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膵臓の神経分布・特に求心性神経支配について

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346 金沢大学十全医学会雑誌 第67巻 第3号 346−364 (1961)

膵臓の神経分布・特に求心性神経支配について

金沢大学医学部第二病理学教室(主任:石川大刀雄教授)

     神  代  雪  子

       (昭和35年5月16日受付)

 内臓の神経分布に関する解剖学・組織学的研究業績 は甚だ多い.また一方,生理学的な実験を基礎とし て,内臓に対する神経の機能的な関与についてもかな り詳しく検索されているが,臓器組織に対する神経支 配の姿をよりょく把握するためには,前記の二つの立 場を包含した臓器の機能に立脚しての形態学的な検 索,即ち機能病理学的・病態生理学的な方向よりの追 求が必要となるであろう.

 私共の多年にわたり生体における神経的調節につい て,多方面より研究が続けられている.この間にあっ て私は膵臓に対する神経分布の検索を分担した.そこ ではまず,膵の基本構築に即して神経分布をしらべ,

特に潤管掌及びラ氏島に焦点をおいて観察をすすめ た,つぎに脊髄神経節及び迷走神経の侵襲に伴う膵有 髄神経変性像を示標とし,或いは病理組織学的に観察 して,膵臓知覚系の支配分布を解析した.これは内臓 知覚二重支配則に形態学的な裏付けを与えると共に,

教室の内臓皮膚反射研究の基礎実験として有する意義 が大きいと思われる.

1.膵臓の神経分布について,特に潤管部を焦点に   おいての観察

 膵の神経染色標本を検索すると,既に弱拡大で小葉 間の結合織や血管周囲に粗大な神経線維束や小さな神 経節が認められ,膵がかなり豊富な神経要素支の配を うけていることがうかがわれる.しかし外分泌部及び 内分泌部の微細神経成分の追究は必ずしも容易ではな い.特に膵の腺細胞間の結合織成分の乏しい部位では 神経成分の鍍銀はかなり困難である.私は鍍銀法とし てはBielschowsky一鈴木法を用いたが,後述のように 鍍銀操作前にアルコール浸:漬処置を行うことによっ て,かなり良好な染色成績を得ることが出来た. 箏  膵を支配する神経は血管と共に,或いはそれと無関 係に小葉間の結合織に進入する.それは多数の無髄線 維と少数の有髄線維よりなり,二二に3種の神経叢を

形成する.即ち血管周囲,空房周囲及び島周囲神経叢 を分類出来る.この分類は既にPe∬sa(1905), de Castro(1923),Pines&Toropowa(1930), Honjia

(1956)等によりなされている.これらの神経叢を中 心に末梢に行く微細神経が追求され得るが,私は膵の 基本構築に即して,その機能的意義を考察しつつ神経 分布を観察した.

 膵の解剖学的単位として,石川・村沢によって所謂 Pancreaton が想定されている.外分泌部は一般腺 臓器と同様に腺房と導管より成立っているが,その両 者に介在して所謂「潤管部」が存在する.下屋部の病 態生理学的意義に関しては既に石川教授及びその門下 が諸臓器について詳しく検索し,その重要性を実証し ているところである.腺管系に平行して血管が走り,

それに沿って神経系統を見出し得るが,腺管潤細部を 中心として,これら上皮・血管・神経諸因子が形態学 的にも機能的にも緊密な関係をもち,諸因子が協同し て一個の特殊機構,即ちComplex neufo−angio−epi・

thelialeを形成するにいたる.つぎに内分泌系に属す るラ氏島は発生学的には腺潤管部の高再生能に基き,

その壁より分芽孤立したものと考えられ,上皮・血管

・神経諸因子よりなる特殊機構を有している,これを 石川はCompl雌neuro−angio−insulairesと呼んでい

る.

 このように膵の基本構造及びその機能,特にその潤 管部の性格を顧慮した場合,この部に分布する神経成 分の有する意義がきわめて大きいことが理解される,

 私は主としてイス・少数のネコ・廿日鼠について膵 の微細神経分布をしらべ,神経支配の面より,さきに 石川・村沢が見出した膵潤始部に機能的意義の再確認 乃至裏付けを企図したのである.

実験材料と方法

 実験に使用した動物は体重8kg以上の健康イヌ,

体重1kg以上のネコ,体重20gの成熟廿日鼠であ  On the Nerve SupPly of Pancreas, Especially on the Centripetal Nerve. Yukliko Jilldai,

Department of Pathology(Director:Prof. T. Ishikawa), School of Medicine, University of Kanazawa!

