【学位論文審査の要旨】
多くの国立公園において、持続可能な観光開発のあり方が模索されており、インドネ シアでは、自然環境の保全と地域コミュニティの生活を両立させるため、地域に根ざした 観光(Community based tourism: CBT)に期待が集まっている。インドネシアには54の国 立公園があり、Gunung Ciremai国立公園(GCNP)では、他の国立公園に先駆けて、CBT の社会実装を進めている。しかし、もともと観光との関わりが少ない地域コミュニティで は国立公園における地域に根ざした観光がどのように認知され、開発支援の意思決定に対 してどのような要因が影響するのかは不明な点が多い。そこで、本論文では、国立公園周 辺の地域コミュニティがCBT開発支援に関する意思決定を行うメカニズムを明らかにする ため、社会交換理論(Social Exchange Theory: SET)をベースとして、地域住民が観光開 発に期待(認識)する利益と危惧されるコストや他の要因が CBT 開発への支援意思
(Support for Tourism Development: STD)与える影響について検討を行った。本論文で は、GCNPに隣接する12の村で直接対面式のアンケート調査を行い、934件の有効回答を 得て、それらのデータを用いて3つの検討を行った。
はじめに、CBT 開発支援意思の決定要因を明らかにするため、地域コミュニティへの愛 着と地域コミュニティ活動への関与のレベルを要因としてSETモデルに組み込み、検討を 行った。その結果、開発により危惧されるコストの影響は、期待される利益よりも、観光 開発支援の意思に対して強く影響することが明らかになった。この危惧されるコストは、
経済的および環境的問題よりも社会的コミュニティへの混乱が強く関与していたことから、
観光開発による社会的コミュニティへの撹乱がCBT開発に対する支援の意思決定に強く影 響すると考えられる。一方で、モデルから、地域への関与やコミュニティへの愛着が強く 影響することも見いだされた。したがって、CBT 開発により期待される利益や危惧される コストだけでなく、コミュニティへの愛着や関与の程度もCBT開発支援における重要な決 定要因であると結論づけた。
続いて、住民の社会人口統計学的プロファイルが、CBT 開発により期待される利益と危 惧されるコスト及び CBT 開発支援に対して与える影響について検討を行った。その結果、
性別、教育レベル、収入のような社会人口学的プロファイルがCBT開発により期待される 利益や危惧されるコストの評価に有意に影響し、それらの影響を通じてCBT開発支援の意 思にも影響することが明らかになった。一方で、年齢はCBT開発支援の意思に対して直接 的に有意な影響を与えていた。そのため、住民の社会人口統計学的プロファイルは開発に より期待される利益や危惧されるコストだけでなく、CBT 開発支援に対しても直接的、間 接的に影響を与えることが明らかになり、これまでに培われてきた国立公園と地域社会と の関わりがCBT開発支援意思に対して影響を与えていると結論した。
最後に、CBT 開発支援意思と開発により期待される利益及びコストとの関係が観光開発 発展に伴い、どのように変化するかを検討した。その結果、CBT 開発に対する住民の認識 と態度は、CBT のライフサイクルに沿って、不均一かつ非線形的な状態から、より均質で
線形的になることが明らかになった。
以上のように、本論文ではGCNPにおける地域に根ざした観光における地域コミュニティ の開発支援意思の決定メカニズムについて多角的に議論し、そのメカニズムの一端を明ら かにした。これらの成果はインドネシアだけでなく、森林資源を有する東南アジアの国立 公園における観光開発を地域コミュニティとともに進めるために重要な知見を提供するも のとして高く評価できる。よって、本論文は博士(観光科学)の学位授与に十分値するも のと判断される。