はじめに
全身性硬化症または強皮症(systemic sclero- sis:SSc)は,皮膚および諸臓器の線維化,末梢 循環障害,抗核抗体産生の 3 主徴を併せもつ古 典的膠原病の 1 つである.近年,多くの膠原病で 機能および生命予後の改善が得られているが,
SScはいまだ根治的治療法のない難治性病態と して取り残されている.本稿では現状のSSc診療 における課題と今後の展望について概説する.
1.病型分類
SSc患者の臨床症状や経過は極めて多彩で,発 症後20年以上にわたって臓器障害,日常生活動 作低下を来たさない例から,1年以内に腎不全,
心不全で死亡する例まで幅広い.診療では,こ れら多様な症例を臓器障害や生命予後などの臨 床的特徴が均質なサブセットに分類することが 極めて重要である.診療で主に用いられる病型
分類は以下の 2 つである.
1)皮膚硬化範囲による分類
現在広く用いられている病型分類は,経過中 にみられる最も広い皮膚硬化範囲による分類で ある.皮膚硬化範囲のピークが肘あるいは膝を 越えて近位まで広がる病型をびまん皮膚硬化型 SSc(diffuse cutaneous SSc:dcSSc),肘と膝よ り遠位と顔面にとどまる病型を限局皮膚硬化型 SSc(limited cutaneous SSc:lcSSc)と呼ぶ.こ れら病型で皮膚硬化の進展,臓器障害の種類と 出現時期は大きく異なる(図).dcSScでは皮膚 硬化とRaynaud現象の出現がほぼ同時もしくは 6カ月以内で,発症後1~2年間は皮膚硬化が急 速に進行し,1~5年後にピークに達する.その 後は無治療でも皮膚硬化はゆっくり改善する.
一方,lcSScにおける皮膚硬化は経過を通じて軽 度で変化に乏しい.dcSScが長い罹病期間を経て 萎縮期に入り,皮膚硬化が肘より遠位まで改善 してもdcSScの分類は変わらない.一方,dcSSc
日本医科大学アレルギー膠原病内科
113th Scientific Meeting of the Japanese Society of Internal Medicine:Educational Lecture:17. Importance of early diagnosis and treatment in patients with systemic sclerosis.
Masataka Kuwana:Department of Allergy and Rheumatology, Nippon Medical School, Japan.
本講演は,平成28年4月17日(日)東京都・東京国際フォーラムにて行われた.
全身性硬化症(強皮症)の 早期診断と治療
桑名 正隆 Key words autoantibody,early diagnosis,scleroderma,systemic sclerosis
でも発症早期には皮膚硬化が肘や膝を越えな い.したがって,皮膚硬化が肘や膝を越えない 症例ではlcSSc,dcSSc萎縮期,dcSSc早期の場合 があり,診療ではその鑑別が極めて重要である.
dcSScとlcSScの分類により,臓器障害の出現 様式や予後の予測が可能である.dcSScでは,頻 度は少ないながらも皮膚硬化の進行期に腎ク リーゼ,心筋障害によるうっ血性心不全(主に 収縮機能障害)を来たす.消化管や肺の線維化 は緩徐に進行し,皮膚硬化がピークに達する頃 に機能障害が顕性化することが多い.一方,
lcSScでは 10 年以上の長い罹病期間を経て肺動 脈性肺高血圧症(pulmonary arterial hyperten- sion:PAH),消化管機能障害,心筋病変(主に 拡張機能障害)が顕性化する.
2)自己抗体による分類
病型分類に役立つもう 1 つの指標は自己抗体 である.SScの 95%以上で抗核抗体が陽性とな り,これまでに少なくとも10の特異自己抗体が 同定されている.日本の保険診療で測定可能な SSc関連自己抗体は抗トポイソメラーゼI/Scl-70 抗体,抗RNAポリメラーゼIII抗体,抗セントロ メア抗体,抗U1RNP抗体の 4 種類のみだが,こ
れら自己抗体でSSc患者の 80%程度をカバーで きる.SSc関連自己抗体は診断の補助としてだけ でなく,病型分類,将来起こる臓器障害や生命 予後の予測にも有用である(表 1).