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る.イヌ・ネコはイソミタール酔後出血死させ,廿日 鼠は断頭死させた.死後瞬時を争って膵を出出し,直 に小切片(i×1・5×0・5cm程度)にして,20%中性 ホルマリン液に投入,3週乃至1ケ月間固定した.固 定液量は材料体積の約50倍以上を必要とする.染色結 果の良否は材料固定の瞬間に決定し,材料の新鮮さと 充分な固定液量が必須条件である.

 神経線維の染色は以下の2法によった.

 (a)Bielschowsky一鈴木八面鍍銀法,鈴木氏原法 にしたがうと膵全体が黒出して,神経線維と他の組織 との鑑別が困難iなので,アルコール浸漬を行って良好 な結果を得た.即ち凍結切片を80〜90%アルコールに 入れ,2時間〜8日間おく.この時間は材料により一

定しない.

 (b) 巣鴨氏髄鞘染色法.20晒の厚さの凍結切片を 原油により染色した.

実験成績と考察  (1)外分泌部の神経分布

 i)腺房=面内における神経に.〉数の有髄神経と多 数の無髄神経とが混合した神経束を形成して,小葉間 結合織から腺血忌結合織へと,主として血管系に伴行 しつつ次第に分岐して末梢にいたる.図1は小葉間結 合織内の小動脈に伴行した無髄神経束が血管より分離

して実質内へ行き,次4と分枝してゆく状態を示して いる.その一部の分枝は面輔間細動脈に接して細い無 髄線維よりなる血管周囲神経叢の形成にあずかる.腺 房間における血管周囲神経叢の腺房細胞に対する神経 支配については図2より或程度明らかとなる.幾本も の細かい無髄神経が血管外膜に纏絡し,所謂前終末網 の形成に関与し,またそれから分れた一部は腺房細胞 基底膜に沿って走り,実質細胞と密接な関係を有して いるらしい.腺房細胞に対する神経成分の関与につい ては,Caja1&Sala(1891), Mu11er(1892), Monti

(1898),Pensa(1905)等は腺房周囲に神経叢を見出 し, de Castro(1923), Pines&Toropowa(1930)

及び:Kubo(1934)はそれを精査して,腺細胞の基礎 膜下に遊離状,点状,コルベン状に終止する無髄線維 を認めている.これに対しHonjin(1956)は多数の 無髄線維と少数の有髄線維よりなる腺房周囲神経叢を 認めているが,無髄線維の遊離終末は否定した.Ha・

gen(1956)は山房細胞の外側に植物神経の最終末流 を認めているが,それは所謂Terminalretikulumに 移行するものとしている.

 私の観察所見では,細血管或いは腺房間結合織に伴 って腺房の基底膜下に達した無髄神経は腺細胞の外側

に接して微細な神経網を展開してベール状に腺房を包 んでいるものと判断される.

 ii)導管:導管(排泄管)をとりかこむ神経の大部 分は無髄線維であるが,一部やや細径の有髄線維の混 在を証明しうる.図3は小葉間結合織中を走るやや直 径の導管壁へ侵入する1本の有髄線維を示す.しかし その終末の形態はここでは明らかでない.

 Pines&Toropowaは導管周囲に有髄及び無髄線 維よりなる神経叢を証明したが,前者は白壁の周囲に 樹枝状の終末を形成し,後者は上皮細胞基面膜に接し て点状に終るかまたは上皮細胞間に侵入するとしてい る.一方,Honjin(1956), Hagen(1956)は管周囲 に無髄神経性終末網を見出し,遊離終末は存在しない としている.

 導管が次第に末梢に移行するとともに神経分布の様 相も漸次変化する.図4では腺房間血管周囲神経叢よ り発した面白もの繊細な無髄線維が腺房間隙を迂曲し ながら小さな排泄管周囲に達し,これに接して終末網 を形成している.

 iii)潤面部:奪管が次第に末梢に進み,腺房に移行 する部分に,私共の注目する潤管部が存在する,石川

・村沢によればその潤管部のうち,腺房に接する膵小 管の開始部に近いところは吸収が行われ(潤管部1),

それに引続いた膵小管部では主として排泄が行われる

(流管部皿).かかる部位を取囲んで強力に発達した神 経叢を認めることが出来る.

 潤管部周囲の豊富な無髄神経は潤遠心とくに潤管部 工の上皮成分に密に纏絡を示し,Schwann細胞も介 在して極めて繊細な終末網を形成している(図5,6).

図5では潤管部壁に並存しつつ末梢に進み,ラ氏島内 に侵入する無髄線維束が示される.島内にのびる線維 は島上皮細胞間に消失している.同様に図6は血管部 に纒絡する神経束がラ氏島周辺部までのび,ここでラ 氏島周囲神経叢の形成に与り,そこから数本の無髄線 維が島内に向っている,潤管部外壁に接してIntersti・

tielle Ze11en(Caja1)が存在し,この細胞は繊細な神 経網と所謂Leitplasmodiumを形成している.

