唆した。

本 論文では、歩行における足底圧の動的変化を分 析するため、特定部位間における圧力 値の差分を算出する 手法が開発され、健常成人における歩行の運動力学的特性が考察され た。また歩行障害の臨床評価への応用に道を開いたという点で、学術的ならぴに臨床的価値 を有する。この手法は、簡易に実施できることから臨床的価値には高いものがあると期待しう る。

歩行制御メカニズム の検討のためには、中枢機能をより直接的に反映する指標の同時的利 用も今後必要であり、また臨床的応用を具体化するためにはさらなる臨床データの収集と分 析を必要とする。これらは今後の課題として残るが、上述の成果をあげた点で著者は北海道 大学博士(教育学)を授与される資格があるものと認める。

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