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東医大誌 75(1): 74
-77, 2017
ミニレビュー
神経科学ハイライト
1 No. 1
血液脳関門におけるコリントランスポーターの機 能発現
Functional expression of choline transporters in blood
-brain barrier
東京医科大学精神医学分野 : 岩尾 紅子 東京医科大学医学総合研究所 : 稲津 正人 Department of Psychiatry, Tokyo Medical University :
Beniko IWAO Institute of Medical Science, Tokyo Medical University :
Masato INAZU キーワード : 血液脳関門、コリン、トランスポー
ター、アセチルコリン
1. は じ め に
血液脳関門は、循環血中の物質の脳内への移行を 制限する機能を有し、グルコースやアミノ酸などの 脳における神経活動に必要な栄養素を選択的に輸送 する。また、薬物や毒物などの外因性物質の脳内輸 送にも関与している。血液脳関門は解剖学的には、
微小脳血管内皮細胞、アストロサイトおよび周皮細 胞で構成され、微小脳血管内皮細胞が密着結合(tight junctions)によって互いに結合することによって細 胞間の拡散が制限される
1)。その結果、循環血中の 物質が脳へ移行するためには内皮細胞を経細胞的に 透過する必要がある。水溶性の高い物質はこの関門 を透過し難いが、微小脳血管内皮細胞に発現してい る多くの SLC (solute carrier transporter)トランスポー ターによって、栄養素(グルコース、アミノ酸、ヌ クレオチドなど)などは選択的に血液脳関門を透過 する。また、微小脳血管内皮細胞に発現する ABC
(ATP
-binding cassette transporter)トランスポーター は、内皮細胞内に入った毒物や薬物を血中へ排出す ることにより脳内への移行を防ぐ役割を担ってい る。このように、血液脳関門に発現するトランスポー ターは、物質の脳内輸送を制限するゲートキーパー 的な役割を担う分子で、物質選択性をもったセキュ
リティシステムの役目を果たしている。本稿では、
神経伝達物質アセチルコリンの前駆体であるコリン を輸送するコリントランスポーターの血液脳関門に おける機能発現および中枢神経系における役割につ いて概説する。
2. 中枢神経系におけるコリンの役割 コリンは、全ての細胞にとって重要な役割を果た す必須栄養素の一つであり、生理学上の 3 つの重要 な役割を演じており、生体にとって必要な分子へと 代謝され様々な生理機能に関与している。コリンの 代謝系は、細胞膜の主要な構成成分であるホスファ チジルコリンやスフィンゴミエリンの合成、神経伝 達物質のアセチルコリンの合成およびメチル基供与 体の S
-アデノシルメチオニンの合成に関与してい る。中枢神経系においてコリンはアセチルコリンの 前駆体として利用され、コリン作動性神経活動に関 与している。脳の前脳基底部にあるコリン作動性神 経は、大脳皮質の広範な領域に投射し、感覚・認知、
運動、記憶・学習など様々な高次脳機能に関与する ことが知られている。中枢神経系におけるコリン欠 乏状態では、海馬のアセチルコリン遊離減少、記憶 力、記憶保持能力および空間認知機能が低下するこ とが報告されている
2-4)。また、アルツハイマー型 認知症患者の脳では、大脳皮質のコリン作動性神経 の起始核である Meynert 核で大型神経細胞の脱落が 顕著であり、脳内コリン作動性神経の機能低下が本 質的な病態であるとされている
5)。従って、中枢神 経系にとって血液脳関門におけるコリントランス ポーターは、脳高次機能の維持に関与する重要な機 能であると言える。
3. 微小脳血管内皮細胞に機能発現する コリントランスポーター
コリンを細胞内に輸送することが知られているコ
リントランスポーターは、 3 つのグループに分類さ
れ、コリンに特異的なトランスポーターとして、高
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年1
月( ) 親和性のコリントランスポーターである high-affi n- ity choline transporter 1 (CHT1)、中間的な親和性を 有する choline transporter
-like proteins (CTL1
-CTL5)
お よ び コ リ ン に 対 す る 親 和 性 と 特 異 性 が 低 い organic cation transporters (OCT1, OCT2)である。そ れぞれのトランスポーターは、組織分布、コリンと の親和性、コリンアナログでコリン取り込み阻害剤 である hemicholinium-3 の感受性、ナトリウム依存 性、基質特異性などが異なる特性を有している
6)。
以前より、血液脳関門におけるコリン輸送に関す る研究は数多くなされており、微小脳血管内皮細胞 におけるコリン輸送は Na+非依存性、膜電位依存性 でコリンに対して中間的な親和性を示す取り込み機 構で、さらに、 CHT1 や OCTs ではないトランスポー ターを介していると報告され、分子的実体は不明で あった
7-10)。最近我々は、微小脳血管内皮細胞に発 現するコリントランスポーターを同定し、その機能 解析を行い世界に先駆けて血液脳関門におけるコリ ン輸送機構を解明した
11)。正常ヒト微小脳血管内皮 細胞の初代培養細胞およびヒト大脳皮質組織切片を 用いてコリントランスポーターの発現解析を行った 結果、CTL1 および CTL2 の 2 つのコリントランス ポーターが主に血管内皮細胞に発現していることを