 直管部1につづくやや大忌の導管は血管壷皿に相当 するが,この部に対する神経支配については図7,8の 所見をあげねばならない.やや大径の腺管周囲に少量 の結合織及び細血管があり,有髄線維を含むやや大き な神経線維束が線管系と血管系を山けいするように走 行している.

 以上のように腺管系潤管部は神経線維の分布が著明 で,このことは吸収・排泄をはじめ潤管部がもつ種4 の特性に対し深い意義があるといえよう.

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348

 血管部上間には屡々上皮由来性の明細胞が出現し,

これが増殖分射して粘膜下層に集団し,更に孤在す る.これはFeyrterあるいは石川等のいうdiffuse endocrine epitheliale Ofganeに相当するが,石川に よればこれらの潤細部由来上皮が何等かの刺戟によっ て神経成分の密接な連絡(誘導)のもとにラ氏島へと 変化発展するという.とすると爆管部は外分泌腺とじ ての特殊機能のほかに,内分泌腺発生の母地としての 機能をもつわけであるが,私の検索でもこの部に分布 する豊富な:神経成分はそのまま延長してラ氏島内へ進 入する像が多く証明された.即ちラ血紅と腺管系潤管 部は神経支配の面からも極めて密接な関係にある.

 iv)知覚神経と知覚小体・

 膵内にはかなり豊富に有髄性知覚線維が存在し,そ の終末形に関しても従来より多くの報告がある.例え ばde CastfO(1923)は主に大血管,時には細血管や 毛細血管壁に終末形を証明し,Pines&Toropowa

(1930)は腺房間及び小葉間結合織において棍棒状あ るいは樹枝状の知覚終末を確認した.瀬戸(1953)は 入胎児膵の間質結合織内に単純性遊離終末を染め出 し,形態学的には知覚性であるが,しかしそれは自律 神経とは明輝に区別されるべきものとした.

 その他,膵には特殊の知覚装置の存在が多くの人に よって報告された.即ち,Vater−Pacini小体が種々 の動物特に猫・入の膵に豊富に見出されている.

 私が髄鞘染色法(巣鴨法)を伴用して検索した結果 は図9−12のようである.図9は腺房間4質を潤間部 1に沿って走る1本の有髄神経を示している.その近 労にはラ氏島が見られ,有髄線維は腺管系のかなり末 梢にまで至っていることがわかる.図10では腺房間の 小動脈壁に達した知覚神経が小膨隆を形成して血管外 膜に終末している.図11では腺房間を迂曲しつつ走る 有髄神経が非分岐性の遊離終末を形成して腺細胞間に 尖鋭に終っている.図12は犬に証明された小葉間に質 動脈壁附近のVatter−Pacini小体である.膵独自の血 行調節機構として,その機能的意義が注目される.

 (2) 内分泌の神経分布

 ラ墨壷の神経が外分泌系蛇管部の神経と関連性を有 することは前述の通りである,ラ麹室周囲には屡々か なり大きい神経叢即ち島周囲神経叢が存在する.これ は血管周囲神経叢及び小葉間神経叢と連絡し,ここを 出る神経線維は島周囲に沿って走り・ζれを包囲し,

また一部血管とともにかあるいは別個に島内に進入し て分岐し,島細胞に終っている.図13は島周囲神経叢i を示す.ラ氏島の血管進入部執念は最も神経密度が濃 厚である.この部は村沢のいうRand−hilusに相当す

る部位で,ここでは2〜3条の有髄歯経に多数の無髄 線維が加わり,ラ氏島をかこむように走り,一部の無 髄神経は毛細血管にともなって島内に入り,毛細管内 皮細胞に分布する.また血管と無関係に島に入り,そ の中心に向って走る一本の有髄神経及びこれにともな

う少数の無髄神経が認められる.

 ラ野島周囲神経叢の出現にも動物差があり廿日鼠で は比較的高い頻度で見出される.本陣によれば島周囲 神経叢は少数の有髄神経と多数の無髄線維より構成さ れ,前者は島周囲神経節細胞の節前線維と知覚神経で あり,後者は島の神経終末網と合体結合している遠心 性線維である.また島周囲神経叢にある神経節細胞の 突起も島内に入りこみ,島内植物神経性終末網に加わ っている.Simard(1937)はう氏島の内部及び近勇に おける神経節細胞はじめ多くの神経成分の出現に注目

し,ラ氏島細胞と神経成分の組織学的近縁性を強調し て,両者の機能的関係をComplex neuro−insulaires と表現した.

