九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
レーザー核融合ロケットにおける磁気スラストチャ ンバの機能検証に関する研究
齋藤, 直哉
http://hdl.handle.net/2324/2236280
出版情報:九州大学, 2018, 博士(工学), 課程博士 バージョン:
権利関係:
1
レーザー核融合ロケットにおける磁気スラストチャンバの 機能検証に関する研究
九州大学大学院
総合理工学府 先端エネルギー理工学専攻 齋藤 直哉
2019 年 2 月
2
1章 序論 4
1.1 火星探査の歴史 4
1.2 レーザー推進とレーザー核融合ロケット 8
1.3 核融合反応 10
1.4 慣性核融合 11
1.5 磁気スラストチャンバ 14
1.6 研究目的 16
1.7 本論文の構成 17
2章 レーザーと物質の相互作用 22
2.1 レーザーと物質の相互作用 22
2.2 吸収過程 24
2.3 エネルギー輸送 28
2.4 爆縮 31
3章 プラズマ計測 35
3.1 プラズマ計測 35
3.2 プラズマ自発光計測 35
3.2.1 実験配置 36
3.2.2 実験結果 41
3.3 レーザー干渉法による電子密度計測 53
3.3.1 実験配置 56
3.3.2 実験結果 59
3.3.2.1 電子密度分布の磁場による影響 59
3.3.2.2 電子密度分布のレーザーエネルギーによる影響 62
3.3.2.3 電子密度分布のレーザー照射方向による影響 66
3.3.2.4 磁気スラストチャンバ内のプラズマ構造とエネルギー比の関係 68
3.4 ファラデー型チャージコレクタ計測によるイオン電流計測 71
3.4.1 実験配置 71
3.4.2 実験結果 75
3.4.2.1 イオンの速度分布関数 75
3.4.2.2 イオン電流密度の時間変化 77
3.4.2.3 イオン電荷密度の空間分布 79
3.4.2.4 イオン電荷密度に対するエネルギー比の影響 86
3
4章 磁場計測 91
4.1 磁場計測の目的 91
4.2 プロトンバックライト法実験 95
4.2.1 実験配置 95
4.2.2 実験結果 99
4.2.3 プロトンビームの軌道計算 102
4.2.3.1 磁場とプロトンの初期設定 102
4.2.3.2 粒子位置での磁場 104
4.2.3.3 粒子の速度・位置の更新 106
4.2.3.4 プロトンイメージの比較 109
5章 結論 114
謝辞 116
4
1 章 序論
1.1 火星探査の歴史
地球軌道のすぐ外側にある火星は、硬い岩石の地表と大気のある地球型惑星に分類され る。火星は地球との類似性から、長い間生命が存在していたと考えられた惑星であり、その 証拠を発見するため探査が進められてきた。
火星探査は米国と旧ソ連の間で1960年代から競争されてきた[1]。1960年、旧ソ連はマー
ズニク1号、2号(Marsnik 1, 2)を火星に向けて打ち上げた[2]。この探査機は、地球―火星
間の惑星間空間の調査、火星の調査、フライバイでの火星表面の撮影を目的としていたが、
両機とも失敗に終わった。その後も、スプートニク22号(Sputnik 22)、マーズ1号(Mars 1)などの火星探査が1962年に計画されたが、全て失敗に終わった。一方米国は、1962年 から1973年の間に、10機の無人惑星探査機を用いた人類初の火星、金星、水星探査計画で ある「マリナー計画(Mariner program)」を計画した。1964年に打ち上げられたマリナー4号
(Mariner 4)が初めてフライバイでの火星の撮影に成功し、その後1969年に打ち上げられ
たマリナー6号、7号(Mariner 6, 7)は、火星の赤道上と南極付近をフライバイし、火星の 撮影や火星の大気と表面の計測に成功した[3-4]。火星探査の最終機であるマリナー9 号
(Mariner 9)は初めて火星の周回軌道にのり、約1年間周回軌道から火星を撮影した[5]。こ
れまでは、フライバイや周回軌道からの計測が主なミッションであったが、1975 年に米国 が打ち上げたヴァイキング1号、2号(Viking 1, 2)は、初めて火星表面への着陸に成功し た[6]。この着陸船は地表や気温の計測を行ったが、ミッションの目的であった「生命の存在 した」根拠となるものを発見することが出来なかった。それから長い間、米国は火星探査か ら遠ざかっていたが、1996年マーズ・グローバル・サーベイヤー(Mars Global Surveyor)と マーズ・パスファインダー(Mars Pathfinder)が打ち上げられた[7-8]。マーズ・グローバル・
サーベイヤーは火星の周回軌道から火星表面の詳細な地図の作成や気候変動観測に貢献し た。運用期間中に取得したデータは、2003年に打ち上げられた探査機スピリット(Spirit) とオポチュニティ(Opportunity)の着陸地点評価にも貢献した。マーズ・パスファインダー は、小型探査車ソジャーナ(Sojourner)を初めて火星表面に降ろし、83日間火星上の映像を 届けた。そして岩石の計測結果から、太古の火星に水が存在していた証拠を得ることができ た。また2001年に打ち上げられたマーズ・オデッセイ(Mars Odyssey)により極域の地下 に氷の状態で存在する水が発見された[9]。2003年には、ソジャーナの後継機として探査機 スピリットとオポチュニティが打ち上げられた[10]。これらの探査機は、ソジャーナよりも 広い範囲で「水が存在した」証拠を探すための探査を目的とし、探査車に必要な斜面などの 危険回避に関する技術が高められた。また 2011 年には探査車キュリオシティ(Curiosity)
5 が打ち上げられた[11]。キュリオシティは過去の探査車の中で最も重い重量の 900 kg もあ り、堅い岩盤を掘り進めるドリルや、土壌分析を行うために岩石を蒸発されるレーザーなど が搭載されており、火星上での生命の存在の可能性を追求した。2018年 5月には、火星内 部(地殻、マントル、コア)を地震計と熱伝達プローブを用いて探査する探査車インサイト
(InSight)が打ち上げらた[12]。火星内部構造の研究は、水星、金星、地球、火星など岩石
惑星の初期形成について新たな理解をもたらすと期待されている。Fig.1.1 に現在までの火 星探査の歴史を示す。今後さらに米国は、マーズ2020(Mars 2020)を計画しており、2020 年の打ち上げを目指している[13]。マーズ 2020 では探査車にドリルを搭載し、火星内部の コアからサンプルを入手し、それを持ち帰ってくるサンプルリターン計画が考えられてい る。持ち帰ったサンプルは地上にてより詳細に調査され、新しい発見がもたらされると期待 されている。
これまでの火星探査は、「水の存在した」証拠を調査する目的として無人探査機を打ち上 げてきた。しかし2010年、バラク・オバマ米国元大統領は2030年代までに人を火星に送る 有人火星計画を発表した[14]。そこでアメリカ航空宇宙局(National Aeronautics and Space
Administration: NASA)は、人を火星まで届けるために、3段階の技術フェーズ(”Earth Reliant”,
“Proving Ground”, “Earth Independent”)を設定した[15]。第一フェーズ(”Earth Reliant”)では、
国際宇宙ステーション(International Space Station: ISS)での実験に焦点を当てており、長期 間の宇宙空間での滞在による健康への影響など、将来の深宇宙探査を可能にする研究を行 う。第二フェーズ(”Proving Ground”)では、地球と月軌道間の宇宙空間のような、地球か ら数日の範囲において、消耗品の再利用など有人飛行に必要な能力の評価・向上を目指す。
第三フェーズ(”Earth Independent”)では、第一・第二フェーズで得られた知見を基に、火星 近傍(火星の衛星や火星表面も含む)での活動を行い、火星へ訪れるだけでなく滞在も視野 に入れている。
