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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

本研究の目的は、島嶼地域を取り巻く社会経済的な特徴が国際観光の需要に及ぼす影響 とそれによる観光需要の新たな可能性について考察することである。本研究で取り上げた 太平洋の島嶼地域では海外市場との取引が社会経済的に重要な役割を果たしている。特に、

観光産業は多くの島嶼地域において、主要な産業として位置づけられている。一方で、輸 出産業としての観光に依存したモノカルチャー経済構造にはさまざまな弊害や限界がある。

それにもかかわらず、観光産業が地域経済の基幹産業となる島嶼地域は、国際観光に依存 することを余儀なくされている。それは、島嶼地域の経済発展が国内市場の狭小性により 制約されているためである。したがって、海外からの観光客がもたらす観光の財やサービ スに対する需要は地域経済と密接に関係しており、観光の持続的発展の可能性が地域経済 にとって重要なものになっている。

本研究の第 1 の分析では、観光産業の発展段階の異なる 2 地域を取り上げ、国際観光需 要の依存傾向の比較を行った。従来の経済学的な研究では単一地域におけるインバウンド による観光の財・サービスに対する需要の分析を重視していた。しかし、観光の財および サービスの需要に対する影響は地域によって異なる。それにもかかわらず、観光需要の影 響について地域性の違いによる観点からの考察が不足していた。本研究の問題意識として、

相対的な地域比較を行うことにより、財・サービスの需要の地域的な差異を見出すことが 新たな視点として重要であった。第 2 の分析では、島外に住む移民による観光需要の影響 について分析した。近年の研究では VFR(親戚および友人訪問 Visiting Friends and

Relatives)による観光需要と海外に住む移民との関係が注目されている。VFR は主に自国

から移住した人びとによって喚起される観光需要のひとつである。太平洋の島嶼地域にお ける社会的な特徴のひとつは島から先進国へ移住した人びとと島内コミュニティとの関係 が強いことである。先行研究によれば、島外地域に住む移民と島内地域は海外送金によっ て密接に関係していた。一方、観光需要と移民の関係は、先進国において VFR を中心とし た研究が近年進められている。しかし、太平洋の島嶼地域に着目した研究は少ない。本研 究は、島嶼地域からの移民ストックと観光需要の関係を統計モデルにより分析した。太平 洋の島嶼地域では移民の歴史があり、移住地域での居住期間が長いことから、VFRのような 目的で訪れる観光客も多い。また、余暇目的以外の観光需要に着目することで、島嶼地域 の市場への新たな財・サービスの提供の可能性を考えることができ、島嶼地域の持続的発 展の可能性に重要な示唆を与えるものになる。

本研究の第 1 の分析は、仏領ポリネシアと米領サモアを対象とし、観光需要に影響する 変数で構成される統計モデルを明らかにした。仏領ポリネシアはリゾート島として成熟し た観光地として周知されている。一方、米領サモアは漁業および加工食品の輸出を主要産 業としている地域である。分析の結果、経済構造が異なる 2 つの地域では観光需要の影響 や依存状況において異なる傾向がみられた。仏領ポリネシアでは、所得や物価のような経 済変数の影響が観光産業によって相対的に強くなっていた。他方、一次産業を主な経済活

(2)

動としている米領サモアでは、経済変数の影響が相対的に弱くなり、交通条件や宗主国と の関係が仏領ポリネシアよりも強く経済変数に影響していた。本研究の第 2 の分析は、太 平洋地域の11の島嶼国家を対象に島外移民と観光需要の関係を観光需要モデルを援用して 明らかにした。本研究で対象とした島嶼地域は移民による影響が社会経済の地域構造に強 く反映されていた。また、これらの島嶼地域では観光産業が主要な産業もしくは新しい産 業として期待されていた。分析の結果、島外にいる移民ストックと島へのインバウンドの 関係が統計的に有意になった。また、太平洋の島嶼国家では VFR といった余暇目的以外の 観光需要が期待できるため、多くの島嶼国の観光政策においては島外にいる移民の観光需 要を取り込むことが必要になってきていることも明らかになった。

本研究の新たな知見は以下の 2 つである。ひとつは、国際観光の需要に対する地域経済 への影響の違いを明らかにしたことである。具体的には、観光産業が発展途上の地域では 宗主国との関係などの文化的歴史的な関係が地域経済の発展に重要であった。もうひとつ は島外移民の観光需要が VFR として島嶼地域の地域経済の持続的発展に重要であることを 明らかにしたことである。島外移民と観光需要は余暇目的の経済的動機で発生するもので なく、VFR といった地縁的血縁的なつながりを目的とした社会的文化的動機で発生ており、

その意味で観光による地域経済の持続可能性を有していることを明らかにした。したがっ て、本研究の知見は国際観光の地域経済への影響を解明する新たな視点を示唆するものと なっており、博士(観光科学)の学位授与に十分値するものと判断できる。

参照

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