2016 年度青臨技細胞診精度管理報告書 細胞診精度管理委員 青森市民病院 八木橋祐弥 1. はじめに 乳腺穿刺吸引細胞診は簡便かつ低侵襲に実施可能であり,乳腺病変の診断には 欠かせない方法である.日常経験する可能性のある症例や良悪性の鑑別が問題と なる症例について,診断基準の確認を目的としてフォトサーベイを行った.なお,採取 方法はすべて穿刺吸引細胞診で,塗抹方法ははがし法(合わせ法)である. 2. 参加人数 17 施設,25 名. 3. 解答結果と設問解説 設問 1 59 歳,女性.C 領域に境界線の断裂を伴う 7mm の腫瘤. 選択肢 1.線維腺腫 2.乳管内乳頭腫 3.乳管癌 4.小葉癌 5.悪性リンパ腫 写真 1 写真 2 写真 3
組織所見(写真 4,5):異型上皮細胞が間質および脂肪組織に索状,管状に浸潤して おり,浸潤性乳管癌(硬癌)の所見である. 設問 2 78 歳,女性.左乳房上 C 領域の腫瘤 選択肢 1.線維腺腫 2.乳管内乳頭腫 3.乳管癌 4.小葉癌 5.悪性リンパ腫 写真 1 写真 2 写真 3 写真 4 写真 5 写真 6 写真 7 写真 8 (E-cadherin) 細胞所見(写真 1~5):脂肪細胞や分泌物様物質を背景に,異型上皮細胞の索状~ 胞巣状集塊がみられ,不整な重積性を示す.核は類円形~不整形で N/C 比は高く, ク ロ マ チ ン は 細 ~ 微 細 顆 粒 状 で 増 量 し て い る . 細 胞 質 内 小 腺 腔 ( ICL; intra-cytoplasmic lumina)が目立つ.索状集塊の辺縁は凹凸を示し,個々の細胞の接着性 は低下し,極性は乱れている.背景および集塊内には筋上皮細胞の介在は明らかで ない.4.小葉癌(浸潤性)が推定される所見である. 組織所見(写真 6~8):異型上皮細胞が間質および脂肪組織に索状,小胞巣状に浸 潤しており,個々の細胞接着性の低下が疑われる.免疫染色では E-cadherin 陰性で あり,浸潤性小葉癌の所見である.
設問 3 19 歳,女性. 右乳房 A 領域の腫瘤 選択肢 1.線維腺腫 2.乳管内乳頭腫 3.乳管癌 4.小葉癌 5.悪性リンパ腫 写真 1 写真 2 写真 3 写真 4 写真 5 写真 6 細胞所見(写真 1~5):多数の双極裸核,膠原線維様物質を背景に,乳管上皮細胞 のシート状~管状集塊がみられる.一部の集塊では核形不整がみられるが,配列は 平面的で,結合性の低下や不規則重積性は示さない.背景および集塊内には筋上 皮細胞の介在が明らかである.1.線維腺腫が推定される所見である. 組織所見(写真 6):筋上皮細胞との二相性を示す乳管上皮細胞が,類円形~樹枝状 の腺管を形成し増生している.腺管周囲には粘液腫状の間質組織が見られ,小型短 紡錘形の繊維芽細胞が増殖している.線維腺腫の所見である. 設問 4 42 歳,女性.乳腺腫瘤を自覚し受診.左 D 領域の辺縁不整な腫瘤 選択肢 1.線維腺腫 2.乳管内乳頭腫 3.乳管癌 4.小葉癌 5.悪性リンパ腫
写真 4 写真 5 写真 6 写真 7 細胞所見(写真 1~5):核偏在性の異型上皮細胞が孤立散在性~疎結合性集塊を 形成し出現している.核は類円形で大小不同性を示し,クロマチンは細顆粒状で増量 している.孤立性細胞が主体だが,一部にはシート状~腺腔様配列を伴う結合性の 強固な上皮性集塊がみられ(写真 4,5),筋上皮細胞は明らかでなく,carcinoma と考 えられる.クロマチン所見,細胞配列より 3.乳管癌が推定される所見である. 組織所見(写真 6,7):異型上皮細胞が間質および脂肪組織に索状,管状に浸潤して おり,浸潤性乳管癌(硬癌)の所見である. 設問 5 51 歳,女性.左乳腺腫瘍 選択肢 1.線維腺腫 2.葉状腫瘍 3.紡錘細胞癌 4.間質肉腫 5.癌肉腫 写真 1 写真 2 写真 3
