【特集】脳波が主役:意識障害・神経救急の診断学
代謝性・中毒性脳症の脳波
下竹昭寛1,松本理器2, 3,人見健文4,池田昭夫1
1京都大学大学院医学研究科てんかん・運動異常生理学講座,2京都大学大学院医学研究科臨床神経学,
3神戸大学大学院医学研究科内科学講座神経内科学,4京都大学大学院医学研究科臨床検査学
要旨意識障害の患者において代謝性脳症は比較的よく遭遇する病態であり,脳波はその診断と病勢の把握 に有用である。代謝性脳症の脳波所見は,意識障害の程度と関係して,基礎律動・後頭部優位律動の徐 波化や消失,間欠的律動性または持続性高振幅の全般性デルタ活動,三相波(Triphasic wave)を呈する 場合もある。三相波は,陰−陽−陰の三相性からなる特徴的な波形で,肝性脳症を含む代謝性脳症で認 めることが多い。中毒の脳波所見の中に両側同期性の全般性周期性放電(Generalized Periodic Discharges
(GPDs))を呈するものがある。薬物関連では,炭酸リチウム,テオフィリンなどが挙げられ,セフェピ ム脳症によるものも知られる。三相波/GPDsにおいては,非けいれん性てんかん重積(NCSE)の可能性 についても常に念頭に置く必要がある。代謝性・中毒性脳症の脳波は原因検索に必ずしも特異的な所見 を示すわけではないが,特徴的な脳波所見を示す場合があり,また非侵襲的に早期から病態の客観的な 評価が可能であり,積極的に活用すべきである。
Key words: 代謝性脳症,中毒性脳症,三相波,GPDs
はじめに
意識障害の患者において代謝性脳症は比較的よく遭遇 する病態である。治療により改善が見込めることから早 期の診断と治療が重要である。急性期には画像上の変化 を認めないことが多く,脳波はその診断と病勢の把握に 有用である。中毒性脳症において,脳波は原因検索にお いては必ずしも特異的な検査ではないが,特徴的な脳波 所見を示す場合がある。代謝性脳症・中毒性脳症におい ては,脳波は非侵襲的に早期に病態把握ができ,繰り返 し行うことで臨床経過の客観的な評価が可能であり,積 極的に活用すべきである。
代謝性脳症
代謝性脳症の原因は多岐にわたり,腎不全,肝性脳症,
電解質異常や橋本脳症などがある。脳波との関係は必ず しもその代謝異常の程度と平行関係にはなく,脳の機能
的異常による意識障害の発現・程度と相関することが多 い。MRI では異常を認めないことも多く,時に脳波変化・
異常が意識障害に先行することがあり,診断,治療の一 助となることがある。
代謝性脳症の脳波所見は,びまん性脳機能障害を示唆 する脳波変化を呈する。意識障害の存在,程度と関係し て,基礎律動・後頭部優位律動の徐波化や消失,シータ 波の増加,間欠的律動性または持続性高振幅の全般性デ ル タ 活 動 を 認 め る こ と が 多 く, 三 相 波(Triphasic wave)のように特徴的な所見を呈する場合もある。脳 波所見が変動を示すことも特徴の一つである。時にこの 脳波変化は意識障害に先行することがあり診断,治療の 一助となることがある。意識障害が進行し,昏睡から深 昏睡へと意識レベルが低下すると,全汎性デルタ波から 低電位となる。
前頭部間欠性律動性デルタ活動
Frontal intermittent rhythmic delta activity(FIRDA)
代謝性脳症において,背景活動の徐波化に伴って間欠 性 律 動 性 デ ル タ 活 動 を 認 め, 前 頭 部 優 位 の も の を
※本論文は『臨床神経生理学』47 巻 1 号, p40-46, 2019. (DOI:
https://doi.org/10.11422/jscn.47.40)に掲載されたもので ある。
Journal of Japan Society of Neurological Emergencies & Critical Care (2019) Vol. 31 No. 2 : 9-15
Frontal intermittent rhythmic delta activity(FIRDA)
と呼ぶ(図 1)。高振幅の 2-3Hz の律動的な波形で,背 景には全般性のシータ波を伴うことがある。FIRDA の 出現頻度は,ルーチン脳波の 0.06-6%で,意識変容を伴 う集中治療を要する患者においては 17%認める。代謝 性異常に注意が必要な所見とされるが,病因は様々で,
