博 士 ( 医 学 ) 日 向 平 明
学 位 論 文 題 名
早 期 産 児 に お け る尿 中 総 胆 汁酸 の 発 達 的推 移
学 位 論 文内 容 の 要 旨
【はじめに】
胆汁 酸は、肝 細胞におい てコレステロールから生合成された後、十二指腸へ分泌さ れ脂肪の消化吸収に重要な役割を果たしている。゛一方、新生児肝・胆道系疾患や先天 性代 謝異常症 患者の体液 及び分泌物中より種々の異常胆汁酸および胆汁アルコールが 見い だされ、 これらを指 標とした臨床的診断法の開発が進められている。しかしなが ら 胎児 期から新生 児期にお ける胆汁 酸代謝の 詳細につ いては未 だ不明な点 が多い。
近年 、新生児 の尿中に19一 水酸化胆汁酸が多量に存在することが見いだされ、成人 の組成と大きく異なることが明らかにされた。18一水酸化胆汁酸には、18ー水酸化コー ル酸 あるいは18―水酸化ケ ノデオキシコール酸などがある。本研究においては、この うち19―水酸化 コール酸の 早期産児における発達的推移を明らかにし、今後の臨床診 断に応用することを目的とした。
【対象と方法】
肝・胆道系疾患を認めない早期産児(在胎25週3日〜36週6日・平均31週1日) 118名の 随時 尿を試料 として、Maharaらの方法で処理後、ガスクロマ卜グラフイー・マススペ ク卜口メ卜リー(GC−MS)により胆汁酸定量分析を施行し、尿中総胆汁酸ならびに1#―水 酸化コール酸を測定し、尿中総胆汁酸に対する18―水酸化コール酸の割合(urinary18
−hydroxylated cholic acid/total bile acid ratio以下uCA―18−01/T BA)を算出し た。また、尿は原則として修正‑13週(在胎相当27週)、―10週、−7週、−5週、―4週、−2 週、O週、Z0週、30週、40週、60週、80週および110週に採取したものとした。ここで は、早期産児それぞれの出生時在胎週数が異なるため、採尿した週を修正週に統一し、
修正O週以前は修正一(マイナス)週とした。尚、対象となった早期産児の主なる栄養源 は母乳であり、経口あるいは栄養カテーテルにより可能な限り早期に授乳を開始した。
【結 果】
早期産児118名のuCA―18−01/T BA(%)について測定しえた各修正週数における平均値 およ び標準偏 差は、出生 後速やかに増加傾向を示し修正O週で50%前後に達した。その 後は発達に伴い減少傾向を呈した。すなわち、修正‑13週で9.3+7.4%、修正‑10週には 27. 3+10.4祉修正一5週では38.2+10.O%と増加し、修正O週の47.Z+ll.8%を最高値とし ‑ 214−
て、 それ以降 は、修 正20週で18. 4+7.O%と減 少し、 修正30週は10. 2+5.8% 、修正40週に は6.6±5.O%、修正80週では3.Z±2.8%、更に修正110週ではO.8±O.4%と検出すら困難で あ っ た 。 ま た 、 増 加 の 傾 向 は 出 生 か ら 修 正O週 ま で は 一 様 に 急 激 で あ っ た。 減 少 の傾 向 は 修 正O週 か ら40週 ま で は 急 激 で あ り 、 そ の 後 は 緩 徐 に な る 傾 向 が 認 め ら れ た 。 次に 出 生 時在 胎 週 数別u CA‑la−01/TBA( %)の発 達的推 移を比較 するた めに出生 時在 胎25N27週 、28N30週 、31N33週 、34N36週 と4グ ル ー プ に 分 け て 個 々 の値 を 平 均し 推 移 を 検 討 し た 。 ど の ク゛ ル ー ブも 出 生 後速 や か に増 加 傾 向を 呈 し 、 修正O週 から は 減 少傾 向 を 呈し た 。 また 、早期 産であ ればある ほど出 生後比較 的初期 のu CA−18−01/TBA(%)
