カーナビゲーションにおける両眼視差が右左折判断におよぼす影響
The effects of binocular parallax in judgment on the right or left turn in a Car Navigation System
1W090376-7 中島 聡志 指導教員 河合 隆史 教授
NAKAJIMA Satoshi
Prof. KAWAI Takashi概要: 本研究は、2D/3D変換を用いた新たな3D表現、Cognitive3Dをカーナビゲーションに応用できるかを検討したもの である。Cognitive3D とは、局所的に視差を与えた立体映像とヒトの認知との関わりを考慮した表現である。Cognitive3D に より、カーナビゲーション画面の左右どちらか一方に線形的に変化する視差を与えることで、空間情報に歪みを与え、ヒトの 右左折判断に影響を与えると推測した。実験はカーナビゲーションを模した案内画面に刺激を呈示し、ドライビングシミュレ ータを用いて右左折の判断をしてもらう主観評価実験を行った。その結果、案内画面より奥側に歪んだ方向に進む回数が、
その逆より有意に多くなった。これにより、ヒトはカーナビゲーション画面に空間情報の歪みを与えることで右左折の判断に 影響があることが示唆された。
キーワード:2D/3D変換、Cognitive3D、カーナビゲーション、両眼視差、空間の歪み
Keywords: 2D to 3D conversion, Cognitive3D, car navigation system, binocular parallax, distortion of space
1.はじめに
近年、2D 映像から両眼視差を付与し、3D映像を制作
する 2D/3D変換が注目されている。しかし、手作業の多
い 2D/ 3D変換は時間的、 金銭的コストが大きい。そこで
コストカット を目的とした2D/3D変換の研究が行われてき た。これに対し、筆者は2D/3D変換の最大の魅力である 自由度の高さを活かし、ヒト の認知との関わりを考慮した 新たな表現として Cognitive3Dを提唱した。Cognitive3D では 局所的に両眼視差を付与することで、ヒト の認知特 性に何らかの影響を与え るとし、それを広告や教育で応 用できるとした。
また、近年交通事故が減少しているが、皆無には程遠 い。それを改善するために IT 技術の発展により所有率
が65%を越えた[1]カーナ ビゲーションの効果的な利活用
が急務である。本研究ではCognitive 3Dのカーナビゲー ションへの応用を目指した。
カーナ ビゲーションでは、 運転者の画面への注視時間 を少 な く し 、 直 感 的 に 理 解 す る こ と が 重 要 で あ る 。
Cognitive3D では、臨場感を増すなどの映画での利用と
は一線を画した、単純化を図れる表現を行え ると仮定し た。小井土らにより、局所立体映像が視線の集中効果を 示し、 短時間での情報取得に寄与することを示している
[2]。これをもとに本研究では画面に空間の歪みを付与す ることで右左折の判断に影響を与え るかを評価・ 検討し た。
2.ドライビングシミュレータの制作
筆者はAutodesk社の3ds Maxと(株)ソリッドレイ研究所 のOmegaSpace、Adobe社のPhotoshop CS3を利用 して、 ドライビングシミュレータ、 並びにカーナビゲーショ ンを模した案内画面を制作した。制作したシミュレータで は一つの十字路の交差点を再現した。 ドライビングシミュ レータの道路や建物は 3ds Ma xにて単純化して制作し た。色も右左折の判断に影響を与えないようにグレース ケールで表現した。 それを VRM L97(*.WRL)形式で書 き出しを行い、Omegaspaceにて読み込んだ。そして空や カメラを配置し、 ウォークス ルー機能によりステアリング装 置(Logicool G27 Rac ing Wheel)により右左折を行えるよ うに設定した。
図1 ドライビングシミュレータ画面
カーナ ビゲーションを模した案内画面は Omegaspace で制作したドライビングシミュレータの街並みを上空から 撮影した画像に視差を付与した。条件として3×3の9条 件(直進禁止条件、右折禁止条件、左折禁止条件のそ れぞれに、 左側が画面奥に歪んでいる条件、2D条件、
右側が画面奥に歪んでいる条件)を制作した。
図2 案内画面例
3.主観評価実験
Cognitive3D による空間の歪みがヒト の右左折の判断
に影響を与え るかを検討するために、 ドライビングシミュ レータと案内画面を用いた主観評価実験を行った。 被 験者は正常な視機能を持つ男女 47 名で、案内画面に て 2秒間の刺激呈示後、ドライビングシミュレータにて右 左折または直進の判断を行わせた。刺激は 前述のとおり 9条件で、一人あたり各3回ずつ、合計27試行を行った。
実験前に優位眼の測定、 利き腕、 運転歴のア ンケート を 行い、 実験後に立体感と判断に関するア ンケート を行っ た。
2Dの3 条件を除いた 6条件で画面奥方向に歪んで いる方向に進んだ回数(非交差方向)と歪んでいる方向と 逆方向に進んだ回数(交差方向)と直進した回数を分散 分析した結果、主効果に 5%水準で有意差が見られた。
下位検定としてBonferroniの多重比較を行った結果、非 交差方向と交差方向との間で 5%水準の有意差が見ら れ、 交差方向と直進との 間で有意 傾向が見られた(図 3)。
図3 進行方向ごとの回数
また、 直進禁止条件の中で、左側が奥に歪んだ条件 と右側が奥に歪んだ条件で分析を行った結果、 非交差 方向が交差方向より5%水準で有意に多かった(図4)。
図4 直線禁止条件での視差方向ごとの回数 これらの結果より、ヒトは交差方向より非交差方向に判 断しやすい傾向があると言える可能性が示唆された。 本 研究での仮説「 案内画面の空間の歪みにより進行方向 への『 行ってみたい』『 導かれる』『 吸い込まれる』 と言っ た感情を与え ることができる。それが右左折の判断に影 響を与え る。」 ことを裏付ける結果と言え る。本研究で用 いた案内画面の刺激では 単眼立体情報はほとんど含ま れておらず、そこに0.5°という大きめの両眼視差量を与 えたことで一定の効果があった。これは小井土らの先行 研究で示唆されていたことが示せたと言える。
4.考察
本研究の結果、ヒトは カーナビゲーションを模した案内 画面で画面奥方向の視差を与えた方向にステア リング を切りやすい傾向がわかった。これにより空間の歪みが 右左折判断に影響を与え ることが示唆された。これは、
カーナ ビゲーションで直感的に素早く右左折の判断を 誘導する際に役立つ可能性がある。 また、 本研究では ド ライビングシミュレータでの限られた環境下での検討だ った。今後は ARナビや HUDなどとの組み合わせも考 慮した実使用環境での検討が課題となる。
参考・引用:
[1]株式会社オークネット
http://www.aucnet.co.jp/news/2009/04/28/
[2] 小井土 慶久. 局所立体映像の提案と基礎的評価. 人 間工学. 2010, vol. 46, p. 478-479.