早稲田大学大学院 基幹理工学研究科
博 博
博 博 士 士 士 士 論 論 論 論 文 文 文 文 概 概 概 概 要 要 要 要
論 論 論
論 文 文 文 文 題 題 題 題 目 目 目 目
Group actions on projective varieties and
chains of rational curves on Fano varieties
射影多様体への群作用と ファノ多様体上の有理曲線の鎖
申 請 者
渡辺 究
Kiwamu Watanabe
数学応用数理専攻 代数幾何学研究
2009 年 12 月
本論文の研究対象は等質多様体とファノ多様体である.等質多様体とは,群多 様体の推移的作用をもつ代数多様体であり,射影空間,2次超曲面,アーベル多 様体などがその代表例である.他方,豊富な反標準因子をもつ多様体をファノ多 様体と呼ぶ.ファノ多様体は極小モデルプログラムの出力の一つである森ファイ バー空間のファイバーに現れる多様体であり,双有理幾何学において重要な対象 である.ファノ多様体は有理曲線で覆われており,有理曲線を使いその性質を調 べることは標準的手法である.また,有理等質多様体はファノ多様体である.
本論文は4章から成る.1章では,等質多様体と2章以降で使用する射影幾何 学の既知の結果について述べる.2章では等質多様体を豊富な因子として含む偏 極多様体の分類を与える.3章では前章の結果を応用することで,例外型線型代 数群の作用をもつ多様体の分類問題を考える.4章では,ファノ多様体上の一般 の2点を通る極小有理曲線の鎖の長さに関する研究を行う.本論文では,断りが ない限り多様体は全て非特異射影代数多様体とし,基礎体は複素数体とする.以 下,各章の概要について述べる.
第1章では等質多様体と射影幾何学の既知の結果について概論する.まず,リー 環の基本事項を復習し,有理等質多様体と印し付きディンキン図形の対応につい て述べる.その後,BorelとRemmertによる等質多様体の構造定理や有理等質 多様体のリジッド性について確認する.また,Zakの射影幾何学に関する結果に ついても述べる.特に,割線多様体の退化に関する定理とそれに関連して現れる セベリ多様体の分類について述べる.
第2章では偏極多様体の観点から等質多様体を考察する.一般に,多様体X とその上の豊富な直線束Lの組(X, L)を偏極多様体と呼ぶ.偏極多様体の研究 において,与えられた多様体Aを完備線型系|L|の元として含む(X, L)の分類 問題は,重要かつ中心的な問題の一つであり様々な研究がなされてきた.Aが最 も基本的な多様体の一つであるn次元射影空間Pn(n ≥ 2)の場合は,(X, L)は (Pn+1,OPn+1(1))と同型となることが古典的に知られている.この結果の一般化 として,藤田隆夫は,グラスマン多様体G(r,Cn)を豊富な因子Aとして含む多様 体はAがPn−1と4次元非特異2次超曲面Q4の場合を除いて存在しないことを示 した.藤田の結果はその後のデル・ペッツォ多様体の分類においても利用される 等,多様体の分類問題において重要な役割を担ってきた.他方,A. J. Sommese により,2次元以上のアーベル多様体を豊富な因子として含む多様体は存在しな いことが示された.これらの結果の自然な一般化として次の問題が考えられる.
問題 1. 等質多様体Aを線型系|L|の元として含む偏極多様体(X, L)を分類せよ.
1次元の等質多様体は射影直線P1もしくは楕円曲線に同型である.従って,A が曲線の場合,(X, L)の分類は古典的に知られている.そのため,Aは曲線でな いとする.このとき,問題に対する解答として次を得る.
1
定理 2. 等質多様体を線型系|L|に含む3次元以上の偏極多様体(X, L)は以下の いずれかと同型である:
(i)(Pn+1,OPn+1(i)), i= 1,2; (ii)(Qn+1,OQn+1(1));
(iii)(P(E), H(E)), ただし,Eは種数が0または1の曲線C上の豊富なベクトル 束で,L はC上の直線束とし,以下の完全列を満たす:
0→OC → E →L⊕n→0;
(iv)(Pm×Pm,OPm×Pm(1,1)); (v)(G(2,C2m),OPl¨ucker(1));
(vi)(E6(ω1),OE6(ω1)(1)), ここで,E6(ω1)は基本支配ウェイトω1を最高ウェイ トとするE6型代数群の既約表現から定まる等質多様体とする.
証明は,偏極多様体の変形に関連する等質多様体のベクトル束のコホモロジー の計算と,F. Zakによるセベリ多様体の分類など射影幾何学的手法を用い行う.
