博 士 ( 環 境 科 学 ) 櫻 井 俊 光
学位論文題名
Studies on phase equilibrium states and spatial distributions of water−soluble m1CropartiCleSpreSerVedinpolarlCeSheetS
(極地氷床に存在する水溶性微粒子の相平衡状態および分布に関する研究)
学位論文内容の要旨
南 極 や グ リ ー ン ラ ン ド の 氷 床 に 含 ま れ る 微 量 の 化 学 物 質 は 、 過 去 数 十 万 年 の 地 球 環 境 を 復 元 す る 上 で 貴 重 な 情 報 源 で あ る 。 特 に 、 イ オ ン ク 口 マ ト グ ラ フ ィ に よ っ て 測 定 さ れ る 各 イ オ ン の 濃 度 プ 口 フ ァ イ ル は 、 汎 用 性 が 高 く こ れ ま で 代 表 的 な 古 環 境 シ グ ナ ル と し て 用 い ら れ て き た 。 し か し 、 水 溶 性 エ ア 口 ゾ ル と し て 氷 床 表 面 に 堆 積 し た 後 、 そ の 化 学 物 質 が 氷 床 内 に お い て ど の よ う な 状 態 で 存 在 す る の か は 、 長 い 間 未 解 決 の 課 題 で あ っ た 。 特 に 深 層 部 の 古 い 年 代 の 氷 に 含 ま れ る 古 環 境 シ グ ナ ル と し て の 信 頼 性 が 問 わ れ て い る た め に 、 各 イ オ ン の 化 学 状 態 を 解 明 す る こ と は 重 要 な 課 題 で あ る 。 最 近 の 研 究 で 、 浅 層 に お け る イ オ ン の ほ と ん ど が 硫 酸 塩 な ど の 水 溶 性 固 体 微 粒 子 と し て 存 在 す る こ と が 明 ら か と な り 、 氷 床 に お け る 化 学 物 質 の 挙 動 に 関 す る 研 究 が 急 速 に 進 展 し つ っ あ る 。 し か し 、 そ の 研 究 の 過 程 で 、 化 学 組 成 が 不 明 の 微 粒 子 が 多 数 見 っ か っ て お り 、 各 気 候 区 分 の 相 違 や 深 層 部 に お け る そ れ ら の 微 粒 子 の 化 学 組 成 お よ び 形 成 過 程 な ど は 明 ら か に な っ て い な い 。
本 研 究 は 、 最 近 の 研 究 成 果 を 踏 ま え て 、 氷 床 に お け る 化 学 物 質 の 存 在 状 態 の 変 化 を 化 学 組 成 と 多 成 分 系 の 相 平 衡 の 視 点 か ら 明 ら か に し 、 各 種 イ オ ン の 再 分 布 の メ カ ニ ズ ム を 解 明 す る こ と を 目 的 と す る 。 特 に 、1) 南 極Do me Fuji氷 床 コ ア の 最 終 氷 期 か ら 完 新 世 ま で の 気 温 変 動 に 伴 う 微 粒 子 の 化 学 組 成 の 相 違 、2) 南 極Dome Fuji氷 床 コ ア お よ び グ リ ー ン ラ ン ドGRIP氷 床 コ ア に お け る 微 粒 子 の 化 学 組 成 の 相 違 、3)Dome Fuji氷 床 コ ア 深 層 部 に お け る 微 粒 子 の 化 学 組 成 の 変 化 、 分 布 の 変 化 に 注 目 し て 研 究 を 行 っ た 。 研 究 方 法 は 、 光 学 顕 微 鏡 を 用 い た 粒 径 ・ 空 間 分 布 解 析 、 お よ び 顕 微 ラ マ ン 分 光 法 を 用 い た 化 学 組 成 解 析 、 示 差 走 査 熱 量 測 定 (DSC)を 用 い た 各 種 塩 の 相 転 移 点 の 測 定 で あ る 。 本 研 究 で 用 い た 手 法 は 、Ohno et al. [2005]
に よ っ て す で に 開 発 さ れ た 手 法 で あ る が 、 上 記 目 的 達 成 の た め に 新 た な エ
夫を行った。化学組成解析では、従来測定されたラマンスベクトルの周波 数領域だけでなく低周波数領域も同時に測定することによって、微粒子の 相状態を判別することを可能にした。この手法を用いて、ラマンスペクト ルの測定温度を 0 ℃から‑90 ℃の範囲で変化させ、化学組成解析と同時に融 解温度の測定を可能にした。また、リファレンス試料を2 成分系から3 成分 系に拡張することによって、これまで不明だった微粒子の化学組成が明ら かになった。
その結果、
( 1 )氷期一間氷期変動に伴う微粒子の化学組成の変化、南極氷床および グリーンランド氷床に存在する微粒子の化学組成の相違は、CaS04‑2H20 が 塩組成決定に重要な役割を果たし、イオン濃度バランスに強く依存するこ とを明らかにした。また、 3 成分相平衡状態図の分析から、各気候区分・各 氷床コアにおけるイオン濃度を用いることにより微粒子の化学組成をほぼ 完全に理解することが可能になった。