皮膚硬化範囲による病型分類に自己抗体を組 み合わせると,さらに詳細な分類が可能にな る.例えば,dcSScで抗トポイソメラーゼI抗体 陽 性 で あ れ ば 間 質 性 肺 疾 患(interstitial lung disease:ILD)を高率に伴うが,抗RNAポリメ ラーゼIII抗体陽性ならばILDの頻度が低く,むし ろ腎クリーゼや悪性腫瘍の併存に注意する.抗 セントロメア抗体陽性例のほとんどはlcSScで,
発症早期に重篤な臓器障害を来たすことは稀で ある.ただし,10年以上の経過を経てPAHや心 筋拡張障害が顕性化することがある.抗U1RNP 抗体も主にlcSScでみられるが,全身性エリテマ トーデスや多発性筋炎/皮膚筋炎など他の膠原 病の症状を併せもつことが多く,その場合,混 合性結合組織病と診断される.抗U1RNP抗体陽 性例は,抗セントロメア抗体陽性例と同様に PAHのリスクを有するが,抗セントロメア抗体 陽性例と異なり,発症 5 年以内にみられる場合 が多い.
図 SScの病型による皮膚硬化の自然経過と臓器障害の出現時期 dcSSc:びまん皮膚硬化型SSc,lcSSc:限局皮膚硬化型SSc
lcSSc 腎クリーゼ
(主に収縮能)心筋障害
5 10
0
発症からの期間(年)
皮膚硬化
dcSSc
早期
中間期
晩期 間質性肺疾患
消化管病変
肺動脈肺高血圧症,消化管病変 心筋障害(主に拡張能)
2.臨床経過と病態
皮膚硬化は真皮に蓄積したコラーゲンなどの 細胞外マトリックス量と相関し,SScの病態をよ く反映する.dcSScにおける皮膚硬化は,血管周 囲の炎症性細胞浸潤を伴う浮腫期から始まり,
線維化が主体の硬化期,さらに真皮の細胞外マ トリックスが疎となって皮膚硬化が改善する萎 縮期へと経時的に変化する.構造が単純で再生 能力の高い皮膚では,病態の進行が止まると,
生理的なターンオーバーにより細胞外マトリッ クスが徐々に減少して皮膚が柔らかくなる.一 方,肺,消化管,心筋,血管など多くの臓器で は,細胞外マトリックスが一度蓄積すると正常 構造が改変してしまうため,病態の進行が止 まっても機能回復は限定的である.むしろ,機 能低下に伴う二次的要因がさらなる障害を助長 する.例えば,肺では低酸素による血管攣縮や酸 化ストレスが肺構造の破壊を促進する.このよ うに,基礎病態は共通していても,組織構造や再 生能力により臓器病変ごとに自然歴は異なる.
3.新たな治療概念
近年,薬物療法の進歩により治療成績が格段 に向上した関節リウマチでも,関節破壊が進ん
だ例での薬物療法の効果は限定的で,膝や股関 節など大関節の高度の障害に対しては人工関節 置換が最も効果的である.線維化が機能障害を 来たす代表的疾患のウイルス性肝炎でも,肝硬 変に至ると肝移植でしか機能的回復は望めな い.正常構造が破壊,改変されてしまった状態 では,移植や再生医療を行わない限り機能の回 復は望めないことは明白である.従来のSScの治 療は,他の多くの疾患と同じで,症状が出現し た時点で治療介入することに主眼が置かれてき た.しかし,たとえ薬物療法で線維化の進行を 阻止できたとしても,構造改変した臓器の機能 改善を得ることは難しいのが現実である.
関節リウマチやウイルス性肝炎の治療概念が 大きく変貌を遂げている.当然ながら有効性の 高い抗サイトカイン薬や抗ウイルス薬など分子 標的療法の導入が起爆剤となったが,それらを 早期から積極的に使用する治療概念の変革が果 たした役割も極めて大きい.同様に,SScでも病 変に可逆性が残されている発症早期から的確な 治療介入をすることで病変の進行を未然に防ぐ 治療概念が重要性である.ただし,早期治療介 入を実践するためには,早期診断が必要不可欠 である.
表1 SSc関連自己抗体の陽性頻度と関連する病型
自己抗体 日本人における陽性頻度 関連する病型 関連する臓器障害 抗Scl-70抗体
(抗トポイソメラーゼⅠ抗体) 25% dcSSc 間質性肺疾患
手指潰瘍・壊疽 抗RNAポリメラーゼⅢ抗体 5~10% dcSSc 急速に進行する皮膚硬化
腎クリーゼ 悪性腫瘍
抗セントロメア抗体 25% lcSSc 肺動脈性肺高血圧症
原発性胆汁性肝硬変・
Sjögren症候群の合併
抗U1RNP抗体 15% lcSSc 肺動脈性肺高血圧症
他の膠原病の症状
(MCTD)
MCTD:mixed connective tissue disease
4.現状における早期診断における問題点 我々の専門施設で 2005~2012 年にSScと診 断された172例を対象にした調査では,SScに基 づく初発症状の出現から診断までに要した期間 は 3.4±2.2 年,それまでに受診した医療機関数 は 3.5±1.2 にのぼる.残念ながら,現状で早期 診断されるSSc患者は少ない.SSc患者では皮膚 硬化が明らかとなる数カ月~数年前からRay- naud現 象 が 先 行 す る こ と が 多 い. 典 型 的 な Raynaud現象は手指に境界明瞭な白⇒紫⇒赤の 3 段階の変化を呈するが,診療では 2 相以上の 色調変化があればRaynaud現象とみなす.可逆 性であることが特徴で,寒冷曝露や精神的緊張 などの誘因により発作的に誘発される.SScの好 発年齢は40~50歳代の中年女性で,Raynaud現 象に伴う手指の冷感を更年期症状と混同されて しまうことがある.また,手指の腫脹,こわば り,違和感を伴うことが多いため,関節リウマ チや変形性関節症などが疑われる場合もある.