写真 4 写真 5 写真 6 写真 7 写真 8 写真 9 細胞所見(写真 1~6):異型性に乏しい乳管上皮細胞が集塊状に,異型性を示す紡 錘形細胞が孤立散在性~集簇性に出現している.乳管上皮細胞の核は円~類円形 で,不規則重積性や結合性の低下はみられない.大型シート状~球状集塊が散見さ れ腺管の拡張が示唆される.一方,紡錘形細胞では,核の大小不同,核形不整,ク ロマチン増量などの核異型が高度で,nuclear mitosis も散見される.両者の細胞に移 行像は明らかでない.以上の所見より,2.葉状腫瘍(悪性)が推定される. 組織所見(写真 7~9): 乳管上皮細胞と間質細胞からなる上皮間質混合性腫瘍であ る.上皮細胞は軽度重積性を示すが,carcinoma とするほどの異型性は示さない.間 質細胞は密度高く増生し,核の大小不同,核形不整,クロマチン増量など高度異型 性を示す.Bizarre nuclei や大型細胞がみられ,nuclear mitosis は 10/10HPF 以上観 察される.悪性葉状腫瘍の所見である.
設問 6 55 歳,女性.右 AC 領域の腫瘍性病変
写真 4 写真 5 写真 6
写真 7 写真 8 写真 9
写真 10 写真 11 写真 12
写真 13 写真 14 (α-SMA) 写真 15 (p63)
細胞所見(写真 1~10):Foamy histiocyte を背景に,乳管上皮細胞の軽度重積性集 塊がみられ,多くの集塊ではアポクリン化生を伴っている.化生性変化を示さない乳 管上皮細胞の核は小型類円形で異型に乏しく,筋上皮細胞の介在が明らかである (写真 9,10).一方で,アポクリン化生細胞の核は腫大し大小不同性が目立ち,核小 体の腫大,クロマチン増量などの核異型がみられる(写真 5,6,8).Foamy histiocyte が みられ乳管内病変が示唆されること,アポクリン化生細胞と乳管上皮細胞との移行 像が観察される(写真 1)ことから,3.乳管腺腫が最も考えられる. 組織所見(写真 11~16):乳管上皮細胞が腺管状,索状に密度高く増生し,アポクリ ン化生と思われる好酸性細胞も混在している.概ね核異型は軽度だが,一部に大型 核もみられる.免疫染色では,筋上皮マーカーの alpha-smooth muscle actin,p63, calponin 陽性細胞が腺管を取り巻いており,筋上皮細胞との二相性が認められる.乳 管腺腫が最も考えられる所見である.
設問 7 75 歳,女性.右乳房の腫脹,疼痛,乳頭からの出血.
1.乳管内乳頭腫 2.乳頭部腺腫 3.Mucocele-like tumor 4.粘液癌 5.Solid papillary carcinoma
写真 1 写真 2 写真 3
写真 10 写真 11 写真 12 (CD56) 写真 13 (chromogranin) 写真 14 (synaptophysin) 細胞所見(写真 1~7):粘液様物質を背景に,異型上皮細胞が間質茎を伴う乳頭状 ~充実性の集塊(写真 1,4)で,偏在核を有する異型細胞が孤立散在性~疎結合性 集塊(写真 6)で出現している.乳頭状集塊の茎は細く血管様で,異型上皮細胞との 境界に筋上皮細胞は不明瞭である(写真 2).結合性の低下や不規則重積性がみら れる.核は円~類円形で,核形不整やクロマチン増量は軽度である.個々の細胞異 型は乏しいものの,出現パターンからは 5.Solid papillary carcinoma(endocrine DCIS) が示唆される所見である.
