1)愛知淑徳大学 健康医療科学部 医療貢献学科 視覚科学専攻 2)愛知淑徳大学 健康医療科学部 医療貢献学科 視覚科学専攻
テクスチャ勾配と両眼視差情報が 奥行きと大きさ知覚に及ぼす影響
河合沙弥
1)・髙橋伸子
2)Effects of texture gradient and binocular disparities on depth and size perception.
Saya KAWAI and Nobuko TAKAHASHI
見えの奥行きをそろえたテクスチャ勾配と両眼視差を用い,2 つの手がかりの情報統合について検討 した。テクスチャ勾配,両眼視差,呈示時間を変化させてマグニチュ-ド推定法により見えの奥行きと 見えの大きさを測定した結果,見えの奥行きについては,(1)呈示時間が短い場合はテクスチャ勾配,呈 示時間が長い場合は両眼視差の相対的強度が大きいことが示された。また,(2)2 つの手がかりは加算 的に統合され,奥行き方向が矛盾する不整合的条件では逆方向の奥行き情報の加算(相殺)が行われた。
見えの奥行きと見えの大きさの関係については,(3)整合的・不整合的条件ともに,呈示時間が短い場合 は見えの奥行きの増加に伴う見えの大きさの減少は認められなかったが,呈示時間が長い場合は認めら れた。一方,中間的な呈示時間では不整合的条件で関係が認められず,両眼視差の相対的強度が充分大 きくないため,テクスチャ勾配によって相殺されたと考えられる。
Keywords:テクスチャ勾配,両眼視差,奥行き知覚,大きさの恒常性
texture gradient,binocular disparity,depth perception,size constancy
1. 問題
外界は 3次元空間であり,我々は立体的な広がりや奥行きを知覚している。しかし,我々の網膜に投 影された像(網膜像)は2次元画像であるため,網膜に投影された2次元画像から3次元空間を再構築 していると考えられている。この2次元画像から3次元空間を再構築する際に重要であるのが,奥行き 知覚のための手がかりである。奥行き知覚の手がかりには,線遠近法,重なり,陰影,テクスチャ勾 配,大気遠近法,大きさ,両眼視差,運動視差などがある。我々はそれらの様々な奥行き情報から最 終的に一つの整合的な奥行きを知覚していると考えられている。したがって,奥行き知覚の手がかりの 統合や相互作用について検討することは,我々の日常生活における奥行き知覚を知る上で,非常に重要 な問題である。奥行き情報の統合については,これまで様々な研究が行われているが,未解明な部分も 多い。
1.1. テクスチャ勾配
単眼性の奥行き知覚の手がかりとして,テクスチャ勾配がある。テクスチャ勾配とは,同程度の大き さの粒パタ-ンが点在している面を観察すると,近くの粒はまばらに,遠くの粒は密に映り,この密度 の変化から遠近を知覚できるものである。網膜像は,対象との距離に応じて変化し,近くのものは大き
図 1.1 テクスチャ勾配の例
く映り,遠くのものは小さく映るが,対象が粒状のものであれば,近くに点在している粒の間隔は広く 映り,遠くの粒の間隔は狭く映る。これが連続的に現れたものがテクスチャ勾配であり,面の連続的な 奥行きを知覚する手がかりである。図 1.1 に,テクスチャ勾配の例を示した。テクスチャ勾配による奥 行きは,粒すなわちテクスチャ要素の形状の変化,要素間の間隔,要素の大きさによって変化する。こ のテクスチャ勾配は計算式によって求めることが可能である。図 1.2 に,テクスチャ勾配を求める際に 必要な変数間の関係の模式図を示した。眼の高さ(h),テクスチャの最近点(TN)までの観察距離(D),テ クスチャの最近点(TN)から最遠点(TF)までの長さ(a),求めたいテクスチャ要素の縦の長さ(y)を用い,ま ずTFまでの角度k1,TNまでの角度k2,TNに接したテクスチャ要素の最遠点までの角度k3を求め ると,図から
k1 = ����� ���� , k2 = ����� �� , k3 = ����� ����
となる。テクスチャ刺激全体(a)の角度α,TNに接したテクスチャ要素(y)の角度βは,それぞれ
α= k1-k2,β= k3-k2
と表せる。角度αを1としたとき,角度βを比(K)で表すと,
1:K =α:β,すなわちK =�� = ����� �����
となり,テクスチャ要素の縦の長さ(y)は,
y = aK = a× �����
����� (1.1)
となる。求めたいテクスチャ要素の横の長さ(x)は,TNからTN+yを縦の長さとする要素の横の長さを
���とすると,観察距離(D)とテクスチャ要素の縦の長さ(y)から,
x = �������� (1.2) となる。
図 1.2 テクスチャ勾配を求める際に必要な変数間の関係の模式図
TN=テクスチャの最近点,TF=テクスチャの最遠点,h=眼の高さ,D=TN までの観察距離,a=TN から TF までの長 さ,y=求めたいテクスチャ要素の長さ,k1=TF までの角度,k2=TN までの角度,k3=TN に接したテクスチャ要素 の最遠点までの角度,α=テクスチャ刺激全体(a)の角度,β=TN に接したテクスチャ要素(y)の角度
1.2. 両眼視差
両眼性の奥行き知覚の手がかりとして,両眼視差がある。我々は,水平方向に約6cm離れて位置する 2 つの眼を持っている。そのため,両眼で 3次元対象を観察したとき,両眼に映った対象の網膜像は互 いに同一ではなく,水平方向にずれが生じる。このずれが両眼視差と呼ばれており,対象の奥行きに関 する手がかりとしてよく知られている。この両眼視差による奥行き知覚が両眼立体視である。図1.3に,
両眼視差による両眼立体視のしくみを示した。図1.3は,左右の眼で注視点(○)を注視するときの,
図 1.3 両眼視差による両眼立体視のしくみ
TF TN
k2 β k3
h
y D a
α k1
注視点
中心窩 左眼
中心窩 右眼
様々な奥行きにある刺激(●,■)の網膜像である。注視点(○)は,中心窩に投影される。注視点(○)
と異なる奥行き面上にある刺激(●,■)は,左右網膜の異なる位置に投影され,ゼロ以外の両眼視差 を持つ。手前にある刺激(●)と,奥にある刺激(■)の両眼視差の方向は逆になり,前者が交差視差,
