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学位論文審査の要旨

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Academic year: 2021

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(1)

博 士 ( 歯 学 ) 高 田 賢 二

学 位 論 文 題 名

歯の矯正移動により生じた歯根吸収の 光学顕微鏡的ならびに三次元的研究

学位論文内容の要旨

【緒言】

  矯 正治 療中 に移 動歯 の根 尖部分にしばしば歯 根吸収が生じる現象はよく知られてい る.Reitanは,前歯 部の歯を唇便4や口蓋側ヘ急 激に傾斜移動した場合には,歯槽骨壁 の吸 収の みな らず 歯根 の吸 収も引き起こしやす いと報告している,しかしながら,矯 正治 療中 に生 じる 歯根 吸収 に関 して は 歯牙X線 写真 やオ ルソバントモグラフ,セフア ログ ラム など を用 いたX線学 的研 究が 多く ,前 歯部 歯根 吸収に関する組織学的な報告 は少 なく 不明 な点 が多 い. そこで本研究では, 矯正的歯牙移動時に生ずる歯根吸収の メカ ニズ ムを 明ら かに する ことを目的として, 成ネコ上顎犬歯を唇側傾斜させた時に 生 じ る 歯 根 吸 収 を 光 学 顕 微 鏡 的 な ら び に 三 次 元 立 体 構 築 学 的 に 検 索 し た ・

【材料と方法】

1.実験動物および 実験装置

  実 験に は成 ネコ12匹 を用 いた.屈曲した矯正 用ワイヤーを用い,上顎第三前臼歯を 固定源として上顎犬歯を唇側傾斜させた.初期荷重は100g,実験期間は1,2.3 4週間と し,それぞれの期間におぃて各々3〜4匹のネコ を用いた,

2.光学顕微鏡的お よび三次元立体構築学的観察

  所定の実験期間終了後,全身麻酔を施し,10%中性ホルマリン溶液で灌流固定した.

固定 後, 上顎 犬歯 を含 んだ 上顎 骨を 一 塊と して 摘出 し,同一固定液にて1週間浸漬固 定を 行っ た. 試料 は5週 間脱 灰し ,上 昇ア ルコ ール 系列 で脱水後,通法に従いバラフ ィン包埋した,

  バ ラフ ィン ブロ ック の一 部は歯軸に対して垂 直な方向で薄切し,根尖部から歯冠側 に向 かっ て厚 さ5ロmの 連続 切片を作製してへマ トキシリン・エオジン染色を施し,光 学顕 微鏡 で観 察し た, また 三次元立体復構する 試料については,Domon and Wakitaの 方法に準じて互いに直交する2方向から試料の薄切を行った.

  三次元立体復構に際して|よ,切片を100ロm間隔に選択し,顕微鏡写真撮影後,歯根 表面 ,口 蓋側 歯槽 骨表 面, ならびに破骨細胞と 破歯細胞をトレースし,三次元画像解 析ソフトにより三次元的に復構した.

【結果】

1.対照群

  上顎犬歯の根尖よ り0.3mm歯冠慣lJの位置にお ける切片標本では,根尖部の唇側,口 蓋側 ,近 心側 ,遠 心測 のす べてに広い骨髄腔と 骨梁を有する海綿骨が観察され,根尖 より1.7mm歯 冠側 の位 置に おける切片標本では ,歯根の唇側,近心側,遠心側に骨髄 腔と 骨梁 が観 察さ れる が, 口蓋側では骨髄腔は ほとんど観察されなかった。根尖より 2.4mm,2.9mm歯冠 側の 位置 にお ける 切 片標 本でtま ,口 蓋側の歯槽骨壁の厚さは根尖 より1.7mmの位 置と ほぼ 同様 であ った .な お, 対照 群に おいては歯根膜線維の走行の 乱れ ,特 別な 弛緩 や緊 張等 は観 察さ れ ず, 骨吸 収や 歯根 吸収 も認 めら れな かっ た.

2.実験群

  1週間 唇 側傾 斜さ せた 上顎 犬歯 では ,口 蓋側 歯根 膜に 歯根膜線雑の走行の乱れを伴

(2)

う変性像が観察された.これらの変性像は主に口 蓋側歯槽骨に面した部分に認められ,

歯根 膜の 変性 領域tま検 索し た4歯のうち3歯でみられた,しかし,検索した4歯のいず れにも歯根吸収や歯槽骨穿孔は認められなかった .

