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低酸素性低酸素症における大脳と小脳 ー脳幹部のエネルギー代謝の検討

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Academic year: 2021

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(1)

     博 士 ( 医 学 ) 水 上 学 位 論 文 題 名

低酸素性低酸素症における大脳と小脳

―脳幹部のエネルギー代謝の検討 学位論文内容の要旨

丑広

緒言

  大脳と脳幹部の低酸素症に対する抵抗性の違いの原因は明らかでなく,直接脳組織の酸 素化状態とエネルギー状態を大脳と脳幹部で比較検討した報告はない.今回は脳波,誘発 電位の測定と同時に,ミトコンドリア内チトクロームオキシダーゼ(cyt. ox)の酸化率か ら直接細胞内の酸素濃度を測定できる近赤外分光法を用いて低酸素状態における大脳と小 脳ー脳幹部のcyt. ox.の酸化―還元状態を測定し,さらに高速液体クロマ卜グラフィ法で 脳内アデノシン三燐酸(ATP)とグルコース,乳酸を測定し,脳の部位による低酸素症に対す る抵抗性の差が脳内酸素化状態ならびにエネルギー状態の違いに起因するかを検討した.

  方法

  対象は雄のウィスターラット(週令5―18週,体重170−280g)で,人工呼吸器を装着し てカルバミン酸エチル(ウレタン,0.8g/kg)で麻酔した,

  低 酸素負荷は人工呼吸器で吸入ガスの酸素の割合(Fi02)をO.21からO.04ずつ約4 分間毎に定常状態を保ちながら約20分かけてO. 00まで低下させた,脳内ATP,グルコース,

乳酸の測定の低酸素群は脳波が消失後1分から2分の間に,コントロール群は同量のウレ タ ン で 麻 酔 し 空 気 中 で15分 間 自 発 呼 吸 後 , マ イ ク ロ ウ ェ ー ブ 照 射 を 行 っ た ,   近赤外分光法による測定結果を大脳と小脳一脳幹部で比較するために,大脳の測定には 頭蓋骨に照射用ライトガイドを設置し,口蓋骨に受光用ライ卜ガイドを当てて大脳頭頂部 から脳底部にかけて大脳全体の透過光を測定した(A群).小脳ー脳幹部の測定には頭蓋骨 後部に照射用と受光用のライトガイドを設置し小脳,脳幹部の反射光を測定する(B群)か,

頭蓋骨後部に照射用ライ卜ガイドを,頭蓋骨底部に受光用ライ卜ガイドを当て小脳,脳幹部 の 透 過 光 を 測 定 し た (C群 ) , 各 群 の 例 数 はA群12例 ,B群7例 ,C群5例 と し た , 脳波,誘発電位は針電極を皮質にImm刺入し,脳波(EEC),近赤外除去フアルターを付けた スト口ボで視覚誘発電位(VEP),体性感覚誘発電位(SEP),cortical SEP(C−SEP)とspinal SEP(S―SEP),聴覚誘発電位(BSR)を測定した.

  脳内ATP,グルコース,乳酸の測定は雄のウィスターラッ卜13匹(低酸素群9匹,コン卜 ロール群4匹 )で行った,脳内ATPは高速 液体クロマ卜グラフイ法(HPLC法)を用いて測 定した.グルコースの測定はNADPHの生成量を測定する方法で,乳酸の測定は同様にNADH の生成量を測定する方法で行った.

  cyt. ox.の酸化率の検定はANOVA (Schef fe sr検定),消失時間のばらっきの検定は Mann―Whitney sU検定,脳内ATP,乳酸,グルコースの測定結果の検定はANOVA (risher s F検定)を用いた.p〈O. 05を有意とした,

結果

I.低酸素負荷時における脳波、誘発電位と脳内酸素化状態

159一

(2)

(1)大脳と′jヽ脳ー脳幹部における変化

  F‑i02がO.12か らO.08に し た 時 点 でcyC, ox.の 還 元 が 始 ま り ( 細 胞 内 酸素 分 圧 約 O.2mmllg),cyt.ox.の酸化 ―還元 状態は 曲線的 に低下し た.ri02をO.00にするとcyt.ox.