また,食道蠕動能低下による胃食道逆流症,健診 で指摘されたILDなどのために通院していても SScの存在に気づかないケースもある.このよう に,医療機関を受診しても早期診断のタイミン グを逃しているSSc患者が多いのが現状である.
一方,専門医側にも問題点がある.SScの分類 基準として1980年に米国リウマチ学会(Ameri- can College of Rheumatology:ACR)の委員会が 提唱した予備基準が長く用いられてきた1).こ の基準では,Raynaud現象に加えて手指腫脹や 手指硬化を有するものの,臓器障害や高度の末 梢循環障害のない早期例や軽症例の多くをとら えることができない.実際に専門施設でSScと臨 床的に診断されている例のうち,20~30%が ACR予備基準を満たさないことが知られてき た.Raynaud現象出現からACR予備基準を満足す るまでの期間がlcSScで平均4.8年,dcSScで平均 1.9年と報告されている2).本基準は研究におけ る対象症例の均一化を目的に作成された「分類
基準」である.そのため,原則として診断に用 いない前提にもかかわらず,日本では誤用され てきた経緯がある.
5.早期診断の実践
2013年にACRと欧州リウマチ学会(European League Against Rheumatism:EULAR)が共同で 作成した新しい分類基準が発表された(表2)3). この基準の作成過程では,ACR予備基準で取り 込めなかった早期例,軽症例を可能な範囲で取 り込むことに主眼が置かれた.本基準は経験豊 富な専門医の使用が前提で作成され,皮膚硬化 を有するが手指に皮膚硬化がない例や臨床所見 を説明できる他疾患の除外が条件となってい る.好酸球性筋膜炎や腎性全身性線維症などの SSc類似疾患を除外するためである.ポイント制 を採用しており,9ポイント以上あればSScと分 類する.ACR予備基準の大基準に相当する手指 硬化が中手指節間関節を越えて近位まで存在す る近位皮膚硬化は 9 ポイントで単独で基準を満 たす.早期例を取り込むため,新たに手指腫脹,
Raynaud現象,SSc関連自己抗体に加えて爪郭毛 細血管異常が加えられた.健常者では爪郭の先 端で毛細血管が折り返すループ構造が規則正し く並んでいるのに対し,SScでは毛細血管が拡張 し,ループが蛇行,巨大化する.さらに,毛細 血管が減少し,全く血管のない無血管領域が出 現する.また,分枝や吻合した異常血管の新生 も伴う.これら所見は毛細血管顕微鏡を用いな くてもデルマトスコープで観察可能である.
ACR/EULAR基準は感度 95%,特異度 93%と ACR予備基準に比べて格段に向上している3).特 に,ACR予備基準を満たさなかった早期例,軽 症例をとらえることができ,例えば手指硬化の みでもRaynaud現象と抗セントロメア抗体陽性 があれば10ポイントとなる.今後はACR/EULAR 基準を活用することで早期診断が容易になるこ とが期待される.ただし,本基準は専門医の使
用を前提とした「分類基準」であるため,専門 医への早期のタイミングでの紹介が重要なこと はいうまでもない.
ACR/EULAR基準で早期例の取り込みが可能 になるが,皮膚硬化または手指腫脹の存在がそ の前提となる.そこで,皮膚硬化が出現する以 前からSScをとらえようとする試みが検討され ている.Raynaud現象はあるが皮膚硬化を認め ない 784 例を前向きに追跡したコホートでは,
爪郭毛細血管異常またはSSc関連自己抗体が陽 性であった場合,その後4年以内に47%が98%
の特異度でSScに進展した4).そこで,皮膚硬化 がなくても,Raynaud現象があり,SScに特徴的 な爪郭毛細血管異常,SSc関連自己抗体,手指腫 脹のいずれかがあれば,超早期SSc(very early diagnosis of systemic sclerosis:VEDOSS)と呼ぶ ことが提唱されている2).現在,この概念の有 用性が複数の前向きコホートにおいて検証中で ある.
