4.1 目的
一般的に遺跡から出土する木材や木製遺物は,地下水に浸かった状態で発見される.そ の細胞壁の強度や微小構造などは著しく劣化しており,加えて出土後の乾燥によって急速 に腐敗する.このため,木製遺物は劣化の状態に合わせて最も適した保存処理が行われる が,その多くは水浸状態で保存される.
これまで木質文化財の非破壊年輪測定にはマイクロフォーカスX線CTが使われ,飛躍 的に発展した.しかし,出土木材は一般的に非常に高い含水量(400%~800%)を持って いるため,CTにおける可視能の低下が指摘されていた5).一方,MRIは物質中のプロト ンの状態や量を可視化するため,木材の含水率が高い場合に有用である可能性がある.
そこで,本研究では木材含水量によるCTとMRIの適応範囲を明らかにすることを目 的とする.
22
3.5 小括
本研究ではスギ原生材を用いて出土木材のさまざまな保存状態の模擬試料を作成し,各 保存状態におけるCTおよびMRIの非破壊可視化の適性を明らかした.乾燥保存の木材 はCTが適しており,PEG含浸中の木材はT1WI,水浸保存の木材にはT2WIが適してい ることが明らかとなった.PEG含浸後の木材はCTのみで描出が可能であったが,本検討 では試料へのPEG含浸が不十分であり,斑状の含浸状態が描出された.このため,劣化 の進んだ木材にPEG含浸処理を行った木材に対しては内部構造を描出できない可能性が ある.
一方,出土木材による検討ではT1WI,T2WI,PDWIのすべてで年輪が明瞭に確認でき た.さらにT1WIでは木材の劣化の進行状態といった内部構造の観察が可能であった.
これまで年輪考古学における非破壊年輪測定はマイクロフォーカスX線CTが主流であ ったが,MRIを用いることにより水浸保存やPEG含浸中の木材にも対応が可能であるこ とが示唆された.
23
第
4章 臨床用
CTおよび
MRIの木材含水率による描出能の影響の検討
4.1 目的
一般的に遺跡から出土する木材や木製遺物は,地下水に浸かった状態で発見される.そ の細胞壁の強度や微小構造などは著しく劣化しており,加えて出土後の乾燥によって急速 に腐敗する.このため,木製遺物は劣化の状態に合わせて最も適した保存処理が行われる が,その多くは水浸状態で保存される.
これまで木質文化財の非破壊年輪測定にはマイクロフォーカスX線CTが使われ,飛躍 的に発展した.しかし,出土木材は一般的に非常に高い含水量(400%~800%)を持って いるため,CTにおける可視能の低下が指摘されていた5).一方,MRIは物質中のプロト ンの状態や量を可視化するため,木材の含水率が高い場合に有用である可能性がある.
そこで,本研究では木材含水量によるCTとMRIの適応範囲を明らかにすることを目 的とする.
24
4.2 方法
4.2.1 含水率調整試料の作成
年輪年代学においてヒノキChamaecyparis obtuseおよびブナFagus crenata Blumeは,そ れぞれ針葉樹種および広葉樹種の代表的な例として使用され,年輪年代法のための適切な 種である25)26).そこで本検討でもこの2つの樹種について検討した.
はじめに,長さ約30 cm,幅3.5 cm,厚さ2 cmを有するヒノキおよびブナの原生材を それぞれ母材から切り出し,年輪をはっきりと露出させるために表面を研磨した2).次に 試料を水中で煮沸し,脱気した後,水分が飽和した試料を40 ℃に保ったインキュベータ で徐々に乾燥させ,水分をゆっくり減らし,異なる時間にインキュベータから取り出し,
含水率試料を作成した.試料は含水率が変化しないよう,ひとつずつ脱酸素剤とともに真 空パックした.
含水率はヒノキについては280%(飽水状態),154.3%,100.2%,72.7%,46.3%,29.9%
および4.9%(気乾),ブナについては102.4%(飽水状態),75.7%,53.1%,32.3%および 8.5%(気乾)とした.
