博 士 ( 歯 学 ) サ チ マ リ エ ン ド ウ レ オ ナ ル ド
学位論文題名
Research on lip sealing ability and its relation to dento 一facial morphology
(日常的な口唇閉鎖能カと顎顔面形態との関連性に関する研究)
学位論文内容の要旨
緒言
個体が日常的に口唇を閉鎖 しているかどうかについては、咀嚼機能や歯周病との関連も 含め、重要な問題と考えられ ている。口唇閉鎖困難の原因について多くの臨床医は、歯軸 の傾きやオーバージェットな どの咬合に関連すると考えてきた。一方、半田らは、正常咬 合を有するものでも、口唇閉 鎖の困難な者がぃると報告しており、口唇閉鎖機能に咬合は 関与しない可能性を考察した 。また、多くのこれまでの研究では、不正咬合者を用いて研 究を行っており、おもに咬合 と口唇閉鎖との関連について述べているが、顎顔面形態との 関連についての検討は不十分 である。
ー方、これまでの研究では 、口唇閉鎖を、視診や、セファロ、筋電図などから評価して いるが、これらの方法は閉鎖 状態を直接計測できないという欠点を有している。さらに、
実験条件は、日常的にはおこ りにくい、特殊な環境を設定していることが多い。これらの ことをふまえると、口唇閉鎖 が咬合や顎顔面形態とどのように関連しているかを考えるに は、日常的な条件を再現し、 口唇閉鎖を直接、長時間計測できる装置を用いること、さら に 、 顎 顔 面 形 態 を 咬 合 か ら 切 り 離 し て 評 価 す る こ と が 重 要 と 考 え る 。 本研究では、口唇閉鎖は咬 合よりも顎顔面形態に関連する、との仮説をたて、個性正常 咬合者および不正咬合者を対 象に用いて、口唇閉鎖の有無と顎顔面形態との関連性を検討 するための実験を行った。す なわち、日常的な口唇閉鎖の環境を再現し、直接的に口唇閉 鎖を計測することを前提とし た上で、咬合の条件が類似し、顎顔面形態が異なる個性正常 咬合者を用いることで口唇閉 鎖と顎顔面形態との関連性を検討し、次いで、不正咬合を有 する者を含めて同様に検討し 確認することを目的とした。
資料と方法
最初の実験として、皎合と 顎顔面形態とを切り離すために、30人の個性正常咬合者(男 性16名 女 性14名overjet(以 下OD船 よ びoverbite(以 下OB)はImm‑‑‑3mm)を 対 象 と し た 。次いで、65名のOBやOJの分 布が広い不正咬合を含めた各種咬合様式を有する者(男 性33名 、女 性32名OBは‑O.lmm丶一‑6.3mm、OJは‑6.9mm‑‑‑7.2mm)を対象とした。これら すべての対象は全員カミ実験 の1ー12か月前に他の目的で 撮影された側面セファログラム を有しており、これを顎顔面 形態計測の資料とした。
口唇閉鎖を直接的に記録 する装置には半田等が開発した口唇閉鎖状態連続記録装置を 用 いた 。本 装置 は上 口唇 に3mm四方のタッチセンサーをっけて、下口唇との接触状況を 直接電気的に検出するもので ある。本装置の特徴としては、口唇閉鎖状況を直接検出でき るところにある。検出結果を パーソナルコンピュータにて解析し、口唇が閉鎖している時 間と離開している時間をそれ ぞれ求め、全実験時間における口唇を閉鎖している時間の割 合を口唇閉鎖率として算出し た。実験条件と方法は以下の通りである。日常生活における
一 421 ‑
集 中 し て い る 環 境 の 再 現 と し て は 、100マ ス 計 算 を コ ン ピ ュ ー タ 上 で15分 間 連 続 的 に 行 わ せ る も の で あ り 、 ー 方 、 リ ラ ッ ク ス し て い る 環 境 と し て は 音 楽 鑑 賞 を15分 間 行 わ せ る も の で あ る が 、 こ れ ら を 各 被 験 者 に 対 し て 連 続 して 行っ た 。次 に、 側面 セフ ァ ログ ラム か らは、所定の基 準点(S,N,Or ANS,PNS,A,B,Ula,Uli,Lla,Lli,Mo,Pog,Me,Go,Ar Poの17点 ) を 設 定 し 、 こ れ ら か ら 骨 格 系29項 目(SNA SNB,ANB,SN‑Pog,NA‑Pog Ar‑Go‑Me,GZN,SN‑MP, SN‑FH,SN‑NFNF‑MP, ANS‑PNS,NPog‑A,GP/SN,N‑S‑Ar, S‑ArーGo,Sum,S‑N,S‑Ar Ar‑Go,Go‑Me,GoMe/SN,FMA,N‑ANS,ANS‑Me,N‑Me, N‑ANS/ANS ‑Me,ANS ‑Me/N‑Me,Wit8) 、 歯 系10項 目(SN‑Occ,NF‑Occ,MpーOcc, Interincisal,Ul‑SN,Ul‑NFL1‐MP NPog.Ul,NPogーL1,FMIA) の計 測を 行 った 。