はじめに
C型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)の 感染は,肝癌の主要な原因の 1 つである.イン ターフェロン治療の時代から,HCVの排除は肝 発癌のリスクを下げることが知られていた.し かし,ウイルス排除後も肝癌が発生する症例が あることから,治療後も定期的な画像診断を行 うことが重要である.近年,HCVに直接作用す る 抗 ウ イ ル ス 薬( 直 接 作 用 型 抗 ウ イ ル ス 薬
(direct-acting antiviral:DAA))の開発が進み,
多くの患者でHCVの排除が可能になった.従来 はウイルス排除が困難であった高齢者や線維化 が進展した患者等からも高率にウイルス排除が
得られるようになったことから,ウイルス排除 後の肝癌累積発生率はインターフェロン治療の 時代に比べ上昇すると考えられている.また,
インターフェロンを使わないDAAのみによる治 療が,インターフェロン治療と同等の肝発癌抑 制効果を示すかどうかについては結論が得られ ていない.本稿では,DAA治療の時代における ウイルス排除後の肝発癌を巡る問題について概 説する.
1.post-SVR HCC
C型肝炎患者に対する抗ウイルス治療により ウイルスが排除されることを一般にSVR (sus-
C型肝炎ウイルス排除後の 肝発癌リスクと課題
要 旨
竹原 徹郎 直接作用型抗ウイルス薬(direct-acting antiviral:DAA)治療の時代に
なり,かつては治療適応でなかったC型慢性肝疾患の進展した患者や高齢 者からウイルス排除が得られる時代になった.ウイルス排除後の肝癌の問 題は,今後C型肝炎患者のなかで最も大きな患者群に関係する重要な課題 になっている.本稿では,DAA治療の時代の持続的ウイルス学的著効
(sustained virologic response:SVR)後の発癌及び癌の再発について概 説し,いくつかの関連論文を紹介する.いずれの報告も観察期間が未だ十 分でなく,今後のさらなる評価が必要である.また,SVR後の肝癌に関 しては,リスクを層別化するバイオマーカーの開発が期待される.
〔日内会誌 107:44~49,2018〕
Key words DAA,SVR,HCC
大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学
Basics and Clinics on Viral Hepatitis in the era of Viral Elimination. Topics:VI. Risk of liver cancer after elimination of hepatitis C virus and future issues.
Tetsuo Takehara:Department of Gastroenterology and Hepatology, Osaka University Graduate School of Medicine, Japan.
tained virologic response)と呼んでおり,SVR後 に出現した肝癌をpost-SVR HCC(hepatocellular carcinoma) と呼称している.SVR後の肝癌に は,概念的に2つのカテゴリーが存在する.1つ は,治療前から存在するにもかかわらず,画像 的に検出することができなかった肝癌が,その 後,臨床的に顕在化するもの,もう 1 つは治療 後に新たに発生する肝癌であるが,両者を明確 に区別することはできない.一般的な肝癌の倍 増 時 間 は 100 日 と さ れ て お り, 理 論 的 に は 10
μ
mの肝癌が 10 mmになるのに 9 年かかると いわれている1).そうであれば,ほとんどのSVR 後の肝癌が治療前から存在することになるが,これはあくまでも机上の議論である.インター フェロン治療によりSVRが達成された患者で は,ウイルスが排除されなかった患者(non- SVR)に比し,その後の累積発癌率は低下する2). これは患者背景の違いを考慮しても,有意に差 があることから,治療後比較的早い段階からウ イルス排除に伴う発癌率の低下は得られている と考えられている.インターフェロンには,免 疫賦活作用や抗腫瘍作用があることから,画像 上認識されない極めて微小な肝癌はインター フェロンによって排除されている可能性も指摘 されているが,これも明確な根拠と共に示され ているわけではない.
2.DAA治療
2011 年 に イ ン タ ー フ ェ ロ ン を 基 軸 と し た DAA治療が導入され,2014年にはインターフェ ロンを用いないDAAコンビネーション治療が登 場した.治療の進歩に伴い,SVR率が向上する と共に,副反応が大幅に減少し,治療適応が劇 的に拡大した.インターフェロン治療の時代の 治療対象は,インターフェロンの投与が可能な 若年者や,治療効果が得られやすい比較的線維 化が進展していない患者であったが,DAA治療 の時代に入り,より高齢で線維化の進展した症 例からもSVRが得られるようになった.高齢や 線維化の進展は肝癌の発生のリスク因子であ り,このような患者から高率にSVRが得られる ことは,その後の累積発癌率が,インターフェ ロン治療の時代のそれに比し,上昇することを 意味している.また,少し特殊な話になるが,
肝癌の既往があり,根治的な治療がなされた患 者も抗ウイルス治療の対象になってきている.