有人火星探査は無人火星探査とは違い人を送るため、新しい問題が考えられる。長期間宇 宙空間に滞在することにより、①無重力下での生活で筋肉や骨の密度が低下する、②閉鎖空 間での生活で精神的ダメージを受ける、③宇宙放射線を被曝する、といった問題が挙げられ る。筋力や骨密度の低下に関しては、継続した運動やたんぱく質やビタミン D の摂取など で、ある程度軽減できる[16]。しかし、精神的ダメージや放射線の問題を完全に解決するこ とは難しい。2011 年に打ち上げられた火星探査機キュリオシティは、地球から火星への飛 行中の放射線被曝量を計測した[17]。キュリオシティは火星までの飛行(飛行期間 254 日)
で、1日平均1.8 mSvの放射線を被曝していた。1 Svの放射線を被曝すると、ガンのリスク が 5 パーセント増えるとされている。NASA は現在地球の低軌道上で働く宇宙飛行士に対 して、3パーセントまでのガンリスクの増大を許容している。キュリオシティの計測結果は、
NASA が定めている許容量を超えてしまうことを明らかにした。宇宙空間での滞在時間の 長さは、宇宙飛行士の肉体的・精神的負担増大に直結してしまう。そのため宇宙飛行士の負
6 担軽減のために、「より高速な輸送機」による飛行期間の短縮化が有人探査ミッションに求 められる。
7
Fig.1.1米国の無人火星探査機の歴史
△は失敗に終わったミッションを示し、▲は成功に終わったミッションを示す
8
1.2 レーザー推進とレーザー核融合ロケット
惑星間輸送システムとして、磁気プラズマセイル[18]や原子力電気推進[19]などが研究さ れてきた。近年では、高出力レーザー技術の発展からレーザー推進が注目を集める様になっ てきている。レーザー推進とは、レーザーを推進剤に照射して生成した「レーザープラズマ」
の排出方向を制御することで推力を得る推進システムである。レーザー推進は、レーザーエ ネルギーと推進剤の組み合わせを任意に選ぶことにより推進剤に任意のエネルギー密度を 与えられる。そのため推進剤単位質量あたりに注入できるエネルギーが比較的容易に制御 でき、同一の推進器の性能をミッション目的に合わせて最適化できる特徴を有する[20-21]。 そのため、ミッション内容に従い新しい輸送機を開発する必要がなく、開発コストの削減が 期待できる。レーザー推進としては連続発振(Continuous Wave: CW)レーザー推進などが提案 されている[22]。CWレーザーは凸レンズなどでレーザー光を推進剤ガス中に集光し、推進 剤をプラズマ化することで、プラズマにレーザーエネルギーを吸収させ熱エネルギーに変 換する。加熱された推進剤ガスはラバールノズルにより加速され推力に変換される。CWレ ーザー推進は多様な推進剤が利用可能で、プラズマ内では推進剤の温度を1万5,000K~2万 K程度まで加熱できる。例えば水素を用いて推進剤の温度を平均3,000K程度まで加熱した とすると、約900秒の比推力を得ることができる。
レーザー核融合ロケットは慣性核融合で生じたエネルギーを運動エネルギーに変換する レーザー推進である。エネルギーと質量の関係式(E = mc2)によると、核融合反応は10 MeV のエネルギーを生じる。このエネルギーは化学反応で生じるエネルギーの数十万倍という 膨大な量であるため、レーザー核融合ロケットは大出力が期待されている。参考文献23で は、従来火星の往復に500日以上かかっていたところを、レーザー核融合ロケットは145日 程度まで短縮できると試算されている。火星までの飛行期間の短縮化は、宇宙飛行士が火星 探査に割ける時間の増加や、生命維持に必要な水や食料などのリソースを削減することが できる。レーザー核融合ロケットの設計案(Fig.1.2)として、ローレンス・リバモア国立研 究所(Lawrence Livermore National Laboratory: LLNL)はVISTA(a Vehicle for Interplanetary Space Transport Application Powered by Inertial Confinement Fusion)を提案した[23]。VISTAは、
重水素(D)とトリチウム(T)を入れたカプセルの周りに50 gの水素を被せた燃料ペレッ トに、エネルギー5 MJのレーザーを照射することで、D-T核融合反応を起こす。この核融 合プラズマを、半径13 mの超電導磁石(最大磁束密度12 T)で反射することで推進力を得 る。レーザー照射の繰り返し数を0~30 Hzの間で変更することで、運転状況に従い推進力 の大きさを制御することが出来る。
9
Fig.1.2 VISTAの概念図。(左)全体図(右)断面図
10
1.3 核融合反応
エネルギーと質量の関係式(E = mc2)は、エネルギーと質量が等価であると示し、その 大きさの関係を表している。原子核の結合エネルギーは質量欠損の形で観測される。質量欠 損とは、「原子核の質量」と「同数個の結合していない陽子や中性子の質量の和」との差で ある。質量数A、原子番号Zの原子核の質量をM(A, Z)、陽子の質量をmp、中性子の質量を mnとすると、質量欠損は、
∆𝑀 = 𝑍𝑚𝑝+ (𝐴 − 𝑍)𝑚𝑛− 𝑀(𝐴, 𝑍) (1.1) と表され、∆𝑀 ∙ 𝑐2がこの原子核の結合エネルギーを表す。原子核の結合エネルギーを質量数 Aで割った値、核子1個あたりの平均結合エネルギー(∆𝐸 = ∆𝑀 ∙ 𝑐2/𝐴)を質量数Aの関数 で図示すると、軽い原子核の平均結合エネルギーが最も小さく、鉄(原子番号 26)の原子 核で最大値を示し、その後は質量数Aの増大とともに単調に減少していく。核融合反応は、
水素やヘリウムなどの軽い二つの原子核が一つの原子核に融合し、平均結合エネルギーの 大きい核種に変わることである。この時、「反応後の原子核の質量」は「反応前の原子核の 質量の合計」よりも減少する。その質量の減少に相当するエネルギーを取り出すことが出来 ればエネルギー源として利用できる[24]。
核融合反応の3つの代表的な反応(D-T反応、D-D反応、D-3He反応)を下記する。
⚫ D + T = 4He(3.52 MeV) + n(14.1 MeV) (1.2)
⚫ D + D = T(1.01 MeV) + p(3.02 MeV) (1.3)
⚫ D + D = 3He(0.82 MeV) + n(2.45 MeV) (1.4)
⚫ D + 3He = 4He(3.67 MeV) + p(14.7 MeV) (1.5)
D(デューテリウム)は重水素(2H)、T(トリチウム)は三重水素(3H)、pはプロトン(水 素原子)、nは中性子、3Heと4Heはヘリウム3とヘリウム4を示す。D-T反応は核融合反応 の中で最も反応させやすく、最も早く実用化が見込まれている。重水素とトリチウムが反応 し、ヘリウム4と中性子と17.6 MeVのエネルギーを生じる。重水素は海水中に大量に存在 しているため入手は容易である。しかし、トリチウムは自然界に存在している量がごくわず かであるため、リチウム(Li)から次の反応によって生成する必要がある。
⚫ 6Li + n = T + 4He + 4.8 MeV (1.6)
⚫ 7Li + n = T + 4He + n – 2.5 MeV (1.7)
D-D 反応は式(1.3)と式(1.4)の二つの反応がほぼ同じ確率でおこる。この反応は D-T 反応よ
りも反応率は低いが、高エネルギーの中性子の生成が少ないのが特徴である。式(1.5)の D-3He反応は中性子を発生させない核融合反応である。D-3He反応を工業的に利用するには 大量のヘリウム3が必要になるが、ヘリウム3は地球の大気中に少量しか存在しない。しか し月面上には、太陽風によって長い年月供給されたヘリウム3が、岩石中に大量に蓄えられ ている。そのためD-3He反応を利用するときは、ヘリウム3を月面から採取・持ち帰る方法
11 を考慮する必要がある[25]。