 図14はラ氏島型録に存在する小神経節であるが,大 きな円形核をもつ骨質銀性の神経節細胞が集まり,こ れを多くの有髄,無髄の線維が包囲している,ラ氏島 内に分布する無髄神経は,これら島周囲神経叢より発 するかあるいは図15に見るように導管部周囲の神経と 直接連絡している.これらは一部で植物神経系の終末 網を形成し,シナプス的伝達に関与している.この神 経細線維網に介在してInterstitielle Zellenを証明し 得る.図16はラ氏島に入る有髄神経を示している.こ れは島中央部の血管壁内皮細胞に到達している.この 部は村沢のいうZentra1−hilusに相当するもので,島 内細血管の分岐部にあたり,神経はこの部における血 行調節に関与しているものと考えられる.同様に図17 は有髄,無髄の神経線維束が島周囲を走り,島内へ進 入する像を示している.

 ラ早島に分布する血管系についてみると,通常1本 の輸入細血管が葉間動脈叢よりラ氏島内に入り,中央 部に至って数本の静脈性毛細管に分岐し,一つの血管 傘を形成しているとされている.ここでこの血管のラ 油島進入部及び中央における分岐部がラ姫島の血行調 節上大き意義をもつものとして,村沢は前者をRand・

hilus,後者をZentra1−hilusと呼んだ.私の神経染色 所見もHi1USの部における神経線維の比較的豊富な 纏絡や,その間のInterstitille Ze11enの介在を証明 し,またこの部の血管壁細胞も膨化・発達し,神経一 血管の密接な関連性を示唆して)る.特に有髄神経系 が血管系にともなって走り,.一心部(Zentral−hilus)

の部位まで追跡し得ることは血裾反射による血行調節

(4)

への関与を期待させるものである.

  (3)Cholinestefase所見との対比

  神経組織申に豊富に含まれるCholinesterase(以下 ChEと略記)を組織化学的に染めることにより,膵 に対する神経組成の関与を更に明瞭に提示できること がわかった.そこで私は教室の佐野がKoelle法で染 めた膵標本を観察し,神経染色標本と対比しながら膵 の神経支配の様相について考察を加えることにした.

  図18では小葉間結合織中を走る大小の神経束が強く 染まり,それが分岐をくりかえしつつ末梢に進んで小 葉内に入り,腺房間で細かい網工を形成する像を追跡 できる.また小葉間結合織にはかなり大きな円形の神 経節が存在し,そのChE活性は強い.図19は腺房間 に分布する種々の径のChE陽性の線維様物を示して いるが,これらは互に分岐・吻合して複雑な走行を示 している.その経過中には処々に膨隆した楕円形の細 胞形態を認め得るが,これは神経伝導に関係の深い Interstitielle ZellenまたはSchwann細胞に属する ものと判断される.これらの像は鍍銀標本で見られた 神経分布に比較してかなり異なった点がある.即ち ChE染色で得られる線維用物質はまず殆んど神経線 一一維と判断できるが,それ以外に神経と密接な関係にあ

る間葉性成分,例えばInterstitielle Zellenその他の 液性伝達に関連した諸物質も陽性に染め出される.

 つぎに潤管部またはう氏島におけるChE染色所見 を観察すると,図20では大きな神経束から分れた数本 の線維が潤始部上皮に密にからまって細かい網目に移 行しつつ経過する像が見られる.その中にはIntersti・

telle Zellenと判断される細胞の介在が証明される.

一方,これに近接してラ南島が存在するが,これに対 して数方向から神経線維が進入し,島内で抽出をつく る.図21,22にも,ラ氏島内に微細な陽性穎粒が細か い網工を形成し,糸毬状となっている像が示されてい

 る.

  さきにHonjin(1956)はう雲雨の神経分布に関し て模型図1を呈示した,これには島周囲神経叢,島周 囲神経節および島内・島周囲終末網の分布関係が明快

に説明されているが,私の得たChE染色標本ではこ れらの神経組成が一枚の標本で綜合的に染め出されて おり,その像はこの模型図と良い一致を示した.

小 潮

 膵の機能病理学的立場より膵潤管部を観察すると と,この部に比較的著R腎に神経線維の分布を認め,ま たその間に少数の離心細胞および終末網に接して Schwann細胞乃至介在細胞の存在を証明できた.

模式図1 ラ氏島の神経分布 (本陣)

 潤乙部に沿う少数の有髄神経は主として知覚に関与 するもめと判断された,即ち有髄性知覚神経は少なく とも潤愚身工,さらにはラ氏島内などかなり末梢まで 到達している.

 つぎにラ出島に対する神経支配を注目すると,島周 囲にはかなり大きな神経叢が存在するが,これと血管 周囲あるいは腺管系潤管部周囲の神経との関連性を証 明できる.とくに潤管出精経との連けいは有意義と考 えられる.潤管部周囲の無髄神経網あるいは有髄線維 はそのまま延長してラ氏島周囲に達し,さらに一部は 島内に進入している.これはう氏島発生に関する従来 の諸説のうち,神経性誘導のもとに潤管部上皮の分芽 増殖によってラ氏島細胞集団が形成されたとする見解 に対して支持を与えるものであろう.