解 析 方 法 と し て は 、 ま ず 各 対 象 か ら の 口 唇 閉 鎖 時 間 率 を も と に 、SPSS(verI16.O)を 用い て ク ラ ス タ ー 分 析 を 行 い 、 す べ て の 対 象 を グ ル ー プ分 けし た 。次 に、 分離 され た グル ープ に お け る 顎 顔 面 形 態 の 特 徴 を 検 討 す る た め に 、 側 面セ ファ ロ 分析 の結 果を 各グ ル ープ 問で 比 較 し た 。 検 定 に はANOv.Aを 用 い 、BOI血rronぬ に 従 い 有 意 差5% レ ベ ル で評 価 を行 った 。 結果
(1)個性正常咬 合を有する対象について
1)クラスタ ー分析の結果、口唇閉鎖時間 率から3群に分かれた。
2)3群 は 口 唇 閉 鎖 率 に お い て 群 聞 に 有 意 な 差 が あ り 、 口 唇 閉 鎖 率 が 高 いCompetent群 (n名 ) 、 低 いIncompetent群 (8名 ) 、 中 間 的 なP釘tia亅lyCompetent群 (11名 ) 、 に分類された 。
3)Incompetent群 に 属 す る 者 は 他 の2群 に 比 し て 、ANB、 NPog‐A、AN・s.Me、 N,ANS/ANS,Me、ANS.Me/N.Me、NPog・U1、NPog L1で 有 意 な 差 が あ っ た 。
(2)不正咬合者 を含めた各種咬合様式を有す る対象について 1)クラスター 分析の結果、口唇閉鎖時間率 から3群に分かれた。
2)3群 絃 口 唇 閉 鎖 率 に お い て 群 間 に 有 意 な 差 が あ り 、 口 唇 閉 鎖 率 が 高 いCOInpetent群 (38名 ) 、 低 いInco皿pete11t群 (12名 )、 中聞 的なPartiむlyCompetent群 (15名) 、 に分類された 。
3)Incompetent群 に 属 す る 者 は 他 の2群 に 比 し て 、ANB、NA‐Pog、NPog.A、ANS.Me /N.Me、NPog.Ul、NPogーL1で有意な差 があった。
考察
本 実 験 の 結 果 よ り 、 咬 合 が 類 似 し た 個 性 正 常 咬 合 者 に お い て は 、 骨 格 系 で は 、 Incompitent群 のANBが 他 の2群 に く ら べ て 有 意 に 大 き く 、 上 下 顎 関 係 が2級 で あ る こ と が 示 さ れ た 。 ま た 、NPog・Aか ら も 、 ポ ゴ ニ オ ン の 位 置 が 相 対 的 に 後 方位 に ある こと が わ か っ た 。 一 方 、 垂 直 的 な 関 係 で は 、ANS.Me、N・ANS/ 心 峪 ・Meお よ ぴANS.Me/N.Me か ら 、 下 顔 面 高 が 相 対 的 に 大 き い こ と が 示 唆 さ れ た 。 歯 系 の 項 目 で は 、NPog.U1と NPog・L1か らIncompibnt群 で は ポ ゴ ニ オ ン の 位 置 が 他 の2群 に 比 べ て 相 対 的 に 後 方 位 ( 上 下前 歯が 相対 的 に前 方位 )に ある こ とが わか った 。こ れ ら対 象は 個性 正 常咬 合を 有す る と い う 類 似 性 か ら 、 口 唇 閉 鎖 の 有 無 は 咬 合 に は無 関係 で あり 、口 唇閉 鎖を 困 難に する 要 因 は 、 顎 関 係 のII級 傾 向 、 オ 卜 ガ イ の 後 退 、 下 顔面 高が 長 い、 こと によ り決 定 され るこ と が 示 唆 さ れ た 。 さ ら に 、 こ れ ら 項 目 は 各 種 咬 合 様式 を有 す るも のに おい ても 同 様の 傾向 を 示 し た こ と か ら 、 従 来 報 告 さ れ て い た も の と は 異な り、 口 唇閉 鎖の 有無 の決 定 要因 は咬 合 よ り も 、 顎 顔 面 形 態 が 強 く 関 与 し て い る こ と が こ こ で も 強 く 示 唆 さ れ た 。 結論
口 唇 閉 鎖 の 有 無 の 決 定 要 因 と し て は 咬 合 状 態 より も、 顎 顔面 形態 が強 く関 与 し、 顎関 係 のH級 傾 向 、 オ ト ガ イ の 後 退 、 下 顔 面 高 が 長 い 場 合 に 口 唇 閉 鎖 の 不 全 が 生じ る こと が示 さ れた。
―422ー
学位論文審査の要旨
1
学位論文題名
