博 士 ( 歯 学 ) 長 内 正 数
学 位 論 文 題 名
破歯細胞に関する微細形態学的研究:
ヒトにおける核数の分布について
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
緒 言
骨や 歯を吸 収す る細 胞は 、多 核の 巨細 胞で あり 、破 骨細 胞・ 破歯細 胞と 呼ばれ て いる 。破骨 細胞 の形 態学 的な 特徴 は、 これ まで に多 くの 研究 者によ って 明らか に され てきて おり 、そ の特 徴と して 、多 核の 巨細 胞で ある こと と、透 過型 電子顕 微 鏡に よって 骨吸 収部位に観察される波状縁ruffled borderと呼ばれる特殊構造の 存 在が 知られ てい る。 また 、破 歯細 胞の 形態 学的 特徴 も破 骨細 胞と同 様、 多くの 研 究者 によっ て明 らか にさ れて きて おり 、そ の特 徴と して 、多 核の巨 細胞 、波状 縁 の存 在が報 告さ れて いる 。
近年 、透過 型電 子顕 微鏡 的に 波状 縁を もつ 単核 の破 骨細 胞・ 破歯細 胞の 存在が 報 告さ れた。 しか しな がら 、こ の報 告は1例報 告であり、生体で機能している破骨 細 胞・ 破歯細 胞の 中で 単核 の細 胞が どの 程度 の比 率で 存在 して いるか はわ かって い ない 。また 、こ れま で多 核の 細胞 とさ れて きた 破骨 細胞 や破 歯細胞 にお ぃて、
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単 核 を 含 め た そ の 核 数 の 分 布 に 関 す る 報 告 は ほ と ん ど な ぃ 。 本研 究では 、単 核を含めたヒ卜破歯細胞の生体における核数の分布を検索した。
材料 と方 法
観 察 試 料 と して局 所麻 酔下 にて 抜去 され た生 理的 交換 期に 達し た乳 前歯10本、
乳臼 歯10本を 用い た。 乳歯 は抜 去後 、直ちに、固定・脱灰後、保存液中に浸漬し、
破 歯 細 胞 の 存 在領域 を確 認す るた めに 酒石 酸耐 性酸 性フ ォス ファ タ― ゼ(以 下TR AP)活 性 反 応 を 行 っ た 。TRAP活 性 反 応 後 、 実 体 顕 微 鏡 を 用 い て 乳 歯 を 観 察 レ た 。 観 察 の 結 果 、TRAP陽 性 反 応 が 見 ら れ る 試 料 を 、 そ の 後の 観 察 試 料 と し て 用 い た 。 ま た 、 検 索 者 の 作 意 によ っ て 偏 っ た 標 本 抽 出 を 行 わ な ぃ よ う に 、TRA
P陽性反応を 示していた 乳前歯10本、 乳臼歯10本の試料から、無作為に乳前歯3 本、乳臼歯3本を抽出し、その後の試料とレた。
試料は続いて1%四酸化オスミウムにより後固定の後、4%酢酸ウランを用いて ブロック染色を行い、脱水、置換、工ボンに包埋した。試料は、ウルトラミクロ ト―ムを用いて、連続準超薄切片を作製した。薄切は、歯根吸収面に対しほば垂 直の方向で行い、また一部の試料におぃては、準超薄切と超薄切の交互の連続薄 切を行った。
準超薄切片はmethylene blue−azure IIを用いて染色し、光学顕微鏡を用いて 観察を行い、超薄切片は酢酸ウランとクェン酸鉛の二重染色を施し透過型電子顕 微鏡を用いて観察した。
破歯細胞の核数の計測に際しては、得られた連続準超薄切片の光学顕微鏡像を 写真撮影し、切片上で歯根吸収面に吸収窩を形成している細胞を選択し、次にそ の細胞体を含むすべての連続切片を注意深く観察し、その核数を計測した。この ような過程を、179個の細胞について行った。
観察した細胞のしヽくつかは、その細胞外形、核、歯根吸収面を連続準超薄切片の 光学顕微鏡像からトレースし、デジタイザーを用いてコンビューターに入カして、
3次元 画 像 解析 シ ステ ム で細 胞 外形 、 核、 歯 根吸 収 面の 立体復構を 行った。
核の数を計測した結果を基に細胞1個あたりの核数について、乳前歯・乳臼歯・
およぴ全体におけるその度数分布表、累積度数分布表を作製し、平均値、最頻値、
中央値、細胞全体に占める割合を求めた。
結果
