磁気スラストチャンバが生み出す推力は、プラズマの運動量変化(つまり排出されるプラ ズマの質量と速度)に依存する。そのため質量が重いイオンが磁気スラストチャンバから排 出されることを観測することは重要である。プラズマ自発光計測ではターゲット初期位置 から離れるとプラズマの密度が低下し発光の強度が下がるため、ターゲット初期位置付近 しか計測できない。そこで、多数のファラデー型チャージコレクタを円環状に遠距離に配置 し、飛来してきたイオンを直接計測することで、イオン膨張の空間分布を観測した。また、
磁場強度を変化することで、イオンの空間分布がどのように変化するかを調査した。
3.4.1 実験配置
この実験は、大阪大学レーザー科学研究所が所有するEUV Databaseレーザー施設で行っ た。実験の配置図をFig.3.18に示す。Nd:YAGレーザー(波長1,064 nm)をポリスチレンター ゲットにターゲット半径と同じ250 μmのスポット半径で照射した。磁場生成用の電磁コイ ルは、3.2節のプラズマ自発光計測で用いたコイルと同じものを使用した。ターゲット初期
位置から150 mm離した位置にチャージコレクタを円環状に配置しイオンを計測した。+z軸
からの角度をθとしている。実験1では、レーザーパルス幅τ = 9.5 ± 0.5 ns、レーザーエネ ルギー𝐸𝐿= 6.0 ± 0.8 Jのレーザーを使用し、チャージコレクタをθ=14 deg(A)、25 deg(B)、45 deg(C)、60 deg(D)、75 deg(E)、104 deg(F)に配置した。実験 2 では、レーザーパルス幅τ = 9.4 ± 0.1 ns、レーザーエネルギー𝐸𝐿= 7.5 ± 0.2 Jのレーザーを使用し、チャージコレクタを θ=5 deg(G)、10 deg(H)、15 deg(I)、25 deg(J)、95 deg(K)、165 deg(L)に配置した。チャージコ レクタLのみが電磁コイルを抜けたイオンを計測している。ここで、磁場の条件と式(3.1)で 計算した磁場とプラズマのエネルギー比𝐸𝐵/𝐸𝑝をTable.3.5にまとめる。
今回使用したチャージコレクタはFig.3.19 が示すように、SMA端子に銅製の円筒型コレ クタを付け、その外側にキャップを付けた形状をしている。キャップをアースに接地し、直 径1 mmの穴を通過する荷電粒子のみを計測している。コレクタには抵抗を挟んで負の電圧 を印加することで、キャップとコレクタ間でコレクタに向かう方向に電場が形成される。こ の電場によって侵入してきた電子を押し返し、イオンのみを計測している。ここで、電子の 侵入を防ぐための印加電圧の大きさ Vcは𝑉𝑐≫ (𝐸𝑖⁄ )(𝑚𝑧 𝑒⁄𝑚𝑖)を満たさなければならない [20]。Eiはイオンのエネルギー[eV]、zは荷電数、𝑚𝑒と𝑚𝑖は電子とイオンの質量である。Ei=1 keV、z=1、原子数𝐴𝑖 = 1の水素イオンの場合、電子の侵入を防ぐ印加電圧の大きさは𝑉𝑐~0.5 V となる。この実験では-30 V印加した。コレクタに衝突したイオンは電流に変換され、抵抗 を通過するときに電圧を降下させる。抵抗の両端の電圧を計測することで、オームの法則か らイオン電流を得ることができる。また円筒型のコレクタを用いることで、コレクタ内部で
72 高速のイオンがコレクタに衝突した際に発生する 2 次電子をコレクタに再衝突させること で、2次電子の放出によるイオン電流の水増しを防いでいる[21]。
73
Fig.3.18チャージコレクタ計測における実験配置図及びレーザー・チャージコレクタ条件(実
験1、実験2)
74
Table.3.5チャージコレクタ計測におけるエネルギー比EB/Ep
Fig.3.19チャージコレクタの(a)外観図、(b)円筒型Cuコレクタ、(c)概略図
