早稲田大学大学院 創造理工学研究科
博 士 論 文 概 要
木 造 軸 組 構 法 住 宅 の
設 計 自 動 化 支 援 シ ス テ ム に 関 す る 研 究
Automated Designing Support System for Japanese Timber Frame Houses
申 請 者
水嶋 克典
Katsunori MIZUSHIMA
建設工学専攻 建築学専門分野 建築材料及施工研究
2012 年 12 月
木造軸組構法住宅は、社会的要求の変化や自然災害あるいは環境の変化に、材料 や構造などの改変を繰り返して対応してきた。その結果として、日本の住宅におい て大きな割合を占めるに至っている。建築の設計には、多くの人的資源を必要とす る。特に実現可能な多数のプランの検討、複雑な設計条件を満足する必要がある場 合には、膨大な試行錯誤が必要となる。また、設計中に精度の高いコストコントロ ールを行うためにも多くの人的資源を必要とする。その一方で、工学において、自 己創発を中心概念として、形態形成、集団行動、進化などの生物の振舞いを人工物 の製作に導入する「生物志向生産システム」が提唱され、計算機科学において、「情 報処理の高速化」「遺伝的アルゴリズム」「セルオートマトン法」「マルチエージェ ントシステム」などの技術が利用可能となってきた。このような背景を踏まえ、本 研究は木造軸組構法住宅を対象とした自動設計システムの構築を目的とする。また、
建築の教育訓練において、自動設計システムの構築過程で得られる知見を教育内容 に生かすことも可能である。
第1章「序論」では、研究の背景として、木造軸組構法住宅設計の現状と社会的 欲求について述べ、住宅の自動設計に関する従来研究、および、周辺分野の研究の 進展から、新たな自動設計の可能性について論じた。次に木造軸組構法住宅の分析 から、部屋に代表される個々の空間について「空間の持つ機能」「空間間の接続」
「空間を形づくる部材」の要素を抽出して「空間構成要素」とする。空間構成要素 およびそれらの関係を表現するものを「空間構成要素モデル」とすると、住宅の構 成はこの空間構成要素モデルとして表現することができる。また、「設計が完了し ている木造軸組構法住宅は、全ての設計条件を満足している」という前提に立つと
「設計が完了している木造軸組構法住宅の空間構成要素とそれらの関係も全ての 設計条件を満足している」とすることができ、論理的には空間構成要素モデルを基 礎として自動設計システムを構築できる。次に木造住宅設計プロセスを分析すると、
次の3段階に分割できる。まず、住宅に必要とされる機能を満足させるために、機 能と空間の関係および動線など空間相互の接続を検討する「空間接続段階」、2番 目に空間とそれらの接続を利用して、空間を敷地に配置する「空間配置段階」、最 後に空間をかたち作る部材を配置する「部材配置段階」である。これらの3段階に 対応した空間構成要素モデルを規定し、空間接続段階に対応するものを「機能―空 間モデル」、空間配置段に対応するものを「空間-形状モデル」、部材配置段階に対 応するものを「空間-部材モデル」とする。この各段階の空間構成要素モデルに関 連する従来研究の調査により、本研究において検討が必要な部分を明らかにした。
第2章「空間拡張グラフ生成システム[機能-空間モデル]」では、「設計条件に て要求される機能は、空間とそれらの接続により実現される」との前提を設け、第 1章で設定した機能-空間モデルを利用することにより、機能に基づき空間および 空間相互の接続を生成する「空間拡張グラフ生成システム」を構築した。
空間拡張グラフ生成システムにおいて、住宅の構成を表現するモデルとして、ノー ドとリンクによるグラフ表現を用いる。ここでノードは空間に要求される脱靴、移
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動、団欒などの「機能」および住宅の玄関、廊下、居間などの「空間」であり、リ ンク(接続)は機能と機能の関係あるいは空間と空間の関係となる。システムに入 力する設計条件を得るため、首都圏近郊の住宅、明治以降の代表的な住宅から、機 能とそれらの接続および空間とそれらの接続を抽出し、更にドアによる接続や窓に よる接続など、接続の種類についても抽出した。一つの空間において複数の機能が 並存する場合、機能と空間を一対一に対応させることができないことから、機能を 持つ仮想的な空間として、ひとつの空間に並存可能な「機能空間」を設定した。機 能空間をノード、種類を併記した接続をリンクとして表現したグラフを「機能空間 拡張グラフ」と定義する。また、空間をノード、種類を併記した接続をリンクとし て表現したグラフを「空間拡張グラフ」と定義する。
空間拡張グラフ生成システムは、機能空間とそれらの接続種類の組合せについて設 計への適合を判断して「機能空間拡張グラフ」を生成する。その後、複数の機能空 間を対応する一つの空間に置き換えた「空間拡張グラフ」を生成後、設計条件に適 合しないものを排除する。