実 体顕徴鏡下 でTRAP陽性反応 を示した細 胞の準超薄 切片像を観察すると、
これらの細胞の大部分は、1切片上におし、ても通常多核の細胞として現れ、そのほ とんどが歯質上に吸収窩を形成していた。これらの細胞は、吸収窩に面して刷子 縁を有してぃた。本研究では、このような多核の細胞の中に、吸収窩を形成して いた単核の細胞がぃ〈つか観察された。この細胞は連続切片の観察によって、1個 の核を持つ細胞であることが詔められた。このような単核の細胞は歯質上に吸収 窩を形成しており、細胞は吸収窩に面して刷子縁を形成してし、た。また、吸収窩 を形成していなぃ細胞もぃくつか観察された。歯質上に吸収窩を形成してぃなぃ 細胞は、今回の計測には含めなかった。
乳歯全体におしヽて観察した破歯細胞の細胞1個あたりの核数の平均値は5.4、最 頻値は3、中央値は5であった。破歯細胞は乳前歯、乳臼歯を問わず、3〜4個の核 数を持つ細胞が優位を示してぃた。10個以下の核数を持つ細胞は全体の92.7%を 占めていた。また、破歯細胞の6 0.9%が核数が5個以下の細胞であった。単核の破 歯細胞は全体の3.4%の割合で存在していた。
考察
本研究では、歯根吸収面上に吸収窩を形成しているヒト破歯細胞の核数の分布 を、連続準超薄切片を用いて、初めて明らかにした。本研究の結果、単核の細胞 が破歯細胞全体の約3%の割合で存在してぃた。したがって、Domon et al.(1994】 の報告による単核の破歯細胞は、特殊な例ではな〈ヒ卜乳歯歯根吸収面に、少数 ではあるが、実際に存在する細胞であることが明らかにされた。本研究では、こ れら単核の破歯細胞が、乳歯歯根吸収に直接関与していることを明らかにした。
本研究で歯種差による、破歯細胞の核数の分布について統計学的な有意差は認 められなかった。今回の結果から、乳前歯と乳臼歯のどの歯をとっても、破歯細 胞 の 核 数 の 分 布 に つ い て 理 想 的 な 標 本 抽 出で き る可 能 性 が示 唆 され た 。 一般的には、破歯細胞・破骨細胞は、数十個から時には100個を越すほどの多数 の核をもつ巨大細胞である、と記載されている。本研究の結果から、実際に乳歯 歯根吸収を行っている破歯細胞の大部分が2〜4核の比較的少数の核を有する細胞 であり、数十あるぃは数百とぃう核を有する巨大細胞はほとんど存在しなぃか、
あ る ぃ は 存 在 し て も か な り 特 殊 な 例 で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。
結論 ,
ヒ卜破歯細胞の大部分が2〜4個の核を有する細胞であり、また、単核の破歯細 胞 も 乳 歯 歯 根 吸 収 に 直 接 関 与 し て ぃ る こ と が 理 解 さ れ た 。
学位論文審査の要旨 主 査 教 授 小 口春 久 副 査 教 授 脇 田 稔 副 査 教 授 雨 宮 璋
学 位 論 文 題 名
破歯細胞に関する微細形態学的研究:
ヒトにおける核数の分布について
骨 や 歯 を吸 収 する 細 胞 は、 多核の 巨細胞で あり、破 骨細胞・ 破歯細胞 と呼ばれ て い る。 こ れら の 細 胞の 形 態 学的な 特徴は、 これまで に多くの 研究者に よって明 らか に され て きて お り 、多 核 の 巨細胞 であるこ とと、透 過型電子 顕微鏡に よって吸 収部 位に観 察される 波状縁ruffled borderと 呼ばれる特 殊構造の存在が知られてぃる。近 年 、透 過 型電 子 顕 微鏡 的 に 波状縁 をもつ単 核の破骨 細胞・破 歯細胞の 存在が報 告さ れた 。しかし ながら、 この幸艮告 は1例報告 であり、 生体で機 能してぃ る破骨細 胞・
破歯細 胞の中で 単核の細 胞がどの程 度の比率 で存在し ているかは解明されてぃなぃ。
ま た、 こ れま で 多 核の 細 胞 とされ てきた破 骨細胞や 破歯細胞 におぃて 、単核を 含め たその 核数の分 布に関す る報告はほ とんどな ぃ。