磁場 [T] EB/Ep
実験 1 実験 2
0.0 0.0 0.0
0.12 0.28
0.23 1.4
0.46 5.4 4.3
0.67 12 9.6
0.89 21 16.5
1.1 31 25.1
1.32 45
75
3.4.2 実験結果
3.4.2.1 イオンの速度分布関数
磁場が無い場合、レーザー照射によって生成されたイオンはまっすぐにチャージコレク タまで飛来してくる。そのため、飛行時間(time-of-flight)からイオンの速度分布を求めること ができる。イオンの速度𝑣𝑖はコレクタまでの距離L=150 mmと時間t(プラズマが生成された 時間をt=0とする)から𝑣𝑖 = 𝐿/𝑡と表せられる。ここで注意することは、磁場がある場合は荷 電粒子は磁場によって運動方向を曲げられてコレクタで計測される。つまり、計測された荷 電粒子の飛行距離はコレクタまでの距離 L よりも長くなる。そのため計算した速度は、実 際の速度よりも低く見積もられ正確性に欠ける結果となる。
イオンの速度分布関数𝑛𝑖(𝑣𝑖)を求める。ここで、𝑡~𝑡 + ∆𝑡の間にコレクタに衝突したイオ ン数は𝑣𝑖~𝑣𝑖+ ∆𝑣𝑖の間に衝突したイオンと同数であるため、次式が成り立つ。
𝑛𝑖(𝑣𝑖)∆𝑣𝑖 =𝑑𝑁𝑖(𝑡)
𝑑𝑡 ∆𝑡 (3.15)
ここで、d𝑁𝑖(𝑡)/𝑑𝑡は単位時間あたりにコレクタに衝突するイオン数を示している。コレク
タで計測されるイオン電流𝐼𝑖は単位時間あたりにコレクタに衝突するイオン電荷の増加分 に等しいため次式で表せる。
𝑧𝑒𝑑𝑁𝑖(𝑡)
𝑑𝑡 = 𝐼𝑖(𝑡) =𝑉𝑖(𝑡)
𝑅 (3.16)
ここで、𝑉𝑖(𝑡)はイオン電圧、𝑅は抵抗を表す。式(3.15)と式(3.16)からイオンの速度分布関数 は次式で表せる。
𝑛𝑖(𝑣𝑖) =𝑑𝑁𝑖(𝑡) 𝑑𝑡
𝑑𝑡
𝑑𝑣𝑖=𝑉𝑖(𝑡) 𝑧𝑒𝑅
𝑡2
𝐿 (3.17)
と表せられる。そのため、計測実験から得られたイオン電圧の時間変化からイオンの速度分 布関数を得ることができる。
本実験では、照射レーザーは電磁コイル側(上流側)から 1 方向で入射される。そのため、
大部分のプラズマが上流側に飛来する。そこで、磁場が無い場合のコイルを抜けたイオンを 計測するチャージコレクタ L(θ=165 deg)の計測結果から式(3.17)を用いて計算したイオンの 速度分布関数をFig.3.20に示す。生成したアブレーションプラズマは速度が<170 km/sのイ オンが大部分を占めている。
76 Fig.3.20 θ=165 deg(チャージコレクタL)、磁場B= 0 Tにおけるイオンの速度分布ni(vi) [s/m]
(実験2 EL=7.5 J)
77
3.4.2.2 イオン電流密度の時間変化
磁場が無いときとターゲット位置で 1.1 T の磁場を印加したときの、チャージコレクタ
G(θ=5 deg)における、イオン電流密度の時間変化の実験結果をFig.3.21(a)に示す。イオン電
流密度は、式(3.16)で求めたイオン電流𝐼𝑖をチャージコレクタの穴(直径1 mm)の面積で割っ た値である。磁場が無いとき、ほとんどイオン電流密度が計測されなかった。一方磁場を印 加することで、イオン電流密度が計測され、その波形は1.0 μsと2.0 μsに2つのピークを持 っている。
ここで枝本らは 2次元輻射流体コードと 3D ハイブリッドPICコードを用いて磁気スラ ストチャンバ内のプラズマの運動を数値解析し、チャージコレクタG(θ=5 deg)で計測される イオン電流密度の時間変化を計算した[22]。その計算結果をFig.3.21(b)に示す。ここでプラ ズマが膨張する初期段階(磁場の影響を受ける前)で、上流側に膨張するイオンを”reflected ion”と定義し、コイルとは反対側(下流側)に膨張するイオンを”non-reflected ion”と区別した。
