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分節性動脈中膜融解による腹腔内出血の術後生じた上腸間膜動脈血栓症の1例

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Academic year: 2021

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(1)日本腹部救急医学会雑誌 40(7) :831〜834,2020. 症例報告 分節性動脈中膜融解による腹腔内出血の術後生じた上腸間膜動脈血栓症の 1 例 茨城西南医療センター病院外科 1),筑波大学附属病院消化器外科 2). 荒木一寿 1)2),野㟢礼史 1),小松崎修平 1)2),福沢淳也 1),小田竜也 2) 要旨:症例は 63 歳の男性。突然の腹痛で救急搬送され,造影 CT で上腸間膜動脈(superior mesenteric artery: 以下,SMA)末梢に extravasation を認めた。中枢に血栓と考える低吸収域を認めたが末梢まで造影されていた。 出血性ショックの診断で,止血術,横行結腸切除,回腸人工肛門造設術を施行した。2 病日目に再度ショック, 人工肛門の血色不良を認め,腹部造影 CT で SMA 閉塞と広範な腸管造影不良を認めた。SMA 血栓症と診断し, 大量小腸切除,右半結腸切除,人工肛門再造設を施行した。初回手術標本は病理学的に分節性動脈中膜融解 (segmental arterial mediolysis:以下,SAM)と診断した。2 回目の手術標本は新鮮血栓による閉塞で腸管壊死 していた。われわれは SAM による腹腔内出血後に SMA 血栓症を合併し救命し得た非常にまれな症例を経験し た。出血性病変の止血後に血栓症で血流障害をきたす危険性を考慮する必要があると考え報告する。 【索引用語】segmental arterial mediolysis,腹腔内出血,SMA 血栓症. 搬送された。. はじめに. 身体所見:意識清明,体温 35.4℃,血圧 82/66mmHg, 脈拍 123 回 / 分,心房細動,呼吸回数 22 回 / 分。. Segmental arterial mediolysis(以下,SAM)は動. 苦悶様表情。腹部膨満。腹部全体に圧痛,筋性防御. 脈中膜融解により動脈瘤を形成する非炎症性・非動脈 硬化性疾患である。破裂から腹腔内出血をきたし緊急. あり。. 手術を要することがある。SAM による腹腔内出血に. 来院時血液検査(表 1) :白血球 7,900/μL, CRP 0.52mg/. 対する術後に,上腸間膜動脈(superior mesenteric. dL と炎症反応上昇なし。Hb 13.3g/dL と貧血なし。. artery:以下,SMA)血栓症をきたしたまれな症例. Alb 3.1g/dL と軽度低下。FDP 3.8μg/dL,D ─ D 1.5μg/. を経験したので報告する。. dL と凝固異常なし。血液ガス所見も含め異常所見を 認めなかった。. Ⅰ.症 例. 腹部造影 CT:SMA の分枝に extravasation と広範囲. 患者:63 歳,男性。. に血腫,動脈瘤を認めた。SMA 本幹には前記分枝と. 主訴:腹痛。. 枝分かれした直後に血栓を疑う低吸収域を認めたが,. 既往歴:痔核のみ。. 末梢血管まで造影されていた(図 1)。. 喫煙歴:不明。. 画像上出血とそれに伴う出血性ショックと判断し緊. 現病歴:突然発症した腹痛が増悪するため救急要請し. 急手術とした。. 表 1 来院時血液検査 Alb. 3.1 g/dL. CK. 338 U/L. APTT. BUN. 17.0 mg/dL. Na. 142 mEq/L. FDP. 3.8 μg/dL. Cre. 0.80 mg/dL. K. 4.4 mEq/L. D─D. 1.5 μg/dL. T ─ Bil. 1.55 mg/dL. Cl. 111 mEq/L. pH. ALP. 306 U/L. CRP. 0.52 mg/dL. BE. AST. 73 U/L. WBC. ALT. 54 U/L. Hb. 2. 79×10 /μL 13.3 g/dL 4. γ─ GTP. 275 U/L. Plt. LDH. 365 U/L. PT. 13.9 sec. AMY. 30 U/L. PT ─ INR. 1.14. 15.0×10 /μL. 831. 7.378 −1.1 mmol/L −. HCO3 Lac Glu. 25.7 sec. 24.0 mmol/L 3.9 mmol/L 221 mg/dL.