空間拡張グラフ生成システムは、理論上、無限の空間拡張グラフを作成できるが、
本研究では記憶装置の制限により 12 空間(1LDK)、一般的な接続種類、1~2階と いう条件を設定した上で 140,561,656 種類の空間拡張グラフが生成されることを 確認した。
第3章「プラン生成システム[空間-形状モデル]」では、空間構成要素を「セ ル」「室」「住宅」の3段階とする。セルは1辺を木造軸組構法住宅の単位モデュー ル(900~1,000mm)とする正方形平面を底面とし、高さを階高とする直方体の単位 空間であり、セルの集合が室、室の集合が住宅となる。これらの空間構成要素を用 い第1章で設定した「空間-形状モデル」を利用して、「プラン生成システム」を 構築した。
プラン生成システムは、遺伝的アルゴリズムを用いて、仮想3次元空間である「敷 地空間」において、セルが分裂を繰り返すことにより、住宅プランを成長、進化さ せるシステムである。具体的にはまずプラン生成システムに対して、第2章で生成 される空間拡張グラフなどを設計条件として与える。プラン生成システムは、与え られた設計条件から、セルの分裂後の種類や分裂タイミングなどを制御する「空間 形成情報」を遺伝子として生成し、セルに組み込む。次に遺伝的アルゴリズムの「解 釈機構」がセル分裂アルゴリズムに基づき、遺伝子とセルの状態から、分裂方向と 分裂後のセルの種類を決定してセルを分裂させる。この分裂を繰り返すことにより プランを成長させる。成長したプランに対して、「環境」である敷地空間において、
室の成長、外部開口の向きなどの評価を行い、その結果に基づき「遺伝子操作機構」
において、空間形成情報という遺伝子に対して、交差、突然変異、クリープなどの 操作を行う。プラン生成システムは、解釈機構によるプラン成長、環境による評価、
遺伝子操作機構における操作を繰り返すことにより、空間形成情報を進化させ、設 計条件に適合するプランを生成する。
試行により住宅プラン生成システムは、2階建 20 空間の一般的な規模の住宅のプ
ランの生成が可能であることを確認した。
第4章「構成部材生成システム[空間-部材モデル]」では、住宅(以後、「ハウ ス」とする)の空間構成要素である空間とその付帯である構成単位(以後、「ユニ ット」とする)と構成部材(以後、「エレメント」とする)を定義し、これらの関 係から構成される「空間-部材モデル」を利用して、「構成部材生成システム」を 構築した。
構成部材生成システムにおいて、ハウスはユニットから、ユニットはエレメント から構成される。ハウスは「ユニットの生成規則」と「記録」を、ユニットは「付 帯ユニットとエレメントの生成規則」「配置規則」および「記録」を、エレメント は「エレメントの配置規則」と「記録」を持つ「エージェント」として設定する。
エージェントとは計算機科学上の概念であり、受容器を用いて環境を知覚し効果器 を通して環境に対して行動するものと定義されている。本章と次章におけるエージ ェントは、他のエージェントなどを通して得られる周辺の状況すなわち環境を知覚 し、自身の持つ情報に基づき動作する。ハウスは、システム操作者の指示に基づき 仮想3次元空間にユニットを配置し、生成されたエレメントの形状と数量を集計す る。ユニットは、必要な付帯ユニットとエレメントを生成するとともに、自己と接 触するユニットと連携して付帯ユニットとエレメントを修正する。エレメントは、
ユニットにより生成された後、自らの配置位置を探索し、近接するエレメントから の依頼により配置位置を修正する。
以上のように、構成部材生成システムは、ハウス・ユニット・エレメントから構 成されるマルチエージェントシステムであり、第3章のプラン生成システムにより 生成された住宅プランの部屋を順次入力することにより、住宅全体の部材を生成す ることができる。
第5章「架構部材生成システム[空間-部材モデル]」では、前章の「構成部材 生成システム」において、棟木、母屋、梁などの架構部材については別途サブシス テムとしての「架構部材生成システム」を構築した。
配置位置の探索が難しいエレメントである屋根ユニットの隅木、母屋エレメント、
部屋ユニットの梁エレメントについては、動作の単純化を図り、配置位置判定に用 いる要素を可能な限り少なくするなどの方針に基づき、配置位置探索アルゴリズム を検討した。たとえば、梁エレメントについては、予め一般的な梁の配置条件を抽 出して分類整理しておき、全ての配置可能位置を梁候補として、「上部部材を支持 する」「開口部を回避する」などの配置条件により段階的に梁候補を絞って最終的 な配置位置を決定する方法を採用した。
構成部材生成システムは、第3章のプラン生成システムにより生成された住宅プラ ンの部屋を順次入力することにより、住宅全体の架構部材を生成することができる。
第6章「結論と展望」では、各章における結論を総括するとともに、本研究にて 構築したシステムの利用法、教育訓練への応用、今後の可能性を展望した。
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No.