計算の結果、磁場があるときに下流側で”reflected ion”が計測され、0.8 μsでは”reflected ion”
が大部分を占めていた。この計算結果は、Fig.3.21(a)で得られた磁場を印加したときの電流 密度の波形には、外部磁場によって跳ね返されたイオンが含まれている可能性を示唆して いる。これは、磁気スラストチャンバが推力を生成する原理と同じであり、プラズマ自発光 計測(H-αと制動放射の発光)とレーザー干渉計測による電子密度分布で見られた現象と同じ ことが、ターゲット初期位置から遠方の距離において、イオン粒子の直接計測からも観測す ることができた。
78 Fig.3.21 θ=5 deg(チャージコレクタG)での、イオン電流密度の時間変化(実験2 EL=7.5 J)[(a) 実験結果、(b)数値解析結果(磁場1.1 T)[22]]
79
3.4.2.3 イオン電荷密度の空間分布
電磁コイルはFig.3.18に示すように、z軸に対して対称に設置しているため、磁場の空間 分布はz軸に対して軸対称に生成される。また、レーザーの照射及びターゲットの配置もz 軸に対して対称であるため、レーザープラズマはz軸に対して軸対称に膨張する。その結果 y軸方向の推力は打ち消しあい、推力はz軸の成分のみ残る。そのため、プラズマのy軸方 向への広がりは推進効率の低下を招く。磁気スラストチャンバの推進効率は∑ 𝑚𝑖 𝑖𝑣𝑧/
∑ 𝑚𝑖 𝑖|𝑣0|で表される。ここで、𝑚𝑖はイオンの質量、𝑣𝑧と𝑣0はz方向の速度と初期速度を示す。
そこでターゲット初期位置から遠方において、電磁コイルの磁場強度を変化させたときに イオンの空間分布がどのように変化するかを調べる。
(実験1) Fig.3.22(a)-(h)にレーザーエネルギーが6.0 Jのとき、エネルギー比が(a)0、(b)0.28、 (c)1.4、(d)5.4、(e)12、(f)21、(g)31、(h)45となる磁場を印加したとき、イオン電流密度をt=8 μsまで時間積分した値(イオン電荷密度)の空間分布を示す。エラーバーは標準偏差で表して おり、𝐸𝐵⁄𝐸𝑝 =(b)0.28と(h)45は計測数が1回ずつのためエラーバーはない。磁場が無いと き、どの角度でもイオン電荷密度はほとんど計測されていない。ターゲット側面側(θ=104 deg)で検知されなかった理由は、照射レーザーのエネルギーはガウシアン分布であるため、
ターゲット側面に照射されたレーザーのエネルギーは低く、十分にターゲットにエネルギ ーが吸収されなかったためである。磁場を強くしていくと、𝐸𝐵⁄𝐸𝑝= 1.4でθ=45 deg、60 deg のイオン電荷密度が上昇している。𝐸𝐵⁄𝐸𝑝>5.4では、一様にθ=45 degにピークを持つ。
(実験2) Fig.3.23(a)-(e)にレーザーエネルギーが7.5 Jのとき、エネルギー比が(a)0、(b)4.3、
(c)9.6、(d)16.5、(e)25.1 となる磁場を印加したとき、イオン電荷密度の空間分布を示す。こ
の実験では、下流側のz軸に近い範囲に飛来するイオン(推進効率に大きく寄与する)とコイ ルを抜けて飛来するイオン(推進効率に寄与しない)の計測を目的とした。磁場が無いとき、
コイルを抜けたイオン(θ=165 deg)のみが大きく計測された。これは、1方向入射レーザーの 照射面はレーザーにより直接加熱されたが、ターゲット中を熱伝播し加熱された側はほと んどアブレーションしなかったためである。一方𝐸𝐵⁄𝐸𝑝>4.3では、下流側のイオン電荷密度 は明らかに上昇しており、θ=10 degにピークを持っている。