後者が非交差視差である。また,左右眼に投影される対象のずれがどのくらいであるかによって,実際 にどれだけ手前に飛び出したり奥に引っ込んだりしているかを計算で算出することが可能である。図1.4 に,両眼視差と奥行き距離の関係の模式図を示した。a=1/2視差(mm),P=1/2瞳孔間距離(mm),D=
観察距離(mm),X,Y=左右眼に実際に呈示された点,N=交差視差の場合の知覚される点,F=非交差 視差の場合の知覚される点である。交差視差は,右眼にX,左眼にYが呈示された場合で,両眼で見る と手前のN点にあるように知覚される。その奥行き距離(h)を計算式で表すと,a:h=P:D-hの比より,
h = ����� (1.3)
となる。非交差視差は,右眼にY,左眼にXが呈示された場合で,両眼で見ると奥のF点にあるように 知覚される。奥行き距離(-h)は,a:-h=P:D-hの比より,
-h =����� (1.4)
と表せる。
図 1.4 両眼視差と奥行き距離の関係の模式図(丸尾・久保田(2012 年)を改変)
X Y
N
右眼 左眼
ゼロ視差 非交差視差
交差視差
F
刺激呈示面 (モニタ-面)
P P
a a
D h
-h
図 1.5 Tozawa(2012)が使用した実験刺激 左からテクスチャ勾配なし,低密度,中密度,高密度条件
1.3. 見えの奥行きと見えの大きさの関係
奥行きによって網膜像の大きさが異なるため,見えの大きさは,見えの奥行きと深い関係がある。
Tozawa(2012)は,単眼性の奥行き知覚の手がかりの1つであるテクスチャ勾配の密度を変化させ,大
きさ知覚に及ぼす影響について測定した。図1.5に,Tozawa(2012)が用いたテクスチャ勾配刺激を示 す。図の左上に配置された白いバ-(標準刺激)の長さと比較して,右下に配置された白いバ-(比較 刺激)の長さがテクスチャ勾配の違いによってどのように知覚されるかについてマグニチュ-ド推定法 で測定した結果,テクスチャの密度が高いほど比較刺激が小さく知覚され,テクスチャ勾配背景による 奥行き知覚の影響により大きさの恒常性が示された。
1.4. 単眼性の奥行き知覚の手がかりと両眼性の奥行き知覚の手がかりの情報統合過程
単眼性の手がかりと両眼性の手がかりは処理過程が異なることが知られている。物理的奥行きが存在 する場合,両眼性の奥行き知覚の手がかりと単眼性の奥行き知覚の手がかりは,異なる処理過程を経て 統合され,一つの整合的な奥行きとして知覚される。異なる奥行き知覚の手がかりに基づく情報の統合 過程を調べるためには,3 次元形状の知覚に関わる手がかり間の相互作用について考える必要がある。
単眼性の奥行き情報と両眼性の奥行き情報の統合については,2 つの手がかり間に矛盾のある刺激を用 いた研究が報告されている。
塩入(1990)は,両眼視差と単眼性の奥行き知覚の手がかりである陰影を用いて,両者の奥行き情報 が一致する刺激(整合刺激)と一致しない刺激(不整合刺激)に対する奥行き知覚の相違を検討し,そ の結果から,異なる奥行き知覚の手がかり間の情報統合メカニズムについて提唱している。塩入(1990) の刺激は,陰影輝度分布を含むランダムドットステレオグラムで,両眼視差に関しては,奥行き変化が あるサイン面と,奥行きがない平面の2種類を用いた。陰影輝度分布は,両眼視差との位相差として0° から315°まで45°おきに8条件と,陰影のない条件の計9条件であった。位相差0°とは,陰影によ る奥行き情報が両眼視差による奥行き情報と一致した条件であった。実験参加者は,サイン面と平面の いずれかの呈示に対し,それがサイン面であるか平面であるかの判断を求められ,判断までにかかった 反応時間を測定した。図1.6に,塩入(1990)が使用した不整合刺激例を示した。
図 1.7 には,両眼視差の有(Sine)無(Flat)と陰影輝度分布との位相差が両眼立体視形成時間に及 ぼす影響を示した。結果は,陰影輝度分布の位相差が 0°付近で反応時間が短く,位相差が大きくなる につれて反応時間が長くなるというものだった。また,陰影の奥行き情報と両眼視差の奥行き情報の整 合的な条件では,不整合的な条件に比べて立体視の形成に要する時間が短いことが示された。これらの ことから,陰影の持つ奥行きが,両眼立体視の形成時間に影響を及ぼし,両眼立体視の形成過程が陰影 の奥行き知覚の手がかりの処理過程と全く独立のものではないことが示された。
図 1.6 塩入(1990)が使用した陰影輝度分布を持つランダムドットステレオグラム(左:左眼用,
右:右眼用)の不整合刺激の例(陰影輝度分布と両眼視差の位相差が 90°の条件)
しかし,単眼性の奥行き情報と両眼性の奥行き情報との統合について示す過去の研究結果は,一定の 関係を示すものではなく,両者のいずれかが優位となる場合,両眼性の奥行き情報と単眼性の奥行き情 報の加算が行われる場合,両者が独立に処理される場合など,様々な場合があることを示している。金 子(2007)は,奥行き知覚の手がかりの統合もしくは相互作用の性質にはいくつかの型があり,加算,
平均,優位,協調,分離に分類されるとしている。加算は,各手がかりによる同質の情報が加算されて,
全体として手がかりが単独で得られる場合よりも優れたパフォ-マンスを示す型,平均は,各手がかり による連続的で同質な情報が平均化されて,全体として各手がかりからの情報の中間的な知覚となる型,
優位は,2つもしくはそれ以上の手がかりによる情報に矛盾があるとき,1つが優位になり他が抑制され る型,協調は,ある手がかりが持つ情報の曖昧性を,他の手がかりから得られる情報によって限定する 型,分離は,2 つもしくはそれ以上の手がかりによる複数の知覚が,同時に起こるもしくは両眼視野闘 争のように入れ替わる知覚出力の型であるとしている。塩入(1990)の結果は,両眼視差と陰影の手が かりの統合においては,奥行き情報の加算が行われている可能性を示唆するものと考えられるが,反応 時間を指標とした結果であるため,より直接的に検討する必要がある。
図 1.7 塩入(1990)による両眼視差の有(Sine)無(Flat)と陰影輝度 分布との位相差が両眼立体視形成時間に及ぼす影響