Research on lip sealing ability and its relation to dento ―facialmorph010gy
(日常的な口唇閉鎖能カと顎顔面形態との関連性に関する研究)
審査は審査員全員出席の下で行った。まず 申請者に提出論文要旨の説明を求めるとと もに、適宜提出論文の内容と関連分野に関す る説明を求め、その後、口頭試問の形式で その 内容 およ び関 連分 野に っい て 試問 した 。まず申請者から以下の説明がなされ た。
[目的]口唇閉鎖が可能か否 かは歯軸傾斜や大きなoveret(0J)といった不正咬合に 関 連していると考えられている 。しかし、従来の研究においては関連する要因の中で不 正 咬合と顎顔面形態とが明確に は分けられておられず、口唇閉鎖不全とこれらの関連に は 不明な点が多い。近年、半田 等によって口唇の閉鎖状況を直接計測する装置が開発され、
日常環境を再現した条件下で の長時間の実験が可能になった。本研究では、口唇閉鎖 の 有無が顎顔面形態とどのよう な関連に有るかを明確にするために、個性正常咬合者お よ び各種咬合様式の者を対象に 実験を行った。
[ 資 料 と 方 法 ]30人 の 個性 正常 咬合 者( 男性16名 女性14名oJお よぴoVerbite(OB) は1〜3mm) 、お よび65名 の各 種咬 合様 式を 有す る者 (男性33名、女性32名OBは−0.1
〜613mm、OJは‐6.9〜7.2m弧)を対象とした。対象は実験の1〜12か月前に他目的で撮 影された側面セファログラム を有しており、資料とした。実験には半田等が開発した 口 唇 閉鎖 状態 連続 記録 装置 を用 い、 集中 時と りラ ック ス時を各15分間計測し、口唇閉鎖 時 間率 とし て算 出し た。 なお、集中時は100ます計算をコンピューター上で繰り返し行 わせ、リラックス時は音楽鑑 賞をさせることで再現した。一方、側面セファログラム か ら は 、 所 定 の 基 準 点 を 設定 し、 骨格 系29項目 、歯 系10項目 の計 測を 行っ た。 各 対象 から口唇閉鎖時間率をもとに 、クラスター分析を行い、側面セファロ分析の結果と比 較 した。
―423―
郎 孝
誠
一
順 保
田 若
橋
飯 八
舩
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
【結果]
(1)
クラスター分析の結果、口唇閉鎖時間率から個性正常者も各種咬合様式を有する者も
3
群に分かれた。(2)
この三群は閉鎖率において群間に有意な差があり、閉鎖率が高いCompetent群、低 い
Incompetent
群 、 中 間的 なPartially Competent
群 、 に分 類 さ れた 。(3)
個 性正常者も各種咬合様式を有する者もIncompetent
群に属する者は他の2
群に比 し て、
ANB
、NPog‑A
、ANS‑Me
/N‑Me
、NPog‑Ul
、NPog‑Ll
など で有意な 差があった。
[考察と結諭]個性正常咬合者にも口唇閉鎖困難な者がおり、顎関係のI級傾向、オト ガイの後退、下顔面高が長い、などの特徴を有していた。この傾向はOBやOJのレン ジが広い各種咬合様式を有する者でも同様に見られた。これより、顎顔面形態と口唇閉 鎖に密接な関連のあることが示唆された。
以上の論述に引き続き、以下の項目を中心に口頭試問を行った。
1
,口唇 閉鎖不全と 開咬、骨 格性下顎 前突との 関連につ いて2
. 本 結 果 か ら 考 え ら れ る 筋 機 能 療 法 の 意 義 に つ い て3
.矯正治療の治療方針の決定法に対する本結果の意義にっいて4.
本研究に関する動物実験の可能性にっいて5.
今後の研究の展開について本研究は、口腔、歯周組織の健康保持に臨床上重要と考えられている日常生活におけ る口唇閉鎖に関して、その不全が生じる要因を検討したもので、口唇閉鎖不全が生じる 素因としては、大きなoverjetなどの不正な咬合状態よりも、顎顔面骨格形態が大きく 関与していることを明らかにした。本研究で得られた成果は、矯正臨床において、最終 的な治療方針を決定する際に有用な、貴重な情報を提供しており、歯科医学の発展に寄 与すると,ころが大きい研究成果であると高く評価できる。加えて、試問に対する申請者 の回答は適切なものであり、本研究に直接関係する事項のみならず、関連分野における 基礎的、臨床的な広い学識を申請者が有していること、また本研究を発展させる将来の 展望にっいても評価された。よって審査担当者は、申請者が博士(歯学)の学位を授与 される資格を有するものと認めた。
―424ー