低酸素脳症,敗血症,薬物による過鎮静,ときに神経変 性疾患においても認めることがある。代謝性異常におい ては,特定の原因を示唆するわけではないが,腎不全に おいて頻度が高いとされる 1)。一般的には,左右対称性 であることが多いが,非対称性に認める場合には,頭蓋 内の病変を伴っている可能性が示唆される。側頭部の間 欠性律動性デルタ活動(TIRDA)と異なり,てんかん 原性について示唆する波形ではない。ただし,同じ形状 の波形が,持続する場合においては,非けいれん性てん かん重積(NCSE)状態も考慮する必要がある。
三相波 Triphasic wave
三相波は,陰−陽−陰の三相性からなり,70μV 以上 の高振幅の陽性波の前後にそれより小さな陰性波を伴 う。びまん性の周期性徐波(約 1 ~ 2Hz)で,多くは左 右対称性に同期して出現し,振幅は前頭部で高く,後方
領域の方が前方領域に比べて時間の遅れがある(A-P delay)のが典型的な波形である 2)(図 2)。ACNS critical care EEG terminology, 2012 においては,「Continuous 2/s GPDs with triphasic morphology」と記載される。
通常は中等度の意識障害で出現し,昏睡・昏迷状態で はみられない。肝性脳症に伴って出現が知られるが,特 異的な所見ではなく,腎不全,敗血症,糖代謝異常,電 解質異常などを含む代謝性脳症,低酸素脳症,脳血管障 害(脳幹),甲状腺機能低下,橋本脳症,でも出現する。
波形はときに類似の波形(例えば A-P delay が明確では ない)を呈し,厳密な三相波の波形の特徴をそろえない 場合は三相波様と表現することがある(図 3)。全般性 の棘徐波複合と区別が困難なことがしばしばあり,
NCSE の病態との鑑別を必要とする。
三相波は代謝性脳症に特異的か?
意識障害の脳波において,代謝性脳症と NCSE の区別 は重要である。元来,波形的には三相波と全般性の鋭波 は類似していて,ともに Generalized periodic discharge
(GPDs)を呈する病態であることから,脳波判読におい て両者の区別が求められる場面が臨床ではしばしばあ る。代謝性脳症の場合に NCSE の可能性も考え,病態 図 1 前頭部間欠性律動性デルタ活動 Frontal intermittent rhythmic delta activity(FIRDA)
60 歳男性。尿毒症性脳症。
を悪化させる可能性もある抗てんかん薬も入れるのか,
NCSE の場合に代謝性脳症として抗てんかん薬を入れず 結果として過小評価してしまうか。二者の区別は,各病 態を脳波からどの程度見込むかによって判断され,以前 からこの区別は議論の的となってきた。
Foreman ら は,20 例 の 持 続 脳 波 モ ニ タ リ ン グ
(Continuous EEG: cEEG)の GPDs を含む脳波において,
三相波波形を伴っているかどうか(Triphasic morphology の有無),脳波からの臨床診断と,実際の臨床情報との 比 較 を 行 っ て い る 3)。 結 果 か ら は,Triphasic morphology のある場合とない場合でのてんかん発作の 頻度は変わりなかった(25% vs 26%)。このことから 図 2 三相波
68 歳男性。アルコール性肝硬変および慢性腎不全(透析導入前)にて通院中意識障害にて来院。
JCS II-200。NH3 136μg/dL。
図 3 87 歳男性 高アンモニア血症(肝内門脈肝静脈短絡あり。NH3 96μg/dL)
三相波様波形は前頭部最大ではあるが,A-P delay を認めず,三相波「様」と考える。前頭 部の律動性デルタ波も認める。
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Triphasic morphology の存在は必ずしも代謝性脳症を 示唆するわけではない,三相波は代謝性脳症に特異的な 所見と決めてはいけない,と結論された。
三相波の波形を呈する脳波から,代謝性脳症と NCSE の鑑別が困難な場合に,診断的治療として,抗てんかん 薬への反応性により臨床的な判断をする場合がある。
O’Rourke らは cEEG において後方視的に,三相波を呈 し,かつ,抗てんかん薬(ベンゾジアゼピン(ロラゼパ ム,ミダゾラム),非鎮静の抗てんかん薬(レベチラセ タム,フェニトイン,バルプロ酸など))が投与された 64 名の患者を対象に,治療反応性および臨床症状を検 討している(低酸素脳症および明らかなNCSEは省く) 4)。 34.4%が明らかな,どちらかの薬剤への治療反応性を示 し,抗てんかん薬の投与の方がベンゾジアセピンより治 療反応の割合は高かった。治療反応性と採血上の代謝性 の異常の程度との関係は認められなかった。このことか ら,三相波を呈した場合にも,NCSE が否定できない場 合があり,抗てんかん薬の投与が診断的治療として臨床 的には有用である可能性が示された。
