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博士(文学)橋本博文 学位論文題名

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Academic year: 2021

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     博士(文学)橋本博文 学位論文題名

人間行動と文化のマイクロ―マクロ分析

学 位 論 文 内 容 の 要 旨

  認 知 、 感 情 、 知 覚 、 意 思 決 定 な ど を 含 む 人 間 の 心 の 働 き や 行 動 の 特 性 に 大 き な 文 化 差 が 存 在 す る こ と は 古 く か ら 知 ら れ て い る が 、 近 年 の 文 化 心 理 学 の 発 展 の 中 で 、 そ う し た 心 の 働 き や 行 動 に 見 ら れ る 文 化 差 が 、 特 定 の 文 化 の 中 で 共 有 さ れ た 認 識 枠 組 み の 違 い に 基 づ く も の と す る 理 解 が 広 く 受 け 入 れ ら れ る よ う に な っ て い る 。 ま た1990年 代 以 降 急 速 に 発 展 し た 文 化 心 理 学 に お け る 中 心 的 な 考 え 方 で は 、 特 定 の 文 化 を 生 き る 人 間 が 、 そ の 文 化 で 共 有 さ れ て い る 認 識 枠 組 み を 用 い て 世 界 を 理 解 し 、 ま た そ の 理 解 に 基 づ ぃ て 行 動 す る こ と に よ っ て 、 文 化 特 定 的 な 心 の は た ら き や 行 動 の 特 性 が 生み 出さ れる とさ れ てい る。 同時 に、

文 化 心 理 学 で は 心 と 文 化 の 相 互 構 築 関 係 が 理 論 的 に 重 要 な 役 割 を 果 た し て お り 、 文 化 特 定 的 な 認 知 や 行 動 傾 向 を 身 に っ け た 文 化 エ ー ジ ェ ン ト が 持 つ 世 界 理 解 な ぃ し 世 界 を 認 識 す る 枠 組 み を 人 々 が 互 い に 受 け 入 れ 強 化 し あ う こ と で 、 特 定 の 文 化 に 特 有 の 認 識 枠 組 み の 共 有 が 進 行 す る と さ れ て い る 。

  本 論 文 の 目 的 は 、 こ う し た 、 こ れ ま で の 文 化 心 理 学 に お い て 広 く 受 け 入 れ ら れ て き た 心 の 働 き や 行 動 の 特 性 に つ い て の 文 化 差 の 説 明 に 、 社 会 的 ニ ッ チ 構 築 と い う 観 点 か ら 新 た な 解 釈 を 導 入 す る こ と に あ る 。 申 請 者 が 提 案 す る 社 会 的 ニ ッ チ 構 築 ア プ ロ ー チ と は 、 特 定 の 文 化 で 共 有 さ れ た 人 間 や 社 会 に つ い て の 信 念 が 、 人 々 の 行 動 を 規 定 す る 誘 因 構 造 を 生 み 出 し て い る と す る ア プ ロ ー チ で 、 認 識 枠 組 み そ の も の よ り も 、 そ う し た 枠 組 み や 信 念 を 用 い て 行 動 す る 結 果 と し て 生 み 出 さ れ る 、 広 い 意 味 で の イ ン セ ン テ ィ ブ 構 造 に 着 目 す る も の で あ る 。 こ の ア プ ロ ー チ に よ れ ば 、 認 識 枠 組 み や 信 念 の 共 有 は 、 そ う し た 枠 組 み や 信 念 を 社 会 的 適 応 の 道 具 と し て 用 い て 行 動 す る 人 々 に よ っ て 作 り 出 さ れ る イ ン セ ン テ ィ ブ 構 造 が 人 々 の 間 で 共 有 さ れ て い る こ と に よ り 生 み だ さ れ る も の で あ る 。 本 論 文 で は 、 一 連 の 実 験 研 究 を 通 し て 、 こ う し た ア プ ロ ー チ の 有 効 性 が 示 さ れ て い る 。