同定した。これらのトランスポーターは、細胞膜上 に局在し、さらに、CTL2 はミトコンドリアにも存 在していることを見出した。よって、血液脳関門の 微小脳血管内皮細胞へのコリン取り込みは、CTL1 および CTL2 の 2 つのトランスポーターによって行 われている可能性が示唆された。そこで、正常ヒト 微小脳血管内皮細胞におけるコリン取り込みの機能 解析を行った結果、Na
+非依存性および電位依存性 の取り込み作用を示した。kinetics 解析より、中間 的親和性(35.0 µM)と低親和性(54.1 µM)の 2 つ の取り込み機構の存在が明らかとなった。これまで の我々の研究より、中間的親和性のコリン輸送は CTL1 で低親和性のコリン輸送は CTL2 であると結 論された(図 1)。血液脳関門に親和性の異なる 2 つのトランスポーターが発現していることにより、
一方のトランスポーターの機能不全が起きても、他 方のトランスポーターが代償的に機能することで脳 内のコリン濃度を一定に保つ役割があると考えられ る。生理的なコリンの血中濃度は 10〜20 µM であり、
中間的親和性の CTL1 が主要なコリン輸送を担うト ランスポーターであると思われる。一方、低親和性 の CTL2 は微小脳血管内皮細胞に取り込まれて高濃 度になったコリンを脳側に排出するトランスポー
2
CTL1
Brain
CTL2
Choline
Phospholipids synthesis Phospholipids synthesis
•
Phospholipids synthesis Phospholipids synthesis Phospholipids synthesis Phospholipids synthesis Component Phospholipids synthesis Phospholipids synthesis
Component Component of the cell Component Component Component Component of the cell of the cell membrane, such of the cell of the cell membrane, such membrane, such as membrane, such membrane, such membrane, such membrane, such as as phosphatidylcholine
Mitochondria
SSS- SS- S-
S
Adenosylmethionine Adenosylmethionine synthesis
SSAdenosylmethionine
•
Adenosylmethionine Adenosylmethionine Adenosylmethionine Adenosylmethionine
DNAAdenosylmethionine
DNA DNA and
Adenosylmethionine Adenosylmethionine
and
and histone
synthesis synthesis Adenosylmethionine Adenosylmethionine
histone histone methylationHuman Brain
Human Brain Microvascular Microvascular Microvascular Microvascular Microvascular Endothelial Endothelial Endothelial Endothelial
Cells H
+CTL1
BLOOD-BRAIN BARRIER BBB
Astrocyte
CTL1
Neuron CHT1
Acetylcholine synthesis
• Neurotransmitter
• Sustain cholinergic neurons
Choline
H
+CTL2
H
+CTL2
Intermediate-
affinity Low-
affinity
Blood
Brain
High-affinity
図
1 中枢神経系に機能発現するコリントランスポーター
微小脳血管内皮細胞には中間的親和性の
CTL1
および低親和性のCTL2
を介して循環血液中のコリンを取り込んで いる。微小脳血管内皮細胞に取り込まれ濃縮されたコリンは低親和性のCTL2
を介して脳側に排出される。アスト ロサイトや神経細胞にもCTL1
が機能発現し、脳間質液中のコリンを取り込んでいる。コリン作動性神経終末には 高親和性のCTH1
が発現しアセチルコリン合成に必要なコリンを取り込み神経活動を維持している。東 京 医 科 大 学 雑 誌
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巻 第1
号( ) タ ー と し て 機 能 し て い る と 推 察 さ れ る。 ま た、
CTL2 はミトコンドリアに高発現しており、その役 割として、コリンの代謝経路である酸化経路に関与 していると考えられる。コリンが酸化反応によりベ タインに合成されるのに必要なコリンオキシダーゼ はミトコンドリア内に局在していることから、ミト コンドリア内へのコリン輸送を担っていると思われ る。ベタインから合成される S
-アデノシルメチオ ニンは、DNA やヒストンのメチル化に関与し、エ ピジェネティクス制御に重要な分子である。した がって、CTL2 機能がエピジェネティクスに関与し ている可能性があり、その役割が解明されることが 期待される。