 ラ氏島機能から眺めた場合,神経成分はその血行調 節及び内分泌機能の統御に役割を有すると考えられ る.即ち,ラ氏島血管の進入部及び分岐部にあたる Rand−hilus, Zentral−hilusに相当して豊富な神経線維 とくに有髄線維の分布を証明し得ることは,この部に おける血行調節に対する知覚反射路の関与を語物るも のであろう.また無髄線維の細かい網目が島細胞に密 にからまる終末網を形成しでいるが,これは島細胞の 内分泌能の統御に関係するものと判断できる.

 潤管部及びラ氏島をはじめ膵組織において神経因子 の関与が著明であることはChE染色標本を観察する と一層明らかである.

 以上,私の得た成績から膵の構造単位である「Pan・

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350

模式図2 「Pancreaton」の神経支配  腺 房

潤二部1

三管部II

!:覆.

レ:ノ!

 「

ラ氏島

源・・

.・

スi饗二

僻霧7

コー一一有髄神経

}●……. ウ髄神経

creaton」に対する神経分布の様相を模式化すると,

模式図2のようになる.

II.脊髄神経節並びに迷走神経侵襲による膵知覚系   の解析

 膵知覚に関与する神経は交感性及び副交感性の二種 のものがあり,前者は胸・腰髄後根神経由来であり,

後者は主として迷走神経由来と判断されている.この 問題に関しては石川日出鶏丸が系統的な侵害反射実験 に基いて内臓知覚二重支配学説を樹立し,生理学的立 場から実証した.それによると家兎膵臓の知覚は迷走 神経と第8胸髄(D8)から第2腰髄(L2)にわたる脊髄 後根神経によって支配される.生理学的に決定された

この知見は当然形態学的な裏付けがのぞましい.

 そこで私は犬・猫・家兎・廿日鼠等につき,脊髄神 経節(以下SPGと略記)を中心に後根侵襲し,その 後に現れる末梢臓器の有髄神経変性像を示標として各 内臓における求心性神経の所属脊髄分節を明らかにし ょうと試みた.

 内臓支配神経を侵襲した場合,神経の変性と共に配 下組織における種々の病理組織学的な変化を証明でき ることは既知のことである.膵の場合も私どもは旧約 120頭につきSPG易U出術や迷走神経切断術を行って,

膵分布有髄神経の髄鞘変性所見とともに病理組織学的 所見を観察した.

実験材料と実験方法

 体重8kg以上の健常な犬につき,以下の2種類の 易咄実験を行った.手術方法については教室の土橋が

詳述した通りである.

 i)胸・腰髄後根神経商舗実験

 第4胸髄後根神経節より第3腰髄後根神経節の間に わたり,主に2〜4対を系統的に易拙した.

 ii)迷走神経頸部切断実験

 迷走神経の両側あるいは左右いずれかの片側を咽頭 外側で内頸動脈及び総頸動脈と内頸静脈の間で約4〜5 cmの範囲切除した.

 iii)染色方法

 手術した犬は3〜7日間後に屠殺,潟腐し,直ちに 膵をとりだし,膵頭部・体部・尾部より数個の細片

(1×1×0.5cm、をとって固定した.染色はBielschow・

sky一鈴木氏軸索鍍銀法,巣鴨氏髄鞘染色法,ヘマトキ シリン,エオジン染色を用いた.

 有髄神経の変性像を追求するには各症例ごとに数回 材料を切出して染色をくりかえし,充分な検討を加え て成績が正確になるようにつとめた.

実 験 成 績  (1)膵有髄神経の変性

 SPG所見日出及び迷走神経切断を行った犬で術中 死亡したものを除き,膵における有髄神経変性の出現 頻度を表示すると第1表の通りで,かなり,高率であ る.代表的な変性所見は図23−46のようである.図23

−41はSPG易U出によるものであり,図42−46は迷走 神経切断によるものである.

 小  括

 以上の神経侵襲実験翁島ごとの成績を綜合的に観察 してみよう.

 SPG易独酌・迷走神経切断群のいずれも膵組織内 有髄神経にかなり高率に変性像を証明することができ

た.

 SPG易咄群では,種々の脊髄分節にわたって系統 的に侵襲を試みた結果,D6−L2の領域に侵襲におい て膵有髄神経の変性を証明できた.このうち最強度の 変性(変性線維数が多く,変性像が典型的)を示した ものは,2例(No・28−D6−8侵襲,:No.95−D5−g侵 襲)であり,その他の9例は中等度の変性を示した.

 迷走神経切断郡では右側,左側並びに両側切断例と も変性所見を証明し,それらの間に認められる差がな かった.