一方で,元来,三相波は「前方優位,両側性,軽度の 意識障害までで出現する」などの過去の蓄積から確立さ れた所見に基づいて判読することで,代謝性脳症との関 連がより明確になると考えられてきた。しかし,厳密な 定義になりきらない三相波「様」の波形も三相波と広義 に解釈され,「昏睡状態での三相波」や「三相波が NCSE と強く関連する」という論文が近年多くみられる ようになっている。Foreman らの論文は,三相波波形 を呈する GPDs の場合においても,NCSE の可能性を念 頭におくべきであるという点は臨床上重要であるが,原 点に立ち返り,三相波をより厳密な定義に基づいて脳波 判読することは肝要である。
Boulanger らは,三相波と NCSE の脳波波形の違いを 検討している 5)。三相波を呈する 87 回の脳波と全般性 の脳波変化を伴う NCSE 症例の 13 回の脳波において,
NCSE のてんかん性放電は三相波に比べて,(1)周波数 が速い(mean = 2.4 Hz vs 1.8 Hz),(2)第一相の幅が 狭い,(3)extra-spikes components がある(polyspikes)
(69% vs 0%),(4)背景の全般性の徐波が少ない(15.1%
vs 91.1%),また,三相波の方が NCSE に比べて,(1)
第二相の振幅が大きい,時間差がある,(2)音刺激で出 現が増加する(てんかん性放電は影響なし),といった
特徴の違いを挙げている。
Alkhachroum らの最近の報告では,脳波で GPDs を示 す患者 92 名の前向き研究で,三相波波形の有無とてんか ん発作リスクの比較をし,発作リスクを高める因子を挙げ ている 6)。リスクとしては,(1)Triphasic morphology が ないこと,(2)脳波で局在性があること,(3)interburst suppression,(4)てんかんの既往,(5)頭部の画像異 常が挙げられる。また Triphasic morphology を伴うと 発作は 28%で,伴わない発作は 93%で認められた。こ の報告では,GPD スコア(Triphasic なし:1 点,脳波 上の局在性あり:2 点,てんかんの既往:3 点,合計ス コア 0-6 点で評価)を提唱し,発作のリスクは 0 点のと き 13%,5-6 点のとき 94%とされ,GPDs の脳波所見に おけるてんかん原性の評価にこのスコアが有用であるこ とを示している。
三相波は,判読の際に NCSE の病態との鑑別を考え ながらも,厳密な定義に基づいて波形を判読すること で,代謝性脳症の可能性についてより特異的に解釈する ことが可能となる。
周期性放電の考え方
先 に 述 べ た 三 相 波 は, 周 期 性 放 電(periodic discharges: PDs)に分類され,代謝性脳症・中毒性脳 症においては,全般性の周期性放電,GPDs を認めるこ とがある。周期性放電には,他にヘルペス脳炎のような 急性破壊性病変,または NCSE を含むてんかん重積を 示 唆 す る 一 側 性 周 期 性 放 電(Lateralized periodic discharges: LPDs, Periodic lateralized epileptiform discharges: PLEDs),BiPLEDs(Bilateral PLEDs,
BILPDs)がある。
GPDs の起源は,視床 - 皮質経路の重篤な機能障害の 可能性と,皮質の抑制系ニューロンの障害の可能性の一 方,または両者によるものが考えられる。GPDs は,原 因としては,クロイツフェルト・ヤコブ病や亜急性全脳 硬化症(SSPE)の他,急性低酸素脳症(脳虚血),代謝 性脳症(三相波),急速進行性の脳腫瘍 / 脳膿瘍,脳炎,
などが挙げられ(図 4),NCSE,薬物中毒の結果として も起こりうる 7)。GPDs とてんかん重積の関連について は確立してはいないが 8),Foreman らの 200 例の GPDs の報告では,けいれん性重積とは相関を示さないが,非
けいれん性てんかん重積 / 非けいれん性てんかん発作と 有意な相関を認めている 9)。周期性パターンの多くは,
原因は様々で特定の疾患を示唆するわけではないが,病 態との高い相関が指摘されており,臨床的には客観的指 標とみなすことができる。
