PDS-FEM を用いた不均質弾塑性体の破壊現象の数値解析
日建設計シビル(株) 正会員 ○門前 敏典 東京大学地震研究所 正会員 小国 健二 東京大学地震研究所 正会員 堀 宗朗
1.背景と目的
本研究の目的は,不均質弾塑性体の破壊現象を再現・予測するため,弾塑性解析に破壊現象の表現を取り込 んだ数値解析プログラムを作成し,そのプログラムを用いた数値解析を行うことである.
破壊現象は,材料の剛性や強度などの不均質性によって破壊面の発生箇所,進展経路およびその形状が大き く異なる.そのため,均質的なモデルを用いて破壊面の進展経路を詳細に追跡することの意味は薄く,材料の 不均質性を表現した解析モデルを用いて複数回の数値解析を行い,破壊の発生パターンとそのばらつきを求め ることが重要である.しかし,破壊現象を対象として複数回の数値解析を行うためにはその計算コストが問題 となる.本研究では破壊現象を簡便に表現することの出来る数値解析手法である Particle Discretization Scheme Finite Element Method(PDS-FEM)を大規模並列計算システム ADVENTURE の弾塑性 FEM ソルバ,
ADVENTURE_Solid に実装し,材料の不均質性を考慮した複数回の数値解析を行った.
2.PDS-FEM
PDS-FEM はいたるところ不連続な形状関数を用いて変位場の離散化を行うため,破壊に伴う要素内の不連続 性を要素剛性マトリクスの変化として表すことが可能であり,FEM ソルバへ容易に適用することが可能となる.
また,リメッシュ法などのように破壊の表現に際し行列の次元を変更する必要がないため,計算コストが低い.
そして,非破壊時の剛性マトリクスが一様ひずみの要素を用いた通常の FEM と等しく,また,破壊時における 剛性マトリクスの変化方法が確立されている.図-1に,PDS-FEM で用いる四面体要素を示す.
3.ADVENTURE
PDS-FEM を実装するために用いた ADVENTURE_Solid は,大規模並列計算システム ADVENTURE における固体静 解析のための FEM ソルバである.弾塑性応答のモデル化には von Mises の降伏条件におけるバイリニア型の硬 化関数を使用,非線形解析についてはコンシステント接線剛性を用いた Newton-Raphson 法による収束計算を 行っており,並列計算の環境下において高速に弾塑性解析を行うこと
が可能である.
4.解析アルゴリズム
上述した ADVENTURE_Solid に,PDS-FEM を実装することで数値解析 プログラムを作成した.破壊基準としては,直ひずみの閾値を設定し,
要素内の最大主ひずみが閾値を超えたときに最大主ひずみ方向にもっ とも近い方向の法線ベクトルを持つ面が破断するといった単純な引張 破壊基準を使用.解析アルゴリズムは,載荷ステップごとに破壊基準 を満たした要素の中で最大主ひずみが最も大きい要素を一つ選び出し,
その剛性マトリクスを変化させるというように,各ステップにおいて
1 つの要素のみが破壊するものとした.破壊した要素の剛性マトリクスを変化させた後,破壊が生じた要素に 図-1 PDS-FEM における四面体要素
キーワード PDS-FEM,ADVENTURE,破壊現象の数値解析,不均質弾塑性体
連絡先 〒113-0032 東京都文京区弥生 1-1-1 東京大学地震研究所1号館 615 号室 TEL03-5841-1774 CS08-02 土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月)
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ついて応力テンソルの破壊面方向に対するトラク ションを 0 とする操作を行い,境界条件を一定に保 ったまま(次の載荷ステップへと移行せずに)応力・
ひずみ分布を再計算する.なお,一度破壊した要素 はそれ以上破壊しない.この過程を繰り返し,全て の要素において破壊基準を満たさなくなった時点で 次の載荷ステップへと移行する,というアルゴリズ ムにより破壊進展の数値解析を行った.
5.解析例
解析例として,モルタルと粗骨材による複合材料(無筋コンクリートを想定) の一軸引張試験を模した数値解析を行う.表-1に解析に用いた物性値を,図- 2に解析モデルおよび解析条件を示す.
6.解析結果
材料の不均質性を考慮し,粗骨材の体積割合を一定に保ったまま配置を変化 させた 100 個のモデルについて一軸引張破壊の数値解析を行った.破壊面は概 ね載荷方向と直交する方向に進展し,粗骨材配置の微妙な違いによる破壊面形 状の微妙な差異は見られる(図-
3)が荷重変位曲線のばらつき は非常に少ない.図-4に,図- 3左の解析結果に対応する荷重 変位曲線を示す.他の解析結果 においても図-4とほぼ重なる 荷重変位曲線が得られている.
一方で,破壊面の発生位置は大 きく異なるという引張破壊試験 の性質が捉えられている.
図-5は破壊面の形状の確率分布を示すために,100 回の破壊進展解析で得られた,さまざまな位置からさ まざまな方向に発生する破壊面の進展開始位置と方向をそろえ,3 次元空間内での破壊面の通過回数をプロッ トしたものである.破壊面は載荷軸と垂直な方向に安定して進展し,載荷軸に平行な断面図(とくにy=6 の 面)からは,直径 12cmの供試
るばらつきを定量的に評価 することが可能である.
体での破壊面の方向のばらつきは約 3cm程度といった,破壊現象の中で生じ
次 7.まとめ
本研究では PDS-FEM の静的 弾塑性 FEM ソルバへの実装を 行い,3 元問題における弾塑 性挙動と破壊現象の数値解析
を実現した.100 ケースの解析モデルによる計算結果より,発生箇所が様々に異なる破壊面と,そのばらつきに関する 情報を得るといった,モンテカルロ・シミュレーション的な扱いの可能性を検討した.
参考文献
小国健二,堀宗朗,阪口秀:破壊現象の解析に適した有限要素法の提案 土木学会論文集,Vol.766, I-68, pp.203-217, 2004.
物性値の名称 単位 モルタル 骨材
弾性係数 (kN/cm2) 2450 5096
ポアソン比 0.19 0.2
加工硬化係数 (kN/cm2) 612.5 - 初期降伏応力 (N/cm2) 261.3 -
引張強度 (N/cm2) 294 539
表-1 解析に用いた物性値
図-2 解析モデル・解析条件
0 5000 10000 15000 20000 25000 30000 35000
0 0.001 0.002 0.003 0.004
変位(cm)
荷重(N)
図-4 荷重変位曲線 図-3 破壊面形状・発生位置
図-5 破壊面の通過回数の頻度分布(破壊開始点をそろえることで正規化後)
(通過回数)
0 y
6 12y
y = 2 y = 4 y = 6 (通過回数)
0
6 12y 0
6 12
y = 2 y = 2 y = 4 y = 4 y = 6 y = 6
CS08-02 土木学会第63回年次学術講演会(平成20年9月)-326-