1.6. 問題提起
単眼性の奥行き知覚の手がかりと両眼性の奥行き知覚の手がかりの情報統合について,塩入(1990) は,陰影輝度分布の位相が両眼視差と整合的な条件と,不整合的な条件で奥行きの判断時間を測定し,
それらの比較から陰影の奥行き情報の両眼立体視形成への影響を調べた。しかし,塩入(1990)の実験 では,陰影による見えの奥行きと両眼視差による見えの奥行きが一致しておらず,見えの奥行きがそも そも異なるのではないかということが考えられた。単眼性と両眼性の奥行き知覚の手がかりの情報統合 過程を調べる上で,各々の手がかりが奥行き知覚におよぼす効果について強度が等しくなければ,直接 的に奥行き情報の統合過程を調べることはできないと考えられる。
そこで本研究では,実験1で単眼性の手がかりによる見えの奥行きと両眼性の手がかりによる見えの 奥行きが主観的に一致する主観的等価点を調整法によって測定し,手がかり間の主観的な見えの奥行き をそろえた上で,その結果をもとに実験 2で手がかり間の奥行き情報の統合過程について検討する。両 眼性の奥行き知覚の手がかりとしては両眼視差,単眼性の奥行き知覚の手がかりとしてはテクスチャ勾 配を用い,2つの奥行き知覚の手がかりを組み合わせた条件で,対象の見えの奥行きについて測定する。
塩入(1990)は,奥行きの判断時間を測定することによってその統合について検討したが,見えの奥行 きについては測定していない。そこで本研究では,マグニチュ-ド推定法を用いて,知覚内容,すなわ ち奥に知覚されたのかそれとも手前に知覚されたのか,さらにはその見えの奥行きがどの程度であった かを測定し,テクスチャ勾配と両眼視差の奥行き知覚への影響をより直接的に検討する。その際,Tozawa
(2012)と同様,見えの大きさについてもマグニチュ-ド推定法によって測定し,見えの奥行きと見え の大きさの関係についても考察する。また,塩入(1990)の実験で,図1.7に示されるように,2つの 手がかり間の奥行き方向が矛盾した場合に,奥行き判断時間が長くなるという結果が示されたため,刺 激の呈示時間が奥行き知覚に影響を及ぼす可能性が考えられた。そこで,テクスチャ勾配と両眼視差に 加えて呈示時間条件を設定し,検討する。
2. 実験 1 2.1. 目的
奥行き知覚の手がかりの種類によって,知覚される奥行きに差があるか否かを検討するために,テク スチャ勾配によって得られる奥行き知覚量と,両眼視差によって得られる奥行き知覚量の主観的等価点 を調整法によって求め,両者の奥行き知覚の手がかりとしての相対的強度を比較する。
2.2. 方法
1)実験参加者:視力正常または矯正正常(1.0 以上)で,立体視力正常(40~60 秒)の大学生女子 3 名(平均年齢21.3歳,SD=0.4)。
2)刺激・装置:実体鏡(SOKKIA製反射式実体鏡(MS16))を刺激呈示面観察用に改造した実体鏡観 察装置を用いた。図2.1 に実験で使用した実体鏡を,図 2.2に実体鏡で刺激呈示面に呈示された刺激を 観察する装置の模式図を示した。実体鏡観察装置は,刺激呈示面(モニタ-面)に呈示した刺激を両眼 分離できるよう作成されたもので,黒いボ-ドによって刺激呈示面を箱で覆い,箱の中央を縦に仕切る ことにより左右眼の視野を分離した。
刺激はMicrosoft Office Power Point(2013)で作成し,高さ33cm×幅52cm(視角にして高さ33°
×幅52°)のモニタ-(EIZO Flex Scan SX2462W)に呈示した。標準刺激には,テクスチャ勾配手が かり(図 2.3の上)を使用し,比較刺激には,両眼視差手がかり(図 2.3の下)を使用した。標準刺激 と比較刺激の背景はともに黒背景(0.17cd/㎡)であった。標準刺激のテクスチャ勾配は,直径2cm(2°)
図 2.1 実験で使用した実体鏡 図 2.2 実体鏡観察装置の模式図
標準刺激(テクスチャ勾配)
比較刺激(両眼視差)
図 2.3 実験 1 で使用した標準刺激及び比較刺激(カッコ内は視角)
の円が高さ22cm×幅6cm(22°×6°)の矩形内に規則正しく配列したテクスチャを水平にして,眼の
高さ10cm,視距離 57.3cm から観察した場合の網膜像に対応する投影像で,式(1.1),式(1.2)によ
りAdobe Photoshop(CC2014)で作成したものを使用した。図2.4に,実験で使用した刺激のもとに
左眼用 右眼用
左眼用 右眼用
2.94cm(2.94°)
2.37cm(2.37°)
3.89cm(3.89°)
6.14cm
(6.14°)
5.5cm(5.5°)
1.59cm(1.59°)
2.19cm(2.19°)
2.19cm
(2.19°)
2.79cm (2.79°)
1.74cm
(1.74°)
1.6cm(1.6°) 1.6cm(1.6°)
(ゼロ視差の場合)
1.6cm
(1.6°)
(ゼロ視差の場合) 1.2cm(1.2°)
1.2cm(1.2°)
2.79cm (2.79°)
1.74cm
(1.74°)
2.19cm
(2.19°)
1.2cm(1.2°)
1.6cm
(1.6°)
1.6cm
(1.6°)
なったテクスチャ刺激を,図2.5 に,図 2.4からテクスチャの投影像を得る物理的な奥行き配置の模式 図を示した。また,図 2.6 に,図 2.5の配置による投影像であるテクスチャ勾配刺激を示した。このテ クスチャ勾配刺激に2本のバ-を配置し,下端(一番手前の円の中央)を下のバ-,下から1.6cm(1.6°;
手前から8つ目の円の中央)を上のバ-とした。いずれのバ-も高さ1.2cm×幅0.3cm(1.2°×0.3°)
の灰色(11.75cd/㎡)の長方形のバ-であった。図2.6の2本のバ-のうち,下のバ-は図2.5でTN(0cm), 上のバ-はTNから15cmの奥行きに相当し,下のバ-の奥行きは0分,上のバ-の奥行きは図1.4の 式(1.4)により,-1.21度,すなわち-72.67分の非交差視差に相当した。
比較刺激は,図2.3に示すように,標準刺激と同じ高さ・幅の灰色の長方形のバ-を2本用い,上の バ-の位置を左右に変化させて両眼視差を与えた。両眼視差は,式(1.3),式(1.4)に基づき作成した。
