博士学位論文
臨床用画像検査機器を利用した年輪年代学における 非破壊年輪計測法の開発に関する研究
(西暦)2019年 12月 20日 提出
首都大学東京大学院
人間健康科学研究科 博士後期課程 人間健康科学専攻 放射線科学域 学修番号: 14997607
氏 名 :森 美加
(指導教員名:妹尾 淳史 )
要旨
年輪年代学は木質文化財の正確な絶対的年代測定法である.これまでの年輪年代学には 年輪を露出させるために破壊的手法が用いられてきたが,本来,木質文化財に対して非破 壊であることが理想である.近年ではマイクロフォーカスCTを使用した年輪測定が可能 となったが,この手法は乾燥した資料に限られていた.
一般的に遺跡から出土する木材や木製遺物は,地下水に浸かった状態で発見される.こ れらの多くは水浸状態で保存され,特にこのうちの重要なものは,保護するためにトレハ ロースおよびpolyethylene glycol (PEG)による保存処理が適用される.このような保存 処理後の木質文化財に対する非破壊可視化は極めて難しいのが現状であった. 本研究で は臨床用画像検査機器を年輪考古学へ応用し,出土木材内部構造の観察,および年輪曲線 の作成と照合を目的とする.
はじめに,CTとMRIの木材の含水量の適応範囲を調べた.乾燥した木材にはCTが適 しているが,含水率が上がるほど視認性は低下し,MRIは含水率が高い状態の木材に適 していることを確認した.
次に,臨床MR装置による超高分解能撮像法uHR-T2WIを提案し,高精細撮像による 水浸保存の模擬試料および木質文化財の非破壊年輪分析と標準年輪曲線との年代照合を行 った.模擬試料による年輪曲線は従来法と高い一致をみせたが,木質文化財は標準年輪曲 線との照合は得られなかった.
一方,PEG含浸処理後の木材については, DBTを用いて検証した. DBTは低管電圧 を用いることで,コントラストの強調が可能で,かつ,3次元的な可視化が可能であるた
要旨
年輪年代学は木質文化財の正確な絶対的年代測定法である.これまでの年輪年代学には 年輪を露出させるために破壊的手法が用いられてきたが,本来,木質文化財に対して非破 壊であることが理想である.近年ではマイクロフォーカスCTを使用した年輪測定が可能 となったが,この手法は乾燥した資料に限られていた.
一般的に遺跡から出土する木材や木製遺物は,地下水に浸かった状態で発見される.こ れらの多くは水浸状態で保存され,特にこのうちの重要なものは,保護するためにトレハ ロースおよびpolyethylene glycol (PEG)による保存処理が適用される.このような保存 処理後の木質文化財に対する非破壊可視化は極めて難しいのが現状であった. 本研究で は臨床用画像検査機器を年輪考古学へ応用し,出土木材内部構造の観察,および年輪曲線 の作成と照合を目的とする.
はじめに,CTとMRIの木材の含水量の適応範囲を調べた.乾燥した木材にはCTが適 しているが,含水率が上がるほど視認性は低下し,MRIは含水率が高い状態の木材に適 していることを確認した.
次に,臨床MR装置による超高分解能撮像法uHR-T2WIを提案し,高精細撮像による 水浸保存の模擬試料および木質文化財の非破壊年輪分析と標準年輪曲線との年代照合を行 った.模擬試料による年輪曲線は従来法と高い一致をみせたが,木質文化財は標準年輪曲 線との照合は得られなかった.
一方,PEG含浸処理後の木材については, DBTを用いて検証した. DBTは低管電圧 を用いることで,コントラストの強調が可能で,かつ,3次元的な可視化が可能であるた
めPEG含浸後の木材の年輪の描出に優れており,非破壊的に詳細な内部構造の観察の手 法の一つとして有用であった.
臨床用画像検査機器の特徴を知り,木質文化財材の保存状態に適したモダリティを選ぶ ことで年輪考古学の調査対象となる資料の適応範囲が大きく広がる.今後,多くの木質文 化財を用いて年輪曲線を作成することで,これまで標準年輪曲線が作成された木材の生育 地とは異なる生育地の標準年輪曲線が新たに作成できる可能性があり,木材の流通ルート の解明など,今後の年輪年代学のさらなる応用が期待される.
また,今後の展望として臨床用画像検査機器を年輪年代学に応用することにより,考古 学の発展に寄与するだけでなく,各装置の限界を知り,性能を最大限引き出すことで医学 においても新たな可能性を見出すことが可能であると筆者は確信している.
I
目次
第1章 序論 ... 1 1.1 本研究の背景 ... 1 1.2 本研究の目的 ... 3 1.3 本論文の構成 ... 4 第2章 総論 ... 5 2.1 年輪の形成 ... 5 2.2 年輪年代学 ... 6 2.3 年輪曲線による年代の照合 ... 8 第3章 木材の保存状態の違いによる臨床用画像検査機器の適性 ... 11 3.1 目的 ... 11 3.2 方法 ... 12 3.2.1 保存処理模擬木材試料の作成 ... 12
3.2.2 木材の保存状態による臨床用画像検査機器の適性 ... 13
3.3 結果 ... 16 3.3.1 保存処理模擬木材試料の作成 ... 16
3.3.2 木材の保存状態による臨床用画像検査機器の適性 ... 17
めPEG含浸後の木材の年輪の描出に優れており,非破壊的に詳細な内部構造の観察の手 法の一つとして有用であった.
臨床用画像検査機器の特徴を知り,木質文化財材の保存状態に適したモダリティを選ぶ ことで年輪考古学の調査対象となる資料の適応範囲が大きく広がる.今後,多くの木質文 化財を用いて年輪曲線を作成することで,これまで標準年輪曲線が作成された木材の生育 地とは異なる生育地の標準年輪曲線が新たに作成できる可能性があり,木材の流通ルート の解明など,今後の年輪年代学のさらなる応用が期待される.
