動的な両眼視差の付加が視覚的記憶に与える影響
Effects of time-series changes of binocular disparity on attention and memory
1W100150-0 上道 寛子 指導教員 河合 隆史 教授
KANDACHI Hiroko Prof. KAWAI Takashi
概要: 本研究は、3D映像におけるヒトの認知特性について、2D/3D変換を用いた新たな表現として局所3D映像を用い、
その記憶への影響を検討したものである。局所3D映像とは、2D素材映像の一部分のみに交差性の両眼視差を与えて変換 し、その他の部分には両眼視差を与えないか、一定の非交差性の両眼視差を与えた映像である。本研究ではさらに、一定 時間交差方向に映像内の一部分のみが動くものを動的な両眼視差と定義し、この動的な両眼視差を付加した刺激を局所3D 条件として呈示した。2D、3D、局所3Dの3条件において、記憶したものを正しく判断できるかを検証する再認実験を行 い、正答率と記憶時の注視傾向を比較した。その結果、局所3D 条件で正答率が有意に高くなるという結果が得られた。
このことから、動的な両眼視差が付加された局所 3D映像では、対象が記憶に残りやすいという認知的影響を及ぼすこと が示唆された。
キーワード:2D/3D変換、局所3D映像、両眼視差、記憶、再認
Keywords: 2D/3D conversion, Partial stereoscopic image, Binocular disparity, Memory, Recognition
1. はじめに
近年、手動で立体感を付加する2D/3D変換を用い た 3D 表現が注目され、活用されている。一例とし て局所 3D 映像が提案され、ヒトの認知特性につい て検討されている[1]。局所3D映像とは映像の一部分 のみに交差性の両眼視差を付加した映像である。先 行研究より、両眼視差を付加した対象には視線が集 中し、さらに一時的に記憶に残りやすいという結果 が得られている[2][3][4]。本研究ではこれに加え、その 特性を生かした映像として、一定時間交差方向に対 象が動くものを動的な両眼視差と定義し、この視差 が付加された映像を局所3D条件とした。これを2D 条件および 3D 条件と比較することで、記憶に与え る影響を明らかにした。
2. 実験方法
局所 3D 映像が記憶に与える影響を検討するため に、学習・妨害・再認課題を用いた評価実験を行な った。実験は暗室で行い、7インチ裸眼3Dディスプ レイに4枚の学習課題を3秒ずつ呈示した後、妨害
課題と再認課題を順に呈示し、これらを24回繰り返
した(図1)。課題には、4枚の学習課題に含まれてい
た課題を呈示する一致課題と、含まれていなかった 課題を呈示する不一致課題が 12回ずつ呈示された。
そのうち一致課題は3条件が4回ずつとなるように 設定し、これらをランダムに呈示した。学習課題は5
×5 を 2 色に塗り分けたマトリックスパターンのセ ルの位置を記憶するものであり、交互に 2 色のセル が配置されたもののいずれか 1 つの白セルを上下左
図1 再認実験の流れ
右に 1 つ動かした課題を作成した。妨害課題は画面 左、中央、右のいずれかに表示される十字を目で追 う視線移動課題であった。参加者の手元に回答用の ゲームパッドを準備し、再認課題が呈示された際に、
一致課題であれば右のボタン、不一致課題であれば 左のボタンを押して回答するよう求めた。
呈示条件は通常の 2D 映像、白セル全てに交差性 視差を与えた 3D 映像、移動セル上下左右のいずれ かのセルが含まれるよう、画面上から隔列で 1 つの セルに動的な両眼視差を与えた局所 3D映像の3 条 件であった。実験時は眼球運動測定器(PowerRef3) を用いて視線を測定し、実験後には立体感と記憶に 関するアンケート調査を行った。参加者は正常な視 機能を持つ男女33名であった。
3. 結果
まず、再認課題における各呈示条件の正答率を算 出した。3つの呈示条件別にWilcoxonの順位検定を 行った結果、2D条件と局所3D条件、3D条件と局 所 3D 条件との間に 5%水準の有意差がみられた(図
2)。この結果から、局所 3D 条件での正答率は、2D
条件および 3D 条件での正答率より有意に高いこと が認められた。
図2 条件別正答率の結果
また、眼球運動の測定結果からは、局所 3D 映像 において視線移動および注視範囲が大きい傾向があ るものがみられた。実験後のアンケートでは 80%以
上の参加者が、呈示された映像の種類の中に 2D 映 像および 3D 映像以外の映像が含まれていたと回答 した。また、両眼視差が付加された部分に視線が誘 導された、という回答も得られた。
4. 考察
実験の結果、ヒトは映像を記憶する場合、一部分 のみに動的な両眼視差を付加した映像において、そ うでない映像と比較して再認実験の正答率が有意に 高くなるという結果が得られた。また眼球運動測定 の結果より、動的な両眼視差を付加した局所 3D 条 件においてより広範囲を視聴する傾向があるものが みられた。これらの結果より、視線移動によって全 体を把握しやすくなったことで、記憶しやすいとい った認知特性への影響があったと考えられる。これ らの知見をコンテンツ制作時に用いることで、特定 の対象を記憶に残すことも可能となり、教育や広告 分野への応用が可能となる。一方、本研究では5×5 というマトリックスパターンにおける呈示刺激を再 認課題として用いた。今後は記憶したことを再生す る再生実験や、文字や自然画などに置き換えた際の 影響について検討していきたい。
参考文献:
[1] 小井土 慶久, 田中 礼美, 平原 正広, 櫻井 日香留, 河合 隆史, 篠原 雅彦, "局所立体映像の提案と基礎 的 評 価", 人 間 工 学, vol.46, 特 別 号, 2010, pp.478-479.
[2] 小井土 慶久, 河合 隆史, "局所立体映像表現の認知 特 性 の 評 価", 人 間 工 学, vol.47, 特 別 号, 2011, pp.252-253.
[3] Yoshihisa Koido, Takashi Kawai, “Partial 2D to 3D conversion and the cognitive characteristics”, SPIE, vol.8288, 2012, p82882E.
[4] 上道 寛子, 小井土 慶久, 金 相賢, 盛川 浩志, 三家 礼子, 河合 隆史, 渡邊 克巳, “特定領域への両眼視差 の付加と注意・記憶への影響”, 人間工学, vol.49, 特 別号, 2013, pp34-35.