1早稲田大学 博士(工学) 学位申請 研究業績書
氏 名 水嶋 克典 印
(2012年11月 現在)
種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む)
1. 論文
○論文
○論文
○論文
2. 講演
講演
講演
講演
○講演
○講演
○講演
○講演
水嶋克典,小松幸夫:構成要素の連携による寄棟屋根隅木生成-構成要素の連携による 木造軸組構法住宅の架構部材生成システム その2-,日本建築学会計画系論文集,第 680 号,pp.2489-2498,2012.10
水嶋克典,武生和久,木村明博,松留愼一郎,小松幸夫:構成要素の連携による架構部 材生成システムの構成と基本動作-構成要素の連携による木造軸組構法住宅の架構部材 生成システム その1-,日本建築学会計画系論文集,第 647 号,pp.279-288,2010.1
水嶋克典,小松幸夫:生物の形態形成と環境適応を模した住宅プラン生成システムに関 する基礎的研究,日本建築学会計画系論文集,第 610 号,pp.259-266,2006.12
水嶋克典,松留愼一郎,小松幸夫:壁が接触する単一勾配寄棟屋根隅木配置位置決定法 の職業訓練への応用-木造軸組構法住宅架構部材生成システムの職業訓練への応用 そ の3-,日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)E-2,pp.633-634,2011.8
水嶋克典,木村明博,松留愼一郎,小松幸夫:壁が接触しない単一勾配寄棟屋根隅木・
棟木の配置位置決定法の職業訓練への応用-木造軸組構法住宅架構部材生成システムの 職業訓練への応用 その2-,日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)E-2,pp.629-630,
2010.9
木村明博,水嶋克典,松留愼一郎,小松幸夫:壁が接触しない単一領域単一勾配寄棟屋 根棟部材配置位置決定法-木造軸組構法住宅架構部材生成システムの職業訓練への応用 その1-,日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)E-2,pp.627-628,2010.9
木村明博,水嶋克典,松留愼一郎,小松幸夫:在来軸組構法木造住宅の単一部屋領域内 における梁架構法,日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)A-2,pp.501-502,2009.8
水嶋克典,木村明博,松留愼一郎,小松幸夫:在来軸組構法木造住宅の単一寄棟屋根領 域における母屋生成法,日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)A-2,pp.409-500,2009.8
加藤宏治,水嶋克典,糸井孝雄,小松幸夫:機能空間拡張グラフ生成システム構築の試 み,日本建築学会大会学術講演梗概集(中国)E-1,pp.623-624,2008.9
水嶋克典,糸井孝雄,小松幸夫:独立した複数の屋根領域の連携と構成部材自動生成に よる在来軸組構法木造住宅の寄棟屋根生成システム,日本建築学会大会学術講演梗概集
(中国)A-2,pp.509 -510,2008.9
No.