また,今後の展望として臨床用画像検査機器を年輪年代学に応用することにより,考古 学の発展に寄与するだけでなく,各装置の限界を知り,性能を最大限引き出すことで医学 においても新たな可能性を見出すことが可能であると筆者は確信している.
I
目次
第1章 序論 ... 1 1.1 本研究の背景 ... 1 1.2 本研究の目的 ... 3 1.3 本論文の構成 ... 4 第2章 総論 ... 5 2.1 年輪の形成 ... 5 2.2 年輪年代学 ... 6 2.3 年輪曲線による年代の照合 ... 8 第3章 木材の保存状態の違いによる臨床用画像検査機器の適性 ... 11 3.1 目的 ... 11 3.2 方法 ... 12 3.2.1 保存処理模擬木材試料の作成 ... 12
3.2.2 木材の保存状態による臨床用画像検査機器の適性 ... 13
3.3 結果 ... 16 3.3.1 保存処理模擬木材試料の作成 ... 16
3.3.2 木材の保存状態による臨床用画像検査機器の適性 ... 17
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II
3.4 考察 ... 19 3.5 小括 ... 22 第4章 臨床用CTおよびMRIの木材含水率による描出能の影響の検討 ... 23 4.1 目的 ... 23 4.2 方法 ... 24 4.2.1 含水率調整試料の作成 ... 24
4.2.2 臨床用CTおよびMRIの木材含水率による撮像適応範囲の検討 ... 25
4.3 結果 ... 27 4.3.1 含水率調整試料の作成 ... 27
4.3.2 臨床用CTおよびMRIの木材含水率による撮像適応範囲の検討 ... 28
4.4 考察 ... 32 4.5 小括 ... 34 第5章 臨床用MR装置を用いた水浸出土木材の超高解像度撮像の検討 ... 35 5.1 目的 ... 35 5.2 方法 ... 37 5.2.1 uHR-T2WIの原理 ... 37
5.2.2 水浸木材における超高分解能撮像の最適化 ... 40
III
5.2.3 水浸木材の超高空間分解能撮像 ... 42
5.2.4 木質文化財のuHR-T2WIによる年輪曲線の作成 ... 44
5.3 水浸木材の高解像度撮像の解析結果 ... 45
5.3.1 水浸木材における超高分解能撮像の至適撮像条件 ... 45
5.3.2 水浸木材の超高空間分解能撮像と年輪曲線の作成 ... 49
5.3.3 木質文化財のuHR-T2WIによる年輪曲線の作成 ... 52
5.4 考察 ... 54 5.5 小括 ... 55
第6章 Digital Breast Tomosynthesisを用いたPEG処理木材の非破壊画像化の検討 ... 56
6.1 目的 ... 56 6.2 方法 ... 58 6.2.1 DBTの原理 ... 58 6.2.2 DBTにおける画像歪みの評価 ... 60
6.2.3 X線撮影における至適撮影条件の検討 ... 62
6.2.4 DBTによる内部構造の観察および年輪曲線の作成 ... 64
6.3 結果 ... 65
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3.4 考察 ... 19 3.5 小括 ... 22 第4章 臨床用CTおよびMRIの木材含水率による描出能の影響の検討 ... 23 4.1 目的 ... 23 4.2 方法 ... 24 4.2.1 含水率調整試料の作成 ... 24
4.2.2 臨床用CTおよびMRIの木材含水率による撮像適応範囲の検討 ... 25
4.3 結果 ... 27 4.3.1 含水率調整試料の作成 ... 27
4.3.2 臨床用CTおよびMRIの木材含水率による撮像適応範囲の検討 ... 28
4.4 考察 ... 32 4.5 小括 ... 34 第5章 臨床用MR装置を用いた水浸出土木材の超高解像度撮像の検討 ... 35 5.1 目的 ... 35 5.2 方法 ... 37 5.2.1 uHR-T2WIの原理 ... 37
5.2.2 水浸木材における超高分解能撮像の最適化 ... 40
III
5.2.3 水浸木材の超高空間分解能撮像 ... 42
5.2.4 木質文化財のuHR-T2WIによる年輪曲線の作成 ... 44
5.3 水浸木材の高解像度撮像の解析結果 ... 45
5.3.1 水浸木材における超高分解能撮像の至適撮像条件 ... 45
5.3.2 水浸木材の超高空間分解能撮像と年輪曲線の作成 ... 49
5.3.3 木質文化財のuHR-T2WIによる年輪曲線の作成 ... 52
5.4 考察 ... 54 5.5 小括 ... 55
第6章 Digital Breast Tomosynthesisを用いたPEG処理木材の非破壊画像化の検討 ... 56
6.1 目的 ... 56 6.2 方法 ... 58 6.2.1 DBTの原理 ... 58 6.2.2 DBTにおける画像歪みの評価 ... 60
6.2.3 X線撮影における至適撮影条件の検討 ... 62
6.2.4 DBTによる内部構造の観察および年輪曲線の作成 ... 64
6.3 結果 ... 65
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IV
6.3.1 DBTにおける画像歪みの評価 ... 65
6.3.2 PEG保存処理後の木材に対するX線の管電圧による描出能への影響 . 67
6.3.3 DBTによる内部構造の観察および年輪曲線の作成 ... 69
6.4 考察 ... 72 6.5 小括 ... 76 第7章 総括 ... 77 引用文献 ... 79 謝辞 ... 84
1
第
1
章 序論 1.1 本研究の背景年輪年代学は木質文化財の正確な絶対的年代測定法である.この方法は毎年多くの温帯 の木が年輪を形成しているという事実に基づき,その幅は気候に依存,したがって同様の 気候条件下では,同じ樹種が共通の年輪パターンを形成する1)という理論より,年輪パ ターンを利用して木製遺物の年代を決定する科学である.
