視覚誘発型「微触感」錯覚が温冷覚に与える影響
Effects of visuo-tactile illusion using see-through HMD on thermal sensations
5116E004-8 太田 文也 指導教員 河合 隆史 教授 OHTA Fumiya Prof . KAWAI Takashi
概要: 視覚誘発型「微触感」錯覚とは,視触覚の時空間的な同期によって,視覚のみで微弱な触感が生じる触錯覚現象である.本研究
では,触錯覚の質的特徴に関する客観的な評価として,温冷覚に着目し,錯覚現象の生起に関するメカニズムの検討を行った.具体的に は,シースルー型ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を用いて温冷感を示唆する仮想物体を呈示し,微触感錯覚を伴う条件で皮膚温を 測定することで,客観的な評価を行い,主観的な評価結果と併せて検討を行った.その結果,視・触覚間のクロスモーダルな感覚情報に よって,温冷覚錯覚強度は向上するが,皮膚温に影響を与えにくいことが示唆された.
Keywords:cross-modal,illusion,tactile,thermal,see-through HMD, interface
1. はじめに
クロスモーダルとは,ある感覚の情報から他の感覚の情報を補完し て認知,解釈する,ヒトの特性を利用した感覚情報呈示の概念である[1]. これまで筆者らは,主に視・触覚間のクロスモーダルな感覚情報の呈示 に着目し,検討を行ってきた.最近では,シースルー型
HMD
を用いた 視覚誘発型「微触感」錯覚を対象として,触錯覚の強度や質的な特徴等 の評価方法について検討を進めている[2].その中で,錯覚現象の生起の メカニズム解明を目的に,筆者らは,触錯覚の錯覚強度に関する客観的 な評価として,仮想物体とのインタラクションにおける筋出力に着目した [3].その結果,錯覚強度の上昇に伴い,筋出力をはじめとした仮想
物体への接触行動が変化することが示された.そこで本研究では,触錯 覚の質的特徴に関する客観的な評価として,温冷覚に着目した.具体的 には,温冷感を示唆する仮想物体を掌に重畳表示し,その際の皮膚温計 測によって,客観評価を行い,主観評価の結果と併せて検討を行った.
図
1 実験環境
2. 実験方法
シースルー型
HMD(MOVERIO BT-300,Epson)に仮想物体を呈示
し,実験中の皮膚温計測に生体信号計測(biosignalsplux,PLUX)の TMP
センサを用いた.参加者は,正常な立体視機能を有する男女20
名を対 象とした.実験環境を図1
に示す.仮想物体として,視覚的に温冷感を示唆する炎と水の
CG
モデルを,参加者の眼前
35cm,下方 40cm
に呈示されるよう設定した.参加者に はHMD
を用いて仮想物体を掌上に載るように呈示した.参加者の視界 の例を図2
に示す.参加者に対して炎・水のCG
モデルを呈示する条 件をそれぞれ炎条件,水条件とし,ランダムな順番で実施した.各条件 それぞれ,4分間の閉眼状態の後,3分間の開眼状態の計7
分間,皮膚 温を測定した.結果や解析には,測定開始1
分後から3
分間の閉眼状 態(安静時)と3
分間の開眼状態(観察時)のデータを使用した.図
2 観察者の視界の例
3. 評価手法
客観的な評価手法として,刺激呈示開始から終了までに変化した「皮 膚温総変化量」と閉眼状態(安静時)で得られた皮膚温の平均値を基準 に刺激呈示中に得られた皮膚温との差を
10
秒ごとに算出した「皮膚温 変化量」を用いた.主観的な評価手法として,7 件法の評定尺度による質問紙法を用い た.質問紙では,「現実感」「主体感」「錯覚強度」に関する質問項目に 対して,各条件の課題終了後に
7
段階で回答を求めた.4. 実験結果
客観評価では,皮膚温総変化量と皮膚温変化量に関してそれぞれ
t
検 定を用いた比較を行ったところ,条件間の差について有意差や有意傾 向は得られなかった.10秒ごとの皮膚温変化量を図3
に示す.主観評価では,全ての質問項目において,中程度の肯定的な評価が得 られた.また,得られたデータを階層クラスター分析により
3
群に分 け,その群分けと呈示条件を要因,評点を従属変数として二元配置分散 分析,そして多重比較を行なった結果,錯覚強度の評価が低い群に比 べ,温感錯覚強度の評価が有意に高い群,冷感錯覚強度の評価が有意に 高い群に分かれた(図4).
そして,上記の群分けと呈示条件を要因に,10秒ごとの皮膚温変化 量を従属変数として,二元配置分散分析を行ったところ,刺激呈示開始 から
10
秒後と20
秒後の皮膚温変化量において,交互作用に10%水準
で有意傾向が認められた(多重比較による,有意差や有意傾向は認めら れなかった).刺激呈示開始10
秒後平均皮膚温変化量を図5
に示す(20 秒後も類似的な結果を示した).5. 考察
評定尺度法の結果から,全ての質問項目において,中程度の肯定的 な評価が得られたことから,温冷感を示唆する視覚刺激が主観的な温 冷覚錯覚の生起を誘発している可能性が示唆された.また,階層クラス ター分析を行なった結果から,①錯覚による温冷感を知覚しにくい群
②錯覚による温感を優位に知覚する群③錯覚による冷感を優位に知覚 する群が存在する可能性が示唆された.しかし今回の実験からはグル ープ②とグループ③に分かれる要因を追求することができなかった.
そして皮膚温変化量において,特定の時間帯で呈示条件と群分けの組 み合わせによる影響がある可能性が示唆されたが,条件間に有意な差 が見られなかったことから,皮膚温への影響の度合いは弱いものであ ると考えられる.
6. まとめ
本研究を行なった結果,以下の知見が得られた.
(1) 視覚刺激により異なる温冷覚を知覚する
3
つの群の存在可能性(2) 視・触覚間のクロスモーダルな感覚情報によって,温冷覚錯覚 強度は向上するが,皮膚温に影響を与えにくい可能性
今後は,温覚と冷覚の知覚要因の違いなどを考慮した実験を行う必 要ある.本研究で得られた知見を活かし,複合現実や強化現実などのシ ステムにおける触錯覚をより生起させるための検討を行い,評価・応用 を行うことが重要であると考える.
(** p < .05)
図
3 10
秒ごとの平均皮膚温変化量図
4 錯覚強度
図
5 刺激呈示開始 10
秒後の平均皮膚温変化量参考文献:
[1] URCF
ク ロ ス モ ー ダ ル 設 計 調 査 分 科 会 に つ い て ,http://crossmodal-design.tumblr.com/about
[2]
盛川浩志,他:シースルー型HMD
を用いた微触感錯覚の呈示と 評価,日本バーチャルリアリティ学会論文誌,Vol.18, No. 2, 2013 [3]
太田文也,他:視覚誘発型「微触感」錯覚が筋出力に与える影響,日本バーチャルリアリティ学会大会論文集,11B-01,2016
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