組織所見(写真 8~14):軽度核異型を示す乳管上皮細胞が乳管内に乳頭状あるい は充実性に増殖している.胞巣内の粘液産生像や充実性増殖巣中の偽ロゼット形成 がみられる.免疫染色では,CD56,chromogranin,synaptophysin が陽性であり,神経 内 分 泌 分 化 を 示 す . 明 ら か な 浸 潤 像 は 認 め ら れ ず , solid papillary carcinoma (endocrine DCIS)と考えられる. 4. 設問別正解率 設問 1 推定組織型 解答者数 解答率 1 線維腺腫 0 0% 2 乳管内乳頭腫 1 4% 3 乳管癌 23 92% 4 小葉癌 1 4% 5 悪性リンパ腫 0 0%
設問 2 推定組織型 解答者数 解答率 1 線維腺腫 0 0% 2 乳管内乳頭腫 1 4% 3 乳管癌 13 52% 4 小葉癌 11 44% 5 悪性リンパ腫 0 0% 設問 3 推定組織型 解答者数 解答率 1 線維腺腫 25 100% 2 乳管内乳頭腫 0 0% 3 乳管癌 0 0% 4 小葉癌 0 0% 5 悪性リンパ腫 0 0% 設問 4 推定組織型 解答者数 解答率 1 線維腺腫 0 0% 2 乳管内乳頭腫 0 0% 3 乳管癌 18 72% 4 小葉癌 7 28% 5 悪性リンパ腫 0 0% 設問 5 推定組織型 解答者数 解答率 1 線維腺腫 0 0%
推定組織型 解答者数 解答率 1 乳腺症 1 4% 2 乳頭部腺腫 0 0% 3 乳管腺腫 7 28% 4 通常型乳管癌 0 0% 5 アポクリン癌 17 68% 設問 7 推定組織型 解答者数 解答率 1 乳管内乳頭腫 2 8% 2 乳頭部腺腫 0 0% 3 Mucocele-like tumor 0 0% 4 粘液癌 4 16%
5 Solid papillary carcinoma 19 76%
5. 解答者別正解率 施設番号 設問1 設問2 設問3 設問4 設問5 設問6 設問7 解答者別 正解数 解答者別 正解率 001 3 4 1 3 2 5 5 6 86% 001 3 4 1 3 2 5 5 6 86% 001 3 3 1 3 2 5 1 4 57% 001 3 3 1 3 2 5 5 5 71% 005 3 3 1 4 2 3 5 5 71% 013 3 3 1 3 2 5 5 5 71% 026 3 4 1 3 2 3 5 7 100% 033 4 3 1 3 2 5 1 3 43% 034 3 3 1 3 2 3 5 6 86% 036 3 4 1 3 2 3 5 7 100% 043 3 3 1 3 2 1 4 4 57% 054 3 3 1 4 2 5 5 4 57% 066 3 3 1 3 2 5 5 5 71% 072 3 4 1 3 2 5 5 6 86% 072 3 3 1 4 2 5 5 4 57% 079 3 4 1 3 5 5 4 4 57% 079 3 4 1 3 2 5 5 6 86% 079 3 4 1 3 5 5 4 4 57% 089 3 4 1 4 2 3 5 6 86% 089 3 3 1 4 4 5 5 3 43% 089 3 3 1 4 2 3 5 5 71% 090 3 4 1 3 2 5 5 6 86% 091 3 3 1 3 2 3 5 6 86% 092 3 4 1 3 2 5 5 6 86% 141 2 2 1 4 2 5 4 2 29% 解答者数 25 25 25 25 25 25 25 平均71% 設問別正解数 23 11 25 18 22 7 19 設問別正解率 92% 44% 100% 72% 88% 28% 76%
6. 疾患解説 乳管腺腫について 乳管腺腫 ductal adenoma は 1984 年に提唱された疾患概念1)で,我が国では 2008 年乳癌取扱い規約第 16 版 2)に追加された良性腫瘍である.臨床的にも病理組織学 的にも癌と間違われやすい病変だが,細胞診では特にアポクリン癌と overdiagnosis されやすい病変である.乳管腺腫では,異型の強いアポクリン化生細胞が出現する こと,アポクリン化生細胞と良性乳管上皮細胞とが混在し移行像(隣接像)を示すこと などの所見に留意することが診断の手掛かりとなる3)-5).