の 酸 化 率が15% から10%に 低 下 し た時 点 ( 細 胞内 酸 索 分 圧約0.015mmHg)で, 血 圧の 急激 な 低 下 と脳 内 血 液 量の 急 速 な 減少 を 認 め た, 同 時 に 測定 し た 脳 波お よ び 誘 発電 位 はVEP, C−SEP,EEG,BSR,S−SEI)の順に消失した.小脳―脳幹部の反射光(B群)と透過光(C群)で はcyc.ox. の 酸 化率 は 大 脳 より 遅れ て還元 が始まる 同様の 曲線的 変化を 示し, 両者の 差は なく,両者を総括したデー夕(B+C)を小脳一脳幹部の結果とした,

(2)大脳と小脳ー脳幹部の比較

  脳 波と 誘 発 電 位の 消 失 時 期は 大 脳 お よび 小 脳 ― 脳幹 部 ともcyt. ox.の酸化 率に依 存して い た . そこ で 大 脳 と脳 幹 部 ― 小脳 の 酸 素 化状 態 を を 比較 する ために 脳波,誘 発電位 の消失 時点のcyt. ox.の酸化率を比較検討した.大脳(A)と小脳ー脳幹部(B)+(C)における低酸素 負 荷 で 脳波 , 各 誘 発電 位 が 認 めら れ な く なっ た 時 点 でのcyt. ox.の 酸化率 を平均土 標準誤 差 で 比 較す る と , それ ぞ れVEPは32土15% に 対 し て22土17% ,C―SEPは23土7.4% に対し て14土8.6%,EEGは15土4.O%に 対して6土5.3% ,BSRは8土3,3%に 対して2土2.6% , S―SEPは4土3.4% に 対 し て0%で あ っ た .実 験 時 間 はFi02を0.21にして から0.00にする までの時間を比較すると(A):19.6土1.1分 (B)十(C):19.9土1.9分で有意差無く,また脳 波 , 各 誘発 電 位 の 消失 時 間 に つい て の ば らっ き はC一SEP以 外は大 脳と小 脳―脳 幹部で 有意 差はなかった,

U.  低酸素負荷における脳内ATPの変化

  脳 波が 消 失 し てか らBSRが 認め ら れ な くな る ま で の時 間 は 平 均94秒 で あっ た た めマイ ク 口 ウ ェ ーブ を 照 射 する 時 期 を 脳波 消 失 後1―2分 と した .ATPは コン ト ロ ー ル群 , 低酸 素群 と も に 各部 位 間 に 有意 差 は な かっ た が 皮 質で 若 干 高 く, 脳幹 部,小 脳と皮質 下組織 は同程 度 の 値 であ っ た , 各部 位 の コ ント 口 ー ル 群と 低 酸 素 群と の比 較では 低酸素群 で有意 に減少 し,その値は皮質がやや高く,他の部位では同程度の値であった,

m,  低酸素負荷における脳内グルコース,乳酸の変化

  グ ルコ ー ス は ,皮 質 で は コン ト口 ール群 に対し て低酸 素群で 有意な 減少が 認められ た(p<

O.05),低酸素群の各部位問の比較では皮質と脳幹部(p〈0.02)および皮質と小脳(p<0.Ol) の 間 に 有意差 が認めら れ,皮 質より 脳幹部 および 小脳で グルコ ースは より高い 値を示 した.

乳 酸 は 各部 位 と も 低酸 素 群 で 有意 な 増 加 を認 め た . 低酸 素群 の各部 位の間の 比較で は皮質 と脳幹部(p〈O.05),皮質と小脳(p<0.02)および皮質と皮質下組織(p< 0. 01)の間に有意差 が 認 め ら れ , 乳 酸 は 皮 質 よ り 脳 幹 部 , 小 脳 , 皮 質 下 組 織 で よ り 高 か っ た , 考案

  低 酸素 状 態 で は大 脳 皮 質 の関 与 す るVEP,C―SEP,EECが 脳幹 機 能 を 反映 す るBSR,末 梢 神 経 機 能を 反 映 す るS―SEPよ り 早期 に消失す ること が報告 されて いる. 今回の 実験で もFi0 2の 低 下 に 伴っ てVEP,CーSEP,EEG,BSR,SーSEPの順 で 消失し た,し かもそ れぞれ の消失 時 期 とcyt. ox.の酸 化率か ら得ら れた細 胞内酸 素濃度 の間に は密接 な関係が 認めら れ,BSR の 消 失 がVEP,C−SEP,EEGの消 失 よ り 細胞 内 酸 素 濃度 が より低 下した 時点で 生じる ことが 確 認 さ れた , 従 っ て脳 波 と 誘 発電 位 に 反 映さ れ る 神 経細 胞の 電気生 理学的機 能は細 胞の酸 素 化 状 態に依 存してい ると考 えられ た.脳 波,′ 誘発電 位が消 失する 時点の細 胞内酸 素濃度 を 比 較 する と , 大 脳よ り 小 脳 、脳 幹 部 の 細胞 内 酸 素 濃度 の方 が低く ,小脳, 脳幹部 の方が 大 脳 よ りも 細 胞 内 が低 酸 素 の 状態 に な っ てい た . し かもVEPは大 脳のcyc. ox.の酸 化率が 32% 程度 で消失 したの に対し ,BSRは小 脳ー脳 幹部のcyt, ox.の酸 化率が2−8%に 低下す る ま で 消 失し な か っ たこ と か ら ,小 脳 , 脳 幹部 に は 大 脳よ り細 胞内が 低酸素に なって もその 電 気 生 理学 的 な 機 能を 維 持 で きる 何 ら か の機 構 が 存 在す る こ と が示 唆 さ れ た. 脳 内ATP, グ ル コ ース , 乳 酸 の結 果 か ら 脳幹 部 に あ ろ神 経 細 胞 は電 気生 理学的 な機能を 維持す るため に , 皮 質の 細 胞 よ り嫌 気 性 解 糖に よ る エ ネル ギ ー 代 謝が 活発 に行わ れている 可能性 がある