(2) 日本腹部救急医学会雑誌 Vol. 40(7)2020. 図 1 腹部造影 CT Extravasation を認め,腹腔内に大量 の血腫(矢頭)を認める。また SMA の血栓(矢印)を認める。SMA の分 岐血管で動脈瘤を認める。. 手術所見①:網囊腔や横行結腸間膜内に大量の血腫を 認めた。中結腸動脈右枝,同静脈から出血しており結 紮止血した。横行結腸を切除し端々吻合を施行した。 血流の保たれている回腸で一時的双孔式人工肛門を造 設した。. 図 2 腹部造影 CT SMA が血栓により閉塞(矢印) 。それ により末梢血管の血流は途絶え広範な 腸管の造影不良を認める。. 術後経過①:循環呼吸状態は安定し,アシドーシスが 改善したため,第 1 病日に人工呼吸器から離脱した。 翌日血圧低下,頻脈,酸素化不良をきたし,血液ガス で pH 7.378,Lac 1.78mmol/L と循環不全を認めた。 人工肛門の血色不良から,SMA 血栓症を疑い造影. 変化による出血や浮腫,好中球やリンパ球浸潤を認め. CT を施行した。. た。粘膜下層や漿膜下層には血管の破綻や血栓形成は. 腹部造影 CT:SMA が血栓により閉塞し,広範な腸. 認めなかった。腸間膜内の動脈に新鮮な血栓を認めた。. 管の造影不良を認め,虚血による腸管壊死と診断した. 動脈血栓症による腸管虚血と診断した(図 4)。. (図 2) 。. Ⅱ.考 察. 腸管壊死から敗血症性ショックをきたしたと判断 し,緊急手術とした。. SAM は 1976 年に Slavin ら 1) により報告された非. 手術所見②:Treitz 靭帯から約 120cm 肛門側の空腸. 炎症性,非動脈硬化性の急性変性疾患である。近年,. から回盲部まで腸管壁に虚血性変化を認めた。虚血変. 診断法が確立され,報告例も増加している。稲田ら 2). 化した小腸から SMA 支配領域の上行結腸を含め横行. の報告では中高年・男性(男女比 2:1)に多く,好. 結腸吻合部肛門側を切離し,切除した空腸断端と左側. 発部位は中結腸動脈が 38%と最多で,順に胃大網動. 横行結腸とで人工肛門を再造設した。. 脈(19%),胃動脈(17%),脾動脈(11%)と続く。. 術後経過②:術後敗血症性ショック,DIC に対し集. 内山ら 3)は,病理組織所見が得られていない SAM. 中治療を要した。DIC から脱し,血栓再形成の可能. の臨床診断基準として,①中高齢者,②非炎症性・非. 性を考慮しヘパリンを投与した。経過良好で,経口摂. 動脈硬化性,③腹腔内出血での突然発症,④数珠状の. 取可能となり第 38 病日に退院とした。. 不整な拡張および狭窄血管をあげている。本症例は病. 病理組織学的所見①(初回手術):腸間膜内の 2mm. 理組織学的検査で SAM と診断されたが,①〜④を満. 程度の動脈の中膜が菲薄化,断裂し,壁が一部破綻し. たし,臨床所見のみで診断がつけられた可能性がある。. ていた。破綻部周囲に出血,好中球浸潤を認めた。破. 病理学的所見としては,中膜平滑筋細胞に空胞形成. 綻していない動脈では内弾性板が断裂し,大部分の中. が生じ,融解が進行し中膜と外膜の間に解離が生じ動. 膜が菲薄化していたが外膜は比較的保たれていた。残. 脈瘤を形成し破裂の原因となる。破裂しない場合は中. 存する中膜では平滑筋が空胞変性し,Alcian blue 染. 膜融解による欠損部に肉芽組織が発生し線維化により. 色陽性となる基質の沈着を認めた。粥状動脈硬化性の. 病変部は修復される。動脈瘤が多発することも報告さ. 変化は認めなかった。SAM と診断した(図 3) 。. れている。. 病理組織学的所見②(再手術) :粘膜は褐色調に変化. 動脈瘤破裂の症例の多くは腹痛で発症し,出血性. していた。粘膜上皮は脱落し,潰瘍も認めた。虚血性. ショックとなることが多く,緊急処置を要する。診断 832.

