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博士(法学)鋤本豊博 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(法学)鋤本豊博 学位論文題名

刑法に おける「 合法的 行為との代替性」の問題について 学 位論文内容の要旨

  I.ある規範に反する行為により法益侵害を惹起させた場合において、合法的 行為であっても同一結果が生じていたであろうとの事情―合法的行為との代替 性(RechtmaBiges Alternativverhalten)―が認められるとき、当罰性を肯定 しても合理性があると言い切れるであろうか?

  この問題は、よく知られた原理・原則からの論理的帰結だけでは満足の行く結 論が得られず、新しい刑法学的方法と対象を創造せざるを得ないという意味で、

現代刑法学における最も優れた問題のーつである。本稿は、独白の角度からこの 問題の解明に挑むものである。

  本論の内容は、大きく三部に分かれる。即ち、「第1章、問題の理解」、「第 2章、現在の中核的理論」、そして「第3章、新たな解法への挑戦」である。

  II ‑「第1章、問題の理解」では、この問題でいったい何が問われ続けている のかを知ることが目的である。そのため、我が国の判例はもとより、多くの有益 な素材を提供するドイツの判例を取り上げ、その判例準則を形成する途上で直面 した問題点を可及的に系統立てて検討することにした。その結果、以下の3点に 集約することがきる。

  ◎合法的行為との代替性が存在するとの主張(代替性の抗弁).を考慮する必 要があるのか?

  @代替性の抗弁をどのように定式化すべきか?

  ◎代替性の抗弁にいかなる法的効果を、どのような条件の下に、犯罪体系論 のどこで認めることができ゛るのか?

  lII.「第2章、現在の中核的理論」では、以上の問題点を解消すべくこれまで どのような研究がなされてきたのか、どこに問題解決を困難にしている点がある のかといった検討がなされることになる。ただ、積極的な解法の試みは、まこと

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に 多 種 多 様 で あ り 、 現 在 の 議論状 況は 、最 終的解 決か らほ ど遠 い観が ある 。   そこで、まず、二つの理論的視角を設定した。一つは、代替性の抗弁の認めら れる法理現象を刑法学的にどのように捉えるかという点、即ち、@当該結果は回 避不能であったと捉えるか、◎当該結果には許されざる危険の実現がなかったと 捉えるか、それとも、◎当該客体の価値が既に喪失していたと捉えるかである。

もうーっは、代替性の抗弁による免責を導くために、ここで問題となる犯罪成立 要 件 ー 規 範 違 反 行 為 と 違 法 結果、 並び に両 者の因 果関 係― の内 、いず れが 消 去されると見倣すかという点、即ち、代替性の抗弁が認められるとき、@因果関 係が規範的に否定されると見倣すか、◎行為の規範違反性が実質的に否定される と見倣すか、それとも、◎結果の違法性が実質的に否定ないし阻却されると見倣 すかである。その上で、法理現象を◎と捉え、解決策を@に求める町野教授の規 範的条件関係論のような結果回避可能性思考、法理現象を◎と捉え、解決策を◎

に求めるロクシン教授の危険増加論のような危険実現思考、そして、法理現象を

◎と捉え、解決策を◎に求めるアルトゥ―ル・カウフマン教授の損害萌芽思考を 諸学説の中軸に据え、不要不急の学説は捨象しつつ、批判的検討を加えることに した。

  結論として、回避可能性思考は、合法的行為であれば「確実性に境を接する蓋 然性」でもって回避された場合に結果の帰責を認めるので、理論的安定性はある ものの、特に、「in dubio. pro reo」原則の適用によるジレンマから逸脱できな い点に致命的な欠点がある。即ち、合法的行為であっても同一結果が生じる「合 理的可能性」さえあれば免責の余地を認めるため、例えぱ、大手術のような生命 に対する重大な危険を不可避的に伴う事例の場合、致命的な医療過誤を行っても 容易に無罪判決を下せることになるのである。これに対して、危険増加論が想定 する危険実現思考は、合法的行為に比べ、結果発生の危険を測定可能な程に増加 させれぱ「許されざる危険の実現」があったと考えるので、合法的行為であれば 生じたであろう結果の態様を度外視できる反面、「in dubio pro reo」原則に反 しないか、侵害犯を危険犯に転化するものではないかといった理論的観点からの 批 判に 晒さ れ、 その理 論内 部に おい ても多 様性を帯びているのが現状である。

  最後の損害萌芽思考は、民事理論からの転用であり、帰責否定の根拠を結果惹 起時点における客体の価値減少に求めるが、例えぱ生命の価値は、刑法的考察に おいてはその存在自体に見出されるから、いかなる計量化にも馴染まず、「実に

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けしからぬ作用を及ぼす構想」と評せられている。しかし、この問題の解決策を 違法論に求めたことで、代替性の抗弁を難なく故意の領域にも適用可能にさせ、