下のバ-は常に標準刺激と同じ位置(ゼロ視差)に配置されたが,上のバ-はゼロ視差の条件でのみ標 準刺激と同じ位置に配置され,交差視差・非交差視差条件では右眼用刺激と左眼用刺激で左右の位置が 異なって配置された。2本のバ-は高さ6.14cm×幅5.5cm(6.14°×5.5°)の白背景(51.27cd/㎡)上 に配置した。
比較刺激の両眼視差は,ゼロ視差の場合,物理的には図2.5のTN(0cm),すなわち刺激呈示面上の 奥行きであり,交差視差では刺激呈示面の手前の奥行きで,図の右方向への視差,非交差視差では刺激 呈示面の奥の奥行きで,図の左方向への視差に相当し,上のバ-はTNから15cm奥であったため,非 交差視差-1.21度,すなわち-72.67分であった(式1.4の-h=ି参照)。標準刺激であるテクスチャ勾 配上の2本のバ-は,0cmと15cmの位置に置かれていたため,テクスチャの実際の奥行き距離と,比 較刺激である両眼視差による奥行き距離が一致した場合は,どちらも 15cm奥に引っ込んでいるように 見えるはずであった。すなわち,テクスチャ勾配の実際の奥行き距離と両眼視差の奥行き距離が理論的 に一致した場合は,比較刺激の視差は-72.67分になると考えられた。
3)手続き:刺激呈示面から15cm奥の投影面,すなわち-72.67分の両眼視差に理論的に対応するテク スチャ勾配刺激の主観的両眼視差量を求めた。観察距離 57.3cm になるように実体鏡観察装置をセット し,左右眼の融像を確認した後,まず標準刺激であるテクスチャ勾配刺激を呈示した。実験参加者には 2 本のバ-の奥行きを記憶するよう教示し,記憶したとの報告に基づき,標準刺激の呈示を終了した。
続いて比較刺激である両眼視差刺激を呈示し,実験者調整法により2本のバ-のうち上に配置されたバ
-の奥行きを 1.2 分ずつ変化させ,標準刺激の奥行きと等しいと感じたところを答えさせた。標準刺激 の奥行きより明らかに手前に飛び出して見えるところから少しずつ奥に引っ込んで見えるように視差を 変化させる下降系列と,標準刺激の奥行きより明らかに奥に引っ込んで見えるところから少しずつ手前 に飛び出して見えるよう視差を変化させる上昇系列をそれぞれ10試行行った。
図 2.4 実験で使用した刺激のもとになったテクスチャ刺激 横 6cm
縦 22cm
図 2.5 テクスチャ勾配刺激の投影像を得る配置の模式図
図 2.6 図 2.4 のテクスチャ刺激を図 2.5 の配置で観察したときのテクスチャ勾配刺激
2.3. 結果
図2.7に,実験参加者3名の両眼視差-72.67分に理論的に対応するテクスチャ勾配刺激の主観的両眼 視差量を示した。図の縦軸は,テクスチャ勾配と主観的な見えの奥行きが等しい視差を示す。交差視差 をプラス,非交差視差をマイナスとした場合,実験参加者平均で視差-18分,すなわち刺激呈示面より 物理的に3cm奥に引っ込んだところでテクスチャ勾配の奥行きと主観的に一致するという結果であった。
2.2で述べたように,テクスチャ勾配刺激の中に配置された2本のバ-の奥行きは実際には15cmに相当 するため,図1.4の模式図による計算式から理論値を算出すると,視差-72.67分でテクスチャ勾配と両 眼視差の奥行きが一致するはずであったが,約4分の1の-18分で一致した。
a=テクスチャ刺激全体の長さ 22cm
h=眼の高さ 10cm
TN
57.3cm(D=観察距離)
0 度 72.3cm
-1.21 度 (-72.67 分)
TF
79.3cm 実際の奥行き距離
視差
交差視差(手前) 非交差視差(奥)
*TN=テクスチャの最近点
*TF=テクスチャの最遠点 下のバ- 上のバ-
15cm
-80 -70 -60 -50 -40 -30 -20 -10 0
視差(分)
図 2.7 実験参加者 3 名のテクスチャ勾配刺激(両眼視差-72.67 分に理論的に対応)に 対する主観的両眼視差量(理論値はテクスチャ勾配による 15cm の奥行きと両眼 視差による奥行きが理論的に一致する視差-72.67 分である。)
2.4. 考察
テクスチャ勾配による奥行きと,両眼視差による奥行きの主観的等価点を求めたところ,テクスチャ 勾配は刺激呈示面から最大15cmの奥行きを投影したものであるため,理論的には視差-72.67分で一致 しなければならないが,視差平均-18分で一致した。テクスチャ勾配が理論的に対応する両眼視差より 少ない視差で見えの奥行きが一致したことから,テクスチャ勾配手がかりによる見えの奥行きの方が相 対的に小さいことが示唆された。テクスチャ勾配は,過去の経験や知識などが奥行きの推測に影響する ため,奥行き距離の判断にノイズが生じやすいと考えられる。また,テクスチャ勾配の場合,周りに他 の奥行き手がかりがあったり,テクスチャ刺激までの距離がある程度判断できる場合には,それらから 見えの奥行きを推測することはできるが,本研究では周りに他の手がかりがなく,さらに実体鏡観察装 置は暗箱になっていたため,眼からモニタ-までの距離を判断することは難しく,結果的に過小評価に つながったのではないかと考える。また,Tozawa(2012)によれば,テクスチャ勾配による奥行き知覚 は,テクスチャの密度やテクスチャ要素の大きさによって影響され,物理的な奥行き関係の等しいテク スチャ勾配でも,密度が高い場合にはより奥に知覚され,見えの奥行きが増加することが報告されてい る。本研究では,テクスチャ要素の大きさが大きく,密度が低かったために,テクスチャ勾配による見 えの奥行きが減少した可能性も考えられる。
3. 実験 2 3.1. 目的
実験 1の結果に基づき,単眼性の奥行き知覚の手がかりであるテクスチャ勾配と両眼性の奥行き知覚 の手がかりである両眼視差の主観的な見えの奥行きをそろえた上で,実験2では,両者の手がかり間の 情報統合について検討する。塩入(1990)の実験では,陰影と両眼視差の2つの奥行き知覚の手がかり 間の関係について,奥行き判断に要する時間により検討したが,見えの奥行きについては測定していな い。本研究では,テクスチャ勾配と両眼視差の 2つの手がかりの関係について,見えの奥行きを測定す ることにより直接的に検討する。本研究では,実験1で用いた刺激呈示面より奥に知覚されるテクスチ ャ勾配刺激に加えて,刺激呈示面上や刺激呈示面より手前に知覚されるテクスチャ勾配条件を設定し,