ここで核融合の条件を考えてみる。核融合炉を成立させるためには、核融合反応で発生す るエネルギーがプラズマに与えられた熱エネルギーを上回ることが必要であり、その条件 をローソン条件といい、次式で表される[26]。
(𝑛
2)2〈𝜎𝑣〉𝜔𝜏 = 2 ∙3
2∙ 𝑘 ∙ 𝑇 ∙ 𝑛 (1.8)
ここで、𝑛はプラズマ密度、𝜎は核融合反応断面積、𝑣はプラズマの熱速度、𝜏は閉じ込め時 間、𝜔は1反応当たりの発生エネルギー(D-T 反応では 17.58 MeV)で、𝑘はボルツマン定 数、𝑇はプラズマ温度である。D-T反応を有効に発生させるためには1億度の温度が要求さ れる。これは重水素とトリチウムの原子核が、お互いの反発力に打ち勝って二つの原子核を 融合させるために必要な衝突速度を与えるのに必要な温度である。最も実現が容易である D-T反応のローソン条件は𝑛𝜏 ~ 1014 s/cm3である。
1.4 慣性核融合
核融合炉を実現するために、「磁場閉じ込め方式」と「慣性閉じ込め方式」が考えられて いる。ローソン条件から分かるように、高い密度で長い間狭い領域に粒子を留めておくこと で、粒子の温度を上げて核融合反応を実現する。このとき、高温の粒子を保持しておく容器 は存在しないため、磁力線で粒子を閉じ込める容器とする方式が考えられた。この方式は磁 場閉じ込めと呼ばれ、さまざまな磁場の作り方からトカマク型やヘリカル型などの方式が ある[26]。
一方、極短時間だけ超高密度まで高めて核融合反応を起こし、同時にその反応から生じる 熱でさらに温度を上昇させ核融合反応をパルス的に実現する慣性閉じ込め方式が考えられ た。その有望な方法は、レーザーを固体燃料に照射して爆縮させて、中心部分に高密度領域 を作り核融合反応を起こす「レーザー核融合」である。レーザーは局所に、極めて短時間に 高いエネルギーを集中することが出来る。そのため、レーザーを用いて核融合燃焼を実現し ようと研究が進められてきた。前節で導出したローソン条件を再度考える。プラズマの膨張 はイオンの速度となる。この速度をSとすると、Sは1億度のプラズマ中の音速で与えられ
るため、108 cm/sとなる。燃料ペレットの半径をRとすると、閉じ込め時間𝜏は、𝜏 = 𝑅/𝑆で
与えられる。これをローソン条件𝑛𝜏 ~ 1014 s/cm3に代入すると、𝑛𝑅 ~ 1022 /cm2となる。密 度nを重量密度で示すと、𝜌𝑅 ~ 0.1 g/cm2となる。レーザーにより燃料ペレットに与えるべ きエネルギーは、
𝐸𝑖=4
3𝜋𝑅3∙ 𝑛3𝑘𝑇 (1.9)
となる[27]。ここで、燃料ペレットを圧縮して密度を上げていくと、ペレット半径Rは密度
12 に反比例で減少していく。したがって、要求されるレーザーエネルギー𝐸𝐿は次式で書ける。
𝐸𝐿 =4
3𝜋(𝜌𝑅)3
𝜌2 × 4.6 × 108× 𝜖 (1.10) ここで、𝜖はレーザーとペレットとの結合の効率分を示す。ローソン条件より𝜌𝑅 ~ 0.1 g/cm2 と表せられ、固体DTペレットの質量密度は𝜌 = 0.2 g/cm3であるから、必要なレーザーエネ ルギーは109 Jとなる。ここで、燃料ペレットをなんらかの方法で圧縮し密度を高めてあげ ると、必要なレーザーエネルギーは𝜌2に反比例に減少していく。そのため、いかにして燃料 ペレットを圧縮するかが慣性核融合にとって重要である。
レーザーを固体燃料ターゲットに照射したあとの爆縮のしくみをFig.1.3に図示する。
(a). 固体燃料ターゲットにレーザーを照射すると、レーザーエネルギーは臨界密度面で吸
収され、ターゲット表面が加熱しプラズマ化する。
(b). 表面のプラズマは外側に膨張し膨張波ができる。表面の急激な温度上昇により生じる
高い圧力は、ターゲット内部に伝播する圧縮波を作る。圧縮波によりターゲットの内核 は圧縮され密度・温度を増していく。これをロケット作用という。
(c). ターゲットの中心部が核融合を起こすのに十分な密度・温度に達すると、核融合燃焼の
点火が起こる。
(d). 中心部で核融合燃焼により発生した熱は、外側に伝播していき加熱・点火を繰り返す。
13
Fig.1.3慣性核融合の爆縮のしくみ
14
1.5 磁気スラストチャンバ
磁気スラストチャンバはレーザー核融合ロケットの推進システムである。この推進シス テムは磁場によってレーザープラズマの運動方向を制御し推進力を得る。この推力発生の メカニズムをFig.1.4に図示する。
(a). 電磁コイルにより生成された磁場中に、レーザーを固体ターゲットに照射し、レーザー
プラズマを生成する。レーザープラズマは磁場中で膨張する。
(b). プラズマ中の荷電粒子は、電磁コイルの磁場によりラーマー運動をし、反磁性電流を生
む。反磁性電流により反磁場が生じ、コイル磁場は押し退けられ圧縮される。
(c). レーザープラズマは、プラズマの圧力と磁気圧が釣り合うまで膨張する。その後は、磁
場はバネのように元の形に戻ろうと復元力が働き、プラズマを押し出す。機体は、コイ ル電流とプラズマが生成する磁場のローレンツ力として推力を得る。
輸送機にとって推力を生み出す推進部は心臓部であり、長期間の運用には推進部が長く 稼働することが重要である。磁気スラストチャンバは磁場によって荷電粒子の運動方向を 制御するため、荷電粒子が機体の壁面に衝突することを防ぐことが出来る。そのため荷電粒 子の衝突による機体の損傷を軽減でき、推進システムの長寿命化が期待できる。また核融合 反応によって発生する高速中性子による機体の損傷も憂慮すべき点である。VISTA では機 体の形を円錐形にすることで、機体に衝突する中性子の数を軽減している。また超電導磁石 の前面にリチウムのシールドを置くことで、超電導磁石に中性子が衝突することを防ぐ。リ チウムのシールドに中性子が衝突することで、式(1.6)と式(1.7)に示すような反応が起こり、
核融合燃料であるトリチウムを回収することができる。
15
Fig.1.4磁気スラストチャンバの推力発生のメカニズム
16
1.6 研究目的
これまでの磁気スラストチャンバの研究は、数値解析と模擬実験の両面から進められて きた。長峯らは3次元(3D)ハイブリッドPIC(Particle-in-Cell)コードを使用し、磁気スラスト チャンバ内のプラズマ運動をシミュレートし、レイリー・テイラー不安定性が推進効率に与 える影響は少ないことを示した[28]。ハイブリッドコードは、イオンを粒子とし電子を流体 として扱い、磁場中のプラズマ運動を計算するコードである。梶村らはハイブリッドコード を用い、燃料ターゲットの点火の初期位置を変えることで推力ベクトルの制御を試みた[29]。 松田らはさまざまなターゲット形状を用いた時の推進効率を調べた[30]。ハイブリッドコー ドでは、レーザーがターゲットに照射してプラズマが生成される過程を考慮していなかっ た。そこで前野らは1次元(1D)輻射流体コードとハイブリッドコードを結合して、推力の磁 場による影響を調べた[31-32]。輻射流体コードはレーザープラズマが生成される過程を計 算している。輻射流体コードで計算したレーザープラズマ状態の諸量をハイブリッドコー ドに引き渡し、レーザープラズマの磁場中での運動を計算している。また核融合プラズマの 代わりにレーザープラズマを用いた、スケールダウンした磁気スラストチャンバの模擬実 験を行った。前野らはスラストスタンドを用いて、磁気スラストチャンバの推力を直接計測 し、この推進システムが有効であることを示した[33]。安永らは磁気プローブを用いて磁気 スラストチャンバ内の磁場の時間変化を計測し、反磁性キャビティを確認した[34]。これに より、コイル磁場がプラズマの膨張により圧縮されていることが実験的に示された。
これまでの研究では、磁気スラストチャンバ内の物理現象を模擬する数値解析コードの 開発およびその計算コードを用いた設計の性能評価や、模擬実験における推力測定が主に 行われてきた。しかし数値解析コードの妥当性検証のために、数値解析の計算結果と模擬実 験においてプラズマ状態や磁場状態の計測結果と比較する必要があるが、模擬実験におい て磁気スラストチャンバ内の物理現象(プラズマや磁場の時間変化など)の詳細な計測が不 十分であるという課題が残る。そこで本論文では、次の2点を目的として磁気スラストチャ ンバ内のプラズマ・磁場計測を行う。