一 般 化 の た め の 先 鞭 を 付 け た と い う 意 義 は 軽 視 さ れ る べ き で な い 。   IV.かくして、「第3章、新たな解法への挑戦」を展開することになるが、本 稿は、先の法理現象は事実的な意味で◎と捉え、解決策としては◎をカウフマン 教授とは違ったアプロ―チで試みるものである。そして、その解法への手引きを スケ`ソチすれぱ、以下のようになる。

  (1)まず、合法的行為であっても同一結果が「確実性に境を接する蓋然性」で 生じたであろう事情が認められる状況下においては、事案の稀有性・偶然性から 見 て も 刑事 政 策 的 に 処 罰す る必 要は なく、 代替 性の 抗弁 は認め べき であ る。

  (2)次 に、代替される合法的行為を、「当時の状況下で当該行為を規範に適っ た態様で行うこと」と定式化する。判例理論に調和するだけでな<、代替される 合法的行為を必然的に特定させ、同時に行い得ないという「代替性」の特質を表 現できるからである。この特質は、当該行為がなければ結果との間に関連性を有 する こと になる 「現 実的 因子た る仮 定的原因」と区別する上でも有用である。

  (3)問 題の解法を違法論に求めるべきなのは、より本質的に「仮定的因果経過 の問題」と区別するためである。っまり、仮定的原因の抗弁は、現実化されなか ったが設定され得た因果の流れの事実的存在を指摘することで、当該結果に対す る自己の行為の偶然性を主張するものであるのに対し、代替性の抗弁は、自己の 行為によって惹起された結果が合法的行為によっても惹起されたことを指摘する ことで、自己の行為の違法性を否定するものというように理解できるのである。

  (4)違 法阻却を導く論理として、「許された(結果)危険の法理」を用いる。

ここに「許された(結果)危険の法理」とは、社会的に有用であるものの、法益 侵害の危険が不可避的に伴う行為にっき、その有する危険が法益侵害に実現した 場合でも、必要最小の限度で許容する考え方をいうが、同二結果発生の可能性が

「確実性に境を接する蓋然性」であり、しかむ、この事情を事後に初めて認識し 得る場合に、代替性の抗弁を認めるとき、当該結果に実現したのは、当該行為の 有 す る 「 許 さ れ た 危 険 部 分 」 と 認 識 で き る の で あ る 。 何 故 か 。   「当該行為を規範に適った態様で行い得た」ことは、当該行為はそれ自体禁止 されるものでなく、元来社会的有用性を認め得る行為であることを意味するが、

先の要件を満たさないときは、当該行為が必要最小限を超える危険を有していた

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ことを意味 するか、いくら有用性があってもやるべきでない行為と評価されるた め、 「 許さ れ た( 結 果) 危 険の 法 理」 に よっ て 正当 化 し得な いからであ る。

  (5)以上の 考察から、 本稿が到達 したテ―ゼは、次のようになる。「当時の状 況下で当該行為を規範に適った態様で行っていたとしても、.確実性に境を接する 蓋然性でも って同一結果が生じたであろうとの事情が、事後に初めて認識された ならぱ、゛侵害結果に実現したのは、当該行為の包含していた許された(結果)危 険と解されるから、侵害結果の違法性は阻却される」。

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学位論文審査の要旨

学 位 論 文 題 名

刑法における「合法的行為との代替性」の問題にっいて

  本 論 文 は 、 「 合 法 的 行 為 との 代 替性 」 (RechtmaBiges Alternativverhalten の 問 題 と い う 現 代 刑 法 学 に おけ る 未 解決 の 難 問を 、 久し く 理 論的 深 化が 見 ら れて い な い 「 許 さ れ た 危 険 の 法 理」 に 「 結果 危 険 」と い う新 た な 観念 を 注入 し て 再生 さ せ 、 そ の 具 体 的 展 開 と し て の 解 法 を 提 示 す る も の で あ る 。   序 章 に 続 く 第1章 「 問 題 の 理 解 」 で は 、 我 が 国 の 判 例 は もと よ り、 多 く の有 益 な 素 材 を 提 供 す る ド イ ツ の 判例 を 取 り上 げ 、 各判 例 が直 面 し た問 題 点を 可 及 的に 系 統 立 て て 論 じ る だ け で な く、 学 説 によ る 評 価を も 詳細 に 検 討す る こと に よ り、