Solid papillary carcinoma について
2012 年 WHO 分類第 4 版6)に追加された疾患概念で,papillary lesions 乳頭状病変
のカテゴリーに分類されている.弱拡大では充実性腫瘤にみえるが,強拡大では繊 細な血管結合組織芯を軸に偽ロゼット構造を示す.細胞質内外に粘液を有すること があり,しばしば神経内分泌分化を認めることがある.細胞診では,線維血管間質の 出現,筋上皮細胞を欠く乳頭状集塊,異型の弱い均一な核所見,粘液,結合性の弱 い集塊と孤立散在性細胞の出現などの特徴が報告されている 7).乳管内乳頭腫との 鑑別点としては,乳管内乳頭腫では結合性が良好で,筋上皮細胞を含む太い線維血 管間質を軸に乳頭状に増殖すること,背景に粘液は認めないことなどから鑑別される. 粘液癌との鑑別としては,粘液癌では腫瘍細胞が粘液内に包まれるように浮遊して 出現すること,粘液成分が上皮成分より優勢であることなどから区別される. 7. まとめ 乳腺腫瘍は組織型が多く,その病理組織像が多彩なことや,異型が弱い悪性腫瘍 や異型が強い良性病変(腫瘍)が存在することから,穿刺吸引細胞診での診断は難 しい.今年度のサーベイでは,基本的な乳腺細胞診の見方を確認するとともに,教育 症例的に良悪の鑑別が問題となる症例を出題した(設問 6,7). 解答者別正解率は 29~100%と解答者によりばらつきがみられた.要因としては,細 胞検査士資格の有無,経験年数,勤務施設での乳腺細胞診実施の有無などが考え られた. 設問別正解率は 28~100%と設問によりばらつきがみられた.設問 2 は小葉癌の症 例で正解率は 44%であったが,不正解者のほとんどは同じ悪性カテゴリーの乳管癌と
8. 参考文献
1) Azzopardi, J. G., Salm, R. Ductal adenoma of the breast: a lesion which can mimic carcinoma. J Pathol 1984 ; 144(1) : 15-23. 2) 日本乳癌学会編 乳癌取扱い規約 第 16 版. 東京 : 金原出版 ; 2008. 3) 伊藤仁, 宮嶋葉子, 加戸伸明, 芹澤昭彦, 町田知久, 梅村しのぶ, 長村義之. 乳 管腺腫の細胞学的検討.日臨細胞誌 2009 ; 48(5) : 257-262. 4) 堀井理絵, 秋山太, 岩瀬拓士, 西村誠一郎, 池永素子, 霞富士雄, 坂本吾偉. 細 胞診でアポクリン癌との鑑別が問題となった ductal adenoma の 1 例. 乳癌の臨床 2004 ; 19(3) : 249-253. 5) 久木田妙子, 大井恭代, 雷哲明, 高濱哲也, 相良吉厚. 穿刺吸引細胞診におけ る乳腺 ductal adenoma 3 症例の細胞像 –組織像との比較-. 乳癌の臨床 2004 ; 19(4) : 391-395.
6) Lakhani, S. R., Ellis, I. O., Schnitt, S. J., Tan, P. H.., van de Vijver, M. J., eds. World Health Organization Classification of Tumours of the Breast, 4th Edition. Lyon :
IARC Press ; 2012. 108-110.
7) 石原未美佐, 粟田千絵, 西田稔, 真鍋美香, 中元理絵, 毛利衣子, 橋本公夫. 乳 腺充実乳頭癌の細胞学的特徴, 乳管内乳頭癌との鑑別は可能か. 日臨細胞誌 2012;53(4):271-279.