第3章では,群多様体の作用の観点から多様体の分類問題を考える.現在まで に,多様体の次元が低い場合や,与えられた群作用の軌道の次元が大きい場合に いくつかの研究がなされている.例えば,特殊線型代数群SL(n)の作用を持つn 次元多様体の分類が満渕俊樹により得られている.
ここで,Xを単純線型代数群Gの非自明な作用を持つn次元多様体とする.G の放物的部分群Pを与えると,それに対応して等質多様体G/Pが得られる.この 様にして得られた等質多様体の次元のうち最小の自然数をrGと記すと,n≥rG
なる不等式が成立する.さらに等号を満たすXは簡単に分類され,全て等質多 様体になる.そこで,M. Andreattaはn=rG+ 1なる古典型単純線型代数群G の非自明な作用を持つ多様体を研究し分類を得た.rSL(n) =n−1が成り立つた め,その結果は満渕の結果の一般化になっている.本章ではGが古典型でない場 合,つまり例外型の場合を考える.
問題 3. n=rG+ 1なる例外型単純線型代数群Gの非自明な作用を持つ多様体 を分類せよ.
代数群の非自明な作用をもつことから,Xは有理曲線で覆われることが分か る.そこで,Xの端射線の収縮射とG軌道を調べることによりXの構造を調べ る.特に,XのPicard数が1のときは,前章で得た定理2を適用することによ り分類を与える.その結果,次を得る.
定理 4. Xをn次元多様体,Gを非自明かつ正則にXに作用する例外型単純線 型代数群とする.n=rG+ 1のとき,Xは以下のいずれかと同型であり,各々の 場合において,作用は一意的である:
(i)P6; (ii)Q6; (iii)E6(ω1);(iv)G2(ω1+ω2);
(v)Y ×Z,ここで,Y はE6(ω1), E7(ω1), E8(ω1), F4(ω1), F4(ω4),G2(ω1) また
2
は G2(ω2)のいずれかで,Zは曲線とする.
(vi)P(OY ⊕OY(m)),ここで,Y は(v)と同じものとし,m >0とする.
第4章ではファノ多様体上の有理曲線に関する研究を行う.有理曲線の鎖はファ ノ多様体の研究において重要な役割を担っている.例えば,Koll´ar・宮岡・森と
Nadelはそれぞれ独立に,ピカール数1のn次元ファノ多様体の変形類の有限性
を有理曲線の鎖を用いることにより示した.以下,Xをピカール数1のn次元非 特異ファノ多様体,RatCurvesn(X)をX上の有理曲線のパラメーター空間の正 規化,K をXを被覆するRatCurvesn(X)の既約成分のうち反標準次数が最小 のもの(極小有理成分)とする.また,p+ 2をK の元として含まれる有理曲線 の反標準次数とする.ここで次の問題を考える.
問題 5. X上の一般の2点を通るK 有理曲線の鎖の長さの最小値を求めよ.
一般の2点を結ぶK 曲線の鎖の長さの最小値を,K に関する長さと呼び,lK と書く.一般に,ピカール数が1のファノ多様体に対してlK ≤ dimX が成立 することが知られている.J. M. HwangとS. KebekusはK に含まれる有理曲 線の一般の点での接空間のモジュライ空間(VMRT)を利用してlK の研究を行 い,完全交叉やエルミート対称空間をはじめとするいくつかの例ついてlK を求 めた.また,ピカール数1の主系列ファノ多様体Xに対し,そのファノ指数が n+ 1> iX > 23nを満たすなら,lK = 2が成り立つことも示した.ここで,ピ カール群の豊富な生成元Hが非常に豊富であるファノ多様体を,主系列ファノ 多様体と呼ぶ.
本章では,Xの次元が5以下の場合,余指数が3以下の場合,Xが2重被覆の 構造を持つ場合についてlK を求める.
定理 6. p =n−3 >0ならばlK = 2となり,(n, p) = (5,1)ならばlK = 3と なる.
定理7. Xの余指数を3,次元をn:= dimX≥6とする. このとき,6次元のラグ ランジアングラスマン多様体LG(3,C6)を除き,lK = 2となり,X=LG(3,C6) の場合はlK = 3となる.
これらの定理といくつかの議論を合わせ,Xの次元が5以下の場合と余指数が 3以下の場合にlK を求めることが出来る.この他,2重被覆の構造をもち,尚且 つ次数1の有理曲線で覆われているXに対し,lK = 2となるための判定法を与 える.また,先に記した指数がiX > 23nを満たす主系列ファノ多様体の結果の 境界の場合として,ファノ指数がiX = 23nのピカール数1の主系列ファノ多様 体XのうちlKが2と異なるものを分類し,それらとセベリ多様体の関係につい て述べる.
3