160

(3)

と思われる.従って脳幹部では低酸素血症がかなり進行するまで好気的代謝が行われるが,

更に酸素供給が減少すると供給されるグルコースを使用して解糖系からエネルギーを得て 限界まで機能し続ける機桝が存在すると思われる.しかし大脳皮質では比較的早期に電気 生理学的活動の消失を生じ,それがエネルギー不足によるためではなく,大脳皮質の抑制 機構によると考えられる,この抑制機榊によってエネルギー消費は最小限に抑えられ,低 酸素状態での解糖系の寄与は脳幹部に比べて少ないと推測される.乳酸が大脳皮質より脳 幹部で著明な増加を示したことは,このことを支持する所見と思われる,生命維持に必要 な中枢が集まっている脳幹部は限界まで機能する必要があり,このような反応性の差は発 生の段階でブログラムされた合目的的なものと思われる,

− ・161

(4)

学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

低酸素性低酸素症における大脳と小脳 ー脳幹部のエネルギー代謝の検討

  大脳と 脳幹部 の低酸素 症に対す る抵抗 性の違いの原因は明らかでなく,直接脳組織の 酸素化状態とェネルギー状態を大脳と脳幹部で比較検討した報告はない。申請者は脳波,

誘発電位の測定と同時に,ミトコンドリア内プ トクロームオキシダーゼ(cyt.ox)の酸化 率 から 直 接細胞 内の酸 素濃度を 測定でき る近赤 外分光法 を用い て低酸素 状態に おける 大 脳と 小 脳一脳 幹部のcル,ox.の酸化 一還元 状態を測 定し, さらに脳 内ATPとグルコ ース, 乳酸を測 定し, 脳の部位 による 低酸素症に対する抵抗性の差が脳内酸素化状態な らびに エネルギ ー代謝 の違いに 起因す るかを検討した。[方法]対象は雄のウイスター ラット で,人工 呼吸器 を装着し てウレ タンで麻酔した。低酸素負荷は吸入ガスの酸素の 割 合(Fi02) をo.21か らO,04ず つ 約4分間 毎 に 定 常状 態 を 保ち な が ら約20分か け て0ま で 低下 さ せ た。 脳 内ATP、 グル コ ー ス、 乳 酸 の測 定 に は 、脳 波 が 消失 後1分か ら2分の間に ラット をマイク ロウェ ーブ照射 し、脳を 摘出し て行った 。近赤外分光法に よる大 脳の測定 には頭 蓋骨に照 射用ラ イトガイドを設置し、口蓋骨に受光用ライトガイ ドを当 てて大脳 頭頂部 から脳底 部にか けて大脳全体の透過光を測定した。小脳―脳幹部 の測定 には頭蓋 骨後部 に照射用 と受光 用のライトガイドを設置し小脳・脳幹部の反射光 を測定するか,.頭蓋骨後部に照射用ライトガイドを、頭蓋骨底部に受光用ライトガイド を当てその透過光を測定した。電気生理学的機能として、脳波(EEG)、視覚誘発電位(VEP), 体性感覚誘発電位(SEP)、cortical SEP(C‑SEP)とspinal SEP(S‑SEP)、聴覚誘発電位(BSR) を 測定 し た 。脳 内ATPの 測 定は 高 速 液体 クロマト グラフイ 法、グ ルコース 、乳酸 の測 定はNADPHの生 成量を測 定した. [結果 ]Fi02がO.08にし た時点でcyt.ox.の還元が 始 まり 曲 線的に 低下し た。Fi02をoにす るとcyt.ox.の 酸化率が15%から10%に低下 した時 点で,血 圧の急 激な低下 と脳内 血液量の急速な減少を認めた。同時に測定した脳 波 およ び 誘 発電 位 はVEP,C・SEP,EEG,BSR,S‑SEPの 順 に消 失 した。 脳波と誘 発電 位の消失時期は大脳およぴ小脳一脳幹部ともcyt.ox.の酸化率に依存していた。脳波が消 失 後の 脳 内ATPは コン ト ロ ール に 比 ベ低 酸素群で 有意に減 少した が、その 値は皮 質が

