立体映像の視差操作が時間知覚に与える影響
The Disparity Modification of Stereoscopic Images and the Time Perception
1W110181-4 栗本 舞 指導教員 河合 隆史 教授
KURIMOTO Mai Prof. KAWAI Takashi
概要: 立体映像(以下、3D)は映画分野において定着しており、特にアクションシーンでの飛び出し効果を利 用して観客を驚かす表現が中心であった。一方、物語性の強い作品などで情緒反応を増幅させる 3Dについての 研究も行われてきた。先行研究では、2D映像の3D化や、再生される3D空間の範囲を拡張する視差操作によっ て、観察者の覚醒度が上昇することが報告されている。また、情緒反応と映像表現に関する研究では、覚醒度が 時間知覚に与える影響について報告されている。そこで本研究では、3D映像の視差操作による覚醒度の上昇が、
観察者の時間知覚にどのような影響を及ぼすか、知覚された呈示時間を評価する実験を行うことで、その基礎的 な特性について検討した。
キーワード:立体映像、両眼視差、時間知覚、覚醒度
Keywords: stereoscopic, binocular disparity, time perception, arousal
1. はじめに
これまでの研究で、ハリウッド映画の感情的なシ ーンの視差の変化を定量的に分析し、その視差変化 の適用により、情緒反応を増幅する可能性について 検討が行われた。感情喚起のために標準化された画 像群(International Affective Picture System:IAPS)
[1]を使用し、主観評価実験が行われた。その結果、
3Dの画像刺激を観察すると、覚醒度が上昇すること が報告された。さらに、3D空間の中心や幅を変化さ せることで感情を増幅させるような視差操作を行っ た画像を観察すると、さらに覚醒度が上昇すること が分かった。また、3D 空間の幅を拡大し続けると、
一定レベルまで覚醒度は上昇するが、情動価は下が り始めることも報告された[2]。
一方で、情緒反応と時間知覚に関する研究も行わ れている。3D映像と情緒に関する研究で用いられた ものと同じ IAPS から選定した画像刺激を観察し、
その刺激の呈示時間を評価する実験が行われた。そ の結果、高い覚醒度を喚起する画像の方が低い画像 よりも、評価時間が長くなることが報告された[3]。
2. 研究目的
本研究では、3D 映像による覚醒度の上昇と、覚醒 度の上昇による評価時間の延長という知見に着目し、
3D 映像の視差操作による覚醒度の上昇が時間知覚 に与える影響を検討することを目的とした。
3. 方法 3.1 環境
実験は暗室内で行い、27インチ偏光フィルタ方式 の 3Dディスプレイ(D2743P-BN,LG)に実験刺激 を呈示した。視距離はディスプレイの高さの 3 倍で
ある約100cmとした。評価時間の入力にはテンキー
を使用した。実験参加者は、実験開始前の色覚、立 体視検査で健常であった19-24歳の大学生20名(男 14名、女6名)とした。
3.2 刺激・条件
IAPSより画像刺激を6枚選定した。実験開始前に、
リラックス状態から興奮状態まで 9 段階で評価する 方式の Self-assessment manikin(SAM)による主観 評価[4]を行い、3枚ずつ高覚醒度画像群と低覚醒度画 像群に分類した。実験条件は、時間条件が600、1000、
1400、1800(ms)の4条件で、呈示条件が2D、意図 的な視差操作を行わない3D(3D)、覚醒度がより高 くなり情動価が低下を始める程度の視差操作を行っ た3D(視差操作3D)の3条件とした。
3.3 評価手法
経験した時間の長さを分秒という常用時間単位を 用いて表現する「言語評価」を採用した。
3.4 手続き
入力練習の際に、実験で使用する6枚の画像を2D 条件で観察し、SAM による評価を行った。その後、
ランダムに呈示された画像刺激を観察し、その画像 刺激の呈示時間を1枚ごとに評価した。刺激は72種 類呈示され、これを1セットとし、合計4セット行 った。
4. 結果
高覚醒度画像では、1000ms を超えると、視差操 作3D、3D、2Dの順で評価時間が長くなった。一方、
低覚醒度画像では、各呈示条件間に大きな差はみら れなかった。
呈示条件別では、視差操作3D条件のみにおいて、
低覚醒度画像より高覚醒度画像の評価時間が長くな った。2Dや3D条件では差は認められなかった。
図 1 高覚醒度画像結果
図 2 視差操作3D条件結果
5. 考察
高覚醒度画像では、1000ms を超えると、視差操
作3D、3D、2Dの順で評価時間が長くなったが、こ
れはある一定以上の呈示時間で 3D 映像を観察する と覚醒度が上昇し、時間知覚に影響を与えたからで あると考えられる。1000ms 以下では呈示時間が短 すぎ、画像刺激が 3D であることを認識できず、覚 醒度が上昇しなかったと思われる。低覚醒度画像で は差がみられなかったため、覚醒度の高い条件で時 間知覚に影響がみられることが示唆される。
呈示条件別では、視差操作3D条件でのみ、1000ms 以降で低覚醒度画像より高覚醒度画像の評価時間が 長くなったが、呈示条件によって時間知覚に与える 影響が異なることが示唆された。覚醒度が高くなる ように意図的に視差操作を加えた呈示条件の方が、
時間知覚に与える影響が大きいと考えられる。
6. まとめ
本研究で得られた知見は、以下の2点である。
① 覚醒度が高くなる映像を3D化し、一定時間以上 観察すると、評価時間が延長する傾向がある
② その傾向は、視差操作を伴う3D条件において、
特に顕著である
今後は、これらの知見を短時間でのパフォーマン ス向上に役立てることが期待される。
参考文献
[1] Lang, P.J. et al “International affective picture system (IAPS): Affective ratings of pictures and instruction manual.”
Technical Report A-8. University of Florida, Gainesville, FL, 2008.
[2] 熱田大貴 他“立体視映像における感情喚起を促す視差設計の 検討,” 人間工学, 50, pp.272-273, 2014.
[3] Sandrine Gil et al“Emotional time distortions: The fundamental role of arousal,”Cognition & Emotion, pp.847-862, 2012.
[4] M. Bradley et al “MEASURING EMOTION: THE SELF-ASSESSMENT MANIKIN AND THE SEMANTIC DIFFERENTIAL,” Journal of Behavior Therapy and Experimental Psychiatry, 25(1), pp.49-50, 1994.