  本 論 文 は6章 か ら 構 成 さ れ て い る 。

  第1章 で は 、 文 化 心 理 学 の ア プ ロ ー チ を 中 心 に 、 心 と 文 化 の 相 互 構 築 関 係 を 扱 っ て き た 従 来 の 理 論 、 お よ び そ れ ら の 理 論 に 基 づ き 生 み 出 さ れ て き た 研 究 知 見 の レ ビ ュ ー が 行 わ れ て い る 。 こ う し た 理 論 と 研 究 成 果 を レ ビ ュ ー し た 後 、 文 化 心 理 学 が 生 み 出 し て き た 研 究 の 成 果 が 、 文 化 特 定 的 な 心 や 行 動 の 特 性 と 、 文 化 的 に 共 有 さ れ た 信 念 と の 間 に 一 貫 し た 対 応 関 係 を 豊 か に 記 述 し て き た 一 方 、 そ の 対 応 関 係 そ の も の を 説 明 す る た め の 研 究 が ほ と ん ど

(2)

行 わ れ て こ な か っ た こ と が 指 摘 さ れ て い る 。

  第2章 で は ま た 、 社 会 的 ニ ッ チ 構 築 モ デ ル に 基 づ く 心 と 文 化 の 関 係 性 の 理 解 が 、 文 化 心 理 学 に お け る 理 解 と 少 な く と も 三 っ の 点 で 異 な っ て い る こ と が 指 摘 さ れ て い る 。 第1に 、 想 定 さ れ て い る 人 間 モ デ ル の 違 い が あ る 。 文 化 心 理 学 で は 、 特 定 の 文 化 で 共 有 さ れ て い る 意 味 の シ ス テ ム を 身 に っ け た 文 化 的 エ ー ジ ェ ン ト を 想 定 し て い る の に 対 し 、 社 会 的 ニ ッ チ 構 築 モ デ ル で は 、 ま わ り の 人 の 反 応 を 組 み 込 む か た ち で . 自 ら の 行 動 戦 略 を 決 定 す る 文 化 的 ゲ ー ム プ レ ー ヤ ー と し て の 人 間 モ デ ル を 採 用 し て い る 。 第2は 、 心 と 文 化 の 関 係 性 の 捉 え 方 に つ い て の 違 い で あ る 。 重 要 な の は 、 社 会 的 ニ ッ チ 構 築 モ デ ル で は 、 文 化 特 定 的 な 心 や 行 動 の 特 性 を 社 会 環 境 へ の 適 応 の た め の 道 具 と し て 理 解 す る と 同 時 に 、 そ う し た 道 具 を 用 い て 採 用 す る 行 動 そ の も の が 、 自 身 が 適 応 す べ き 環 境 ( 社 会 的 ニ ッ チ ) を 構 築 す る と し て い る 点 で あ る 。 第3は 、 自 己 や 他 者 、 社 会 に つ い て の 文 化 的 信 念 ( 文 化 心 理 学 で は 、 自 己 観 や 人 間 観 、 世 界 観 な ど と 呼 ば れ る ) の 役 割 に つ い て で あ る 。 文 化 心 理 学 に お い て 、 文 化 的 信 念 は 文 化 的 エ ー ジ ェ ン 卜 の 心 の メ カ ニ ズ ム を 生 成 し 維 持 す る も の と 理 解 さ れ て い る が 、 社 会 的 ニ ッ チ 構 築 モ デ ル に お い て は 、 文 化 的 信 念 を 用 い る こ と で 、 自 分 の 行 動 に 対 す る 他 者 か ら の 反 応 の 予 測 が 可 能 と な る ( ま た 、 そ の 結 果 と し て 、 適 応 行 動 の 採 用 が 促 さ れ る ) 点 に 焦 点 が あ て ら れ て い る 。