非交差視差,ゼロ視差,交差視差による両眼視差条件と比較する。また,塩入(1990)の実験で,2 つ
ST MO SO 平均
理論値
の手がかり間の奥行き方向が矛盾した場合に,奥行き判断時間が長くなるという結果が示されたことか ら,刺激の呈示時間が奥行き知覚に影響を及ぼす可能性が考えられた。そこで呈示時間についても設定 し,テクスチャ勾配,両眼視差,呈示時間による見えの奥行きの変化についてマグニチュ-ド推定法に より測定する。さらに見えの奥行きと見えの大きさの関係についても検討するため,見えの大きさにつ いても測定する。
3.2. 方法
1)実験参加者:視力正常または矯正正常(1.0 以上)で,立体視力正常(40~60 秒)の大学生女子 3 名(平均年齢21.3歳,SD=0.4)。
2)刺激・装置:実験 1 と同様のモニタ-と実体鏡観察装置を使用した。テクスチャ勾配刺激は,直径 2cm(2°)の円が高さ 16cm×幅6cm(16°×6°)の矩形内に規則正しく配列したテクスチャを水平 にして,眼の高さ 10cm,視距離 57.3cm から観察した場合の網膜像に対応する投影像で,Adobe
Photoshop で作成したものを使用した。これをテクスチャ勾配あり条件とした。テクスチャ勾配あり条
件は,テクスチャ勾配刺激下端が刺激呈示面上で理論上0分の視差に対応し,テクスチャ勾配刺激上端 の奥行きが実験 1のテクスチャ勾配刺激と同様,理論上の-72.67 分の非交差視差に対応する条件であ った。テクスチャ勾配なし条件は,テクスチャ勾配あり条件刺激の中心の円と同じ大きさの円のみを配 列したものであった。テクスチャ勾配逆条件は,テクスチャ勾配あり条件の刺激を180度回転させたも ので,テクスチャ勾配刺激上端の奥行きが理論上+72.67 分の交差視差に対応する条件であった。これ らのテクスチャ勾配刺激に段階的に視差をつけることによりテクスチャ勾配と両眼視差を組み合わせ,
テクスチャ勾配刺激の下端が視差0分,上端が各視差条件になるようにした。標準刺激は,実験1で求 めたテクスチャ勾配と両眼視差による奥行きの主観的等価点の平均である視差-18分を用い,視差-18 分とテクスチャ勾配あり条件とを組み合わせた刺激であった。比較刺激は,テクスチャ勾配3条件と,
視差-18分を含む両眼視差7条件(-36分,-18分,-9分,0分,9分,18分,36分)をそれぞれ 組み合わせた刺激で,計21刺激用いた。図3.1に見えの奥行きの測定で用いた標準刺激の例を,図3.2 に比較刺激の例を示した。
見えの大きさの測定には,実験1と同様の高さ1.2cm×幅0.3cmの灰色(11.75cd/㎡)のバ-を用い た。バ-はテクスチャ勾配刺激の上端のテクスチャに配置した。図 3.3 に,見えの大きさの測定で使用 した刺激例を示した。図3.3は,テクスチャ勾配ありと視差-18分を組み合わせたものにバ-を配置し た例である。
図 3.1 見えの奥行きの測定で用いた標準刺激の例 (テクスチャ勾配あり,視差-18 分)
標準刺激
左眼用 右眼用
図 3.2 見えの奥行きの測定で用いた比較刺激の例
(視差-36 分,36 分)
図 3.3 見えの大きさの測定で用いた刺激例(標準刺激,比較刺激)
テクスチャ勾配あり 視差 36 分
テクスチャ勾配なし 視差-36 分
テクスチャ勾配なし 視差 36 分
テクスチャ勾配逆 視差 36 分 テクスチャ勾配逆
視差-36 分 テクスチャ勾配あり
視差-36 分
左眼用 右眼用
左眼用 右眼用
3)実験条件:テクスチャ勾配3条件(テクスチャ勾配あり,テクスチャ勾配なし,テクスチャ勾配逆), 両眼視差7条件(-36分,-18分,-9分,0分,9分,18分,36分),呈示時間3条件(1秒,5秒,
25秒)の計63条件を設定した。本研究では,テクスチャ勾配刺激の上端の視差が-36分,-18分,
-9分の条件を非交差視差(奥),9 分,18分,36分の条件を交差視差(手前)とした。テクスチャ勾 配あり条件では,上端は奥,テクスチャ勾配逆条件では上端は手前としたため,テクスチャ勾配あり条 件と非交差視差条件,テクスチャ勾配逆条件と交差視差条件の組み合わせが,テクスチャ勾配と両眼視 差の奥行き方向が一致した整合的条件であった。一方,不整合的条件は,テクスチャ勾配と両眼視差の 奥行き方向が矛盾した条件で,テクスチャ勾配あり条件と交差視差条件,テクスチャ勾配逆条件と非交 差視差条件の組み合わせであった。
4)手続き:刺激はSuper Lab(5.0)で呈示した。観察距離57.3cmになるよう実体鏡をセットし,左右眼 の像の融像を確認した上で実験を行った。見えの奥行きの測定では,標準刺激のテクスチャ勾配刺激下 端の見えの奥行きを0,テクスチャ勾配刺激上端の見えの奥行きを100としたときの比較刺激の見えの 奥行きをマグニチュ-ド推定法によって測定した。まず標準刺激を3秒間呈示し,見えの奥行きを記憶 させ,次に比較刺激を呈示した。標準刺激と比較刺激の間には,テクスチャ勾配なし条件と視差なし条 件を組み合わせた刺激を呈示し,実験参加者の準備が整ったらボタンによって比較刺激の呈示を開始し た。テクスチャ勾配条件3条件×両眼視差条件7条件の計21 試行をランダムな順に呈示し,これを4 回繰り返した(1ブロック)。呈示時間については,ブロックごとに1秒,5秒,25秒の順に測定した。
測定の前には練習試行を3回行った。適宜休憩を挟みながら,テクスチャ勾配条件3条件×両眼視差条 件7条件×呈示時間条件3条件の計63試行を行った。図3.4に,実験の1試行における時間的推移を示 した。
図 3.4 実験の 1 試行における時間的推移
呈示時間 3 秒
呈示時間
1 秒,5 秒,25 秒 標準刺激呈示画面
(勾配あり・視差-18 分)
準備画面 (勾配なし・視差 0 分)
比較刺激呈示画面
(21 刺激)
回答画面
準備ができたらボタンを 押して比較刺激呈示画面へ
ME 法による見え の奥行き評価