 変性を示した有髄神経は多くは葉間・小葉間の結合 織内とくに血管・排泄管の周囲に証明された.その 他,間質内のVater−Pacini小体,更に末梢にいたっ て腺房間々質・ラ氏島周辺部まで変性線維を追跡する

ことができた.

(6)

 これら変性神経は主に小・中径の有髄神経であっ て,大仁またはそれ以上のものの変性像はきわめて少 なかった.

 (2)SPG門出及び迷走神経切断に伴う膵の病理     組織学的変化

 膵支配知覚神経を侵襲した場合,多かれ少なかれ,

その機能失調が現われるはずである.それは当然膵の 組織学的所見にも投影されるものと考えられる.そこ で膵有髄神経変性豫を追求した各例について,ヘマト キシリン・エオジン染色を行い,病理組織学的所見を 検索した所見を一括すると表2,3の通りである.下 中の記号(一二÷十十十十)はこの順に程度の強いこと を示し,皿は正常,↑↓はそれぞれ増加・減少を意味 する.代表的所見は図47〜50にも示してある.

 小  括

 多数例において認められる所見として,まず血管間 葉系の変化をあげなければならない.軽度のものでは 小葉間結合織の水腫・膨化にとどまるが,かなりの症 例において大小血管系の充盈とくに静脈のうつ血,血 管壁の膨化をみとめ,更に強度のものになると血管破 綻を来して,間質や小葉間に大小の出血巣が生じてい る.これらの循環障碍にともなって実質腺細胞にも軽

度ながら類々の退行変性が見られる.萎縮・濯濁・空 胞変性を主とするが,一部出血にともなう壊死も認め

られる.

 このような膵臓所見は必ずしも強度とはいえないま でも,大なり小なり循環障碍に基く間質系の病変及び それに伴う実質系の退行性変化を指摘できる.

 以上の循環障碍を主とした病理組織学的な所見のあ る例はSPG易拙群にあってはすべてD6一ユ2侵襲例 に属していた.また髄鞘染色成績と対比した場合,神 経変性像を証明する例では程度の差はあってもすべて 血行障碍像を認め得た.

 内臓に2種の知覚系が存在することは,既述のよう に生理学的な証明がある.膵については石川日出鶴丸 門下の春田,松崎の報告があり,家兎を用いた実験で 膵支配脊髄分節は主としてD8−12根の領域にわたり,

その中でもDlo−11において最:も濃厚, L1−3根領域で はわずかで,稀にD7根領も加わるとのべている.

また膵に持続的化学刺戟を与えて,そのためにおこる 皮膚知覚過敏を観察すると,主としてD8−12にわた

る該当知覚領:域内に出現した.

表 1 SPG並びにVagus侵襲による膵有髄神経変性出現の有無

犬恥

23481416172223242526272829313638404445

手 術部 位 D6−9 D5−9 D6−8  D6−9 D6−9  D6−9 r.LVag・

 D7

 D6−7  D6−9  D6−7 f・Vag  D6−7  D6−7 LVag.

r.Vag・

 D6−8

1.Vag.

Dlo−12 1.Vag.

D11−12 生存

日数 り召  Ω4    ーエ

144349813588888835574

変性

十一十一十 ++骨柵

型M

678234567890123579012444555555556666666777

手 術 部 位

1・Vag.

D11−12 1・Vag.

D11−12 D11−12 1.Vag.

D11−12 LVag.

D11−12 1.Vag.

D11−12 1.Vag.

D11一2 D11−12 LVag.

LVag.

Dg一コo D11−12 D11一コ2 Dg−10 D11−12

生存

日数

645545555545656637675

変性

十十

晩酌

345679234567890145600777777888888889999911

手 術部 位

D11−12 Dg−10 Dg−11 Dg−11 D8−9 D6−7 D5−6 D6−7 D5−7 D5−7 D5−8 D5−8 D4−7 D7−9 D5−8 D4−9 D5−7 D5−9 D7−8 D7−9 L1−2

生存 日数  1ーユ0召−﹂11づ一

860148274766988677479

変性

(7)

代 神3

Kubo&Miyagawa(1934)は家兎・犬の大・小内臓 神経を切断して膵の神経線維の変性をしらべたが,変 性像を証明できなかった.またHonjin(1956)も廿 日鼠について脊髄後根神経が膵の求心性神経支配に参 加しているかどうかを確めることに成功しなかった.

 一方,宍戸(1956)は犬についてはまず膵支配の有 髄線維数をかぞえ,膵頭上部は最も分布多く,ついで  私どもの変性実験の成績は主としてDδ一:L2の領域

において現れた.しかしD7より上部の後根を侵襲し た場合も4例に著明な変性像を膵に証明したから,膵 を支配する脊髄後根性の神経はかなり上部領域の神経 線維も参加していることになる.