インターフェロン治療の時代はこのような患者 に抗ウイルス治療を行われることは少なかった が,現在は抗ウイルス治療を受けている患者の 5~10%が過去に肝癌の既往がある患者である.
このような患者は,肝癌既往のない代償性肝硬 変患者よりもさらに高い肝癌リスクを抱えてお り,その後の肝癌の再発は高率になる(図1).
図 1 C 型慢性肝疾患における肝癌のリスクと抗ウイルス治療の治療適応 インターフェロン治療の時代には,副反応の出現(インターフェロンは高 齢者に使用しにくい)や治療効果(治療効果は線維化進展例では低下する)
を考慮し,比較的若年で線維化が進行していない症例が治療されることが 多かった.DAA 治療の時代に入り,その治療適応は劇的に拡大しており,
結果として発癌リスクの高い患者からも高率に SVR が得られている.
肝癌のリスク 肝疾患進行度 年齢 IFN 治療の適応 DAA 治療の適応 極めて高い 肝癌の既往
高い 肝硬変 高齢
低い 慢性肝炎 若年
3.DAA治療後の肝癌に関する議論
DAA治療により肝癌がどの程度抑制されるか ということは,極めて重要な問題である.抗ウ イルス治療効果の主要評価項目はもちろんウイ ルスの排除であるが,臨床的により重要なの は,ウイルス排除により肝疾患関連死をどの程 度抑制できるかである.肝疾患関連死に直結す るのは,肝不全の発生と肝癌の発生であるか ら,肝癌の抑止効果が肝疾患関連死を予防し,
患者の生活の質を維持するうえで重要な因子に なる.しかし,抗ウイルス治療終了後12週ある いは 24 週で判定されるウイルス排除とは異な り,肝癌の抑止効果を評価するには長期の臨床 観察が必要である.DAA治療が登場してから未 だ日も浅いため,このことに関して十分なデー タはそろっていない.
4. DAA治療は肝癌根治後の癌の再発を 促進するか
そのようななかにあって最初に出てきた議論 が,肝癌既往のある患者にDAA治療をした場合 に,肝癌の再発を誘発するのではないかという 問題である3).一般に肝癌の既往のある患者に は,微小な肝癌が存在することが想定され,こ のような患者で抗ウイルス治療による腫瘍抑制 効果を評価するには,微小肝癌の影響がなく なった時期に評価される必要があり,やはりか なりの観察期間を必要とする.しかし,最初に 持ち上がった議論は,DAAが肝癌の発生を抑制 するかどうかという議論ではなく,肝癌の再発 を促進するのではないかという議論であった.
2016 年にスペインのバルセロナのグループ から,肝癌根治後の患者58名にDAAのみによる 治療を行ったところ,中央値 5.7 カ月の観察期 間で 3 人が死亡し,16 名(27.6%)に癌の再発 がみられ,再発した肝癌の多くが進行癌であっ たことが報告された3).DAA治療が肝癌の再発
を促進する可能性があることを示唆する報告と して,極めて注目された.しかし,同時にフラ ンスとイタリアのグループから,これを否定す る報告もなされた4,5).DAA治療が肝癌の再発を 促進するかもしれないという議論の背景には,
インターフェロンのような抗腫瘍活性のある抗 ウイルス薬ではなく,純粋にHCVに対して選択 的に作用する抗ウイルス薬を用いてウイルスを 急速に排除すると,肝臓での自然免疫応答が低 下し,非常に微小な腫瘍が急速に増大する可能 性があるという考え方があるためである.DAA 治療が肝癌根治後の再発を促進するかもしれな いということに関するエビデンスは乏しいが,
より悪性度の高い再発が経験されるという報告 は散発的になされており,この問題に関して は,今後も注視していく必要がある.