我 が 国 に お け る 解 釈 論 上 の 実 益 の ほ か 、 こ の 問 題 で 解 明 を 要 す る 論 点 を3点 一

@ 「 合 法 的 行 為 と の 代 替 性 」が 存 在 する と の 主張 ( 代替 性 の 抗弁 ) を考 慮 す る必 要 が あ る の か 、 @ 代 替 性 の 抗弁 を ど のよ う に 定式 化 し得 る の か、 ◎ 代替 性 の 抗弁 に 、 い か な る 要 件 の 下 で 、 どの よ う な法 的 効 果を 、 犯罪 論 体 系の ど こで 認 め る得 る の か ー に 集 約 で き る 旨 帰 結 し て い る 。 そ の 上 で 、 各 論 点 に お け る 問 題 の 核 心 部 分 を 浮 き 彫 り に し 、 次 章 以 下 で 展 開 さ れ る 論 争 の 意 味 を 明 確 に し て い る 。   2章 「 現 在 の 中 核 的 理 論 」 で は 、 第1章 で 示 さ れ た 問 題 点 を 解 消 す べ く 従 来 ど の よ う な 理 論 が 提 唱 さ れ 、ど こ に 問題 解 決 を困 難 する 点 が ある の かと い っ た批 判 的 検 討 が な さ れ て い る 。 そし て 、 ここ で と られ た 手法 、 即 ち、 学 説を 羅 列 する 方 式 を 避 け 、 二 つ の 理 論 的 視 角 ー 代 替 性 の 抗 弁 の 認 め ら れ る 法 理 現 象 を 刑 法 学 的 に ど の よ う に 捉 え る か と いう 点 と 、代 替 性 の抗 弁 によ る 法 的効 果 を導 く た め、

そ の 際 問 題 と な る 犯 罪 成 立 要 件 の 何 が 規 範 的 に 消 去 さ れ る と 見 る か と い う 点 ー を 設 定 し た 上 で 、 学 説 を 大 き く3思 考 一 @ 回 避 可 能 性 思 考 、 @ 危 険 実 現 思 考 、

◎ 損 害 萌 芽 思 考 一 に 分 類 し 、 系 統 立 て て 考 察 し て 行 く と い う そ の 手 法 は 、 論 旨 を 明 解 に す る と い う 意 味 で 有効 な 情 報処 理 で あり 、 充実 し た 研究 に 裏づ け ら れた 大 胆 さ と 評 価 で き る 。

  3章 「 新 た な 解 法 へ の 挑 戦 」 で は 、 筆 者 の 鋭 い 問 題 意 識に 基 づく 独 自 のア プ 口 一 チ で 上 記 の3論 点 を 解 決 し 、 次 の よ う な テ ー ゼ を 打 ち 立 てる の であ る 。 「当 時 の 状 況 下 で 当 該 行 為 を 規 範に 適 っ た態 様 で 行っ て いた と し ても 、 確実 性 に 境を 接 す る 蓋 然 性 で も っ て 同 一 結果 が 生 じた で あ ろう 事 情が 、 事 後に 初 めて 認 識 され た と き 、 侵 害 結 果 に 実 現 し たの は 、 当該 行 為 の包 含 して い た 許さ れ た結 果 危 険で

31―

之 司三 弘 祐浩 勢取 川 能白 小 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副

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あるから、侵害結果の違法性は阻却される」。

  こ の思考過程において示された研究上の成果として挙げられるのは、第一に、

仮 定的因果経過の問題との区別を明確にしたことである。即ち、仮定的因果経過 の 抗弁が、現実化されなかったが設定され得た因果の流れの実在を指摘すること で、当該結果に対する自己の行為の偶然性を主張するもので,あるのに対し、代替 性 の抗弁は、自己の規範に反する行為によって惹起された結果が合法的行為によ っ ても惹起されたことを指摘することで、自己の行為の違法阻却を主張するもの で あると捉え、「合法的行為との代替性」の問題の特性を示したことである。第 二 に、「結果 危険」―侵 害結果の発 生で初めて 認識される 当該行為の有した物 理 的危険―と いう新たな 概念を創造 し、規範違 反者にも「 許された危険」の恩 恵 を与えることを可能にさせたことである。例えば、指定最高速度30キロのとこ ろ を50キロで走行中子供が飛び出し即死させたが、30キロで走行していたとして

も同一結果が生じたと認定される場合、

が実現されたが故に違法性が阻却される 論的根拠を「許された結果危険の法理」

置付けたことである。事前判断に基づく

ヨOキロ走行に伴う「許された結果危険」

と結論付けるのである。第三に、その理 と称して、違法阻却の一般原理として位

(広義の)利益衡量の展開は、違法論に 一石 を投じようとする意欲的な試みと称してさしっかえない。その他、筆者は、

「合 法的行為との代替性」の問題に端を発し、今日ドイツにおいて確立された客 観的帰属論を正面から批判的に検討する等、犯罪論の根本問題Iニまで深く考察す るに至っている。

  以上 要するに、厳密性を誇る犯罪論体系は、全体を傷っけずには何物も付け加 えた り取り除いたりすることを拒むものであるところ、本論文には、筆者が代替 性の 抗弁を犯罪論体系に付け加えることで生じる拒絶反応のーつーっに対処し、

一応 の安定を得るまでの広範囲に及ぷ考察が見られるだけでなく、当面の主題に 関す る深い洞察に満ちた見識と、その将来の達成を示唆する自主性及び独創性が 提示 されている点で、学界に多大な貢献をする研究業績と評価でき、法学博士の 学位 を授与され る資格が十 分にあると 、審査員全 員一致で認 める次第である。

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