本 研 究 は、 単 核を 含 め たヒ ト破歯 細胞の生 体におけ る核数の 分布を検 索する目 的 で 行っ た もの で あ る。 試 料 として 生理的交 換期に達 した乳歯 を用いた 。乳歯は 抜去 後 、直 ち に、 固 定 、脱 灰 し 、破歯 細胞の存 在領域を 確認する ために酒 石酸耐性 酸性 フ ォス フ ァタ ー ゼ (TRAP】 活 性反応を 行い、陽 性反応が 見られる 試料をそ の後の試 料 とし た 。続 い て1% 四酸 化 オスミ ウムによ り後固定 の後、4% 酢酸ウラ ンを用い て ブ ロッ ク 染色 を 行 い、 脱 水 、置換 、工ポン 包埋し、 連続準超 薄切片を 作製した 。薄 切 は、 歯 根吸 収 面 に対 し ほ ば垂直 の方向で 行い、ま た―部の 試料にお ぃては、 準超 薄 切と 超 薄切 の 交 互の 連 続 薄切 を 行っ た 。 準超 薄 切片 はmethylene blue ‑ azuren を 用い て 染色 し 、 光学 顕 微 鏡を用 いて観察 を行い、 超薄切片 は酢酸ウ ランとク エン 酸鉛の 二重染色 を施し透 過型電子顕 微鏡を用 いて観察 した。
破 歯細 胞の 核数 の計 測に 際し ては 、得 られ た連 続準 超薄 切片の 光学 顕微 鏡像 を写 真 撮 影し 、切 片上 で歯 根吸 収面 に吸 収窩 を形 成し てい る細 胞を選 択し 、次 にそ の細 胞 体 を含 むす べて の連 続切 片を 注意 深く 観察 し、 その 核数 を計測 した 。こ のよ うな 過程を、179個の細胞について行った。
核の 数を 計測 した 結果 を基 に細 胞1個 あた りの 核数 につ いて、度数分布表、累積度 数 分 布表 を作 製し 、平 均値 、最 頻値 、中 央値 、細 胞全 体に 占める 割合 を求 めた 。乳 歯 全 体に おぃ て観 察レ た破 歯細 胞の 細胞1個あ たり の核 数の 平均 値は5.4、 最頻 値は 3、 中央 値は5であ った 。破 歯細 胞は 乳前 歯、 乳臼 歯を 問わ ず、3‑‑4個 の核 数を 持つ 細 胞が 優位 を示 して いた 。10個以下の核数を持つ細胞は全体の92.7%を占めていた。
ま た 、 破 歯 細 胞 の60.9% が 核 数 が5個以 下の 細胞 であ った 。単核 の破 歯細 胞は 全体 の3.4%の割合で存在していた。
本 研究 にお ぃて 、吸 収窩 を形 成し てい るヒ 卜破 歯細 胞の 単核を 含め た核 数の 分布 を 、 連続 準趨 薄切 片を 用い て、 初め て明 らか にし た。 本研 究の結 果、 単核 の細 胞が 破 歯 細 胞 全 体 の 約3% の 割 合 で 存 在 して ぃた 。し たが って 、単核 の破 歯細 胞は 、特 殊 な 例で はな くヒ ト乳 歯歯 根吸 収面 に、 少数 では ある が、 実際に 存在 する 細胞 であ り 、 これ ら単 核の 破歯 細胞 が、 乳歯 歯根 吸収 に直 接関 与し てぃる こと を明 らか にし た 。 ま た 一 般 的 に は 、 破 歯 細 胞 ・破 骨細 胞は 、数 十個 から 時に は100個を 越す ほど の 多 数の 核を もつ 巨大 細胞 であ る、 と記 載さ れて ぃる が、 本研究 の結 果か ら、 実際 に 乳 歯歯 根吸 収を 行っ てぃ る破 歯細 胞の 大部 分が2〜4核の 比較的 少数 の核 を有 する 細 胞で あり 、数 十あ るぃ は数 百とぃう核を有する巨大細胞はほとんど存在しなぃか、
あ る ぃ は 存 在 し て も か な り 特 殊 な ケ ー ス で あ る こ と が 明 ら か に な っ た 。 学 位申 請者 は、 主査 およ び副 査と 個別 に会 し、 本論 文に 対する 審査 が口 頭試 問に よ り 行わ れた 。各 審査 担当 者は 学位 申請 者に 対し 、本 論文 の内容 なら びに 関連 事項 に つ いて 詳し く質 問を 行っ た。 これ らの 試問 に関 して 、そ れぞれ 適切 、か つ明 快な 回 答 が得 られ た。 また 本研 究の 意義 ・発 展性 につ いて 、破 歯細胞 ・破 骨細 胞が 多核 化 す る機 構や 吸収 機構 の解 明に 、今 回の 実験 方法 なら びに 結果が 貴重 な情 報を 提供 す る もの であ り、 吸収 基質 の違 い、 正常 と異 常と の比 較な どの発 展性 を示 唆す ると の説明がなされた。以上より本学位申請者は博士(歯学)の学位授与に値するものと言忍 められた。