これまでの年輪年代学の対象となってきたのは,端部の木目(断面)または直線状の木 目(半径方向の断面)がはっきりと見える木製試料に限定されていた.すべての材料は通 常,何らかの測定または画像を得る前に,表面の前処理(例えば平削り,切断,研磨)を 必要とする2).本来,木質文化財に対しての年輪測定は非破壊であることが理想である.
近年では木製民具3)や歴史的木製彫刻4)などに対してマイクロフォーカスCTを使用す ることにより,非破壊的で詳細な年輪測定が可能となり,飛躍的に発展したが,この手法 は乾燥した資料に限られていた.
一方,通常,遺跡から出土する木材や木製遺物は,地下水に浸かった状態で発見され る.その細胞壁の強度や微小構造などは著しく劣化しており,さらに出土後の乾燥によっ て急速に腐敗する.このため,木製遺物は劣化や腐敗の状態に合わせて最も適した保存処 理が行われる.木製遺物の多くは水浸状態で保存され,特にこのうちの重要なものは,保 護するためにトレハロースおよびpolyethylene glycol (PEG)といった高分子量材料によ る保存処理が適用される.これまで水浸およびPEG含浸の木材に対する年輪測定を含め た内部構造の非破壊可視化は成功していない.その理由として水/ PEGと保存された木材
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6.3.1 DBTにおける画像歪みの評価 ... 65
6.3.2 PEG保存処理後の木材に対するX線の管電圧による描出能への影響 . 67
6.3.3 DBTによる内部構造の観察および年輪曲線の作成 ... 69
6.4 考察 ... 72 6.5 小括 ... 76 第7章 総括 ... 77 引用文献 ... 79 謝辞 ... 84
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第
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章 序論 1.1 本研究の背景年輪年代学は木質文化財の正確な絶対的年代測定法である.この方法は毎年多くの温帯 の木が年輪を形成しているという事実に基づき,その幅は気候に依存,したがって同様の 気候条件下では,同じ樹種が共通の年輪パターンを形成する1)という理論より,年輪パ ターンを利用して木製遺物の年代を決定する科学である.
これまでの年輪年代学の対象となってきたのは,端部の木目(断面)または直線状の木 目(半径方向の断面)がはっきりと見える木製試料に限定されていた.すべての材料は通 常,何らかの測定または画像を得る前に,表面の前処理(例えば平削り,切断,研磨)を 必要とする2).本来,木質文化財に対しての年輪測定は非破壊であることが理想である.
近年では木製民具3)や歴史的木製彫刻4)などに対してマイクロフォーカスCTを使用す ることにより,非破壊的で詳細な年輪測定が可能となり,飛躍的に発展したが,この手法 は乾燥した資料に限られていた.
一方,通常,遺跡から出土する木材や木製遺物は,地下水に浸かった状態で発見され る.その細胞壁の強度や微小構造などは著しく劣化しており,さらに出土後の乾燥によっ て急速に腐敗する.このため,木製遺物は劣化や腐敗の状態に合わせて最も適した保存処 理が行われる.木製遺物の多くは水浸状態で保存され,特にこのうちの重要なものは,保 護するためにトレハロースおよびpolyethylene glycol (PEG)といった高分子量材料によ る保存処理が適用される.これまで水浸およびPEG含浸の木材に対する年輪測定を含め た内部構造の非破壊可視化は成功していない.その理由として水/ PEGと保存された木材
2
は木材内のコントラストが低いためであり,特にPEG含浸された木材はより悪い結果を 与えたと報告されている5).また,水浸木材のPEG含浸処理はPEGが木材内の水とすべ て置き換わり,均等に含浸されることが望ましい.これは不十分な保存処理による木材内 のPEGの結晶化は木材にダメージを与えるためである.これまで含浸状態は乾燥状態の 木材の重量から保存処理後の重量を計算して予測していたが,木材の内部の状態は把握す ることが困難であった.
このように,年輪年代学,特に年輪考古学の分野において木材内部の非破壊的画像化は 高く望まれている技術であり,臨床用画像検査機器に対して大きな期待が寄せられてい る.
3 1.2 本研究の目的
本研究の目的は臨床用画像検査機器の年輪考古学への応用である.対象は遺跡からの出 土木材を想定し,水浸木材とPEG含浸処理後の木材の2種類とした.
年輪測定とクロスデーティングには,空間分解能50 µm以下かつ年輪層が100層以上 の画像が必要である6).そこで本研究では,これまで日本で年輪年代学に多く用いられて いる樹種(針葉樹:ヒノキ,広葉樹:ブナ)の現生材および出土材を用い,MRIによる 水浸木材の高空間分解能撮像法を開発,得られた画像による年輪年代測定を目的とする.
一方,PEG含浸木材は木材内部にPEGが多く含まれており,なおかつ乾燥しているた め,これまでCTやMRIなどによる内部構造の画像化が困難であった.そこで,人体に おいてX線吸収差の少ない組織どうしの重なりを効果的に減少可能なDigital Breast Tomosynthesis(DBT)を用い,PEG含浸処理後の木材におけるPEGと年輪の重なりを排 除することで年輪が描出能であるか検証し,DBTによる木材内部の非破壊可視化と年代 測定を目的とする.
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は木材内のコントラストが低いためであり,特にPEG含浸された木材はより悪い結果を 与えたと報告されている5).また,水浸木材のPEG含浸処理はPEGが木材内の水とすべ て置き換わり,均等に含浸されることが望ましい.これは不十分な保存処理による木材内 のPEGの結晶化は木材にダメージを与えるためである.これまで含浸状態は乾燥状態の 木材の重量から保存処理後の重量を計算して予測していたが,木材の内部の状態は把握す ることが困難であった.