ここで実験1と実験2で同じ傾向に注目する。1つ目の相似点は、磁場を印加することで 下流側に飛来するイオンが増加していることである。これは外部磁場によってイオンが反 射されたためであり、磁気スラストチャンバが推力を生じる傾向である。2つ目の相似点は、
ある1点にピークを持つということである。実験1ではθ=45 deg にピークを持ち、実験2
ではθ=10 degにピークを持つ構造をしており、外部磁場によってプラズマの横への広がり
が抑えられている。プラズマの横への広がりの抑制は推進効率を高める傾向であるため、好 ましいと言える。
次に実験1と実験2で異なる傾向に注目する。1つ目の相違点は、下流側でのイオン電荷
80 密度の大きさの違いである。実験2でのイオン電荷密度は実験 1より1桁近く高い。これ は実験2のレーザー条件でプラズマに与えたエネルギー(𝐸𝑝~7.5 J)は実験1のレーザー条件 (𝐸𝑝~6.0 J)よりも高いためである。
2つ目の相違点は、ピーク位置である。実験1(𝐸𝑝~6.0 J)ではイオン電荷密度分布のピーク はθ=45 degに現れ、実験2(𝐸𝑝~7.5 J)ではθ=10 degに現れた。プラズマエネルギーが低い方 がy方向により広く広がる結果となった。この原因として、初めにz<0に膨張したプラズマ が外部磁場によって減速されたとき、イオンに働く力(プラズマが生成する反磁性電流と外 部磁場のローレンツ力)の方向による違いが可能性として考えられる。プラズマが外部磁場 によって減速したときの、ローレンツ力が働く方向を Fig.3.24 に示す。Fig.3.24(a)はエネル ギー比𝐸𝐵⁄𝐸𝑝が小さい場合を示す。この場合、プラズマエネルギー𝐸𝑝は磁場エネルギー𝐸𝐵と 比較して高いため、プラズマのエッジはより外側に広がる。このとき、プラズマは図に示す ように、外部磁場を打ち消す方向に反磁性電流を生成する。その結果、反磁性電流と外部磁 場によるローレンツ力は、プラズマエッジの内側に向けて法線方向に働く。エネルギー比が 小さい場合、プラズマエッジの曲率が小さいため、ローレンツ力は浅い角度に働く。その結 果、ローレンツ力を受けたプラズマは長い距離で収束し、遠方にてチャージコレクタで計測 すると小さいθ にピークが現れた(実験 2)。エネルギー比𝐸𝐵⁄𝐸𝑝が大きい場合は逆のことが
いえる[Fig.3.24(b)]。この場合、プラズマエッジの曲率は大きくなり、ローレンツ力を受けた
プラズマは短い距離で収束する。その結果、遠方にてチャージコレクタで計測すると、大き いθにピークが現れたと考えられる(実験1)。
また、実験1ではθ=45 degの位置で、実験2ではθ=15 degの付近で大きなエラーバーが 現れた。エラーバーが現れた付近はプラズマのエッジ付近であると分かる。プラズマの境界 付近では、プラズマと真空における密度の違いからレイリー・テイラー不安定性が生じる。
そのため、プラズマと真空の境目ではプラズマ密度に揺らぎが生じ、レーザーショット毎に プラズマエッジ付近に誤差が生じたと考えられる。
次に、イオン電荷密度の空間分布(Fig.3.22、Fig.3.23)からインパルスを見積もる。チャー ジコレクタによるイオンの計測点が少ないため、イオン電荷の空間分布を次式によってガ ウス関数で近似した。
𝑦 = 𝑦0+ 𝐴
𝑤√𝜋/2𝑒𝑥𝑝 [−2 (𝑥 − 𝑥𝑐 𝑤 )
2
] (3.18)
ここで、y はイオン電荷[μC]、x は θ[deg]に相当する。実験 2 におけるエネルギー比 𝐸𝐵⁄𝐸𝑝=25.1の空間分布[Fig.3.23(e)]のフィッティング後を例としてFig.3.25に示す。
チャージコレクタで計測したイオン電流𝐼𝑖からインパルス𝐹𝑖𝑚𝑝𝑢𝑙𝑠𝑒は次式から見積もるこ とができる。
𝐹𝑖𝑚𝑝𝑢𝑙𝑠𝑒 = ∫(𝑚̇𝑣𝑖)𝑧𝑑𝑡 = ∫𝑚𝑖
𝑧𝑒𝐼𝑖𝑣𝑖cos 𝜃 𝑑𝑡 (3.19)