5. DAA治療によるウイルス排除は 肝癌の新規発生をどの程度抑制するか
前述したように,DAA治療,特にインターフェ ロンを使わないDAAコンビネーション治療の歴 史は浅く,発癌に関して治療後の十分な観察期 間が得られていない.しかし,2017 年に入っ て,DAA治療後の肝癌に関する報告がいくつか なされるようになってきている.米国の 129 の在郷軍人病院でDAA治療を受け た 22,500 のC型肝炎患者(SVR患者 19,518 例,
non-SVR患者2,982例)の解析では,ウイルス排 除はその後の発癌リスクの低下と明らかに関連 していることが示されている6).また,在郷軍 人データベースを用いて,インターフェロン治 療,インターフェロンを含んだDAA治療,DAA のみによる治療後の発癌に関する解析がなされ ている.DAAのみによる治療は,その他の治療 に比較すると肝癌の新規発生が多いが,背景因 子を調整すると治療法による発癌率には差がな く,また,SVRは治療法にかかわらず同等の発 癌抑止効果があることが報告されている7).日
本からも同様の解析がなされており,インター フェロン治療群とインターフェロンフリー治療 群の患者背景をマッチさせると,今のところ,
インターフェロン治療とインターフェロンフ リー治療のSVR患者の間には発癌に差がないと されている8).
インターフェロン治療とインターフェロンフ リー治療のSVR後肝癌に関する問題に関して は,最近,文献のメタ解析の結果が報告されて いる9).41 の研究(患者数 13,875) が解析さ れ,このうち26研究が肝癌新規発生に関するも の(インターフェロン17,DAA9),17研究が肝 癌の再発に関するもの(インターフェロン 7,
DAA10)であった.肝硬変患者における肝癌の 新規発生は,人年法で,インターフェロン治療 で 1.1/100, イ ン タ ー フ ェ ロ ン フ リ ー 治 療 で 2.9/100,根治後の再発はインターフェロン治 療で 9.2/100,インターフェロンフリー治療で 12.1/100であり,いずれもインターフェロンフ リー治療群で高率であるが,年齢等を調整する
と両治療の間には差がないと報告している.し かし,平均観察期間がインターフェロンの 5~
5.5 年に比し,インターフェロンフリー治療は 1.0~1.3 年であり,やはり十分な観察期間に基 づいたものであるとはいえない.
6.SVR後肝癌を予測するバイオマーカー
SVR後の肝癌は,C型肝炎患者のなかで最も大 きな患者群が抱える重要な問題になっている.かつては,C型肝炎患者の一部が抗ウイルス治 療の対象であり,その約半数にSVRが得られて いた.現在は,非代償性肝硬変をはじめとした 抗ウイルス治療の適応外の患者を除いては,多 くの患者が治療適応であり,そして,その95%
超の患者がSVRを達成する(図2).現在のC型肝 炎治療が抱える課題はいくつかあるが―例え ば,non-SVRになった患者にとっての耐性克服 の問題,治療適応外の患者に対する有効で安全 な抗ウイルス治療法の開発―SVRを達成した患 図 2 DAA 治療の時代における HCV 感染者とその抱える課題
DAA 治療の時代に入り,ほとんどの HCV 感染者が抗ウイルス治療の適応を考慮さ れ,SVR が達成される時代になった.このようななかで,SVR を達成した患者,残 念ながら達成できなかった患者,治療適応のない患者,それぞれにおいて固有の解 決されなければならない課題が存在する.
C型肝炎ウイルス感染者 SVR
non-SVR
治療適応外
課題
SVR後の肝疾患の可塑性 例)Post-SVR HCC
難治例に対する有効で安全な治療法 例)非代償性肝硬変に対する治療開発
DAA治療失敗例に対する再治療法 例)耐性ウイルスの克服
者にとって,肝疾患の可塑性や発癌リスクが 個々の患者にとってどの程度であるのかという 問題は,最も多くのC型肝炎患者が抱える課題 であるといえる.肝癌の発生に関しては,イン ターフェロン治療の時代よりは高率になること を前提にサーベイランスをする必要があるが,
そのようななかでリスク群をどのように層別化 していくかということが重要な研究課題になっ ている.
SVR後の肝癌については,インターフェロン 治療コホートを用いた研究からいくつかのこと が知られている.最も代表的なものが治療終了 後のAFP値である.AFPは肝癌の腫瘍マーカーの 1つであるが,C型肝炎患者では一般に健康者よ り高値である.インターフェロンによりウイル スを排除すると,AFP値が有意に低下すること が知られている.治療前のAFP値は,恐らく臓 器の炎症やウイルス感染の影響も受けており,
ウイルス排除後の肝癌のリスクとして有意な因 子にならないが,治療後のAFP値は独立した発 癌予測因子であることが知られている9).DAA 治療によっても,血清AFP値が急激に低下する ことが知られており,インターフェロン治療で の経験がDAA治療後にも外挿できるかどうかは 興味のあるところである.