  2週間 唇側 傾 斜さ せた 上顎 犬歯 の口 蓋側 歯根 膜に おい ても,同 様の変性像が観察さ れた .ま た, 破骨 細胞 によ る骨 吸収は検索した4歯すべてに認められた,一方,1週の 実験群とは異なり,破歯細胞による歯根吸収が検 索した4歯中3歯で認められた.また,

1週 の実 験群 で は認 めら れた かっ た口 蓋側 歯槽 骨壁 の骨 穿孔も検 索した4歯のうち2歯 で観察された.

  3週間 唇側 傾 斜さ せた 上顎 犬歯 にお いて も変 性像 が観 察された .また,骨吸収も検 索し た3歯す ぺ てに みら れた .一方, 破歯細胞による歯根吸収も検索した3歯すぺてに 認め られ ,こ のよ うな 歯根 吸収 が認められる範囲は様々であった ,歯槽骨穿孔は検索 し た3歯 の う ち2歯 で 認 め ら れ , こ れ ら の 歯 に は 歯 根 吸 収 も 認 め ら れ た .   4週間 唇側 傾 斜さ せた 上顎 犬歯 では ,口 蓋側 歯根 膜の 変性像は 検索した3歯のうち2 歯で 観察 され た. また ,広 範囲 にわたる破骨細胞による穿下性, 直接性の歯槽骨吸収 が, 検索 した3歯す べて にお いて観察 された.一方,歯根吸収は検索した3歯すべてに 認められ,3歯のうち2歯で歯槽骨穿孔が認められ た.

3.三次元立体復構

  対 照群 では ,上 顎犬 歯根 尖部 の口蓋側歯槽骨壁は根尖から根尖5分の2の位置に至る まで ほぼ 均一 な厚 さを 示し ,骨 穿孔 は存 在 して いな かっ た.1週 の実験群では|口蓋 側歯 槽骨 は対 照群 と同 様の 立体 的形 態を 示 して いる が, 根尖部分から2mmの範囲にわ たる 歯槽 骨内 面に 破骨 細胞 が認 めら れた .2週 の実 験群 では,根 尖部に円形の歯槽骨 穿孔 が認 めら れた が, 破骨 細胞 は骨穿孔領域に限局することなく |根尖から近遠心的 に広 い範 囲に わた って 存在 して おり,破歯細胞による歯根吸収部 位も骨穿孔部位より 歯冠 側に 偏位 し てい た.3週 の実 験群 ではI円形 を呈 した 歯槽 骨穿 孔が 広 い範 囲で 起 こっ てお り, 破骨 細胞 は骨 穿孔 を取り囲むようにして分布してい た.また,破歯細胞 によ る歯 根吸 収は 骨穿 孔の ほぼ 中央 部位 で 起こ って いた .4週の 実験群では,円形を 呈し た歯 槽骨 穿孔 が根 尖付 近で 起こっており,破骨細胞は骨穿孔 領域以外の根尖部分 から 広い 範囲 にわ たり 近遠 心的 な広 がり を もっ て分 布し ていた.またI破歯細胞によ る歯 根吸 収は 骨穿 孔の 部位 より 歯冠 側に 偏 位し てお り,3力所の 独立した領域として 観察された.

【考察】

結果 より 歯槽 骨の 薄い 領域 に矯 正カによる圧迫が加えられると, 歯槽骨の吸収のみな らず ,歯 槽骨 穿孔 や歯 根吸 収が 高頻度で生ずることを示唆された .一方,矯正移動中 に生 じる 歯根 吸収 の要 因と して は,この他にも炎症などの病的な 原因,初期荷重の大 きさ,再荷重の有無,過去に歯牙が受けた外傷の 有無,jiggling foroe等が挙げられて いる .そ こで ,本 研究 にお ける 歯根吸収が矯正カではなく,ここ に挙げた種々の要因 によ って 引き 起こ され た可 能性 があるか否かについて考察する, まず炎症などの病的 原因 につ いて 、本 研究 で用 いた ネコは実験期間を通して歯肉や、 組織標本において病 的な異常像は認められなかった。次に、初期荷重 の大きさについて、本研究と同じく、