4. 薬物トランスポーターとしての役割 コリンは生理的環境下ではプラスチャージを有す るカチオン系物質として存在する。したがって、コ リン輸送はカチオン系の化合物により競合的に阻害 されることが予想される。ヒト微小脳血管内皮細胞 を用いて、カチオン系化合物の取り込み阻害につい ての影響を調べた結果、濃度依存的にコリンの取り 込みが抑制された。これらの化合物の中には、抗う つ薬などの薬物も含まれるため、カチオン系薬物の コリン輸送阻害によるコリン欠乏が懸念される。ま た、これらのカチオン系薬物は、コリントランスポー ターの輸送基質として認識される可能性も考えら れ、薬物輸送に関与しているかもしれない。血液脳 関門において、カチオン系薬物を輸送するトランス ポーターは未だ解明されていない。今後、微小脳血 管内皮細胞に機能発現する CTL1 および CTL2 の薬 物トランスポーターとしての研究も必要であると思 われる。
5. 中枢神経系における コリントランスポーターの役割
中枢神経系において、CTL1 は神経細胞およびア ストロサイトにも機能発現していることが報告され ている
12)13)(図 1 )。コリン作動性神経には、高親和 性コリントランスポーターの CHT1 がアセチルコリ ン合成にリンクしていることが報告されている
14)。 同じく神経細胞に発現している CTL1 は主に細胞膜 のリン脂質合成にリンクしていると考えられてお り、両トランスポーターは異なる役割を担っている と考えられる。しかしながら、CHT1 ノックアウト
マウスの脳内アセチルコリン濃度は野生型マウスと 差が認められなかったことより、CTL1 がアセチル コリン合成に必要なコリンを輸送した可能性があ る
15)。我々は、神経芽細胞腫細胞を用いて、CTL1 を介して取り込まれたコリンがアセチルコリン合成 に利用されることを明らかにした
16)。これらの知見 は、正常時にアセチルコリン合成に必要なコリンを 輸送する高親和性の CHT1 が機能破綻する病態時に は CTL1 が代償的にコリン輸送を担う可能性を示唆 している。例えば、脳虚血などの病態時には、エネ ルギー産生が低下し神経の ATP 含量が低下すると Na+/K
+ ATPase 活性が低下し Na
+が細胞内に蓄積し Na+の濃度勾配が低下する。この様な状況では Na+
依存性の CHT1 の機能が低下することが考えられ る。一方、 CTL1 は Na+ 非依存性のトランスポーター であるため、CHT1 の機能を代償することが可能で ある。よって、脳虚血などの病態時における CTL1 の役割を明らかにすることにより、新たな治療戦略 が見出せる可能性がある。アストロサイトに発現す る CTL1 は、アストロサイトの分化・増殖に関与し ていることが推察されるが、未だ詳細は不明である。
の濃度勾配が低下する。この様な状況では Na+
依存性の CHT1 の機能が低下することが考えられ る。一方、 CTL1 は Na+ 非依存性のトランスポーター であるため、CHT1 の機能を代償することが可能で ある。よって、脳虚血などの病態時における CTL1 の役割を明らかにすることにより、新たな治療戦略 が見出せる可能性がある。アストロサイトに発現す る CTL1 は、アストロサイトの分化・増殖に関与し ていることが推察されるが、未だ詳細は不明である。
非依存性のトランスポーター であるため、CHT1 の機能を代償することが可能で ある。よって、脳虚血などの病態時における CTL1 の役割を明らかにすることにより、新たな治療戦略 が見出せる可能性がある。アストロサイトに発現す る CTL1 は、アストロサイトの分化・増殖に関与し ていることが推察されるが、未だ詳細は不明である。
今後、血液脳関門のコリン輸送に関与する CTL1 および CTL2 の薬物トランスポーターとしての可能 性や、コリン作動性神経が関与するアルツハイマー 型認知症などの脳疾患における役割などの解明に繋 がることを期待したい。
COI 申告の開示
本論文発表内容に関連して著者に開示すべき COI はありません。
文 献
1) Abbott NJ : Blood
-brain barrier structure and func- tion and the challenges for CNS drug delivery. J Inherit Metab Dis 36 : 437
-449, 2013
2) Nakamura A, Suzuki Y, Umegaki H, Ikari H, Tajima T, Endo H, Iguchi A : Dietary restriction of choline reduces hippocampal acetylcholine release in rats : in vivo microdialysis study. Brain Res Bull 56 : 593
-597, 2001
3) Zeisel SH : Gene response elements, genetic poly- morphisms and epigenetics influence the human dietary requirement for choline. IUBMB Life 59 : 380
-387, 2007
4) Zeisel SH, Blusztajn JK : Choline and human nutri- tion. Annu Rev Nutr 14 : 269
-296, 1994
5) Bartus RT : On neurodegenerative diseases, models,
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神経科学ハイライト ─