博士(薬学)大貫敏男 学位論文題名
ラットおよびマウス脳ムスカリン性受容体応答機能と 加齢に関する薬理学的研究
学位論文内容の要旨
近年、急激に老齢化社会が進行し、老人´陸疾患が社会的問題となっている。
老人 性疾患の 中でも痴 呆症の患者 数が急激 に増加す るとの予 測に対し、医療 面で の根本的 な解決策 は見っかっ ていない 。また、 その発症 機構については ほと んど解明 されてい ない。脳高 次機能の 解明は、 アルツハ イマー病などの 痴呆 症、パー キンソン 病などの精 神神経疾 患の病態 解明、治 療、予防の上で も大きな期待が寄せられている。
ヒト 病態を直 接研究材 料とするこ とは困難 であるこ とが多い 。この場合、
病態 モデル動 物を使う 方法がある 。モデル 動物を用 いること により、その病 態に 関する直 接的な情 報に加え、 生体機能 に関する 基礎知見 をも得ることが でき る。逆に、生体機能に関する基礎研究は疾患の根本的な病態解明、治療、
予防などにとって必須である。
今回 、著者は 、薬理学 的研究法に より、正 常動物を 用いるこ とにより学習
/ 記 憶に 関 与 するACh受 容体 の サブ タ イ プを 、 また 、 そ のサ ブ タイ プ に 連 関す る細胞内 情報伝達 系を同定し た。さら に、老齢 動物ある ぃは老化モデル 動 物 を用 い る こと に よ り、 老 化に よ る 脳内ACh神経 系 に おけ る 変化 お よ び 学 習 /記 憶 のACh説 を 支 持す る 知見 を 得 た。 こ れら の 知 見は 脳 高次 機 能 の 解明 および老 人性痴呆 症などの病 態解明お よび克服 にとって 重要な知見であ ると考えられるので報告する。
A)ム ス カリ ン 性受 容 体 サブ タ イプ 選 択 的アン タゴニス トを用い た薬理学的 /神 経 化学 的 検 討に よ り 以下 の 知見 を 得 たg
1)Ml受容 体 はPI代 謝活 性 を 上昇 し た。
こ の 活 性 調 節 は PTX非 感 受 性GTP結 合 性 蛋 白 質 が 関 与 す る 。 ,2)M2受 容 体 『 ま フ ォ ル ス コ リ ン に よ るc」 へMP蓄 積 を 阻 害 し た 。 こ の 活 性 はPTX感 受 性 だっ た こと よ り 、Gi/Goを介 し てい る こ とが 示 唆さ れ た。
B)ム スカ リン 性受 容体 サブ タイ プ選 択的 アン タゴ ニス トおよ び細 胞内Ca2゛ 動 員阻 害薬 であ るダ ント ロレ ンを 用いた行動薬理学的検討により以下の知 見を得た。
1)ムスカリン´陸受容体は学習/短期記憶において一部役割を担っている。
2)短 期記 憶か ら長 期記 憶への 移行 期、あるいは長期i己隠形成のごく初期 段階において、M1受容体応答が重要である。‐
3) 記 憶 想 起 過 程 に お い て 、 Ml受 容 体 は 重 要 で は な い 。 4)学 習/ 短期 記憶 形成 過程に おい て、細胞内Ca2゛動員が一部役割を担っ ている
5) 長 期 記 憶 形 成 過 程 に お い て 細 胞 内Ca一 ゛ 動 員 が 重 要 で あ る 。 6) 作 業 記 憶 / 参 照 記 憶 に お い て 細 胞 内 く ニa` 動 員 が 重 要 で あ る 。 C)老 齢 ラ ッ ト を 用 い た 神 経 化 学 的 検 討 よ り 以 下 の 知 見 を 得 た 。 1)Ml大脳皮質および海馬において受容体応答は老齢期に活´陸低下する。
老 齢 期 に お け る 学 習 / 記 憶 障 害 の 原 因 で あ る 可 能 性 が 示 唆 さ れ た 。 2) 大 脳 皮 質 に お い て 、 IP3受 容 対 の 親 和 性 が 上 昇 し た 。 D) SAMを 用 い た 神 経 化学 的検 討よ り加齢 変化 につ いて 以下 の知 見を 得た 。 1)ACh受 容 体 数 大 脳 皮 質 に お い て 増 加 し 、 海 馬 に お い て 減 少 し た 。 2) 大 脳 皮 質 お よ び 海 馬 に お い てNMDA受 容 体 が 減 少 し た 。 . 3)L型Caチ ャ ネ ル は大 脳皮 質に おいて 増加 し、 海馬 にお いて 減少 した 。 4) 大 脳 皮 質 お よ び 海 馬 に お い て プ ロ テ イ ン キ ナ ー ゼCが 減 少 し た 。 5) の3受 容 体 数 が 大脳 皮質 およ ぴ海馬 にお いて 増加 した ;脳 神経 細胞 の
変性あるいは脱落が示唆された。
E) 老 齢 ラ ッ ト お よ びSAM大 脳 皮 質 に お い て 、 機 能 低 下 に 対 す る 代 償的 機 能を示唆する変化が認められた。一方、海馬:こおいてこの変化は認められな かった。