ネ コ 上 顎 犬 歯 を 初 期 荷 重10 0gで 遠心 傾斜 させ た金 子、 佐藤 らの 研究 で は歯 根吸 収 はほ とん ど起 こら なか った 。ま た、再荷重の有無について、入江 らの研究ではネコ上 顎 犬 歯 を 初 期 荷 重100gで4週 間 遠 心 傾 斜 さ せ た 後 、 再 度 荷 重 を 加 え た 場 合 、 歯 根 吸収 がま れに 見ら れる こと を報 告されている。しかし、本研究で は再荷重を加えてい ない 。さ らに 、外 傷の 有無 につ いて、外傷時にみられるような壊 死組織は本研究の結 果には認められなかった。加えて、 jigglingf orceについて、本研究では初期荷重のみ を加 えカ の作 用方 向を 一定 にし たので、観察された歯根吸収の要 因としては考えられ ない 。最 後に 、歯 槽骨 の厚 みに ついて、Reitanは、ヒトでは歯槽 骨の厚さが薄い前歯 部で 、歯 の傾 斜移 動を 行っ た場 合、歯根吸収を生じやすいと報告 した。以上の考察か ら本 研究 で観 察さ れた 歯根 吸収 は、口蓋側歯槽骨が薄いことが大 きな要因となってい ると 考え られ る。 以上 より ,ネ コ上顎犬歯を傾斜移動した際に出 現する歯根吸収は、

歯に 加わ った 応カ を受 ける 圧迫 側の歯根根尖部の歯周組織の解剖 学的形態、特に歯槽 骨壁の厚さの違いにより影響を受けることが示唆 された。

535 ‑

(3)

学位論文審査の要旨

主 査   教 授   飯 田 順 一 郎 副 査   教 授   脇 田   稔 副 査   教 授   吉 田 重 光

学 位 論 文 題 名

歯の矯正移動により生じた歯根吸収の 光学顕微鏡的ならびに三次元的研究

  審査 は主 査 、副 査が それ ぞれ個別に申請者に対 して口頭試問により提出論文の内容 お よび 関連 分 野に つし ゝて 行っ た。

  矯正 治療 中 に移 動歯 、特 に前歯の根尖部分に時 として歯根吸収が生じ臨床上問題と な るこ とが あ るが 、こ の現 象に関する組織学的な 報告は少なく不明な点が多い.そこ で 申請 者は 成 ネコ 上顎 犬歯 を唇側傾斜させた時に 生じる歯根吸収を光学顕微鏡的なら び に三 次元 立 体構 築学 的に 検索 して いる ,

【 材料 と方 法 】

1. 実 験 に は 成 ネ コ12匹 を 用 い、 上顎 犬 歯を 唇側 傾斜 させ た. 初期 荷重 は100g| 実 験 期間 は1,2,3,4週 間と した .

2. 所定 の実 験期 間終 了後 ,10%中 性ホ ル マリ ン溶 液で 灌流固定し、上顎犬歯を含ん だ 上顎 骨を 一 塊と して 摘出 した。試料は脱灰後, 通法に従いバラフイン包埋し、厚さ 5umの連 続切 片を 作製 した 。染 色はH―.E染色 を施 し| 光学顕微鏡で観察した,また 一 部の 試料 に つい ては 三次 元復 構し た.

【 結果 】 1, 対照 群

上 顎犬 歯の 根 尖よ り0.3 mm歯冠 側の 切片 標本 では ,根 尖部の唇J口蓋,近心,遠心側 に 海綿骨が観察され, 根尖より1. 7mmより歯冠側 の位置における切片標本では|口蓋 側 では 骨髄 腔 はほ とん ど観 察さ れな かっ た。

2. 実験 群

1週 間唇 側傾 斜さ せた 上顎 犬歯 の拡 大像 で はI口蓋 側歯 根膜 に変 性像 が 観察 され た.

