立体映像における視差量操作が選好判断に与える影響
Effects on preference judgement with binocular disparity of stereoscopic images
5114E012-1 平賀 大貴 指導教員 河合 隆史 教授
HIRAGA Daiki Prof. KAWAI Takashi
概要: これまでの研究から、視差角-1度から1度という限られた範囲内の視差条件を設定した際、交差性視差に対する 選好率が増進されるという傾向が示唆され、同時に視線のカスケード現象が発生しているということが考えられた。しか し、選好判断を促す視差の増大化は 3Dコンテンツの快適な視聴を妨げ、推進されない。本研究は、強い交差性視差を付 加した際における選好判断への影響について検証を進め、最適視差の検証を行う。-2.5度、-1.75度、-1.1度の3つの視差 条件において、無意味図形を使用し、一対比較の選好判断をタスクとして実験を行った。その結果、高い交差性視差を付 加した場合は個人差が生じ、特定の視差が好まれるという結果は出なかった。また、各実験参加者に対し、融像限界幅を 測定し、選好された視差との相関を算出したが、強い相関は見られなかった。これらの検証結果から、個人の融像幅に関 係なく、選好判断を増進する視差設計は-1度を超えない適度な交差性視差が望ましいと判断された。
キーワード:3D映像、交差性視差、眼球運動、無意味図形、融像限界幅、選好判断
Keywords: 3D imeges, positive disparity, eye movement, novel shape, range of fusion, preference
1. はじめに
近年 3D 映像視聴時におけるヒトの認知特性への 影響について検証する事例が増加している。例えば、
2D よりも手前方向に見える交差性視差に対する選 好率が上昇し、同時に注視時間や視線の向けられる 注視回数も増加するということが示されている 1,2。 したがって 3D 映像の交差性視差には視線のカスケ ード現象が発生したと考えられた。視線のカスケー ド現象とは見た対象への注視時間が増加することで 好ましさが増大するヒトの視知覚特性である3。しか し、強い交差性視差(-1 度を超す視差)に対する選 好判断への影響や個人差を考慮しての検討は行って いない。本研究では、強い交差性視差への選好は融 像限界幅に関係すると仮説を立て、選好判断を増進 する最適な視差設計について検証する。
2. 実験方法
3D 映像視聴が選好判断に与える影響について、
-2.5度、-1.75度、-1.1度という強い交差性視差の値 を付加し、一対比較の実験を行った。視差角とは、
立体像として見える対象への輻輳角から 2D 面への 輻輳角を引いた値として出すことができる。したが って図 1 のように交差性視差は負の値、非交差性視 差は正の値をとる。実験は 3 種類の視差が付加され た無意味図形(8 種類)がランダムで左右に呈示され、
実験参加者に好ましい方を選んでもらうというもの であった。また個人の融像限界幅の測定に関しては ディスプレイの両端から中心に向かって近づく、2 本の長方形が一つに融像できた瞬間を測定し、算出 した。なお輻輳方向のみ 3 回測定し、その平均値を 個人の融像限界幅とした。
図1 交差性視差と非交差性視差
3. 結果
一対比較により得られた選好率をもとに各視差条 件に対する尺度値をヤードスティックの数直線上に プロットしたものが図2 である。その結果、-2.5度 が最も好まれ、次いで-1.75度、-1.1度という順で選 好された。しかし、各尺度値間の差とスチューデン ト化された値(Yα)を比較した結果、各尺度値間に有意 差は認められなかった。
図2 各視差条件に対するヤードスティック値
さらに、各参加者に対する融像限界幅と最も選好 された視差量についての関係を散布図で表したもの が図3である。2軸の相関は0.37となり、強い相関 は見られなかった。個人の融像限界幅に関係なく、
強い交差性視差に対し選好度が上昇する場合と減少 する場合とで二極化することが分かった。
図3 選好された視差角と融像幅の関係
4. 考察
実験の結果、-1 度を超す強い交差性視差を選好の 対象とした場合、視差が強くなるほど、選好率が上 昇する場合とそうでない場合が生じ、個人差が生じ
ることが明らかとなった。実際に内省報告でも、強 い視差に対し、見づらく選好しづらいという場合と、
飛び出て見えた対象に視線が向き、選好したという2 パターンの意見が回答として得られた。また各個人 の融像限界幅を測定したところ、選好された視差と の間に相関は見られなかった。このことから、融像 限界幅が大きいから強い交差性視差を好むという仮 説は成り立たないと判断された。
3D映像視聴が選好判断に与える影響を考慮し、最 適視差の検討を行うと、-1 度を越さない適度な交差 性視差が望ましいと判断された。また-1 度を越さな い視差内であれば手前方向に対する立体感に視線の カスケード現象が生じ、選好の一要因になったとい うことが考えられた。また、強い交差性視差に対し ては、個人の融像幅に関係なく、選好が二極化する 傾向が示唆された。強い交差性視差に対する選好は、
個人の主観的な印象などそのほかの要因が関係して いると考えられた。
今後は、より現実に即した視環境を考え同様の知 見を得ることがでるか検証していく必要がある。具 体的には、サイネージ等への利活用を臨み、広視野 角での検討や様々な視距離での検討を実践していく べきである。また対象を複数にした場合や無意味図 形以外での検証を行うなど、応用化へ向けた取り組 みを行いたい。
参考文献:
[1] 平賀 大貴, 河合 隆史, 盛川 浩志, 三家 礼子, 渡邊 克己, "立体指標に対する視差量操作と選好判断", 人 間工学, Vol.49, pp.36-37 , 2013
[2] 平賀 大貴, 河合 隆史, 盛川 浩志, 三家 礼子, 渡邊 克己, "立体映像に対する選好判断と視知覚特性", 人間工学, Vol.50, pp274-275,2014
[3] Shinsuke shimojo, Claudiu Simion,Eiko Shimojo,Chiristian Scheier, " Gaze bias both reflects and influences preference", Nature Neuroscience,2003