( 2 ) Na2S04‑lOH20 など共晶温度の高い塩は、氷床底面近くにならないと 融解しないと推定された。しかし、氷床深層部における微粒子の低周波数 領域のラマンスペクトル、および 3 成分相平衡状態図における融解温度測定 から、Na2S04‑lOH20 の一部は氷床中層部ですでに融解が始まっていること を発見した。その原因は、硫酸塩にHC1 が介在することで融点の低下を引き 起こし、Na+ ,S042‑ ,H+ , Cl‑ を含む硫酸塩微液泡として存在するためであ る。また、液相であっても微粒子状として存在することが明らかになった。
( 3 )深層部に特徴的な微粒子の粗大化を見いだした。粗大化は微粒子あ るいはイオン種が移動していることを示唆している。微粒子の空間分布を 分析した結果、深層部において微粒子は氷結晶粒界に集積することが明ら かになった。
以上、本研究は氷床コアに含まれる水溶性微粒子の化学組成と分布に関
して未解明であった課題の重要な部分を解決したものであり、これによっ
て氷床の全層にわたるイオン種の存在形態を解明する手掛かりを得た。こ
の成果はこれまでの各種イオン濃度による古環境復元に関して、より信頼
性の高い古環境復元を可能にするものである。
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 本堂 武 夫 副 査 教 授 古川 義 純 副 査 助 教 飯塚 芳 徳
副 査 准 教授 内 田 努 ( 大学院工学 研究院)
学位論文題名
Studies on phase equilibrium states and spatial distributions of water―soluble m1CropartiCleSpreSerVedinp01arlCeSheetS
(極地氷床に存在する水溶性微粒子の相平衡状態および分布に関する研究)
南 極 やグリーン ランドの氷 床に含まれ る微量の化 学物質は、 過去数十万 年の 地球 環 境を復元 する上で貴 重な情報源 であり、イ オンク口マ トグラフィ によっ て測 定 される各 種イオンの 濃度プ口フ ァイルは、 氷床コア解 析の重要な 基本デ ータのー つである。 しかし、エア口ゾルとして氷床表面に堆積した化学物質が、
氷床 深 部に至る までどのよ うな状態で 存在するの かという基 本的な問題 が長い 間未解決 の課題であ った。最近の研究で、浅層におけるイオン種のほとんどが、
硫酸 塩 などの水 溶性の固体 微粒子とし て存在する ことが明ら かとなり、 氷床に おけ る 化学物質 の挙動に関 する理解が 急速に進展 した。しか し、氷床深 部にな るほ ど 化学組成 が不明の微 粒子が多く なるなど、 依然として 化学物質の 挙動に は未解明 の部分が多 い。
本 研 究は、最近 の研究成果 を踏まえて 、氷床にお ける化学物 質の存在状 態の 変化 を 多成分系 の相平衡の 視点から明 らかにし、 各種イオン の再分布の メカニ ズム を 解明する ことを目的 としている 。特に、氷 期―間氷期 変動に伴う 微粒子 の化 学 組成の変 化と南極氷 床およびグ リーンラン ド氷床にお ける微粒子 の化学 組成 の 相違、深 層部におけ る微粒子の 化学組成と 分布の変化 に注目して 研究を 行った。
研 究 方法は、光 学顕微鏡を 用いた粒径 ・空間分布 解析、およ び顕微ラマ ン分 光法を用 いた化学組 成解析、DSC(示差走 査熱量測定 )を用いた各種塩の相転移 点の測定 などである 。本研究で用いた手法は、Oh・n0他[2005]によってすでに 開発 さ れた手法 および広く 用いられて いる手法で あるが、上 記目的達成 のため
に新たな工夫を行っている。ラマンスペクトルによる化学組成解析では、従来 の化学組成解析のための周波数領域だけではなく、低周波数領域のラマンスベ クトルを同時に測定して、微粒子が固体か液体かを判別することを可能にした。
また、これまでりフんレンス試料としては2成分系が用しゝられてきたが、これを
3
成分系に拡張することによって、従来同定出来なかった微粒子の化学組成と相 状態を明らかにすることに成功している。主要な成果を要約すると以下の通りである。
(
1
)氷期一間氷期変動に伴う微粒子の化学組成の変化、および南極氷床とグ リーンランド氷床に存在する微粒子の化学組成の相違を明らかにし、その原因 が陸起源のCaの濃度およびイオンパランスによって良く説明できることを示し た。(
2
)硫酸塩などの微粒子の化学組成を水和数まで含めて決定した。このこと は、大気エア口ゾルによる放射強制カを計算する上で極めて重要な結果であり、将来、(
1
)の結果と合わせて、氷期―間氷期変動における放射強制カの研究 に有用な成果である。(