そ れは 検索 し た4歯の うち3歯で みら れ、 その 周囲 の骨 吸収像は4歯すべてで認められ た .し かし | 検索 した4歯 のい ずれ にも 歯 根吸 収像 およ び歯槽骨穿孔は認められなか っ た.

2週 間唇 側傾 斜さ せた 上顎 犬歯 においても,同様の変性像が観察されたが,1週の実験 群 とは 異な り |歯 根吸 収像 が検索した4歯中3歯で 認められ,口蓋側歯槽骨壁の骨穿孔 も 検索 した4歯の うち2歯で 観察 され た.

3週 間も しく は4週 間唇 側傾 斜させた上顎犬歯にお いても骨吸収像が検索したすべてに み られ た, 一 方, 歯根 吸収 像も 検索 した6歯す ぺて に認 められた。歯槽骨穿孔は検索 し た6歯 の う ち4歯 で 認 め ら れ , こ れ ら の 歯 に は 歯 根 吸 収 像 も 認 め ら れ た . 3.三次 元立 体 復構

536

(4)

  

対照群では,上顎犬歯根尖部の口蓋側歯槽骨壁は根尖から根尖5分の2の位置に至る までほぼ均一な厚さを示し,骨穿孔は存在していなかった.1週の実験群では,歯槽 骨内面に破骨細胞が認められた.2週の実験群では,根尖部に円形の歯槽骨穿孔が認 められ,破骨細胞は根尖から広い範囲にわたって存在し,歯根吸収部位は骨穿孔部位 より歯冠側に偏位していた,3週の実験群では,歯槽骨穿孔が広い範囲で起こってお り,破骨細胞は骨穿孔を取り囲むようにして分布していた.また,歯根吸収は骨穿孔 のほぼ中央部位で起こっていた.4週の実験群では,破骨細胞は骨穿孔領域周囲の根 尖部分から広い範囲にわたり分布していた.また,歯根吸収は骨穿孔の部位より歯冠 側に偏位して観察された,

【考察】

1

.歯槽骨壁の厚さと歯根吸収

  

本研 究において|圧迫側にあたる口蓋側で高頻度に歯根吸収が生じたが,金 子 ,佐 藤らの上顎犬歯を遠心傾斜させた研究では,歯根吸収はほとんど認めら れ なか った。この違いは、ネコ上顎犬歯根尖部における歯槽骨の厚さは口蓋側 は 近心 側に比べて非常に薄いことに起因すると考えられる。すなわちこの結果 は ,歯 根吸収が生ずるか否かに圧迫側の歯根根尖部の解剖学的形態,特に歯槽 骨壁の厚さが大きな影響を与えることを示唆している.

2

.骨穿孔と歯根吸収の関係

佐 藤ら によると,矯正カによる骨改造現象は圧迫側歯周組織の組織圧を軽減す る ため の生体反応であると考察されている。この観点に立っと、本研究で観察 さ れた

2

週 目以 後の 歯根 吸収の 現象 は、骨吸収とともに組織圧の軽減に寄与し て いる ものと考察される。さらに、歯根吸収の後に生じると考えられる歯槽骨 の 穿孔 においても、歯根吸収と相互補完的に歯根膜圧の軽減に寄与する反応で あると考えられる。

  

以 上の よう に、 本論文は、臨床的に矯正学の分野で時として見られ、好まし くぬ い生 体反 応と されている歯根吸収を、実験的に究明するための基礎研究と して 実験 系を 確立 したことに加えて、歯根吸収のーつの原因を、歯根を取り巻 く歯 槽骨 の解 剖学 的形態、特に歯槽骨壁の厚さに関連させて解明した。このこ とは 、臨 床的 に大 いに価値の高い結果を提示したものと評価できる。さらに、

歯槽 骨壁 の穿 孔と 歯根吸収の補完的関係の存在は、本研究で初めて明らかにさ れた もの で、 矯正 学的にも、骨の吸収に関する基礎的研究としても、骨の研究 全体 に大 いに 貢献 するものと考えられる。加えて、申請者は本研究に直接関係 する 事項 のみ なら ず、関連分野における基礎的、臨床的な広い学識を有してい ると 認め られ た。 よって、申請者は博士(歯学)の学位を授与される資格を有 する もの と認 めた 。

‑ 537

参照

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