 脊髄後根性有髄線維の内臓分布に関しての形態学的 吟味については従来いくつかの報告がある.例えば

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(8)

膵尾部,膵頭下部の順に分布していることをのべた.

つぎにD3−13までのSPGを切除し大内臓神経中の 有髄線維変性数をしらべ,変性線維の約%は後根性で あるとしている.さらに脊髄前根切断実験を行って腹 腔臓器の変性を追求の結果,腹腔神経叢通過後,有髄 線維の変性は著しく減少するので,前根性線維は臓器 に達する以前において大部分が無髄になるものであ り,腹腔臓器に達する有髄線維はほとんどが脊髄後根 より由来しているものと考えた.なお膵内のSPG切 除時の有髄線維の変性は左側はD仁L3,右側はD3−

L2の範囲にわたるとしている.これは従来の記載に比 し,はるかに広範囲であるが,私の得た結果を支持し ているものと考えられる.

 さて私は脊髄後根神経節侵襲によって膵にあらわれ る病理組織學的変化を観察できた.その病像は血行障 碍に基く充・うつ血及び出血像であった.

 教室の土橋は家兎について,SPG D5−8域を侵襲し て高率に胃の潰瘍,魔欄,出血を作成し,犬について はD5−10域侵襲によって胃潰瘍準備状態を証明して いる,ひき続き小泉はD6−9のSPG侵襲によって肝 に,また石瀬は窃一D6侵襲によって肺における血行 失調像を組織学的に示している.

 SPG侵襲によって悪才臓器に知覚線維の変性と共 に循環障碍を基調とした病変の発生する成因を考察す る場合,従来呉のいう脊髄副交感系或いは最近幸塚等 の提唱する脊髄後根性交感系の存在を認めるとその理 解が容易となるであろう.

 即ち,呉門下の中川(1935)は腰・仙髄神経節を侵 襲して足臆皮膚の潰瘍や下肢筋の萎縮を認め,川ロ

(1931)は脊髄全域にわたり灰白質中間層内側部に脊 髄副交感神経の中枢を認めたとのべ,小橋(1942)は 脊髄副交感神経が脊髄を出て脊髄俵根神経節の介在細 表3迷走神経切断による膵臓変死(記号は表2と同じ)

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手 術

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水充欝出 腫血血二

部 列 直

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(9)

354

胞に終り,ここでノイロンをかえ,再び有髄性の節後 線維に移行していることを確かめている.これらの実 験を根拠として全脊髄後根に副交感神経系の存在を認 めたものが訓説であるが,最近幸塚等(1956)は呉説 を批判し,新らしい学説を展開している.即ち,呉説 に合致しないいくつかの生理学的実験結果をあげると 共に,脊髄後根性交感神経の存在を直接証明し得たと のべ,これに基き血管の交感神経二重支配法則を提唱

している,

 私の得た実験成績は両説の当否に直接ふれるもので はなく,兎に角SPG侵襲によって結果として末梢臓 器に血行障碍の起ることを膵について確認したもので

ある.

 膵の血行失調像は小葉間の大血管系の光・うつ血の ほかに,多数例において腺房間の小血管系またはう氏 島内細血管のうつ血・出血が著明であった.ここで腺 管潤管部近傍の小血管系が問題となり,この末梢部の 循環障碍をSPG侵襲時他臓器に起るそれと対比させ ると模式図3のようになる.即ち,胃では粘膜に入る 終末動脈分岐部に,肺では肺動脈の終末動脈分岐部 に,肝では肝小葉周辺の所謂膨大部に近接して出血が 好発することは既に教室陥入によって報告されている のである.

 迷走神経切断では比較的大血管系の循環障碍像が著 しいが,これは膵支配血管の中枢側における血管運動 失調を意味する.迷走神経は胸部または上腹部臓器に おける分布濃度が高いから,その切断は門脈,肝静脈 または大静脈等における血管運動失調をおこし,その 変化が末梢血管にまで及ぶと考えられる.

 以上,SPGと迷走神経の侵襲による変性所見及び 病理組織学的所見より綜合的に判断すると,膵の神経 支配について模式図4のような関係が成立するであろ う.即ち,膵は知覚系として迷走神経及び脊髄後根神 経の分布をうけ,自律神経系として迷走性副交感系,

脊髄性交感系,脊髄性副交感系(呉)あるいは脊髄後 根性交感系(幸塚)の支配をうけていると判断され

る.

模式図4 膵の神経支配に関する模式図

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結 論

 膵の微細神経分布を特に腺管系潤乙部に焦点をおい て観察した場合,この部位における神経分布はかなり 濃厚であることが明らかとなった.即ち,多くの無髄 神経は密な終末網を形成しつつ潤管部に纏絡し,その 間に介在細胞またはSchwann細胞等が分布し,少数:

の有髄神経もかなり末梢まで追跡し得た.