(3) 日本腹部救急医学会雑誌 Vol. 40(7)2020 a. b. 図 3 初回検体病理学的所見 a:EVG 染色 20 倍,b:Alcian blue 染色 20 倍。 腸間膜内の動脈が破綻し出血を認める(矢印) 。好中球の浸潤も認める。壁の大部 分で中膜が菲薄化している。. a. b. c. 図 4 再手術検体病理学的所見 a:HE 染色 20 倍,b:HE 染色 100 倍,c:EVG 染色 20 倍。 切除腸管近傍の腸間膜内の血管内の新鮮血栓。基質化を伴わないが,フィブリン析出と好中球の核破砕像が認め られ,発症から数時間から半日以内程度の経過と考えられる。. には造影 CT や血管造影が有用である。血行動態が安. の血流は保たれ,術中小腸の色調に問題なく腸管血流. 定していない場合も多く,診断と治療方針の決定には. は保たれていると判断し,出血の緊急手術であり救命. 4). 迅速かつ適切な判断が必要である 。本症例では大量. を第一選択とし,一時的回腸双孔式人工肛門を造設し. 補液により循環動態が保てたので,造影 CT を実施し. 血流を評価する方針とした。 医学中央雑誌で「SAM」 , 「腹腔内出血」 ,「SMA 血. た。SMA の 分 枝 に extravasation と 動 脈 瘤 を 認 め, 周囲に血腫を認めたことから中結腸動脈瘤破裂による. 栓塞栓症」をキーワードに過去の報告例を検索したが. 腹腔内出血と診断した。本症例は SAM と動脈瘤が併. 認めなかった。出血性病変と血栓症を認める際は外科. 存した SMA の分枝に血栓が末梢で閉塞し,脈管圧上. 的治療と血管内治療を併せた術式も考慮すべきであ. 昇により動脈瘤が破裂したと考えられる。. る。ただし治療環境や条件を考慮して治療を進めなけ. SAM の治療法は,外科的治療や血管内治療がある. ればならない。そのため血管内治療が困難な施設では. が現時点では明確な選択基準はない。症例検討すると. 早急に外科的加療へと進めることが推奨される。本症. ショック状態にあるもののうち治療反応性のあるもの. 例では出血性病変と血栓による血管閉塞性病変が併存. に塞栓術が, 反応のないものに切除が選択されていた。. しており,術後早期から抗凝固療法を開始すべきだっ. ただし塞栓術により腸管虚血が懸念される場合や動脈. たか,血管内治療を行うべきだったかという治療方針. 瘤が大きい場合は切除が選択されていた. 5)〜 7). 。森嶋. の判断が困難であった。今回は再出血のリスクがあっ. は SAM に起因する中結腸動脈破裂に対して裂開. たことや血管内治療が困難だったことから血栓に対し. 部を縫合閉鎖しており,術後に支配領域の虚血が疑わ. てはアプローチせず治療を進めた。結果からは血栓形. れる場合は遊離グラフトによるバイパス術を考慮する. 成傾向のある患者には手術時に十分な止血が得られて. 必要があると報告している。本症例では巨大な血腫に. いれば血栓溶解療法を行うべきと考える。. ら. 8). より瘤そのものを視認できず,血腫の中枢側で中結腸. SAM の長期予後は明らかにされていないが,適切. 動脈を切離し,支配領域の横行結腸を切除し,吻合す. な治療が行われていれば生存率は 84%と報告があり,. る方針とした。SMA の血栓に関しては,画像上末梢. 極めて良好と考える。ただし IVR 治療後 15 ヵ月経過 833.