先行研究ではスケールダウン(レーザーエネルギー数J、磁場~0.1 T)した磁気スラ ストチャンバの有効性を実証した[33-34]。そこで本研究では、レーザーエネルギ ーを数J~数百J、磁場強度を~1 T程度にスケールアップした磁気スラストチャン バにおいて、磁気スラストチャンバ内のプラズマ膨張の時間変化を光学計測や粒 子計測から観測し、磁気スラストチャンバの有効性を検証する。(目的1)
参考文献34では磁気プローブを用いて磁場の時間変化を計測したが、プローブで の磁場計測は 2 つの問題が考えられる。1 つ目はレーザープラズマは膨張してい くため、プラズマ近傍の磁場を計測するとき、プローブがプラズマに物理的に衝 突してしまいプラズマを乱し、磁場の精確な測定を阻害してしまうという問題が
17 ある。2つ目は磁気プローブでは局所的な磁場計測しかできない。数値解析と比較 するには全体の磁場構造との比較が好ましい。磁気プローブによる多点計測が考 えられるが、磁気スラストチャンバ内に多数のプローブを配置すると1つ目の問 題が難点となる。そこで、プラズマと非接触で磁場構造を計測できる磁場計測手 法として、プロトンバックライト法(詳細は 4 章で述べる)を磁気スラストチャン バの磁場計測に適用する。本論文では、Nd 永久磁石が生成する弱磁場(~0.1 T)に プロトンバックライト法を用い、磁場の有無によってプロトンのイメージが変化 するかを検証する。(目的2)
1.7 本論文の構成
本論文は以下の5章から構成される。
第一章では、これまでの火星探査の歴史および今後の計画を紹介しつつ、将来の有人火 星探査に有望なレーザー核融合ロケットおよびその推進システムである磁気スラストチ ャンバについて解説し、これまでの研究をふまえて本研究の意義及び目的について述べ た。
第二章では、アブレーションプラズマにおける素過程の物理モデルを説明した。
第三章では、磁気スラストチャンバ内のプラズマの振る舞いの磁場およびレーザーエ ネルギー依存性に関して報告した。実験で用いた発光分光法、干渉法、イオン電流計測法 が説明され、さらに得られた結果に関して、磁場やレーザーエネルギーの変化とともにプ ラズマの振る舞いが変化する様子を確認するとともにレーザー強度から見積もられるプ ラズマのエネルギーと磁場エネルギーの比によって、振る舞いが整理できることを明ら かにした。
第四章では、磁気スラストチャンバ内の磁場計測に関して、磁場計測の問題点、解決策、
磁場計測の検証に関して述べている。数MeVのプロトンを利用するプロトンバックライ ト法ではなく、低エネルギーのプロトンを用いたプロトンバックライト法を新たに提案 し、永久磁石を用いた弱磁場での検証実験を行い、プロトンイメージの変化を示した。
第五章では、本論文の総括を述べた。
18
参考文献
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14: JPL, “President Outlines Exploration Goal, Promise”, URL:
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15: “NASA’s Journey to Mars – Pioneering Next Steps in Space Exploration”
16: Tachibana, S., Nakazawa, T., and Shibukawa, K., “Stress Factors under Space Environment and Space Food”, Journal of the Japanese Society for Food Science and Technology, Vol.55, No.12, 583- 588 (2008) [in Japanese].
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20: Uchida, S., “Laser Propulsion”, J. Plasma Fusion Res., Vol.81, 186-194 (2005) [in Japanese].
20 21: Uchida, S., “Ground Launch and On-Orbital Applications of Laser Propulsion”, J. Plasma Fusion Res., Vol.83, No.3, 271-275 (2007) [in Japanese].
22: 栗木 恭一, 荒川 義博『電気推進ロケット入門』東京大学出版会, pp.183-197 (2003)
23: C. D. Orth, G. Klein, J. Sercel, N. Hoffman, K. Murray, and F. Chang-Diaz, “VISTA – A Vehicle for Interplanetary Space Transport Application Powered by Inertial Confinement Fusion”, Lawrence Livermore National Lab., UCRL-LR-110500 (2003).
24: 加藤 鞆一『バリティ物理学コース クローズアップ: 核融合はなぜむずかしいか』丸 善, pp.3-5 (1991)
25: 百田 弘『ヘリウム3資源』プラズマ・核融合学会誌,第71巻第6号, pp.526-528 (1995).
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27: レーザー学会編『レーザーハンドブック』オーム社, pp.761-779(1982).
28: Nagamine, Y. and Nakashima, H.: Analysis of Plasma Behavior in a Magnetic Thrust Chamber of a Laser Fusion Rocket, Fusion Technology, 35, 62-70 (1999).
29: Kajimura, Y., Kawabuchi, R., and Nakashima, H.: Control techniques of thrust vector for magnetic nozzle in laser fusion rocket, Fusion Engineering and Design, 81, 2871-2875 (2006).
30: Matsuda, N., Maeno, A., Kajimura, Y., and Nakashima, H.: A Magnetic Thrust Chamber Design For A Laser Fusion Rocket Based on Impact Ignition Scheme, J. Plasma Fusion Res., SERIES, 8, 1602-1605 (2009).
31: Maeno, A., Kajimura, Y., Sunahara, A., Yamamoto, N., Yasunaga, M., Hinaga, T., Hanaya, T., Fujioka, S., Johzaki, T., Mori, Y., and Nakashima, H.: Numerical Analysis of Magnetic Thrust Chamber System for Laser Fusion Rocket Considering the Creation Process of Laser-Produced Plasma, Trans. JSASS Aerospace Tech. Japan, 10, ists28, Pb_71-Pb_77 (2012).