 これら有髄神経は主として知覚に関与するものと判 断されるが,これは少なくとも潤目部丁更にはラ氏島 内まで達していることが明らかにされた.

 ラ洋島は濃厚な神経支配下にあることが証明された が,特にラ氏島分布神経は忠義部神経ときわめて強い 趣けいを有していることに注目すべきであろう.この ことはう氏島の発生に対して潤管部特にその神経因子 の有する意義が大きいことを暗示する.

 細管部←→ラ氏島の密接な神経的関連性はCholine・

sterase染色標本の観察によって一層明瞭に立体的に 把握することが出来る.

 血管部の特性は機能病理学的な観点から石川等によ って体系づけられたが,私は神経学的な立場からその 裏付けを行い得たものと考える,

(10)

 膵に分布する知覚神経系の分折にあたり,SPG別 出或いは迷走神経切断等の神経侵襲に伴なう膵内の有 髄神経変性像及び病理組織学的変化を観察した.その 結果,膵知覚は迷走神経及び脊髄後根神経両者の支配 をうけ,後者における膵支配脊髄分節はD6−L2にわ たり,とくにD7−11域が最も濃厚であることが決定

された.

 これは,さきに石川(日)によって生理学的に判定 された成績を形態学的にも実証したものといえる.

 また,脊髄神経節侵襲によって膵組織に,充・うつ

・出血などの血行障碍を主とした病変を証明したが,

これはSPGを介しての血管運動支配が注目さるべき ことを示唆するものであろう.

終りに御指導を亡いた恩師石川教授をはずめ,倉田助教授以下 御指導御援助を得た教室員各位に心より謝意を表する・

文 献

1)Caja1, R. y. et Sala 3 文献(20)より引 用.    2)de Ca8tro, F.:Trav. Labor.

τech. bio1. Madfid.,21,423(1923).   3)I Feyrter, F.3U1)ef diffuse endokfine epitheliale Organe. Leipzig, A−Barth,.1938.      4)

Hagen, E.3 Zeitschr. f. Zellforsch.,43,486

〈1956)・   5)春田操3生理学研究,5,

850,862(1928).     6)Honjin, R.3J.

comp. NeuroL,105,3(1956).106,1(1956).

7)石川日出鶴丸3生理学研究,5,843,860(19・

28).    8)石川大刀雄:血液討議会報告,

3,178(1949).    9)石瀬正隆3十全医学 会誌,印刷中,    10)小泉嘉久:未発表.

11)幸塚嘉一・山田美智子・松田冨美・内藤博江・

井家美智子・民野和子3 日本生理学誌,18,617,

794, 855 (1956). 19, 325 (1957).       12)

K曲。,M.&Miyagawa, R.3Mitt. med. Acad.

Kioto・,11, 509 (1934).       13) K:ure, Kl. 3

Uber den Spinalparasympathikus. Base1, Benno Schwalbe・1931.    14)松崎清博3生理学 研究,13,577(1936).    15)Monti, R.3 文献(19)より引用.    16)Maller, E.3

(19)文献(19)より引用.   17)村沢健介3 金大二二年報,12,171,193,213(1954).

18)申川 明3東京医会誌,49,380(1935)・

19)Pensa, A.31nt. Mschr. Anat. u. Physiol.,

22,90(1905).     20)Pines,1.&Tom・

powa, M.3 Zeitschr. f. mikrosk−anat。 Fofsc11.,

2①,20(1930).   21)佐野耕一2未発表.

22)Seto, H.&Utsushi, S.3Afch. hist. jap.,

5,283(1953).   23)央戸仙太郎3 日本外 科会誌,57,922(1956).    臨床外科,11,

751(1956).    24)Simard, L、. G.3 Arch.

d Anat. microsc.,33,49(1937).   25)鈴木 清3脳神経領域,5,184(1952).   26)

土橋哲夫3十全医会誌,67,1(1961).

      Abstract

 Nonmedullated nerve一石bers in pancreas made the terminal reticulum surrounding the inter−

calary portion. Interstitial cells or Schwann cells are distributed in it. Medullated nerve・

五bers extends to the intercalary portion (Part I)and into the islets. Neurological relation わetween the intercalary portion and islet is noteworthy.

 By morphological investigation of pancreas in dogs, cats, rabbits and mice extirpated the spinal ganglions or vagus, it was determined that the pancreas received sensory nerve−fibers

from the dorsal root of spinal cord and vagus system.

 Degeneration of medullated nerve一五bers and disturbances of circulation e. g. congestion,

:hemorrhage in pancreas were observed by lesion of spinal ganglions D6〜L2, especially D7〜11.

(11)

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参照

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