以 上より 、学 習/ 記憶 にム スカ リン 性受 容体 のサ ブタ イプ のうちMl受容体 応 答、特 に細 胞内Ca2゛動 員が 、重要 であるこ三を個体レベルにおいて具体 的 に示す ことができた。また、老人性痴呆症あるぃはアルツハイマ一型痴呆 症 におけ る病理学的所見と類似する幾っかの知見を得ることができた。っま り 、1) 脳ACh神 経 系 が 加 齢 に 伴 い 機 能 低 下 す る こ と 、2) 大 脳 皮 質ACh 系 は老齢 期でも比較的機能を維持できている可能性があることである。上記 2) は知 見E) から 推察 され た結 論で ある 。こ の機 構の 解明 は、痴 呆症の克 服 にとっ て重要な知見であるとともに脳高次後能の解明にもっながる可能性 を 秘めて いる 点で 重要 な知 見で ある と思 われ る:
ま た、中 枢神 経系 の老 化に 関す る実 験モ デル 動物 とし てのSAM‑P8の有用性 を 示すこ とが でき た。
分 子生物 学の発展を始め脳神経機能に関する研究基盤が整いつっある現在、
より多角的な個体レベルでの機能解明の進展が期待される。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
ラットおよびマウス脳ムスカリン性受容体応答機能と 加齢に関す る薬理学的研究
申請者大量敏男は、脳におけるアセチルコリン神経系、とくにそのム スカリン性受容体に圏する神経化学的,行動薬理学的研究を進めてきた が、今回、その応答譲構,学習/記憶における轟能ならびに加齢変化に ついて新知見を得、本学位釜文を申請してきた。
脳内で神経伝達物質として譲能する可能性の高いアセチルコリン (acetylcholine ,ACh) は大脳皮質や海馬に高濃度存在し、ムスカリン 性受容体(mACh 受容体)への作用を介し、学習/記憶などの脳高次嶺能 に鬩与すると推定されているが、脳 mACh 受容体応答轟構とその生理的嶺 能,さらに加齢変化について不明の点が多い。本輩文では、ラッ卜,マ ウスおよび老化促進モデルマウス( senescence −accelerated mouse SA −)およびそれらの脳組纛、ならびにmACh 受容体サブタイブヘの選択 的遮断藁を使用し検討した。
先ず、成熟ラッ卜大脳皮質切片標本において、高濃度KCI 刺激に伴い 放出されるアセチルコリン( ACh) が主として(その他の神経伝達物質 も一部)鬩わってイノシ卜一ルリン酸( IP) 生成を促進すること、ACh の 効果は mACh 受容体を介することを示した。さらに、カルバコール ―・300 −ー
一
幸
三
子
尚
靖 堅
幸 .
教
村 原
光 宅
野
栗
徳
三
授 授
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教 教
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助 助
査 査
査 査
主 副
副 副
(carbachol,CCh) はlP生成を促 進するが、CChのこの作用に対するMi 型mACh受 容体選択 的遮断薬( ピレンゼピ ン)およびMz型mACh受容体選 択的 遮断藁(AF―DX116)の抑制効果の程度から、CChはM,型m^Ch受容体 を介 しホスフん チジルイノシ卜一ル(Pl)代謝を促進することを示唆し た。 また、CChのPl代謝促進 作用にはM,型mACh受容体に共役する百日咳 毒 素 非感 受 性G蛋 白質 も 関与 す る こと 、 一方、M2型mACh受容体は 抑制 性G蛋白 質 (Gi/Go)を介 し アデ ニ ル酸 シ ク ラ―ゼ活性 を抑制する こと も示した。
次に 成熟マウス にmACh受容体サブタイブ非選択的遮断薬ア卜ロピンと 選択的遮断薬ピレンゼビン,AF−DX116の脳室内投与後、受動的回避反応 実 験 によ って 学習/記憶 嶺能の変化 に及ぽす影 響を解析し たところ、
M,型m^Ch受容体 応答譲能は とくに長期 記憶の形成と保持に、また想起 にも ある程度関 与することを示した。さらに、細胞内のCa2゛遊I抑制薬 ダン トロレンを 用いた受動的回避実験ならびに八方向放射状迷路実験を 行い 、細胞内遊I型Ca2゛もとくに長期記憧の形成に、またある程度短期 記憶の形成と想起にも関与することを示唆した。
記憶 の 形成に 圏わる脳M1型mACh受 容体応答系 の加齢変化 を解明する ため、老齢ラッ卜およびSAMを用いて解析したところ、老齢(27−30カ月 齢)のラッ卜では・、成熟(1ー2カ月齢)動物に比べ大脳皮質および海馬 でM1型mACh受容体が 滅少し、M,型mACh受 容体介在性 のPl代謝促進 活性 が低下すること、さらに大脳皮質のイノシ卜一ル1,4,5,一三リン酸(|P3
)受 容体数が増 加すること を示した。 また、SAUP8系(老化促進系)マ ウスの大脳皮質ではRl系(正常老化系)に比べて9カ月齢ではPl代謝゛活 性が 高いこと、 また、13カ月 齢では9カ月齢の 活性より低下することを 見い出した。
以上 のように、 本一文は目M,型■ACh受 容体・G蛋白質系を介するP| ―301−