は 低 値で あ っ た。 すなわ ち、出 生時在胎25〜27週グ ルーブの 平均は9.3%、28〜30週では 23.9% 、31N33週 は29.6% 、34N36週 で は40.9%で あ っ た。 尚 、 出生 時 在胎 遇数に関 わり なく修正0週から80週における推移は、ほば同様な傾向であった。
次に 出 生 時体 重 別にu CAー19―01/TBA(% )の発達 的推移 を比較を するた めに出生 時体 重 がloOOg未 満tExtremely low birth weight以 下ELBW) 、1000〜1499g(Very lovr birth weight以 下VLBW) 、1500〜2499g(Low birth vreight以 下LBW)と3グ ル ー プ に 分 け て そ の 平 均 値 の 推 移 を 検 討 し た 。 各 グル ー プ 共に 、 ほ ば 同様 に 出 生後 速 や かに 増加傾向を呈し、修正O遇からは減少傾向を呈した。
次にu CA−゛18−0 1/TBA( %)の発達的推移について性差を比較した。男女共に出生後速 や か に 増 加 を 開 始 し 、 修 正0週 に はoO%前後 に 達 した 。 そ の 後は 減 少 傾向 を 呈 した が 、 全 経 過 を 通 し てu CA―18―01/TBA( % )は 女 子 の 方が 高 値 とな る 傾 向が 認 め られ た 。 次にu CA−18―01/TBA( %)の 発達的推 移につ いて出生時体重がsmall‑for−gestational
―age( 以 下SGA)の 場合とapproprlate−for−geStational−age(以 下AGA) の場合で の比 較をした。AGA、SGA共にほば同様な傾向を呈した。
【考 察】
早期 産 児 にお け るuCAー14−01/TBA(% ) の発達 的推移 は、出生 後速やか に増加 を開始 し 修 正0週 で50%前 後 と なり 、 そ れ以 降 は 急激 な 減 少傾 向 を 呈 し、 修 正40週 に は10篤 以 下 と な り 、 そ の 後 も 緩 徐 な 減 少 を 呈 し た 。 但し 、 出 生時 在 胎 週 数に 差 が ある 場 合 は、
早 期 産で あ れ ばあ る ほ ど出 生 後 比較 的 初 期 のuCAー18−ol/TBA( 塙)は低 値であ った。更 に、 修正O週からllO週ま でのuCA―18−ol/TBA(%)は 、出生時 在胎週 数に差が あっても、
更 に はLBW、VLBWお よ びELBWな ど 出 生 時 体 重 に 差 が あ っ て も 関 わ り な く各 々 ほ ば同 値 に な る 傾 向 が あ る と 考 え ら れ た 。 こ の こ と は出 生 時 の在 胎 週 数 別お よ び 体重 別 に 見て 修 正O週 か ら の 発 達 的 推 移 に 相 違 は な い こ と を 意 味 す る 。 ま た 、 性 差 に つい て も 男女 共 に 週 数 の 経 過 に し た が い 同 様 の 増 加 減 少 傾 向 を 呈 し た が 、 全 経 過 を 通 してuCA−18
―ol/TBAt% ) は女 子 の 方が 高 値 と なる 傾 向 が認めら れた。 しかし、 その理由 は未だ 不明 であり、今後の検討課題である。
ま た 、 低 出 生 体 重 児 に お い て は 、AGAあ る い はSGAで ある か に より 、 血 清総 胆 汁 酸と 蛋 白 投 与 と の 関 係 に つ い て は 差 異 を 認 め る と考 え ら れて い る 。 本研 究 に おい て は 、そ
れぞれの群において、ほば同様な栄養条件下にあったためか、今回対象となった早期 産児におけるAGAとSGAのuCA―18ーol/TBA(%)の発達的推移については、共にほば同様 な傾向を呈したと考えられる。