見えの奥行きの測定に引き続いて見えの大きさの測定を行った。見えの大きさの測定では,標準刺激 のテクスチャ勾配刺激の上に配置された灰色のバ-の大きさを100とし,比較刺激のバ-の大きさをマ グニチュ-ド推定法によって測定した。その他の手続きは見えの奥行きの測定と同様であった。刺激を 同時呈示することによって知覚以外の手がかりによって評定されることを防ぐため,見えの奥行き,見 えの大きさともに標準刺激と比較刺激は継時的に呈示した。
3.3. 結果
3.3.1 見えの奥行きの結果
まず見えの奥行きについての結果を示す。標準刺激は非交差視差(-18分)で,これを100として測 定したため,比較刺激の見えの奥行きは,奥に知覚された場合がプラス,手前に知覚された場合がマイ ナスとなった。視差条件で,-36分,-18分,-9分のようにマイナス表記してあるものは非交差視差,
9分,18分,36分のようにプラス表記してあるものは交差視差であるため,視差と見えの奥行きの符号 が逆になる。そこで,すべての見えの奥行きのデータについて,プラスマイナスを逆にして標準刺激を
-100 とし,奥に知覚された場合をマイナス,手前に知覚された場合をプラスとして,理論的に視差と 見えの奥行きの符号が一致するように変換した。実験参加者3名の変換デ-タに対して,実験参加者ご とにSPSSによるテクスチャ勾配×視差×呈示時間の3元配置分散分析を行った。多重比較と交互作用 の検定にはBonferroniの方法を用いた。
テクスチャ勾配の主効果について,すべての実験参加者に有意差が認められた(F(2,189) = 755.287, p<.001(実験参加者SO),F(2,189) = 1424.359, p<.001(実験参加者ST),F(2,189) = 291.237, p<.001
(実験参加者 MO))。多重比較の結果,すべての条件間に有意差が認められ,テクスチャ勾配あり,な し,逆の順に見えの奥行きが増加した(p<.001)。図3.5に,実験参加者3名のテクスチャ勾配の主効果 を示した。テクスチャ勾配あり条件ではマイナス方向(実験参加者3名の平均-57),すなわち奥に知覚 され,テクスチャ勾配なし条件ではほとんど奥行きを知覚しなかった(平均7)。テクスチャ勾配逆条件 ではプラス方向(平均57),すなわち手前に知覚された。
視差の主効果についても,すべての実験参加者に有意差が認められた(F(6,189) = 100.805, p<.001(実 験参加者SO),F(6,189) = 155.925, p<.001(実験参加者ST),F(6,189) = 144.2, p<.001(実験参加者 MO))。図3.6に,実験参加者3名の視差の主効果を示した。図3.6より,見えの奥行きは視差-36分 で3名の平均-43,36分で平均65となり,どの実験参加者でも,非交差視差から交差視差になるにつ れて見えの奥行きが増加することが示された。視差0分から9分付近で奥行きが0となり,それよりプ
図 3.5 実験参加者 3 名の各テクスチャ勾配条件における見えの奥行き(ME 値)
テクスチャ勾配
ST MO
-200 -100 0 100 200
奥←見えの奥行き→ 手前
SO
逆
逆 逆
あり なし あり なし
逆
あり なし
-
-
図 3.6 実験参加者 3 名の両眼視差に伴う見えの奥行き(ME 値)の変化
ラス方向(交差視差)に視差が大きくなると手前に知覚され,マイナス方向(非交差視差)に視差が大 きくなると奥に知覚された。多重比較の結果,-18分と0分,9分,18分,36分のように2つの条件 間の視差が18分以上の場合に有意差が認められた(p<.01)。全体の傾向としては,-36分,-18分,
-9分,0分,9分,18分,36分の順に見えの奥行きが増加した。
テクスチャ勾配と視差の交互作用について,すべての実験参加者に有意差が認められた(F(12,189) = 8.232, p<.001(実験参加者SO),F(12,189) = 10.966, p<.001(実験参加者ST),F(12,189) = 4.57, p<.001
(実験参加者MO))。図3.7に,実験参加者3名の各テクスチャ勾配条件における両眼視差に伴う見え の奥行き(ME 値)の変化を示した。どのテクスチャ勾配条件でも,視差の増大に伴い見えの奥行きは 増加する傾向を示したが,多重比較の結果,テクスチャ勾配逆条件では,非交差視差条件で視差の効果 が認められなかった。テクスチャ勾配逆条件と非交差視差条件の組み合わせは,テクスチャ勾配と両眼 視差の奥行き方向が矛盾した不整合的条件であるが,同じ不整合的条件であるテクスチャ勾配あり条件 と交差視差条件の組み合わせでは,視差の効果が認められたため,視差の効果が認められなかったのは,
奥行き手がかり間の整合性だけではないことが示された。また,テクスチャ勾配あり条件の単独の見え の奥行き(テクスチャ勾配ありで視差0分)は,実験参加者SOで-87.50,実験参加者STで-59.16, 実験参加者MOで-38.75,実験参加者の平均-62であった。一方,視差-18分条件単独の見えの奥行 き(テクスチャ勾配なしで視差-18分)は実験参加者SOで-8.75,実験参加者STで-27.5,実験参
加者MOで-23.75,実験参加者の平均-20であり,視差による見えの奥行きはテクスチャ勾配による
図 3.7 実験参加者 3 名の各テクスチャ勾配条件における両眼視差に伴う見えの奥行き(ME 値)の変化
-200 -100 0 100 200
-50 0 50
-200 -100 0 100 200
-50 0 50
視差(分)
-200 -100 0 100 200
-50 0 50
奥←見えの奥行き→ 手前
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
MO
勾配あり 勾配なし 勾配逆
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
視差(分)
-200 ST
-100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
奥←見えの奥行き→ 手前
SO
SO ST MO
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