  第3章 か ら 第5章 に か け て は 、 心 や 行 動 の 文 化 特 定 性 を 社 会 的 ニ ッ チ 構 築 ア プ ロ ー チ の 観 点 か ら 分 析 す る た め に 申 請 者 が 実 施 し た 、 一 連 の 実 験 研 究 の 成 果 が 紹 介 さ れ て い る 。 第 3章 で は ま ず 、 従 来 の 研 究 に お い て 東 ア ジ ア 文 化 に お け る 相 互 協 調 的 自 己 観 の 表 れ と し て 理 解 さ れ て き た 認 知 や 行 動 を 取 り 上 げ 、 そ れ ら が 集 団 の 閉 鎖 性 を 特 徴 と す る 集 団 主 義 的 ニ ッ チ の も と で の デ フ オ ル 卜 の 適 応 戦 略 、 す な わ ち 、 自 分 の 属 す る 集 団 か ら 排 除 さ れ る り ス ク を 最 小 化 す る た め の 適 応 戦 略 と し て 再 解 釈 で き る こ と を 示 し て い る 。   第4章 で は 、 文 化 的 信 念 に 従 う 行 動 そ の も の に よ っ て 、 人 々 が 適 応 す べ き 社 会 的 ニ ッ チ が 形 成 さ れ る 過 程 が 分 析 さ れ て い る 。 第4章 で 紹 介 さ れ た 日 米 比 較 研 究 の 結 果 は 、 集 団 主 義 的 ニ ッ チ に 身 を 置 く 人 々 が 適 応 す べ き 適 応 環 境 が 、 集 団 主 義 的 な 信 念 を 共 有 す る 人 々 が 生 み 出 す 行 動 と 、 そ の 行 動 の 集 積 と し て 個 々 人 の 前 に 立 ち 現 れ る 誘 因 ( よ り 具 体 的 に は 、 集 団 主 義 的 に 振 舞 う こ と に よ っ て 生 じ る ま わ り の 人 か ら の 反 応 ) に よ っ て 形 成 さ れ る に 至 る プ ロ セ ス を 明 ら か に し て い る 。

  第5章 で は 、 文 化 特 定 的 な 心 や 行 動 の 特 性 を 生 み 出 す に あ た り 、 文 化 的 に 共 有 さ れ る 人 間 性 に つ い て の 信 念 が 果 た す 役 割 に 焦 点 を 当 て た 研 究 の 成 果 が 紹 介 さ れ て い る 。 第5章 で は 、 文 化 心 理 学 的 ア プ ロ ー チ と 社 会 的 ニ ッ チ 構 築 ア プ ロ ー チ に よ る 文 化 差 の 予 測 を 検 証 す る 研 究 を 行 い 、 従 来 の 研 究 で 日 本 文 化 の 特 徴 で あ る と さ れ て き た ぃ わ ゆ る 「 協 調 性 」 が 、 実 は 積 極 的 な 協 力 関 係 の 構 築 と 、 集 団 や 他 者 か ら の 排 除 の 回 避 と い う ニ つ の 側 面 に 分 け ら れ る こ と 、 そ し て 協 力 関 係 を 重 視 す る と い う 点 で は 日 米 差 が 見 ら れ な い の に 対 し て 、 集 団 や 他 者 か ら の 排 除 の 回 避 と い う 面 で は 大 き な 文 化 差 が 見 ら れ る こ と を 明 ら か に し て い る 。 こ の 結 果 は 、 日 本 社 会 に お け る 「 協 調 行 動 」 が 文 化 的 に 共 有 さ れ た 協 調 的 自 己 観 に 支 え ら

―49―

(3)

れた自発的なものというよりは、集団や関係からの排除を避けるための適応的戦略として の意味を強くもっていることを意味するものであり、社会的ニッチ構築アプローチに基づ く文化差の説明を支持する結果である。

   最後の第6 章でf ま、 3 章から6 章までの研究成果が従来の文化心理学研究に対してもつ インプリケーション、および心理学以外の社会科学の諸分野、例えば比較制度経済学など の分野に対するインプリケーションを中心に、社会的ニッチ構築アプローチの有効性につ いての論考が行なわれている。

   本論文の中心は、文化特定的な心や行動の特性を社会的ニッチ(すなわち、まわりの人々

からの予測可能な一貫した反応パターンとしての誘因構造)への適応行動として分析する

社会的ニッチ構築アプ口ーチを紹介した第2 章、および社会的ニッチ構築アプローチと文

化心理学的アプローチが生み出す文化差についての予測を比較検証した、第3 章から第5

章で紹介されている一連の文化比較研究にある。これらの研究の結果は一貫して社会的ニ

ッチ構築アプローチの有効性を示しており、今後の文化心理学の発展に対して指針を与え

るものである。

(4)

学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査 特 任 教 授    山 岸 俊 男 副 査    准 教 授    結 城 雅 樹      特 任 教 授    煎 本    孝

学 位 論 文 題 名

人間行動と文化のマイクロ―マクロ分析

  

