博士学位論文審査の要旨
【学位論文審査の要旨】
本学位論文は、日本における地域在住高齢者の Frailty の特徴を解明し、日本の高齢者 を対象としたFrailtyモデルの開発と検証を目的としたものである。申請者は、
この目的を達成するために、以下の手順で研究を実施している。
研究1:日本における地域在住高齢者 144名のFrailty の特徴について、オランダの研究 者が開発したTilburg Frailty Indicator(TFI; Gobbens et al., 2010)を用いて検討した。
その結果、日本の地域在住高齢者は諸外国と比較し TFI 得点は有意に高いことが明らかに なった。その理由として、日本人高齢者は心身の衰えをより消極的にとらえている可能性 があること、特に身体機能に対しての評価が低いことが示唆されている。
研究2:文献検討に基づき一部改訂した「An integral model of frailty (Gobbens, et al.,2010)」の有効性を地域在住日本人高齢者を対象に共分散構造分析を用いて検証した。
その結果、モデルの適合度は良好ではなかったが、「Frailty」の3つの下位概念のモデル 適合度は良好であった。「社会的要素」が「心理的要素」に影響を与え、「心理的要素」が
「身体的要素」に影響を与えるという構造が明らかになり新たな知見であると評価できる。
研究3:文献検討をもとに日本人高齢者に適した Frailty モデルを再構築し、その構成概 念の構造と「身体的frailty」に関連する諸要因の関係性について共分散構造分析などを用 いて検証した。その結果、再構築したモデルは、十分な適合度をもつモデルであることを 示した。重要な知見として「社会経済的要因」は「身体的frailty」のみならず「心理的要 因」、「老いへの対処」へ影響を与えていることを明らかにしたことは評価できる。さらに
「心理的要因」は「老いへの対処」を経て「身体的frailty」に影響を及ぼす構造を明らか にしたことも評価できる。
看護学において「frailty」に関する研究はほとんどなく、この概念を量的に検証した本 研究の意義は極めて高いといえる。この研究で日本人高齢者におけるfrailtyについてTFI を用いて測定しその特徴を明らかにしたことは評価できる。また日本人高齢者の「老いへ の対処」が「身体的frailty」に影響を与える重要な概念として位置づけられたことの新奇 性と意義は高いと評価できる。これらの研究の成果は、超高齢化社会の日本において良質 な高齢者ケアの方策を考えるうえで極めて有用と考えられ、今後具体的支援方法の開発や 理論開発などの研究、さらに教育の質向上に寄与するものと高く評価できる。
口頭試問では、①研究成果の独創性について、②Frailtyの定義の確認、③モデルの構成 概念と概念間の関連について、④分析手法と解釈、⑤研究成果の実践への貢献、⑤今後の 研究の方向性などについて論議された。申請者からはこれらの質問に対して妥当な回答が 得られた。また指摘に対しても真摯に取り組む姿勢が認められた。申請者の研究への情熱 と粘り強さ、看護科学を発展させ、看護実践の向上を図ろうとする熱意や人間としての誠 実さは研究者としての資質を備えていると評価できる。また今後の課題と責任についても 理解し、取り組む意欲が示された。
以上から、本研究が博士論文に値し、申請者は博士(看護学)の学位に相当する学識と
博士学位論文審査の要旨
研究能力を有するものと判断する。