中毒性脳症
中毒性脳症としては,薬物による脳波変化が重要であ る。GPDs はその代表的な変化の一つである。GPDs を 呈する薬物としては,炭酸リチウムやテオフィリン,セ フェピムなどが重要で,バクロフェンやバラシクロビル により GPDs を呈したという報告もある 10-15)。このうち セフェピム脳症については臨床的に遭遇する機会が少な くない(図 5)。Sonck らは,腎機能障害例でのセフェ ピム脳症が考えられた 8 例の報告において,脳波では,
全般性のデルタ波および三相波を認めた 16)。本邦でも,
腎機能障害・肝機能障害例で脳症をきたし意識障害,ミ オクローヌス,脳波にて広汎なデルタ波,GPDs および 三相波を認めた 2 例の報告 17),NCSE との鑑別を要した 症例の報告がある 18)。セフェピム脳症の機序の詳細は明 らかではないが,抑制系の GABAa受容体の阻害が起 きることできたすと考えられている 19)。
薬物中毒による脳波変化としては,GPDs 以外に,昏 睡脳波としてアルファ昏睡,ベータ昏睡の脳波を呈する
場合がある。アルファ昏睡の原因として低酸素脳症,脳 幹障害,急性薬物中毒 / 代謝異常が原因として挙げら れ 20),低酸素脳症に伴うものが最も多いが,薬物におい ては,バルビタール,ベンゾジアゼピン系,三環系抗う つ薬などでみられる。その場合の脳波の特徴として,(1)
前頭または前頭中心部優位に分布する比較的振幅の高い アルファ帯域,(2)1Hz 以下の徐波に重複,(3)spindle 様の形態を伴って漸増・漸減を示す,点が挙げられる。
さらに,大沼らは,10 Hz 以上の比較的速いアルファ成 分と一部はベータ帯域にも及んでいること,低酸素脳症 にみられるようなアルファ昏睡パターンに類似した所見 を呈する症例でも,外的刺激に対する反応性があること を挙げている 21)。低酸素脳症,脳幹障害の場合は予後不 良とされるが,急性薬物中毒の場合は比較的予後良好で あり,病因による脳波の相違点は理解しておくことが望 ましい。
ベータ昏睡では,全般性持続性の高振幅速波(> 30 μV)を認め,バルビタール,ベンゾジアゼピン系の薬 剤の使用によるものが多い。予後は一般的には良好であ る。中毒性脳症とまでは言えないが,日常臨床でよく目 にする脳波変化としては,振幅≥ 50μV の速波が記録 の 50%以上で認める,Excessive beta の所見である(図 6)。Excessive beta の定義は満たさない程度の,速波の 振幅の増高の所見においては,眠剤,抗不安薬,抗てん かん薬を含むベンゾジアゼピン系薬物の使用の可能性が 図 4 77 歳女性 CPA 蘇生後脳症
高振幅(> 200μV)の Generalized periodic discharges(GDPs)を認める。
Journal of Japan Society of Neurological Emergencies & Critical Care (2019) Vol. 31 No. 2 : 9-15
示唆される。
まとめ
代謝性・中毒性脳症における脳波について概説した。
代謝性・中毒性脳症において,脳波は原因検索において 必ずしも特異的な所見を示すわけではないが,特徴的な 脳波所見を示す場合がある。三相波 /GPDs においては,
NCSE の可能性についても常に念頭に置く必要がある。
代謝性・中毒性脳症において,脳波は,非侵襲的に早期 に病態把握ができ,繰り返し行うことで臨床経過の客観 的な評価が可能であり,積極的に活用すべきである。
謝 辞
本総説は,JSPS 科研費(15H05874,16K19510)およ 図 5 70 歳女性 セフェピム脳症
自己免疫疾患にてステロイド加療中,維持透析中。汎血球減少あり G-CSF とセフェピム投 与された。投与 3 日後より意識障害が出現し,セフェピム脳症が考えられた。
図 6 Excessive beta の脳波
43 歳男性,> 50μV,> 50%の速波を認める。クロバザム(15mg/ 日)内服中。
びてんかん治療研究振興財団研究助成費を受けた研究を もとに執筆したものである。
利益相反
本学会の投稿規定に則り,以下の COI 状態を記す。
京都大学大学院医学研究科てんかん・運動異常生理学 講座は,産学共同研究講座であり,エーザイ,大塚製薬,
日本光電,UCB ジャパンの寄附金にて支援されている。
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