図 3.8 実験参加者 3 名の各呈示時間条件における両眼視差に伴う見えの奥行き(ME 値)の変化
見えの奥行きの約3分の1であった。テクスチャ勾配あり条件と視差-18分条件を組み合わせた条件,
すなわち標準刺激(-100)と同じ条件の見えの奥行きは,どの実験参加者でも-100であった。
呈示時間の主効果についても,すべての実験参加者に有意差が認められた(F(2,189) = 6.923, p<.01
(実験参加者SO),F(2,189) = 3.989, p<.05(実験参加者ST),F(2,189) = 13.602, p<.001(実験参加者 MO))。しかし,多重比較の結果,呈示時間と見えの奥行きの間に 3 名の実験参加者間で共通した傾向 は認められなかった。実験参加者SOでは25秒より1秒で(p<.01),実験参加者STでは5秒より25 秒で(p<.05),実験参加者MOでは5秒より1秒(p<.01),25秒(p<.001)で見えの奥行きが減少し た。
視差と呈示時間の交互作用について,すべての実験参加者に有意差が認められた(F(12,189) = 23.338, p<.001(実験参加者SO),F(12,189) = 56.833, p<.001(実験参加者ST),F(12,189) = 29, p<.001(実 験参加者MO))。図3.8に,実験参加者3名の各呈示時間条件における両眼視差に伴う見えの奥行き(ME 値)の変化を示した。多重比較の結果,呈示時間が1秒では,いずれの実験参加者においても36分と
-36分,-18分,-9分の条件間に有意差が認められ(p<.05),いずれも交差視差36分と比較して非 交差視差で有意に奥に知覚されることが示された。呈示時間が5秒では,いずれの実験参加者において も,交差視差条件・非交差視差条件間に加えて,交差視差条件内にも有意差が認められたが(36分と9 分以下,18分と-9分以下),非交差視差条件間では有意差は認められなかった。一方,呈示時間が25 秒では,実験参加者SOの視差0分と-9分の間を除いたすべての条件間に有意差が認められ(p<.05), 交差視差,非交差視差ともに視差が大きくなるほど見えの奥行きが増加した。また,視差-36分,-18 分,18分,36分では,呈示時間が1秒や5秒と比較して,25秒のとき見えの奥行きの絶対値が有意に 大きくなり,視差の増大に伴い見えの奥行きが増加した。
テクスチャ勾配×視差×呈示時間の交互作用について,すべての実験参加者に有意差が認められた
(F(24,189) = 3.039, p<.001(実験参加者SO),F(24,189) = 7.463, p<.001(実験参加者ST),F(24,189)
= 3.292, p<.001(実験参加者MO))。図3.9に,実験参加者3名のテクスチャ勾配条件ごとの各呈示時 間条件における両眼視差に伴う見えの奥行き(ME値)の変化を示した。テクスチャ勾配あり条件で非 交差視差条件の整合的条件では,呈示時間の効果はみられず,呈示時間が変化しても見えの奥行きに影 響を及ぼさなかった。一方,テクスチャ勾配逆条件で交差視差条件の整合的条件,及びテクスチャ勾配 あり条件で交差視差条件,またはテクスチャ勾配逆条件で非交差視差条件の不整合的条件では,呈示時 間の増大に伴い視差による効果が増加した。
-200 -100 0 100 200
-50 0 50
視差(分)
-200 ST
-100 0 100 200
-50 0 50
奥←見えの奥行き→ 手前
SO -200
-100 0 100 200
-50 0 50
MO
1秒 5秒 25秒
-
-
-
-
-
-
図 3.9 実験参加者 3 名のテクスチャ勾配条件ごとの各呈示時間条件における 両眼視差に伴う見えの奥行き(ME 値)の変化
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40 -200 MO
-100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
視差(分)
ST
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
MO
1秒 5秒 25秒
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
視差(分)
ST
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
奥←見えの奥行き→ 手前
SO
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
奥←見えの奥行き→ 手前
SO
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
奥←見えの奥行き→ 手前
SO
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40 -200 MO
-100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
視差(分)
ST
テクスチャ勾配あり
テクスチャ勾配なし
テクスチャ勾配逆
-
- -
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
図 3.10 実験参加者 3 名の呈示時間ごとの各テクスチャ勾配条件における 両眼視差に伴う見えの奥行き(ME 値)の変化
y = 1.875x - 38.036 R² = 0.834 y = -0.02x + 25.357
R² = 0.0003
y = 1.105x + 62.5 R² = 0.319
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
MO
勾配あり 勾配なし 勾配逆
y = 2.189x - 33.39 R² = 0.715 y = 1.316x + 25.18
R² = 0.675
y = 0.655x + 105 R² = 0.768
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