21 32: Maeno, A., Hinaga, T., Yamamoto, N., Sunahara, A., Fujioka, S., and Nakashima, H.: Effect of Magnetic Field Strength on a Magnetic Thrust Chamber System, Journal of Propulsion and Power, 30, 1, 54-61 (2014).
33: Maeno, A., Yamamoto, N., Nakashima, H., Fujioka, S., Johzaki, T., Mori, Y., and Sunahara, A.:
Direct Measurement of the Impulse in a Magnetic Thrust Chamber System for Laser Fusion Rocket, Appl. Phys. Lett., 99, 071501 (2011).
34: Yasunaga, M., Maeno, A., Yamamoto, N., Nakashima, H., Fujioka, S., Sunahara, A., Mori, Y., and Johzaki, T., “Experimental Demonstration of Magnetic Thrust Chamber for a Laser Fusion Rocket”, Trans. JSASS Aerospace Tech. Japan, Vol.10, No. ists28, Pb_109-Pb_114 (2012).
22
2 章 レーザーと物質の相互作用
2.1 レーザーと物質の相互作用
レーザー光が固体ターゲットに照射すると、レーザーのエネルギーが吸収され固体ター ゲットをプラズマ化する。本章では、レーザー光を固体表面に照射し発生したプラズマ中で の吸収過程と、吸収されたエネルギーのプラズマから固体表面への輸送について説明する。
その後、ロケット作用と呼ばれる固体ターゲットの爆縮について説明する。
レーザー照射による固体ターゲット表面での密度分布を Fig.2.1示す。臨界密度面は、レ ーザーの振動数 ω とプラズマ振動数 ωpeが等しくなる密度であり、入射レーザーは臨界密 度面で反射される。プラズマ振動数は𝜔𝑝𝑒2= 𝑛𝑒𝑒2⁄𝜀0𝑚𝑒で定義される。ここでne は電子密 度、eは電気素量、ε0は真空中の誘電率、meは電子の質量である。臨界密度面における電子 密度(臨界密度)ncは次式で表される。ただし、μ0は真空の透磁率である。
𝑛𝑐=4𝜋2𝑚𝑒
𝜇0𝑒2𝜆2 (2.1)
レーザーの波長λは式(2.2)で表される。cは光速である。
𝜆 =2𝜋𝑐
𝜔 (2.2)
臨界密度面より前面では、主としてレーザーエネルギーの吸収が起こり、臨界密度面と固体 表面の間ではエネルギーの輸送が重要な過程になる。
23
Fig.2.1レーザー照射による固体ターゲット表面での密度分布。臨界密度より前面では、レ
ーザーのエネルギーがプラズマ中に吸収される。臨界密度面から固体表面ではエネルギー の輸送が重要な過程になる
24
2.2 吸収過程
電磁波がプラズマに照射されると、電磁波により揺り動かされる電子の運動エネルギー が、電子とイオンのクーロン衝突により熱エネルギーに変換されて、レーザーエネルギーの 吸収が起こる。この吸収過程は逆制動放射と呼ばれ、最も基本的な吸収過程であることから 古典吸収とも呼ばれる。この節では、逆制動放射の吸収過程において、レーザーエネルギー がターゲットに吸収される割合(吸収率)を求める。
入射レーザー光の強度をI0、波長をλとすると、𝐼0𝜆2≪ 2.7 × 1030 [W cm⁄ 2]∙ [m]2のとき、
レーザー光によって揺り動かされる電子の運動は非相対論になる。そのとき、電子の運動方 程式はイオンとの衝突も加味すると式(2.3)で表される[1]。
𝑚𝑒
𝑑𝑣⃗
𝑑𝑡 = −𝑒𝐸⃗⃗ − 𝑚𝑒𝜈𝑒𝑖𝑣⃗ (2.3) νeiは電子・イオン間の衝突周波数、𝑣⃗は速度ベクトルである。イオンは静止しているとする と、電子による電流𝑗⃗を−𝑛𝑒𝑒𝑣⃗と表せられる。ここで、𝑗⃗、𝐸⃗⃗、𝐵⃗⃗を𝑒𝑥𝑝 (𝑖𝑘⃗⃗ ∙ 𝑟⃗ − 𝑖𝜔𝑡)の形をとる とする。式(2.3)から電流は次式で書ける。
𝑗⃗ = 𝑖𝜔𝑝𝑒2 𝜀0𝐸⃗⃗
𝜔 + 𝑖𝜈𝑒𝑖 (2.4)
電子プラズマ振動数ωpeは、𝜔𝑝𝑒2 = 𝑛𝑒𝑒2/𝜀0𝑚𝑒で定義される。電磁波からプラズマへのエネ ルギー吸収は、ジュール加熱Re(𝑗⃗ ∙ 𝐸⃗⃗∗)で行われることを考えれば、式(2.4)から電子・イオン 間の衝突周波数νeiがなければ、電流と電界の位相は90°ずれているため、プラズマは加熱さ れないことを示す(ここでReは実部をとることを意味し、*は複素共役を表す)。
電磁波の群速度をvgとすると、エネルギー流束は𝑣𝑔𝜀0|𝐸⃗⃗|2である。電磁波はジュール加熱 でプラズマを加熱するため、単位時間当たりRe(𝑗⃗ ∙ 𝐸⃗⃗∗)のエネルギーを失っていく。この過程 をエネルギー保存則で表すと、
𝛻 ∙ (𝑣𝑔𝜀0|𝐸⃗⃗|2) = −𝑅𝑒(𝑗⃗ ∙ 𝐸⃗⃗∗)
= −𝜈𝑒𝑖(𝜔𝑝𝑒 𝜔 )
2
𝜀0|𝐸⃗⃗|2≡ −𝐾𝑎𝑣𝑔𝜀0|𝐸⃗⃗|2 (2.5) となる。ここでνei≪ωを仮定した。また式(2.5)では、単位時間当たりに失うエネルギーを吸 収係数Kaを定義して、−𝐾𝑎𝑣𝑔𝜀0|𝐸⃗⃗|2としている。式(2.4)をマクスウェル方程式
𝛻 × 𝐸⃗⃗ = −𝜕𝐵⃗⃗
𝜕𝑡, 𝛻 × 𝐵⃗⃗ = 𝜇0𝜀0𝜕𝐸⃗⃗
𝜕𝑡 + 𝜇0𝑗⃗ (2.6)
25 に代入する。ここで𝛻 = 𝑖𝑘⃗⃗, 𝜕 𝜕𝑡⁄ = −𝑖𝜔, 𝜇0𝜀0= 1 𝑐⁄ 2を考慮すると、電磁波に対する分散関係 式を得る。
(𝑐𝑘
𝜔)2= 1 − (𝜔𝑝𝑒 𝜔 )
2 1
1 + 𝑖 𝜈𝑒𝑖⁄𝜔 (2.7)
波数kの実部をkr、虚部をkiとすると、
𝑘𝑟=𝜔
𝑐√1 − (𝜔𝑝𝑒
𝜔 )2 (2.8)
𝑘𝑖=1 2
𝜈𝑒𝑖 𝑐 (𝜔𝑝𝑒