2早稲田大学 博士(工学) 学位申請 研究業績書
種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む)
○講演
○講演
○講演
○講演
○講演
○講演
講演
講演
講演
武生和久,水嶋克典,小松幸夫:屋根領域の順次追加を考慮した在来軸組構法木造住宅 の屋根部材生成,日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)A-2,pp.431-432,2007.8
岡田伸介,水嶋克典,糸井孝雄,小松幸夫:機能空間構成生成システムのための既存住 宅の調査・分析,日本建築学会大会学術講演梗概集(九州)E-1,pp.649-650,2007.8
武生和久,水嶋克典,小松幸夫:空間構成要素のエージェント化による在来軸組構法木 造住宅の架構部材自動生成システム,日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)A-2,
pp.527-528,2006.9
水嶋克典,小松幸夫:単位空間の分裂増殖を利用した平面区画モデルの要素に関する考 察,日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)A-2,pp.525-526,2006.9
水嶋克典,小松幸夫:生物の形態形成と環境適応を模した住宅プラン生成モデル,第 26 回ファジイ・ワークショップ講演論文集,pp.25-26,2006.3
水嶋克典,小松幸夫:マルチエージェントシステムによる在来軸組工法木造住宅の構成 部材自動生成法の提案,第 27 回情報・システム・利用・技術シンポジウム論文集,
pp.255-228,2004.12
水嶋克典,小松幸夫:在来木造戸建住宅のコストプランニング -ユニット概算法の提案
-,日本建築学会大会学術講演梗概集(中部)F-1,pp.1117-1118,2003.9
水嶋克典,藤上輝之:在来木造戸建住宅のコストプランニング -部屋別概算法の提案-,
日本建築学会大会学術講演梗概集(北陸)F-1,pp.1259-1260,2002.8
水嶋克典,越部毅:在来木造戸建住宅のコストプランニング ―多変量解析を用いた在来 木造住宅工事費概算手法の提案―,日本建築学会大会学術講演梗概集(東北)F-1,
pp.1097-1098,2000.9
No.
3早稲田大学 博士(工学) 学位申請 研究業績書
種 類 別 題名、 発表・発行掲載誌名、 発表・発行年月、 連名者(申請者含む)
3.その他
(著書)
(講演)
(著書)
(講演)
(講演)
(講演)
(論文)
(講演)
(講演)
(講演)
鈴木秀三,前川秀幸,水嶋克典,三田紀行:四訂 建築 -木質構造・建築材料・仕様・
積算-,財団法人 職業訓練教材研究会,2010.3
水嶋克典,井出尻直美:能力開発に関する能力開発実施の流れ(理念・方針・制度)の 変遷について-社史に見る大手建設会社における能力開発の変遷 その2-,日本建築 学会大会学術講演梗概集(九州)E-2,2007.8
越部 毅,水嶋克典:三訂 建築製図,財団法人 職業訓練教材研究会,2007.2
井出尻直美,水嶋克典:能力開発に関する調査・情報・組織・環境の変遷について-社 史に見る大手建設会社における能力開発の変遷 その1-,日本建築学会大会学術講演 梗概集(関東)E-2,2006.9
水嶋克典,井出尻直美:社史に見る大手建設会社における能力開発の変遷, 日本建築学 会大会学術講演梗概集(関西)E-2, pp.741-742, 2005.9
井出尻直美,水嶋克典:社史に見る大手建設会社における能力開発の概要, 日本建築学会大会学術講演梗概集(関西)E-2, pp.739-740, 2005.9
水嶋克典,安保文華,糸井孝雄:駅前広場モニュメントの表現構造についての基礎的研 究-新幹線駅前広場モニュメントをケーススタディとして-,日本建築学会計画系論文 集,第 585 号,pp.133-140,2004.11
水嶋克典,糸井孝雄:駅前広場モニュメントと都市の連想に関する基礎的研究 -新幹線 駅前広場モニュメントをケーススタディとして-, 日本建築学会大会学術講演梗概集(北 海道)F-1, pp.893-894, 2004.8
安保文華,水嶋克典,糸井孝雄:新幹線駅前広場のモニュメントとその都市のイメージ の関係について,日本建築学会大会学術講演梗概集(中部)F-1, pp.277-278, 2003.9
水嶋克典:神奈川県における日枝神社の社殿配置について -その 1 河川との関係-,
日本建築学会大会学術講演梗概集(関東)F-2,pp.385-386,2001.9