MO
y = 1.323x - 68.21 R² = 0.959 y = 0.9259x + 2.1429
R² = 0.9705
y = 0.377x + 57.5 R² = 0.17
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
視差(分)
ST
y = 1.792x - 81.79 R² = 0.59 y = 0.866x + 7.143
R² = 0.891
y = 0.43x + 56.43 R² = 0.271
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
奥←見えの奥行き→ 手前
SO
y = 3.056x - 45.357 R² = 0.902 y = 2.186x + 4.464
R² = 0.94
y = 2.024x + 38.93 R² = 0.812
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
奥←見えの奥行き→ 手前
SO
y = 2.4471x - 52.857 R² = 0.9164 y = 2.348x - 8.214
R² = 0.978
y = 3.889x + 34.286 R² = 0.965
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
視差(分)
ST
y = 4.048x - 18.036 R² = 0.977
y = 4.117x + 9.821 R² = 0.969
y = 4.16x + 42.857 R² = 0.962
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
MO
y = 0.853x - 76.43 R² = 0.944 y = 0.314x - 1.071
R² = 0.923
y = 0.1058x + 42.5 R² = 0.0469
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
奥←見えの奥行き→ 手前
SO
y = -0.251x - 95.71 R² = 0.157 y = 0.959x + 0.714
R² = 0.946
y = -0.033x + 70 R² = 0.002
-200 -100 0 100 200
-40 -20 0 20 40
視差(分)
ST
呈示時間 1 秒
呈示時間 5 秒
呈示時間 25 秒
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
-
次に,呈示時間ごとにテクスチャ勾配と視差の関係を示す。図3.10は,図3.9のデ-タを呈示時間別 にして,各テクスチャ勾配条件における両眼視差に伴う見えの奥行き(ME 値)の変化を回帰直線とと もに示したものである。図3.10より,呈示時間が1秒,5秒,25秒と増加するのに伴い,回帰直線の傾 きが大きくなることがわかった。呈示時間が1秒と5秒では,決定係数(ܴ2)が低い条件が多く,回帰 直線の傾きも小さいまたはマイナスの場合もあるが,決定係数が 0.8 以上の回帰直線においても,傾き は呈示時間が1秒では0.314~1.875で,呈示時間が5秒では0.866~1.323と小さかった。一方,呈示 時間が25秒では,すべての条件で決定係数が0.8以上となり,回帰直線の傾きは2.024~4.16と呈示時 間が1秒や5秒に比べて大きかった。テクスチャ勾配による見えの奥行きの差は,呈示時間が25秒の場 合,呈示時間が 1秒の場合に比べて小さいが,どの視差条件でも奥から手前にテクスチャ勾配あり,勾 配なし,勾配逆の順に知覚された。これらの結果から,呈示時間が1秒では,テクスチャ勾配条件の違 いによる見えの奥行きの差のほうが大きいが,25秒では,視差条件の違いによる見えの奥行きの差のほ うが大きいことが示された。
3.3.2. 見えの大きさの結果
見えの大きさを調べるために,実験参加者3名の測定デ-タに対して,実験参加者ごとにSPSSによ るテクスチャ勾配×視差×呈示時間の 3 元配置分散分析を行った。多重比較と交互作用の検定には Bonferroniの方法を用いた。
テクスチャ勾配の主効果について,実験参加者SO(F(2,189) = 4.19, p<.05)と実験参加者ST(F(2,189)
= 7.658, p<.01)に有意差が認められた。図3.11に,テクスチャ勾配の主効果を示した。図3.11と多重 比較の結果より,実験参加者 SO では,テクスチャ勾配逆条件のときに勾配なし条件と比べて見えの大 きさが小さく知覚され(p<.05),実験参加者STでは,テクスチャ勾配逆条件のとき勾配あり条件(p<.01) と勾配なし条件(p<.05)に比べて小さく知覚されることが示された。しかし,テクスチャ勾配による見 えの大きさの変化は,見えの奥行きの変化に比べて小さく,テクスチャ勾配あり条件で実験参加者3名 の平均97,テクスチャ勾配なし条件で平均97,テクスチャ勾配逆条件で平均95であった。
視差の主効果については,すべての実験参加者に有意差が認められた(F(6,189) = 43.1, p<.001(実験 参加者SO),F(6,189) = 16.11, p<.001(実験参加者ST),F(6,189) = 71.478, p<.001(実験参加者MO))。 図3.12に,実験参加者3名の視差の主効果を示した。図3.12より,-36分から0分の非交差視差条件 またはゼロ視差の場合は,見えの大きさにそれほど変化はみられないが,9分から36分の交差視差条件 の場合に小さく知覚される傾向が示された。視差による見えの大きさの変化は,テクスチャ勾配による 変化よりも大きく,視差-36分で平均98,視差36分で平均87であった。多重比較の結果より,非交 差視差条件ではゼロ視差と見えの大きさにおいて有意な差は認められず,交差視差条件で有意に小さく
図 3.11 実験参加者 3 名の各テクスチャ勾配条件における見えの大きさ(ME 値)
60 80 100 120
あり なし 逆
見えの大きさ