𝜔 )
2
/√1 − (𝜔𝑝𝑒⁄ )𝜔 2 (2.9) となる。ここで、ω>ωpeのとき、kr>0となり、電磁波はFig.2.1が示すように、電磁波のエ ネルギーが吸収されながら伝播していく。そして、臨界密度面(ω=ωpe)のとき kr=0 となり、
電磁波はそれ以上伝播できずに反射する。群速度 vg は𝜕𝜔 𝜕𝑘⁄ 𝑟= 𝑐√1 − (𝜔𝑝𝑒⁄ )𝜔 2となるた め、式(2.5)から吸収係数Kaは、
𝐾𝑎 =𝜈𝑒𝑖 𝑣𝑔
(𝜔𝑝𝑒
𝜔 )2=𝜈𝑒𝑖 𝑐 (𝜔𝑝𝑒
𝜔 )
2
/√1 − (𝜔𝑝𝑒
⁄ )𝜔 2 (2.10)
となり、𝐾𝑎= 2𝑘𝑖の関係がある。これは、電磁波の空間的減衰率がkiであり、電磁波のエネ ルギーが振幅の2乗に比例し、空間的減衰率が2kiとなることからも理解できる。
密度プロファイルをFig.2.2が示すように、𝑛𝑒(𝑥) = 𝑛𝑐𝑥/𝐿と仮定する。ここで、Lは密度 勾配の特性長である。この勾配に対して角度 θ で斜めに照射する電磁波の分散関係式は式 (2.11)となる[2]。
(𝑐𝑘
𝜔)2= 1 − 𝜔𝑝𝑒2
𝜔2(1 + 𝑖 𝜈𝑒𝑖⁄ )𝜔 − 𝑠𝑖𝑛2𝜃 (2.11) kは次式となる。
𝑘2=𝜔
𝑐 [𝑐𝑜𝑠2𝜃 − 𝜔𝑝𝑒2 𝜔2(1 + 𝑖 𝜈𝑒𝑖⁄ )𝜔 ]
1/2
(2.12) ここで、衝突周波数𝜈𝑒𝑖はプラズマ密度に比例するため、𝜈𝑒𝑖= 𝜈𝑒𝑖∗ 𝑛𝑒
𝑛𝑐
⁄ と近似できる。𝜈𝑒𝑖∗は 臨界密度面での衝突周波数を示す。WKB(Wentzel-Kramers-Brillouin)近似では、電磁波のエネ ルギー減衰はexp(−2𝛿)となる[2]。ここで、
𝛿 = 2𝐼𝑚 ∫ 𝑘(𝑥′)𝑑𝑥′
𝐿𝑐𝑜𝑠2𝜃 0
(2.13) となる。𝐼𝑚は虚部を示し、係数の 2 は入射した電磁波が反射したときの往復分を示す。式 (2.12)を式(2.13)に代入し、𝜈𝑒𝑖∗ ≪ 𝜔と仮定すると、𝛿 = (16𝜈𝑒𝑖∗𝐿/15𝑐)𝑐𝑜𝑠5𝜃を得る。そのため、
電磁波の吸収率𝜂𝑎は、
𝜂𝑎= 1 − 𝑒𝑥𝑝 (−32𝜈𝑒𝑖∗𝐿
15𝑐 𝑐𝑜𝑠5𝜃) (2.14)
26 となる。垂直入射(𝜃 = 0)では、吸収率は
𝜂𝑎= 1 − 𝑒𝑥𝑝 (−32𝜈𝑒𝑖∗𝐿
15𝑐 ) (2.15)
となる。また吸収率𝜂𝑎はレーザー光の強度𝐼0の関数で示せる[1]。
𝜂𝑎𝑙𝑛[1 − 𝜂𝑎]−1= 1011𝐿𝜔/𝑐𝐼0 (2.16)
式(2.16)で表される古典吸収によるレーザーの吸収率をエネルギー強度I0の関数として表し
たのが Fig.2.3 である。ここで、密度勾配の特性長は𝐿 = 50 μm、レーザー周波数𝜔 =
1.77 × 1015 s−1としている。図から分かるように、逆制動放射による吸収過程は、レーザー エネルギーが増加するにつれて、レーザーエネルギーがプラズマに吸収されなくなる。これ は、電子とイオンの衝突周波数が電子温度の3/2乗に反比例するため、レーザーエネルギー が増加すると、電子温度が高くなり衝突周波数が減少する。その結果、吸収率が減少するこ とからも想像できる。
27
Fig.2.2入射レーザーが密度面に入射角 θ で入射するときの様子を示す。入射レーザーは密
度面nccos2θで反射される。この時、密度プロファイルはne(x)=ncx/Lと仮定している
Fig.2.3古典吸収による吸収率のレーザーエネルギー依存性
28
2.3 エネルギー輸送
臨界密度面付近で吸収されたレーザーエネルギーは、電子の熱伝導もしくは放射(X 線な ど)の熱輸送により固体ターゲット表面まで輸送されイオンを加熱する。その結果、気化、
電離、およびプラズマ化し、固体ターゲットのアブレーションとプラズマの噴出が起こる。
アブレーションプラズマの温度と膨張速度はFig.2.4に示すように変化する。ここで、イオ ンとの衝突による電子の平均自由行程𝑙𝑒𝑖= 𝑣/𝜈𝑒𝑖が系の長さに比べると十分短いと仮定す る。熱伝導による熱流束は、
𝑞 = −𝜅′ 𝜕
𝜕𝑥(𝑇𝑒[𝑒𝑉]) (2.17)
である。ここで、𝜅′は熱伝導率である。電子とイオンの散乱によるエネルギー緩和時間は電 子温度とイオン密度に比例する(𝜏𝑒𝑖∝ 𝑇𝑒3/2/𝑛𝑖)[3]。つまり、固体では(𝑛𝑖が高く、𝑇𝑒が低い)、 エネルギーの緩和時間は短く、イオン温度𝑇𝑖と電子温度𝑇𝑒は同じと見做せる。また、アブレ ーションプラズマは流体と見做すと、次の流体方程式で書き表せる[1]。
𝜕𝜌
𝜕𝑡 + 𝜕
𝜕𝑥𝜌𝑢 = 0 (2.18)
𝜕𝜌𝑢
𝜕𝑡 + 𝜕
𝜕𝑥(𝜌𝑢2+ 𝑝) = 0 (2.19)
𝜕
𝜕𝑡(𝜌𝜀 +1
2𝜌𝑢2) + 𝜕
𝜕𝑥[𝜌𝑢 (𝜀 +1 2𝑢2+𝑝
𝜌)] = 𝜌𝑄 (2.20)
ここで、𝜌は質量密度、𝑢は流れの速度、𝑝は圧力、𝜀は単位質量あたりの内部エネルギー、𝑄 はエネルギー増加の割合である。理想気体とすると状態方程式は、
𝑝 = (𝛾 − 1)𝜀𝜌 (2.21)
となる。ここで、𝛾は断熱指数であり、単原子分子の場合は5/3である。式(2.18)、式(2.19)を 用いると、熱伝導が存在する場合はエネルギー保存則[式(2.20)]は、
𝜕
𝜕𝑡𝑇 + 𝑢𝜕𝑇
𝜕𝑥= −2 3𝑇𝜕𝑢
𝜕𝑥+2 3 1 𝑛
𝜕
𝜕𝑥𝜅 𝜕
𝜕𝑥𝑇 (2.22)
となる。ここで、熱伝導係数𝜅はおおよそ𝜅~𝑛𝑣𝑙𝑒𝑖であるため、𝜅は𝑇𝑒5/2に比例しプラズマ中 の熱伝導は非線形に伝わる。
非線形の熱伝導は、熱が波のように有限の速度で伝播する。一方、流体の速度は音速程度 であるから、熱伝導の速度が音速より大きいとき、流体の運動を無視できる。ここで、流体 の運動を無視すると式(2.22)は次式で書き表せる。
𝜕
𝜕𝑡𝑇 =2𝜅0 3𝑛
𝜕
𝜕𝑥𝑇5/2 𝜕
𝜕𝑥𝑇, 𝜅 = 𝜅0𝑇5/2 (2.23) ここで、流体の運動を考慮していないため密度nは一定としている。また、レーザーエネル
29 ギーの吸収を一定と仮定すると吸収領域で
−𝜅0𝑇52 𝜕
𝜕𝑥𝑇 = 𝜂𝑎𝐼 (2.24)