(4) 日本腹部救急医学会雑誌 Vol. 40(7)2020. した症例で確認されていた動脈瘤の破裂の報告もあり. 3) 内山大治,小金丸雅道,安陪等思,ほか:原因に segmental mediolytic arteriopathy が疑われた腹腔内出 血例に対し塞栓術が有用であった 1 例.IVR 2005; 20:278 ─ 281. 4) 西野拓磨,藤本大裕,小練研司,ほか:中結腸動脈瘤 破裂に続発して肝動脈後区域枝の切迫破裂を認めた segmental arterial mediolysis の 1 例. 日 消 外 会 誌 2014;47:251 ─ 257. 5) 岩永彩子,爲廣一仁,松浦泰雄,ほか:Segmental arterial mediolysis の 治 療. 日 消 外 会 誌 2019;52: 345 ─ 357. 6) 稲田 潔,池田庸子,林 俊之:腹部内臓動脈の多発 動脈瘤を伴う segmental arterial mediolysis(SAM) の 20 例.日臨外会誌 2008;69:3101 ─ 3106. 7) 勝又健次,山本啓一郎,葦沢龍人,ほか:急性上腸間 膜動脈閉塞症症例の検討─診断,治療,予後につい て─.日腹部救急医会誌 2001;21:695 ─ 701. 8) 森嶋素子,本田二郎,高橋賢一朗:腹部大動脈瘤人工 血管置換術後に発症した中結腸動脈破裂の 1 例.日血 管外会誌 2017;26:139 ─ 142.. 注意が必要である。フォローアップ期間に関するまと まった見解がないのも現状である 5)。. 結 語 SAM による腹腔内出血に対する手術後に,SMA 血栓症をきたしたまれな 1 例を経験した。出血と血栓 形成の相反する事象が混在する状況下での治療選択に 関して十分に検討する必要がある。今回の治療経験や 考察から血栓溶解療法を術後早期に開始することが望 ましいと考えるが, さらなる症例の蓄積が必要である。. 参考文献 1) Slavin RE, Gonzalez─Vitale JC: Segmental mediolytic arteritis: a clinical pathologic study. Lab Invest 1976; 35: 23 ─ 29. 2) 稲田 潔,池田庸子:Segmental arterial mediolysis (SAM)52 例の検討─ 2,3 の問題点について─.病 理と臨 2008;26:185 ─ 194.. 論文受付 2020 年 5 月 27 日 同 受理 2020 年 8 月 3 日. A Case of Thrombosis of the Superior Mesenteric Artery(SMA)Occurring After Operation for Intraperitoneal Bleeding from Segmental Arterial Mediolysis(SAM) Kazuhisa Araki1)2), Reiji Nozaki1), Shuhei Komatsuzaki1)2), Junya Fukuzawa1), Tatsuya Oda2) Department of Surgery, Ibaraki Seinan Medical Center Hospital1) Department of Gastrointestinal and Hepato ─ Biliary ─ Pancreatic Surgery, Faculty of Medicine, University of Tsukuba2) The patient was a 63 ─ year ─ old man who developed abdominal pain of sudden onset and was transported to the emergency department of our hospital. Contrast ─ enhanced abdominal computed tomography revealed an extravasation of superior mesenteric artery(SMA).He was diagnosed as having hemorrhagic shock, and hemostasis, transverse colectomy and ileostomy were performed on the same day. The hemorrhagic shock recurred two days after the operation, and contrast ─ enhanced abdominal computed tomography revealed SMA occlusion and poor contrast enhancement over the intestine. Resection of most of the small intestine and right hemicolectomy and a re ─ ileostomy were performed. The histopathological diagnosis of the resected specimen after the first operation was segmental arterial mediolysis(SAM), and that after the second operation was intestinal obstruction caused by a fresh thrombus and intestinal necrosis. We encountered a very rare case of a patient with thrombosis of the SMA occurring after operation for intraperitoneal bleeding from the SAM who we were able to rescue. We report this case to underscore the necessity to bear in mind the risk of obstruction of blood flow by thrombosis after hemostasis.. 834.

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図 4  再手術検体病理学的所見

参照

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