このように,年輪年代学,特に年輪考古学の分野において木材内部の非破壊的画像化は 高く望まれている技術であり,臨床用画像検査機器に対して大きな期待が寄せられてい る.
3 1.2 本研究の目的
本研究の目的は臨床用画像検査機器の年輪考古学への応用である.対象は遺跡からの出 土木材を想定し,水浸木材とPEG含浸処理後の木材の2種類とした.
年輪測定とクロスデーティングには,空間分解能50 µm以下かつ年輪層が100層以上 の画像が必要である6).そこで本研究では,これまで日本で年輪年代学に多く用いられて いる樹種(針葉樹:ヒノキ,広葉樹:ブナ)の現生材および出土材を用い,MRIによる 水浸木材の高空間分解能撮像法を開発,得られた画像による年輪年代測定を目的とする.
一方,PEG含浸木材は木材内部にPEGが多く含まれており,なおかつ乾燥しているた め,これまでCTやMRIなどによる内部構造の画像化が困難であった.そこで,人体に おいてX線吸収差の少ない組織どうしの重なりを効果的に減少可能なDigital Breast Tomosynthesis(DBT)を用い,PEG含浸処理後の木材におけるPEGと年輪の重なりを排 除することで年輪が描出能であるか検証し,DBTによる木材内部の非破壊可視化と年代 測定を目的とする.
4 1.3 本論文の構成
本論文は第1章から第6章で構成されている.
第1章では,背景である年輪年代学の現状,考古学における出土木材非破壊可視化の重 要性および本研究の目的について述べた.
第2章では,年輪の形成,年輪年代学の理論,年輪パターンの照合による年代の決定に ついて解説した.
第3章では,木材の保存状態(乾燥,水浸,PEG含浸処理中,PEG含浸後)の違いに よる臨床用画像検査機器の適性の検討結果を解説した.
第4章では,CTおよびMRIの木材含水率による描出能の影響について検討,解説し た.
第5章は水浸木材・出土木材の超高解像度撮像法の提案とその検討および結果について 述べた.さらに年輪曲線の作成は木材の年代決定で重要であるが,超高解像撮像MRIに よる現生材および出土木材の画像でこれが可能であるか検証した.
第6章では,PEG含浸木材に対し,BDTによる内部構造の画像化が可能であるか検討 し,結果を述べた.加えて,X線管電圧によるPEG含浸木材の描出能の影響についても 検討した.
5
第
2
章 総論 2.1 年輪の形成樹木は樹皮の内側ある形成層によって肥大成長する.形成層は気温が高いと活発に活動 して細胞を作り出すが,この時の仮道管の細胞は大きく細胞壁が薄いため,年輪の薄い部 分すなわち早材・春材となる.形成層の活動は季節が移り替わって気温が下がっていくと 徐々に鈍くなり,作り出される仮道管の細胞は扁平かつ,細胞壁が厚くなるが,年輪の濃 い色の部分が晩材・夏材となる.そして,ついには活動を休止する(図2. 1).
このように1組の早材・晩材が年輪の1層すなわち1年分となるが,この特徴は季節の 変動のある地域で多くみられる7).年輪の幅は樹木の生育地の気象条件(気温,降水量,
湿度,日照時間)に大きく影響され,その樹種の適性にあった気候の年では成長が大きい ため年輪幅は広く,逆にそうでない年の年輪幅は狭くなる.この年輪幅の変動は同様の気 候条件下では,同じ樹種が共通の年輪パターンを形成する1).
図 2.1 年輪の形成
樹皮の内側にあるのが形成層, 年輪の薄い部分が早材, 濃い部分が晩材である.
4 1.3 本論文の構成
本論文は第1章から第6章で構成されている.
第1章では,背景である年輪年代学の現状,考古学における出土木材非破壊可視化の重 要性および本研究の目的について述べた.
第2章では,年輪の形成,年輪年代学の理論,年輪パターンの照合による年代の決定に ついて解説した.
第3章では,木材の保存状態(乾燥,水浸,PEG含浸処理中,PEG含浸後)の違いに よる臨床用画像検査機器の適性の検討結果を解説した.
第4章では,CTおよびMRIの木材含水率による描出能の影響について検討,解説し た.
第5章は水浸木材・出土木材の超高解像度撮像法の提案とその検討および結果について 述べた.さらに年輪曲線の作成は木材の年代決定で重要であるが,超高解像撮像MRIに よる現生材および出土木材の画像でこれが可能であるか検証した.
第6章では,PEG含浸木材に対し,BDTによる内部構造の画像化が可能であるか検討 し,結果を述べた.加えて,X線管電圧によるPEG含浸木材の描出能の影響についても 検討した.
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第
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章 総論 2.1 年輪の形成樹木は樹皮の内側ある形成層によって肥大成長する.形成層は気温が高いと活発に活動 して細胞を作り出すが,この時の仮道管の細胞は大きく細胞壁が薄いため,年輪の薄い部 分すなわち早材・春材となる.形成層の活動は季節が移り替わって気温が下がっていくと 徐々に鈍くなり,作り出される仮道管の細胞は扁平かつ,細胞壁が厚くなるが,年輪の濃 い色の部分が晩材・夏材となる.そして,ついには活動を休止する(図2. 1).
このように1組の早材・晩材が年輪の1層すなわち1年分となるが,この特徴は季節の 変動のある地域で多くみられる7).年輪の幅は樹木の生育地の気象条件(気温,降水量,
湿度,日照時間)に大きく影響され,その樹種の適性にあった気候の年では成長が大きい ため年輪幅は広く,逆にそうでない年の年輪幅は狭くなる.この年輪幅の変動は同様の気 候条件下では,同じ樹種が共通の年輪パターンを形成する1).
図 2.1 年輪の形成
樹皮の内側にあるのが形成層, 年輪の薄い部分が早材, 濃い部分が晩材である.