早期産児の新生児期におけるu CA−18―01/TBA(%)推移は、出生時在胎週数が異なる と推移のパターンが多少異なり、早期産であればあるほど出生後比較的初期のu CA― 18−0 1/TBAt%)は低値であり、その後は発達に伴い増加傾向を示すことが確認された。
これは、出生直後より自カで急速に胆汁酸を体外に排泄する必要性があるため、18― 水酸化反応が活性化される結果、早期産であればあるほど早く19一水酸化コール酸の 排泄が増加するため出生時在胎週数が異なると推移のパターンも異なるものと推測さ れる。この後、早期産児の乳幼児期には、発達に伴い18―水酸化反応が活性化される 必要性が徐々に無くなり成人の胆汁酸排泄機構に近づくものと考えられ、その状態に 至fJ達した後は出生時在胎週数が異なってもほば同様の推移をたどるものと推測される。
19一水酸化コール酸の生理的意義については今なお未解決である。胆汁酸の体外排 泄促進のために18ー水酸化反応が活性化される必要があるとする仮説は興味深いもの であり、水酸化反応により極性を高めることで胆汁酸を排泄しやすい形とするための 生体反応のひとっであると考えられる。本研究により、早期産児におけるu CAー1ロー 0 1/T BA(%)の発達的推移に関する傾向が把握された。今後は更に、満期産児の推移を も 踏ま えた うえ で、胆 道閉 鎖症 およ び乳 児肝 炎など各種肝・胆道系疾患におけるuC A−19−o l/TBA(%)をも詳細に検討していくことにより、本法を用いた胆汁酸の解析が臨 床診断のうえで有用な指標になり得るものと期待される。
【結 諭】
早 期産 児に おけるu CA−18−ol/TBA(% )についての発達的推移を検討した。
1.その推移は出生後速やかに増加を始め、修正O週で゛50%前後に達した。その後は発達 に伴い減少傾向を呈し修正40週ではIo%以下であった。出生後から修正O週までの増 加の 傾向 は急 激であった。減少の傾向は修正O週から40週までは急激に、その後は 緩徐なものであった。
Z.早期産であればあるほど出生後比較的初期のu CA―18ー0i/TBA(%)は低値であった。
3.出生時在胎週数、出生時体重、およびSGAあるいはAGAの早期産児などに関わりなく 出生から修正110週におけるuCA‑ip−ol/T BA(%)の発達的推移は、ほば同様な傾向 であった。
4.男女共に出生から修正110週におけるuCA―18―ol/T BA(%)の発達的推移は、ほば同 様の傾向であるが、仝経過を通してu CAー18ーol/TBA(%)は女子の方が高値となる傾 向が認められた。
学 位 論 文 審査 の 要旨 主 査 教 授
副 査 教 授 副 査 教 授
松本脩三 小林邦彦 内野純一
学 位 論 文 題 名
早 期 産 児 に お け る 尿 中 総 胆 汁 酸 の 発 達 的 推移
胆 汁 酸 は 、 脂 肪 の 消 化 吸 収 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て い る が 、 胎 児 期 か ら 新 生 児 期 に お け る 胆 汁 酸 代 謝 の 詳 細 に つ い て は 未 だ 不 明 な 点 が 多 い 。 近 年 、 新 生 児 の 尿 中 にiB一 水 酸 化 胆 汁 酸 が 多 量 に 存 在 す る こ と が 見 出 さ れ 、 成 人 の 組 成 と 大 き く 異 る こ と が 明 ら か に さ れ た 。 こ の 物 質 に は 、1ロ ― 水 酸 化 コ ー ル 酸 とiB一 水 酸 化 ケ ノ デ オ キ シ コ ー ル 酸 な ど が あ る が 、 日 向 氏 の 今 回 の 研 究 は 、 こ の う ちiB一 水 酸 化 コ ー ル 酸 の 早 期 産 児 に お け る 発 達 的 推 移 を 明 ら か に し 、 今 後の 臨床 診断 に応 用す る こと を目 的と した もの であ る。