彦 雄

邦 邦

林 代

小 田

授 授

教 教

査 査

主 副

(5)

やや高く,他の部位で|よ同程度の減少であった。グルコースも低酸素群で有意な減少が 認められた(p(0.05)、低酸素群の各部位間の比較では皮質と脳幹部(p<O.02)および皮質と 小脳(p<0.01)の間に有意差が認められ,皮質より脳幹部およぴ小脳でより高い値を示し た。 乳酸は 各部位と も低酸 素群で有意な増加を認めた。低酸素群の各部位の間の比較で は皮質と脳幹部(p<0.05),皮質と小脳(p<0.02)および皮質と皮質下組織(p<0.01)の間に有意 差が 認めら れ,乳酸 は皮質 より脳幹部,小脳,皮質下組織でより高かった。[考案]低 酸 素 状 態 で は 大 脳 皮 質 の 関与 す るVEP,C‑SEP,EEGが 脳 幹 機 能を 反 映 するBSR, 末 梢神 経機能 を反映す るS‑SEPより早期 に消失 すること が報告されている。今回の実験で もそれが確認された。しかもそれぞれの消失時期とcyt.ox.の酸化率から得られた細胞内 酸 素 濃 度 の 間 に は 密 接 な 関係 が 認 めら れ ,BSRの 消失 がVEP,C‑SEP,EEGの 消失 よ り細 胞内酸 素濃度が より低 下した時点で生じることが確認された。即ち、脳波と誘発電 位に 反映さ れる神経 細胞の 電気生理 学的機能 は細胞 の酸素化 状態に 依存して いると考 えら れた。 脳波,誘 発電位 が消失する時点の細胞内酸素濃度を比較すると,大脳より小 脳、 脳幹部 の細胞内 酸素濃 度の方が低く,小脳,脳幹部の方が大脳よりも細胞内が低酸 素の 状態に なってい た。し かもVEPは大脳のcyt.ox.の酸化率が32%程度で消失したの に対 し,BSRは小脳一脳幹部のcyt.ox.の酸化率が2‑8%に低下するまで消失しなかった こと から, 小脳,脳 幹部に は大脳より細胞内が低酸素になってもその電気生理学的な機 能 を 維持 で き る何 ら か の 機構が存 在するこ とが示 唆された 。脳内ATP,グ ルコー ス,

乳酸 の結果 から脳幹 部にあ る神経細胞は電気生理学的な機能を維持するために,皮質の 細胞 より嫌 気性解糖 による エネルギ ー代謝が 活発に 行われて いる可 能性があ ると思わ れる 。従っ て脳幹部 では低 酸素血症がかなり進行するまで好気的代謝が行われ,更に酸 素供 給が減 少すると 供給さ れるグル コースを 使用し て解糖系 からエ ネルギー を得て限 界ま で機能 し続ける 機構が あると思われる。生命維持に必要な中枢が集まっている脳幹 部は 限界ま で機能す る必要 があり,このような反応性の差は発生の段階でプログラムさ れた合目的的なものと思われる。

  公開 発表に 際して、 副査の 劔物教授から、脳幹部の代謝が残る現象と血流の関係、回 復 過 程で の 実 験、 大 脳 と 脳幹部のATPの差 につい て、副査 の田代 教授から 、脳死 判定 に お ける 近 赤 外やBMRの有 効性、 脳の嫌気 性代謝 について 、脳波 の感度に ついて 、主 査の 小林邦彦教授から低酸素負荷の体循環と脳循環の関係、in vivoとin vitro実験の差 など の質問 があった が、申 請者は何れの質問に対しても、自らの実験結果と文献を引用 して、適切に回答した。

  本研 究は、 低酸素負 荷にお ける大脳と脳幹部の変化を、電気生理学的機能、近赤外に よる 脳内酸 素化状態 、及び 脳内代謝産物の解析から検討し、脳幹部の低酸素抵抗性はそ の 部 の 神 経 細 胞 の 嫌 気 性 解 糖 優 位 性 に 起 因 す る 可 能 性 を 明 ら か に し た 。   審査 員一同 は、これ らの成 果を高く評価し、申請者が博士(医学)の学位を受けるの に十分な資格を有するものと判定した。

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