6.早期治療介入の重要性
病変の可逆性を考慮すると,SScに対する治療 は早く開始すればするほど,より高い効果が得 られるはずである.早期SScやVEDOSSに対する 治療介入が理想的であるが,現状ではこれら病 型の自然歴に関する報告はほとんどない.そこ で,特に線維化が急速に進行するdcSSc発症早期 例を対象として,できる限り早期にとらえて治 療介入をする治療方針が現実的な対応となる.
これまでステロイド,D―ペニシラミン,免疫抑 制薬(メトトレキサート,シクロホスファミド,
アザチオプリン,シクロスポリン,タクロリム スなど),イマチニブ,リラキシンなどがdcSSc に対する治療薬として検討されたが,有用性に 関 す る 高 い エ ビ デ ン ス を 有 す る 治 療 薬 は な い5).近年,SScにおける細胞・分子レベルでの 病態解析から様々な細胞,液性因子,細胞内シ グナルが密接に関わる病態が明らかにされ,数 多くの分子・細胞標的が同定された6).現在,
それらに対する治療薬のグローバル臨床試験が 複数進行中で,日本も多くの試験に参画してい 表2 ACR/EULARによるSSc分類基準(文献3より改変)
ドメイン 基準項目 ポイント
手指硬化が MCP 関節を越えて近位まで存在(近位皮膚硬化) 9 手指の皮膚硬化
(ポイントの高い方を採用) 手指腫脹(puffy fingers)
MCP関節より遠位に限局した皮膚硬化 2 4 指尖部所見
(ポイントの高い方を採用) 手指潰瘍
指尖陥凹性瘢痕 2
3
爪郭毛細血管異常 2
毛細血管拡張 2
(いずれか陽性)肺病変 肺動脈性肺高血圧症
間質性肺疾患 2
Raynaud現象 3
SSc関連自己抗体
(いずれか陽性) 抗セントロメア抗体
抗Scl-70/トポイソメラーゼⅠ抗体 抗RNAポリメラーゼⅢ抗体
3
上記のスコアリングに当てはめ,合計9以上であればSScに分類する.
*皮膚硬化を有するが手指に皮膚硬化がない例,臨床所見を説明できる他疾患を有する 例には本基準を適用しない.
る.早期の適切なタイミングで分子標的療法を 実践することで,これまで難治性病態であった SScに対する有効な治療法が近い将来に実現す るかもしれない.SSc診療が新たなステージに 入ったことは間違いない.
おわりに
ACR/EULAR分類基準やVEDOSSの概念が定着 することでSScの早期診断が広く普及し,さらに
分子標的薬による早期介入が実現すれば治療成 績の飛躍的な向上が期待できる.そのために は,実地医家によるRaynaud現象や手指腫脹を 有する例の速やかな専門施設への紹介が必要不 可欠である.
著者のCOI(conflicts of interest)開示:桑名正隆;講演 料(アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパ ン,小野薬品工業,ファイザー),研究費・助成金(ア ステラス製薬,小野薬品工業),寄附金(アクテリオン ファーマシューティカルズ ジャパン,小野薬品工業,
第一三共,田辺三菱製薬,ファイザー)
文 献
1) Subcommittee for scleroderma criteria of the American Rheumatism Association Diagnostic and Therapeutic Cri- teria Committee : Preliminary criteria for the classification of systemic sclerosis(scleroderma). Arthritis Rheum 23 : 581―590, 1980.
2) Matucci-Cerinic M, et al : The challenge of early systemic sclerosis for the EULAR Scleroderma Trial and Research group(EUSTAR)community. It is time to cut the Gordian knot and develop a prevention or rescue strategy. Ann Rheum Dis 68 : 1377―1380, 2009.
3) van den Hoogan F, et al : 2013 classification criteria for systemic sclerosis : an American College of Rheumatol- ogy/European League against Rheumatism collaborative initiative. Arthritis Rheum 65 : 2737―2747, 2013.
4) Koenig M, et al : Autoantibodies and microvascular damage are independent predictive factors for the progres- sion of Raynaud’s phenomenon to systemic sclerosis : a twenty-year prospective study of 586 patients, with val- idation of proposed criteria for early systemic sclerosis. Arthritis Rheum 58 : 3902―3912, 2008.
5) Khanna D, Denton CP : Evidence-based management of rapidly progressing systemic sclerosis. Best Pract Res Clin Rheumatol 24 : 387―400, 2010.
6) 桑名正隆:強皮症における分子標的治療の可能性.リウマチ科 55 : 292―297, 2016.