肝 ・ 胆 道 系 疾 患 を 認 め な い 早 期 産 児 ( 在 胎25週3日 〜36週6日 )118名 の 随 時 尿 を 試 料 と し て 、Maharaら の 方 法 で 処 理 後 、 ガ ス ク ロ マ ト グ ラ フ イ ー ・ マ スス ペ クト ロメ トリ ー(GC一MS)に より 胆汁 酸を 定量 、尿 中総 胆汁 酸な らび に1ロ 一水 酸 化 コ ー ル 酸 の 測 定 と 、 尿 中 総 胆 汁 酸 に 対 す るiBー 水 酸 化 コ ー ル 酸 の 割 合 (u CAー1ロ −ol/TBA)を 算 出 し た 。 . そ の 結 果 、 早 期産 児に おけ るuCA−iB−ol/TBA
( %) の発 達的 推移 は、 出 生後 速や かに 増加 を開始し、修正0週で50%前後とな り、
そ れ 以 降 は 急 激 な 減 少 傾 向 を 呈 し 、 修 正40週 に は10%以 下 と な り 、 そ の 後 も 緩 徐 な 減 少 を 呈 す る こ と が 確 認 さ れ た 。 但 し 、 出 生 時 在 胎 週 数 に 差 が あ る 場合 は 、 早 期 産 で あ れ ば ある ほど 出生 後比 較的 初 期のu CA−iB−ol/TBA(% )は 低値 で あ っ た 。 ま た 、 修 正0週 か ら110週 ま で のu CA−iB−ol/TBA( 幻 の 推 移 は 、出 生 時 在 胎 週 数 に 差 が あ っ て も 、 更 に 出 生 時 体 重 に 差 が あ っ て も 関 わ り な く 同 様 な 傾 向 を 呈 す る こ とも 確認 され た。 更に 、 出生 時体 重がsmallーforーgestatio nalーageの 場 合 とappropriateーfor一gestationalーageの 場合 でも 、共 にほ ぼ同 様 な傾 向を 呈す るこ とが 確 認さ れた 。
早 期 産 児 の 新 生 児 期 に お け るu CA―1ロ ーol/TBA(%)の 推移 は、 出生 時在 胎週 数 が 異 る と 推 移 の パ タ ー ン が 多 少 異 り 、 早 期 産 で あ れ ば あ る ほ ど 出 生 後 比 較 的 初 期 のu CAーiB−ol/TBA(%) は 低 値 で あ り 、 そ の 後 は 発 達 に 伴 い 増 加 傾 向を
示すことが確認された。これは、出生直後より自カで急速に胆汁酸を体外に排 泄する必 要がある ため、1Bー水 酸化反応が活性化される結果、早期産であれ ばあるほど早くiB―水酸化コ′ール酸の排泄量が増加するので出生時在胎週数 が異ると 推移のパ ターンも異 るものと推測される。この後、早期産児の乳幼 児期には、発達に伴いiB一水酸化反応が活性化される必要亅陸が徐々に無くな り成人の 胆汁酸排 泄機構に近 づくものと考えられ、その状態に到達した後は 出 生時 在 胎週 数 が 異っ て もほ ぼ 同 様の 推 移 をた ど るも の と 推測 さ れた 。 1ロ―水酸化コール酸の生理的意義については今なお未解決であるが、1ロ一 水酸化反 応が活陸 化されるの は水酸化反応により極性を高めることで胆汁酸 を排泄し やすい形 とするため の生体反応のひとっであると考えることができ る。この 様な生理 的意義への プラスaも さること 乍ら、こ の研究により、早 期産児におけるu CAーiB−ol/TBA(%)の発達的推移に関する傾向が把握された ことは、胆道閉鎖症およぴ乳児肝炎など各種肝・胆道系疾患におけるu CA―1ロ ol/TBA(%)の動態を知り、それらの結果を臨床診断に応用していく上で極め て有用な 指標とな りうるもの であり学位に値する成果と考えられた。口頭発 表時に副 査の内野 、小林両教 授並ぴに寺沢教授との間で各数問の質疑が交わ され、且 っ又後日 副査の両教 授により個別に時間をとって具体的な審査が行 わ れ た が い ず れ も 研 究 成 果 が 評 価 さ れ 、 合 格 と 判 定 さ れ た 。