となる。𝜂𝑎は吸収率である。左辺は熱流束を示し、右辺はレーザーがプラズマに与えるエネ ルギーを示す。温度の分布をFig.2.5とすると、熱伝導係数𝜅 ∝ 𝑇𝑒5/2であるから、温度の高い ところほど、熱流束が大きくなる。したがって、熱伝導は波頭を形成し有限の速度で伝播す る。ここでレーザーエネルギーの吸収が一定の場合の伝播速度を求める。時刻tでの波頭を xfとすると、式(2.23)、式(2.24)より
𝑇 𝑡~2𝜅0
3𝑛 𝑇7/2
𝑥𝑓2 , 𝜅0𝑇7/2
𝑥𝑓 ~𝜂𝑎𝐼 (2.25)
となり、波頭の速度𝑥𝑓/𝑡と温度は次式で表せられる。
𝑥𝑓 𝑡 ~ [(2
3𝑛)7(𝜅0
𝑡 )2(𝜂𝑎𝐼)5]
1/9
, 𝑇~ [( 2
3𝑛𝜅0)(𝜂𝑎𝐼)2𝑡]
2/9
(2.26) ここで、波頭の速度は𝑡−2/9に比例して減少する。また、波頭の速度は(𝜂𝑎𝐼)5/9に比例し、音 速は𝑇1/2~(𝜂𝑎𝐼)2/9に比例するから、固体ターゲットの厚さが薄く、レーザーエネルギーが高 い場合には、流体の運動が始まるまでにプラズマは一様に加熱され、両側に膨張することに なる。
ここで、アブレーションプラズマの質量噴出率と膨張速度を導出する。臨界密度面付近で 吸収されたレーザーエネルギーは電子のエネルギーに変換される。1次元の電子の熱流束 は次式となる[4]。ただし、𝑓は熱流束制限係数である。
𝑓𝑛𝑐𝑚𝑒𝑣𝑒3=3
4𝜂𝑎𝐼 (2.27)
1次元の電子の熱速度は、𝑣𝑒= (𝑘𝑇𝑒/𝑚𝑒)1/2であるから、式(2.27)から電子温度は、
𝑘𝑇𝑒 = (3𝜂𝑎𝐼 4𝑓𝑛𝑐
𝑚𝑒1/2)2/3 (2.28)
と書ける。ここで、kはボルツマン定数である。温度が決まれば音速を求めることが出来る [1]。
𝑐𝑠 = √(1 + 𝑧)𝑘𝑇𝑒
𝑚𝑖 = (3𝜂𝑎𝐼
4𝑓𝑛𝑐)1/3√(1 + 𝑧)𝑚𝑒1/3
𝑚𝑖 (2.29)
ただし、zはイオン価数、𝑚𝑖はイオン質量である。単位時間に単位面積から噴出する質量(質 量噴出率)は、音速と臨界質量密度𝜌𝑐= (𝑚𝑖/𝑧)𝑛𝑐から次式で書ける[5]。
𝑚̇ = 𝜌𝑐𝑐𝑠 =𝑛𝑒2/3 𝑧 (3𝜂𝑎𝐼
4𝑓 )1/3√(1 + 𝑧)𝑚𝑒1/3𝑚𝑖 (2.30)
30 Fig.2.4電子温度(Te)、イオン温度(Ti)、アブレーション速度(u)の空間分布
Fig.2.5非線形の熱伝導の伝播
31
2.4 爆縮
核融合燃焼に要求されるレーザーエネルギーを小さくするには、固体ターゲットを高密 度に圧縮することが重要である。圧縮には大別して「爆発形」と「噴出形」の2つのタイプ がある[1]。この違いはFig.2.6が示すように、ターゲット固体の厚みと密度に大きく依存し ている。爆発形の場合、Fig.2.6(a)が示すように、外殻部の厚さが薄く、質量密度が高いター ゲットで起こる。この場合2.3節で述べたように、吸収されたレーザーエネルギーは流体運 動が始まる前の短時間のうちにターゲット内部まで、X線や電子によって輸送され、ターゲ ット全体を一様に加熱しプラズマが両側に膨張する。しかし、外側の球殻部分は高密度であ るため、内側の燃料部より圧力が高くなっている。そのため、球殻部が外側(真空側)と内側 (燃料部)に膨張していき、燃料が圧縮される。そこで圧縮後の燃料の密度𝜌𝐹を考える。初期 状態として、Fig.2.6(c)が示すように、球殻部の半径が𝑅、厚さが∆𝑅(∆𝑅 ≪ 𝑅)、密度が𝜌𝑖とす る。球殻部が燃料部側に膨張するとすると、最終的に燃料と球殻部の密度は𝜌𝐹 ≈3
2
∆𝑅 𝑅 𝜌𝑖とな る。ここで、𝜌𝐹を増やすため∆𝑅
⁄𝑅を増加すると、球殻部にエネルギーを費やしてしまう。
核融合燃焼においては、燃料部の密度を高めるために、燃料部側へ膨張する運動エネルギー に変換される割合が高いほうが好ましい。そのため球殻部に余分なエネルギーが費やされ ることは、あまり好ましくない。
噴出形の場合は、Fig.2.6(b)が示すように、外殻部の厚さが厚く、質量密度の低いターゲッ トで起こる。この場合、レーザー照射側のみが、表面部分が高温化して真空側にプラズマを 噴き出す。このとき、ターゲットは噴き出すプラズマのロケット作用を受けて、内側に圧縮 される。噴出形は爆発形と比べて、圧縮後の密度が高くなる。ここでロケット方程式から流 体力学的効率を導出する。流体力学的効率とは、吸収されたエネルギーのうちで、内側の燃 料を圧縮するために変換された運動エネルギーの割合のことをいう。ここで、ターゲットの 初期全質量を𝑀𝑖、レーザー照射により噴出したプラズマの質量を∆𝑀、アブレーションされ ずに残ったターゲットの質量を𝑀𝐹(= 𝑀0− ∆𝑀)とする。残ったターゲットはレーザーが照 射された側とは反対の方向に速度𝑣で動き出す。ターゲットから外側に噴出したプラズマは ターゲット座標系からみて速度𝑢で噴出しているとすると、この系の運動方程式から、
𝑑(𝑀𝑣)
𝑑𝑡 = −(𝑢 − 𝑣)𝑑𝑀
𝑑𝑡 (2.31)
となる。式(2.31)を積分すると、𝑣⁄ = 𝑙𝑛(𝑀𝑢 𝑖/𝑀𝐹)となる。ターゲットの運動エネルギー𝐾. 𝐸 と噴出するプラズマの運動エネルギー𝐸𝑒𝑥は、
𝐾. 𝐸 =1
2𝑀𝐹[𝑢 𝑙𝑛(𝑀𝑖
𝑀𝐹)]2, 𝐸𝑒𝑥=1
2(𝑀𝑖− 𝑀𝐹)𝑢2 (2.32)
となる。流体力学的効率𝜂𝐻は式(2.32)より、
32 𝜂𝐻=𝐾. 𝐸
𝐸𝑒𝑥
= 𝑀𝐹 𝑀𝑖− 𝑀𝐹
[𝑙𝑛(𝑀𝑖 𝑀𝐹
)]2 (2.33)
となる。ここで、アブレーションの質量∆𝑀が初期の質量𝑀𝑖に比べて小さいとき、ターゲッ トの速度𝑣が上がらず、ターゲットを圧縮するための十分なエネルギーを得られない。逆に アブレーション質量∆𝑀が多い場合、ターゲットの速度は増加しても残ったターゲットの質 量𝑀𝐹が小さく、この場合も十分なエネルギーを得られない。そのため、残った質量𝑀𝐹と初 期質量𝑀𝑖の比に最適値があると考えられる。𝑀𝐹/𝑀𝑖を関数とした流体力学的効率の値を Fig.2.7に図示する。この図が示す通り、𝑀𝐹/𝑀𝑖≈ 0.2で最大値𝜂𝐻≈ 0.65をとる。
33
Fig.2.6 2 つの圧縮タイプ。(a)爆発形、(b)噴出形。(c)ターゲットの初期状態と圧縮された後
の質量密度状態