6 2.2 年輪年代学
年輪年代学dendrochronologyは年輪形成の特性を利用し,年輪パターンによって木材の 伐採年代を知る方法である1).年輪と樹木の生育期の雨量との関係は15世紀にLeonardo da Vinciがすでに書いているという7).
本格的に年輪年代学が発展したのは20世紀前半,天文学者Andrew Ellicott Douglass.が アメリカ合衆国アリゾナ州にて地球の気象と太陽の黒点活動との関連を解明しようとして いた際,気象観測開始以前の時期の長期にわたる気象データを年輪の幅の変動から読み取 ったのが始まりである8).Douglassは年輪幅とそれが形成された年の雨量とのあいだに高 い相関関係があり,その年輪幅の変動パターンが異なった個体のあいだでも共通している ことを突き止めた.この手法はアリゾナとまったく異なる気候のヨーロッパでも発展して いった1)9).年輪年代学のうち,このように年輪年代法を用いて環境変化や歴史的問題の 情報を知る気候復元の分野が年輪気候学である.
もともとは気候復元から始まった年輪年代学であるが,この手法を考古学の分野に用い たのが年輪考古学である.考古学の分野では出土遺物,古建築や仏像などから正確な作製 年代を鑑定する必要があるケースが多々ある.木質文化財の年輪年代による鑑定は年輪幅 の変動を測定し,年代が分かっている年輪幅の変動曲線(標準年輪曲線)と比較し,一致 すれば年代の決定となる.このように考古学の分野で年輪を使用した年代決定を行う研究 を年輪考古学という10).考古学における年輪年代法は年代測定法の中で最も精度が高 く,ヨーロッパでは紀元前500年程度まで1年単位での確定が可能である.
7
日本においては,岐阜県側の裏木曽で伐採されたヒノキの年輪幅を山澤金五郎が計測
し, 802 層分のデータを発表した11).年輪年代法は1980年代に奈良文化財研究所が本
格的に取り組み,法隆寺五重塔心柱が年輪年代測定によって549年に伐採された木材であ ることが判明するなど,大きな成果を上げている12).
年輪考古学においては,年輪の形成された年が判明すると,その試料となった木製 品,あるいはそれを使用した建造物や出土した遺跡が暦のうえで何年になるのか,それを 考える有力な手がかりが得られたことになる7).
6 2.2 年輪年代学
年輪年代学dendrochronologyは年輪形成の特性を利用し,年輪パターンによって木材の 伐採年代を知る方法である1).年輪と樹木の生育期の雨量との関係は15世紀にLeonardo da Vinciがすでに書いているという7).
本格的に年輪年代学が発展したのは20世紀前半,天文学者Andrew Ellicott Douglass.が アメリカ合衆国アリゾナ州にて地球の気象と太陽の黒点活動との関連を解明しようとして いた際,気象観測開始以前の時期の長期にわたる気象データを年輪の幅の変動から読み取 ったのが始まりである8).Douglassは年輪幅とそれが形成された年の雨量とのあいだに高 い相関関係があり,その年輪幅の変動パターンが異なった個体のあいだでも共通している ことを突き止めた.この手法はアリゾナとまったく異なる気候のヨーロッパでも発展して いった1)9).年輪年代学のうち,このように年輪年代法を用いて環境変化や歴史的問題の 情報を知る気候復元の分野が年輪気候学である.
もともとは気候復元から始まった年輪年代学であるが,この手法を考古学の分野に用い たのが年輪考古学である.考古学の分野では出土遺物,古建築や仏像などから正確な作製 年代を鑑定する必要があるケースが多々ある.木質文化財の年輪年代による鑑定は年輪幅 の変動を測定し,年代が分かっている年輪幅の変動曲線(標準年輪曲線)と比較し,一致 すれば年代の決定となる.このように考古学の分野で年輪を使用した年代決定を行う研究 を年輪考古学という10).考古学における年輪年代法は年代測定法の中で最も精度が高 く,ヨーロッパでは紀元前500年程度まで1年単位での確定が可能である.
7
日本においては,岐阜県側の裏木曽で伐採されたヒノキの年輪幅を山澤金五郎が計測
し, 802 層分のデータを発表した11).年輪年代法は1980年代に奈良文化財研究所が本
格的に取り組み,法隆寺五重塔心柱が年輪年代測定によって549年に伐採された木材であ ることが判明するなど,大きな成果を上げている12).
年輪考古学においては,年輪の形成された年が判明すると,その試料となった木製 品,あるいはそれを使用した建造物や出土した遺跡が暦のうえで何年になるのか,それを 考える有力な手がかりが得られたことになる7).
8 2.3 年輪曲線による年代の照合
年輪年代法は晩材から次の年の晩材の幅,つまり年輪幅を測定し,その変動パターンを 照合していく.ここで用語の説明であるが,年輪幅のデータを年輪データ,横軸に年輪形 成年(または年輪層),縦軸に年輪幅を取って年輪パターンをグラフ化したものを年輪曲 線とする(図2.2).年輪幅は試料から直接計測する場合と試料から採取した標本で計測 する場合がある.直接計測は主に現生材の円板状輪切り標本の場合である.試料の表面を 研磨し,年輪を露出させる2).年輪幅は遺跡出土品も試料から直接計測することが多い が,伐採できない場合には成長錐や標本抜きとり器などで棒状標本を作成する.これらが 不可能な場合は周囲の切り株の年輪を測定し,推定する10).美術工芸品では年輪を直接 観察可能な部分のみ計測する.このように直接年輪幅を計測する場合には,双眼実体顕微 鏡付きの年輪読み取り器を使用する方法がよく用いられ,0.01 mmまで計測が可能であ る.近年ではデジタルカメラやOptical scannerを使用して木材試料を撮影し,外部観察を 使って行われる方法も用いられている13).