本 論 文 の 目 的 は 、1990 年 代以 降急 速に 発展 した 文化 心理 学に おい てこ れ まで 広く 受 け入れられてきた、認知、感 情、知覚、意思決定などを含む人間の心の働きや行動の 特性 に見られる文化差の説明に、 社会的二ッチ構築という観点から新たな解釈を導入する こと にある。申請者が提案する社 会的ニッチ構築アプローチとは、特定の文化で共有され た人 間や社会についての信念が、 人々の行動を規定する誘因構造を生み出しているとする アプ ローチで、認識枠組みそのも のよりも、そうした枠組みや信念を用いて行動する結果 とし て生み出される、広い意味で のインセンティブ構造に着目するものである。このアプ ロー チによれば、認識枠組みや信 念の共有は、そうした枠組みや信念を社会的適応の道具 とし て用いて行動する人々によっ て作り出されるインセンティブ構造が人々の間で共有さ れて いることにより生みだされる ものである。本論文は、一連の実験研究を通して、こう した アプローチの有効性を示すこ とを目的としている。

  

本論 文の 第3 章か ら第

5

章に かけ て紹 介さ れて いる一連の実験及び 調査研究は、この目 的 を十 分に 果た して いるものと判断する に足る成果を示している。第3 章で紹介された研 究は、従来の研究において東 アジア文化における相互協調的自己観の表れとして理解 され てきた認知や行動が、集団の 閉鎖性を特徴とする集団主義的ニッチのもとでのデフオ ルト の適応戦略、すなわち、自分 の属する集団から排除されるりスクを最小化するための 適応 戦 略と して 再解 釈で きることを示してい る。第4 章で紹介された日米 比較研究の結果は、

集団主義的ニッチに身を置く 人々が適応すべき適応環境が、集団主義的な信念を共有 する 人々が生み出す行動と、その 行動の集積として個々人の前に立ち現れる誘因によって 形成 さ れる に至 るプ ロセ スを明らかにしてい る。第5 章で紹介された研究 は、従来の研究で日 本文化の特徴であるとされて きたいわゆる「協調性」が、実は積極的な協力関係の構築と、

集団や他者からの排除の回避 というニっの側面に分けられること、そして協力関係を 重視

―51―

(5)

するという点では日米差が見られなぃのに対して、集団や他者からの排除の回避という面 では大きな文化差が見られることを明らかにしている。

   こうした一連の研究の成果は、人間の認知や行動と適応環境との関係について、従来の 文化心理学研究とは異なる観点からの分析および説明を提示し、その説明の妥当性を一連 の実験研究を通して示すものである。従来の文化心理学研究では、ある文化を生きる個人 が持つ認知、感情、知覚、意思決定などの心の特性と、その文化で広く共有されている意 味のシステムとが相互に構成しあう点が強調されながら、その多くが人々の心の文化差の 記述にとどまり、実際に心と文化とが相互に構成しあうプロセスの分析を試みた研究はほ とんど見られてこなかった。本論文は、人々の行動そのものが作り出す誘因構造としての 社会的ニッチに焦点を当てることで、社会的ニッチヘの適応という観点から、特定の社会 で共有された信念や、そうした信念に導かれる行動の差を分析するための理論モデルを提 示している点、そして、その理論モデルの妥当性を一連の実証研究を通して明らかにして いる点で、これまでの文化心理学的な研究とは大幅に異なっており、今後の文化心理学の 発 展 に 対 し て 大き な 貢献 を な すも の であ る と 、審 査 委員 は 一 致し て 判 断し た 。    以上をまとめると、本研究は、これまで文化心理学が扱ってきた文化特定的な認知や行 動の多くが、人間が集合的に構築する適応環境についての信念、およびそうした信念を通 して生み出される適応戦略として理解されることを示すと同時に、そうした適応戦略が適 応すべき社会的環境としての社会的ニッチを生み出し維持しているという、社会的ニッチ 構築アプローチの有効性を示しているという点で、今後の文化心理学研究に対して大きな 貢献をなすものである。本審査委員会はこの点における申請者の研究の成果を高く評価し、

全員一致で、本論文を博士(文学)の学位を授与されるにふさわしいものであるとの結論

に達した。

参照

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