血清WFA+M2BPは,最近臨床応用された肝臓 の線維化マーカーであるが,C型肝炎の発癌リ スク因子になることが報告されている.血清 WFA+M2BPもDAA治療後に低下することが知ら れていたが,この治療後の血清WFA+M2BP値と
その後の発癌が関連することが報告された . DAA治 療 の 時 代 のPost-SVR HCCの バ イ オ マ ー カーとしての有用性が期待される.
血清バイオマーカーではないが,宿主の遺伝 的要因とSVR後の肝癌に関しても研究が行われ ている.日本人のインターフェロン治療のコ ホートにおいて,染色体 4 番に存在するTLL1
(tolloid like 1)遺伝子のイントロンの一塩基多 型がSVR後の肝癌に関連することが見出され,
別途用意された検証コホートでこのことが確認 された10).機能的には,TLL1は肝臓の線維化に 関与する星細胞に発現しており,線維化に伴い 発現が上昇することが示された.DAA治療後の 発癌に関しても,この遺伝子多型がどのように 関連するのか注目されるところである.
おわりに
今後,C型肝炎診療において,SVR後の肝癌 は,最も多くの患者に関わる重要な問題であ る.DAAコンビネーション治療後の十分な観察 期間に基づくエビデンスが早急に出てくること が望まれる.また,発癌リスクに応じたサーベ イランスの構築が重要であり,発癌リスクに関 連するバイオマーカー開発が重要である.
著者のCOI(conflicts of interest)開示:竹原徹郎;講演 料(アッヴィ,MSD,ギリアド・サイエンシズ,ブリス トル・マイヤーズ スクイブ),研究費・助成金(アッ ヴィ,MSD,ギリアド・サイエンシズ,ブリストル・マ イヤーズ スクイブ),寄附金(アッヴィ,MSD,ギリア ド・サイエンシズ,ブリストル・マイヤーズ スクイブ)
文 献
1) Cucchetti A, et al : Length time bias in surveillance for hepatocellular carcinoma and how to avoid it. Hepatol Res 46 : 1275―1280, 2016.
2) Hiramatsu N, et al : Suppression of hepatocellular carcinoma development in hepatitis C patients given interfer- on-based antiviral therapy. Hepatol Res 45 : 152―161, 2015.
3) Reig M, et al : Unexpected high rate of early tumor recurrence in patients with HCV-related HCC undergoing interferon-free therapy. J Hepatol 65 : 719―726, 2016.
4) ANRS collaborative study group on hepatocellular carcinoma (ANRS CO22 HEPATHER, CO12 CirVir and CO23 CUPILT cohorts): Lack of evidence of an effect of direct-acting antivirals on the recurrence of hepatocellular carcinoma : Data from three ANRS cohorts. J Hepatol 65 : 734―740, 2016. doi : 10.1016/j.jhep.2016.05.045.
Epub 2016 Jun 7.
5) Conti F, et al : Early occurrence and recurrence of hepatocellular carcinoma in HCV-related cirrhosis treated with direct-acting antivirals. J Hepatol 65 : 727―733, 2016. doi : 10.1016/j.jhep.2016.06.015. Epub 2016 Jun 24.
6) Kanwal F, et al : Risk of Hepatocellular Cancer in HCV Patients Treated With Direct-Acting Antiviral Agents. Gas- troenterology 153 : 996―1005, 2017.
7) Ioannou GN, et al : HCV eradication induced by direct-acting antiviral agents reduces the risk of hepatocellular carcinoma. J Hepatol, 2017 [Epub ahead of print].
8) Nagata H, et al : Effect of interferon-based and -free therapy on early occurrence and recurrence of hepatocellu- lar carcinoma in chronic hepatitis C. J Hepatol 2017 [Epub ahead of print].
9) Waziry R, et al : Hepatocellular carcinoma risk following direct-acting antiviral HCV therapy : A systematic review, meta-analyses, and meta-regression. J Hepatol 2017 [Epub ahead of print].
10) Matsuura K, et al : Genome-Wide Association Study Identifies TLL1 Variant Associated With Development of Hepatocellular Carcinoma After Eradication of Hepatitis C Virus Infection. Gastroenterology 152 : 1383―1394, 2017.