図2.2 年輪曲線
縦軸に年輪幅,横軸に年輪層を取っている.年ごとに年輪幅の変動がある.
9
年代が確定している木材から作成された年輪曲線を標準年輪曲線という.標準年輪曲 線は,複数の試料を用いて同一年にあたる年輪データを平均し,15点以上の資料から作 成される7).
年輪曲線の照合は年輪幅を計測して得られたデータを標準化して行う.これは樹木の 個体差や部位に生じる差を除去するためである.標準化には5年移動平均法が採用されて おり,年輪データをx( i ) (i = 1 ,2,3,... N) (i = 1は樹心部から樹皮部にむかって第 1 番目の年輪デー夕,i = N は最外年輪データである) として,(2.1)式によって z(i )を算定 する.
z(i) = 5x (i +2) / { x ( i ) +x (i+ 1) +x (i+2) +x (i+3) +x (i+4)} ×100 (2.1)
なお,本研究において年輪曲線の標準化は年輪の照合の場合のみとし,それ以外は年輪幅 の測定精度の評価のため標準化はしていない.
リファレンスと試料との年輪パターンの照合には,次式(2.2)で定義される相関係数 r によって測定する.
𝑟𝑟 𝑟 𝑟
∑ 𝑥𝑥𝑖𝑖𝑦𝑦𝑖𝑖−𝑁𝑁𝑥𝑥̅𝑦𝑦̅√(∑ 𝑥𝑥𝑖𝑖 𝑖𝑖2−𝑁𝑁𝑥𝑥̅2)(∑ 𝑦𝑦𝑖𝑖 𝑖𝑖2−𝑁𝑁𝑦𝑦̅2)
(2.2)
z, yはさきの規準化処理によって求めた値の対数変換した値であり ,𝑥𝑥̅,𝑦𝑦̅はx𝑖𝑖,𝑟𝑦𝑦𝑖𝑖のそ れぞれすべての値の平均値,Nは計測年輪数である.
年輪曲線による年代の照合は,年代測定の対象となる木材の年輪曲線と標準年輪曲線を
Baillie Pilcher t値(t-BP)によって照合される.
8 2.3 年輪曲線による年代の照合
年輪年代法は晩材から次の年の晩材の幅,つまり年輪幅を測定し,その変動パターンを 照合していく.ここで用語の説明であるが,年輪幅のデータを年輪データ,横軸に年輪形 成年(または年輪層),縦軸に年輪幅を取って年輪パターンをグラフ化したものを年輪曲 線とする(図2.2).年輪幅は試料から直接計測する場合と試料から採取した標本で計測 する場合がある.直接計測は主に現生材の円板状輪切り標本の場合である.試料の表面を 研磨し,年輪を露出させる2).年輪幅は遺跡出土品も試料から直接計測することが多い が,伐採できない場合には成長錐や標本抜きとり器などで棒状標本を作成する.これらが 不可能な場合は周囲の切り株の年輪を測定し,推定する10).美術工芸品では年輪を直接 観察可能な部分のみ計測する.このように直接年輪幅を計測する場合には,双眼実体顕微 鏡付きの年輪読み取り器を使用する方法がよく用いられ,0.01 mmまで計測が可能であ る.近年ではデジタルカメラやOptical scannerを使用して木材試料を撮影し,外部観察を 使って行われる方法も用いられている13).
図2.2 年輪曲線
縦軸に年輪幅,横軸に年輪層を取っている.年ごとに年輪幅の変動がある.
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年代が確定している木材から作成された年輪曲線を標準年輪曲線という.標準年輪曲 線は,複数の試料を用いて同一年にあたる年輪データを平均し,15点以上の資料から作 成される7).
年輪曲線の照合は年輪幅を計測して得られたデータを標準化して行う.これは樹木の 個体差や部位に生じる差を除去するためである.標準化には5年移動平均法が採用されて おり,年輪データをx( i ) (i = 1 ,2,3,... N) (i = 1は樹心部から樹皮部にむかって第 1 番目の年輪デー夕,i = N は最外年輪データである) として,(2.1)式によって z(i )を算定 する.
z(i) = 5x (i +2) / { x ( i ) +x (i+ 1) +x (i+2) +x (i+3) +x (i+4)} ×100 (2.1)
なお,本研究において年輪曲線の標準化は年輪の照合の場合のみとし,それ以外は年輪幅 の測定精度の評価のため標準化はしていない.
リファレンスと試料との年輪パターンの照合には,次式(2.2)で定義される相関係数 r によって測定する.
𝑟𝑟 𝑟 𝑟
∑ 𝑥𝑥𝑖𝑖𝑦𝑦𝑖𝑖−𝑁𝑁𝑥𝑥̅𝑦𝑦̅√(∑ 𝑥𝑥𝑖𝑖 𝑖𝑖2−𝑁𝑁𝑥𝑥̅2)(∑ 𝑦𝑦𝑖𝑖 𝑖𝑖2−𝑁𝑁𝑦𝑦̅2)
(2.2)
z, yはさきの規準化処理によって求めた値の対数変換した値であり ,𝑥𝑥̅,𝑦𝑦̅はx𝑖𝑖,𝑟𝑦𝑦𝑖𝑖のそ れぞれすべての値の平均値,Nは計測年輪数である.
年輪曲線による年代の照合は,年代測定の対象となる木材の年輪曲線と標準年輪曲線を
Baillie Pilcher t値(t-BP)によって照合される.