Fig.2.7流体力学的効率と残留質量(MF)の初期質量(Mi)に対する比
34
参考文献
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35
3 章 プラズマ計測
3.1 プラズマ計測
これまでの磁気スラストチャンバの研究は、磁気スラストチャンバ内のプラズマの膨張 を模擬する数値解析の開発、そしてその計算コードを用いた磁気スラストチャンバの性能 評価を行ってきた[1-5]。また核融合プラズマの代替としてレーザープラズマを用いた模擬 実験において、レーザー条件(レーザーエネルギー、パルス幅、波長)を変化させて推力の直 接測定[6]が行われてきた。ここで数値解析コードの妥当性検証のためには、数値解析の計 算結果と模擬実験においてプラズマ状態や磁場状態の計測結果と比較する必要がある。し かし、模擬実験において磁気スラストチャンバ内のプラズマや磁場の時間変化などの計測 が不十分である。そこで、この章ではプラズマ自発光計測(3.2 節)、レーザー干渉法による 電子密度計測(3.3節)、粒子計測によるイオン電流計測(3.4節)から、磁場条件やレーザー条 件を変えた時のプラズマ膨張の時間変化や電子密度の変化を調査した。
3.2 プラズマ自発光計測
原子核の軌道を回る電子に外部からエネルギーが与えられると、電子はより高いエネル ギー準位に遷移する。このエネルギーが高い状態(励起状態)は不安定な状態であるため、電 子は元の安定したエネルギーが低い状態(基底状態)に遷移しようとする。このときの差分の エネルギーは光として空間へ放射される。この放射される光の波長は、原子のエネルギー準 位が決定されているため一定の波長に決まる。元素によってエネルギー準位が異なるので、
放射された光の波長を計測することで、プラズマ中に存在する元素を知ることができる。ま た、ある特定の波長の光を観測することで、その元素の挙動を知ることができる。レーザー プラズマはレーザーのエネルギーが与えられることで励起し、励起状態から基底状態に遷 移するときにプラズマから光が発せられる。このプラズマの発光を計測することでプラズ マの形状を観測することができる[7]。また熱制動放射は、プラズマ中の自由電子がイオン のクーロン力により、その軌道が曲げられた時に発生する電磁波である。電子の速度分布は
熱的(Maxwell分布)であるため、熱制動放射のスペクトルは連続スペクトルで広い範囲の波
長スペクトルをもつ。この節では、ポリスチレンターゲットにレーザーを照射して水素(H) と炭素(C)のプラズマを生成し、水素原子及び熱制動放射の発光計測からプラズマ形状の磁 場強度依存性を観測した[8]。
36
3.2.1 実験配置
この実験は、大阪大学レーザー科学研究所が所有する Extreme UltraViolet(EUV) Database レーザー施設で行った。実験の配置図をFig.3.1に示す。このレーザー施設では、1方向から Neodymium: Yttrium Aluminum Garnet(Nd:YAG)レーザーをポリスチレン([-CH2-CH(C6H6)-]n,
CH)中実球ターゲットに照射してCHプラズマを生成する。照射レーザーはターゲット半径
と同じ250 μmのスポット半径でターゲットに集光される。本実験における、照射レーザー
の条件をTable.3.1に示す。ポリスチレンターゲットはカーボンファイバーの先端に吊るし、
ファイバーの逆端をガラス棒に付けて保持した。これにより、ガラス棒がレーザー照射によ りプラズマ化するのを防いでいる。ターゲットは、電磁コイル表面から11 mm離して(電流 が流れるコイルの銅線からは13 mm離して)配置した。
磁場を生成するために、内半径13 mm、外半径25 mm、厚さ10 mmの電磁コイルに電流 を流すことで磁場を生成した。電磁コイルは、z軸方向に8回、コイルの半径方向に12層 銅線を巻いた。電磁コイルに電流を流すために、並列に並べた3つのコンデンサ(3 mF)に電 荷を溜め、レーザー照射に合わせてコンデンサから電磁コイルに電流を流した。ここで、電 磁コイルに流れる電流は電流プローブにより計測をした。ガウスメーターで磁束密度を事 前に計測することで、電流と磁束密度の関係を知ることができ、電流の実測値から生成され た磁場の強さが分かる。電磁コイルは Fig.3.2(a)が示すような(矢印は磁場ベクトルを表す)、 発散する磁場の初期形状を作る。コンデンサに500 Vを印加したとき、おおよそ1,100 Aの 電流が電磁コイルに流れ、そのときのターゲット位置(コイル表面から11 mm)の磁束密度の 時間変化をFig.3.2(b)に示す。このとき最大1.1 Tの磁場が生成され、磁場発生の時間スケー ルはミリ秒である。一方、磁気スラストチャンバ内のプラズマ膨張の時間スケールはマイク ロ秒であるため、磁場波形のピークの時間にレーザーを照射することにより、プラズマが膨 張している間は、電磁コイルの磁場強度は一定とみなすことができる。そのため、今後本章 で記述する磁束密度はターゲット位置における磁場波形のピーク値と定義する。
ここで磁気スラストチャンバのパラメータとしてプラズマと磁場のエネルギー比𝐸𝐵/𝐸𝑝
を定義する。磁場エネルギー𝐸𝐵とプラズマエネルギー𝐸𝑝は次式で定義される。
𝐸𝐵=12𝐿𝐼2、𝐸𝑝= 𝜂𝑎𝐸𝐿 (3.1)
ここで、Lはコイルのインダクタンス、Iはコイルを流れる電流、𝜂𝑎はレーザーのプラズマ への吸収率、𝐸𝐿はレーザーのエネルギーを示す。コイルのインダクタンスと電流は実測値を 用いている。レーザーの吸収率𝜂𝑎はレーザー強度I0の関数であり、式(2.16)から求めること ができる。レーザーの強度は𝐼0= 3.22 × 1011W cm⁄ 2であるため、密度勾配の特性長を50.0 μm 程度と仮定すると、レーザーの吸収率は𝜂𝑎 = 1.0となる。各磁場条件でのエネルギー比 をTable.3.2にまとめる。
プラズマからの発光は、レンズ(焦点距離 200 mm)により Intensified Charge Coupled