10
t − BP = |𝑟𝑟|√(𝑁𝑁 − 𝑁)/(1 − 𝑟𝑟2) (2.3)
rは (2) 式による相関係数, Nは年輪数である.求めた𝑡𝑡0は自由度 (N - 2) の t分 布にしたがうので帰無仮説を検定するのには, t分布表より適当な有意水準αにおける t の限界値𝑡𝑡𝑎𝑎を求め,これを基準にして,𝑡𝑡0> 𝑡𝑡𝑎𝑎であればその有意水準で帰無仮説は棄却 され,相聞があるという対立仮説が採択される7).t-BPは相関係数に基づいているが,相 関係数が同じ場合,短いオーバーラップの一致は、長いオーバーラップの一致よりも価値 がないことも考慮している.ヨーロッパにおける年輪年代法においては年輪数が60以 上,t-BPが3.5以上で年代の照合が成立するとしている6).
本研究においては臨床用画像機器との年輪測定の精度評価および年代の照合には
Optical scannerで作成した年輪曲線をリファレンスとした13).
11
第
3
章 木材の保存状態の違いによる臨床用画像検査機器の適性 3.1 目的日本の埋蔵文化財(いわゆる遺跡)は全国で46万か所あり,毎年9千件程度の発掘調 査が行われている(文化庁).出土木材の遺存条件としては,湿原(特に泥炭湿地),地下 水中,川底・湖底・海底,氷河・永久凍土,砂漠などといった木材を積極的に腐朽させる 菌類等の活動が大きく制御される環境(低酸素,低温,乾燥)に限られる.出土木材は食 物連鎖の環から逸脱したわけではなく極めて緩慢な劣化プロセスを辿っている.このため 出土木材はクリーニングされた後,多くは水漬けで保存されるが(水浸法保存),このう ち重要な木製遺物は保護するためにトレハロース(C12H22O11) およびpolyethylene glycol
(PEG; HO-(C2H4O)n-H)といった高分子量材料による保存処理が適用される14)15).
考古学における年輪年代学は木製民具3)や歴史的木製彫刻4)などに対してマイクロフ ォーカスCTを使用することにより非破壊的で詳細な年輪測定が可能となり,飛躍的に発 展したが,この手法は乾燥した資料に限られていた.実際には考古学的に出土木材は一般 的に非常に高い含水量(400%~800%)を持っているためCTの可視能が低下し,これま での報告でもBill らは水/ PEGと保存された木材のコントラストが低いため,浸水および PEG含浸のオーク材をCTでスキャンする試みは成功しなかった5)としている.
一方, MRI装置は水素原子核の密度および状態を画像化するので,木材の含水量が
増加するにつれてMRI画像化の品質は向上すると期待される.そこで本研究ではスギ原 生材を用い,出土木材のさまざまな保存状態の模擬試料を作成し,各保存状態における臨 床用画像検査機器(CTおよびMRI)の適性を明らかにすることを目的とした.
10
t − BP = |𝑟𝑟|√(𝑁𝑁 − 𝑁)/(1 − 𝑟𝑟2) (2.3)
rは (2) 式による相関係数, Nは年輪数である.求めた𝑡𝑡0は自由度 (N - 2) の t分 布にしたがうので帰無仮説を検定するのには, t分布表より適当な有意水準αにおける t の限界値𝑡𝑡𝑎𝑎を求め,これを基準にして,𝑡𝑡0> 𝑡𝑡𝑎𝑎であればその有意水準で帰無仮説は棄却 され,相聞があるという対立仮説が採択される7).t-BPは相関係数に基づいているが,相 関係数が同じ場合,短いオーバーラップの一致は、長いオーバーラップの一致よりも価値 がないことも考慮している.ヨーロッパにおける年輪年代法においては年輪数が60以 上,t-BPが3.5以上で年代の照合が成立するとしている6).
本研究においては臨床用画像機器との年輪測定の精度評価および年代の照合には
Optical scannerで作成した年輪曲線をリファレンスとした13).
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第
3
章 木材の保存状態の違いによる臨床用画像検査機器の適性 3.1 目的日本の埋蔵文化財(いわゆる遺跡)は全国で46万か所あり,毎年9千件程度の発掘調 査が行われている(文化庁).出土木材の遺存条件としては,湿原(特に泥炭湿地),地下 水中,川底・湖底・海底,氷河・永久凍土,砂漠などといった木材を積極的に腐朽させる 菌類等の活動が大きく制御される環境(低酸素,低温,乾燥)に限られる.出土木材は食 物連鎖の環から逸脱したわけではなく極めて緩慢な劣化プロセスを辿っている.このため 出土木材はクリーニングされた後,多くは水漬けで保存されるが(水浸法保存),このう ち重要な木製遺物は保護するためにトレハロース(C12H22O11) およびpolyethylene glycol
(PEG; HO-(C2H4O)n-H)といった高分子量材料による保存処理が適用される14)15).
考古学における年輪年代学は木製民具3)や歴史的木製彫刻4)などに対してマイクロフ ォーカスCTを使用することにより非破壊的で詳細な年輪測定が可能となり,飛躍的に発 展したが,この手法は乾燥した資料に限られていた.実際には考古学的に出土木材は一般 的に非常に高い含水量(400%~800%)を持っているためCTの可視能が低下し,これま での報告でもBill らは水/ PEGと保存された木材のコントラストが低いため,浸水および PEG含浸のオーク材をCTでスキャンする試みは成功しなかった5)としている.
一方, MRI装置は水素原子核の密度および状態を画像化するので,木材の含水量が
増加するにつれてMRI画像化の品質は向上すると期待される.そこで本研究ではスギ原 生材を用い,出土木材のさまざまな保存状態の模擬試料を作成し,各保存状態における臨 床用画像検査機器(CTおよびMRI)の適性を明らかにすることを目的とした.
12
3.2 方法
3.2.1 保存処理模擬木材試料の作成
保存処理模擬木材試料には入手しやすく比較的加工のしやすいスギCryptomeria
japonica (原生材,辺心材)を使用し,保存状態は乾燥保存,水浸保存,PEG含浸中,
PEG含浸後の4種類とした.乾燥保存は乾燥状態の術工芸品を想定し,水浸保存は出土 直後および水浸保存中,PEG含浸中はPEG溶液による保存処理中,PEG含浸後はPEG を十分含浸させた後に乾燥させた状態をそれぞれ想定している.
はじめに,スギの母材を縦 6 cm, 横 6 cm, 高さ1.6 cmに切り出し,煮沸して重量がそ れ以上変化しない状態 (飽水状態; waterlogged wood) にした.これは出土した木材の含 水率が非常に高く16),その状態を模擬したためである.そのまま水に浸してある状態を 水浸保存とした.
次に,飽水状態の試料のうち2つをPEG 20%,40 %,60 %,80%と順次含浸後,100 % に6ヶ月含浸した(PEG含浸中).さらにその後,1つの試料を60 ℃の恒温器で2週間乾 燥させた(PEG含浸処理後).未処理の試料を乾燥保存とした.
13
3.2.2 木材の保存状態による臨床用画像検査機器の適性
試料の撮像は臨床用3T MRI装置(Vantage Titan 3T; Cannon Medical Systems
Corporation), 16chフェーズドアレイコイル(16ch Flex SPEEDER Coil M)を用い,T1強 調画像(T1 weighted image; T1WI),T2強調画像(T2 Weighted image; T2WI),プロトン密 度強調画像(Proton weighted image; PDWI)を撮像した.臨床用CT装置はAquilion 16;
Canon Medical Systems Corporationを使用した.
MRIにおいては繰り返し時間(Time to repeat ;TR)が短く,90°パルスをかけてからす ぐに工コ一信号を取るとT1緩和時間を反映した画像,すなわち T1WIとなる17).組織の T1はプロトンがエネルギーを周囲の格子との間で教受できるか否かに影響される18).こ れに対してTRを十分に長くし縦緩和時間 (T1緩和時間) の影響をほとんどなくし,
90°パルスをかけた直後に 180°パルスをかけてエコー信号を取ると組織の水素含有率を反 映した画像,すなわちプロトン密度強調画像;PDWIが得られる17).また,180°パルスを 遅くかけてエコー時間(time to echo; TE)を長くすると横緩和 (T2緩和)時閣を反映す
る T2WIが得られる.組織のT2は組織中のプロトンスピンの位相分散速度によって特徴
づけられ,位相分散が早ければT2は短く,位相分散が遅く進行すればT2は長くなる.
本研究ではT1WI,T2WI,PDWIの撮像にはFast Spin Echo(FSE)法を使用した.FSE 法はMRIの数ある撮像シーケンスの中でも日常のMRI検査で最も使用されており,比較 的短時間で撮像でき,基本コントラストが良好で磁場の不均一の影響に強い特徴を持つ
19)ためである.
12
3.2 方法
3.2.1 保存処理模擬木材試料の作成
保存処理模擬木材試料には入手しやすく比較的加工のしやすいスギCryptomeria
japonica (原生材,辺心材)を使用し,保存状態は乾燥保存,水浸保存,PEG含浸中,
PEG含浸後の4種類とした.乾燥保存は乾燥状態の術工芸品を想定し,水浸保存は出土 直後および水浸保存中,PEG含浸中はPEG溶液による保存処理中,PEG含浸後はPEG を十分含浸させた後に乾燥させた状態をそれぞれ想定している.
はじめに,スギの母材を縦 6 cm, 横 6 cm, 高さ1.6 cmに切り出し,煮沸して重量がそ れ以上変化しない状態 (飽水状態; waterlogged wood) にした.これは出土した木材の含 水率が非常に高く16),その状態を模擬したためである.そのまま水に浸してある状態を 水浸保存とした.
次に,飽水状態の試料のうち2つをPEG 20%,40 %,60 %,80%と順次含浸後,100 % に6ヶ月含浸した(PEG含浸中).さらにその後,1つの試料を60 ℃の恒温器で2週間乾 燥させた(PEG含浸処理後).未処理の試料を乾燥保存とした.
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3.2.2 木材の保存状態による臨床用画像検査機器の適性
試料の撮像は臨床用3T MRI装置(Vantage Titan 3T; Cannon Medical Systems
Corporation), 16chフェーズドアレイコイル(16ch Flex SPEEDER Coil M)を用い,T1強 調画像(T1 weighted image; T1WI),T2強調画像(T2 Weighted image; T2WI),プロトン密 度強調画像(Proton weighted image; PDWI)を撮像した.臨床用CT装置はAquilion 16;
Canon Medical Systems Corporationを使用した.
MRIにおいては繰り返し時間(Time to repeat ;TR)が短く,90°パルスをかけてからす ぐに工コ一信号を取るとT1緩和時間を反映した画像,すなわち T1WIとなる17).組織の T1はプロトンがエネルギーを周囲の格子との間で教受できるか否かに影響される 18).こ れに対してTRを十分に長くし縦緩和時間 (T1緩和時間) の影響をほとんどなくし,
90°パルスをかけた直後に 180°パルスをかけてエコー信号を取ると組織の水素含有率を反 映した画像,すなわちプロトン密度強調画像;PDWIが得られる17).また,180°パルスを 遅くかけてエコー時間(time to echo; TE)を長くすると横緩和 (T2緩和)時閣を反映す
る T2WIが得られる.組織のT2は組織中のプロトンスピンの位相分散速度によって特徴
づけられ,位相分散が早ければT2は短く,位相分散が遅く進行すればT2は長くなる.
本研究ではT1WI,T2WI,PDWIの撮像にはFast Spin Echo(FSE)法を使用した.FSE 法はMRIの数ある撮像シーケンスの中でも日常のMRI検査で最も使用されており,比較 的短時間で撮像でき,基本コントラストが良好で磁場の不均一の影響に強い特徴を持つ
19)ためである.