含水率は以下の式(4.1)で示される16). 𝑈𝑈 𝑈𝑊𝑊𝑢𝑢 𝑊𝑊− 𝑊𝑊0
0 × 100 (4.1)
Uは含水率(%), Wuは含水時の重量(g),Woは絶乾重量(g)である.
25
4.2.2 臨床用CTおよびMRIの木材含水率による撮像適応範囲の検討
含水率を調整した試料をOptical scanner(従来法; リファレンス),臨床用CTおよび MRIを使用して撮像した.
Optical scannerは解像度1200 dpi(ドット/インチ)のフラットベッド型Optical scanner
(GT-S650,セイコーエプソン株式会社)を使用し,画像は8ビットTIFFファイルとし
て保存した.空間分解能は0.022 mmである.
臨床用CTはAquilion 16 (Canon Medical Systems Corporation)を使用し,撮影条件は 管電圧= 120 kV,管電流= 300 mA,撮影時間= 1500 ms,スライス厚= 2 mm,マトリ ックス= 512 × 512,再構成FOV(RFOV)= 90 mm,ピクセルサイズ= 0.175 mm × 0.175
mmとした.
臨床用MRIはVantage Titan 3T (Canon Medical Systems Corporation)を使用し,16チ ャンネルフェーズドアレイコイル(16ch Flex SPEEDER Coil M)を使用,T2WIにて撮像 した.撮像条件はTR = 2000 ms,TE = 100 ms,FOV = 94 × 94 mm,マトリックス= 1024 × 1024,空間分解能 = 0.09 mm × 0.09 mm,スライス厚= 2.0 mm,およびNAQ = 4とした.
この検討はCTとMRIの可視能の定性的方法の調査であり,各装置の最大解像度は必 ずしも必要ではない.このため,CTとMRIでは同じ空間解像度(画素サイズ約100 µm)とした.
24
4.2 方法
4.2.1 含水率調整試料の作成
年輪年代学においてヒノキChamaecyparis obtuseおよびブナFagus crenata Blumeは,そ れぞれ針葉樹種および広葉樹種の代表的な例として使用され,年輪年代法のための適切な 種である25)26).そこで本検討でもこの2つの樹種について検討した.
はじめに,長さ約30 cm,幅3.5 cm,厚さ2 cmを有するヒノキおよびブナの原生材を それぞれ母材から切り出し,年輪をはっきりと露出させるために表面を研磨した2).次に 試料を水中で煮沸し,脱気した後,水分が飽和した試料を40 ℃に保ったインキュベータ で徐々に乾燥させ,水分をゆっくり減らし,異なる時間にインキュベータから取り出し,
含水率試料を作成した.試料は含水率が変化しないよう,ひとつずつ脱酸素剤とともに真 空パックした.
含水率はヒノキについては280%(飽水状態),154.3%,100.2%,72.7%,46.3%,29.9%
および4.9%(気乾),ブナについては102.4%(飽水状態),75.7%,53.1%,32.3%および 8.5%(気乾)とした.
含水率は以下の式(4.1)で示される16). 𝑈𝑈 𝑈𝑊𝑊𝑢𝑢 𝑊𝑊− 𝑊𝑊0
0 × 100 (4.1)
Uは含水率(%), Wuは含水時の重量(g),Woは絶乾重量(g)である.
25
4.2.2 臨床用CTおよびMRIの木材含水率による撮像適応範囲の検討
含水率を調整した試料をOptical scanner(従来法; リファレンス),臨床用CTおよび MRIを使用して撮像した.
Optical scannerは解像度1200 dpi(ドット/インチ)のフラットベッド型Optical scanner
(GT-S650,セイコーエプソン株式会社)を使用し,画像は8ビットTIFFファイルとし
て保存した.空間分解能は0.022 mmである.
臨床用CTはAquilion 16 (Canon Medical Systems Corporation)を使用し,撮影条件は 管電圧= 120 kV,管電流= 300 mA,撮影時間= 1500 ms,スライス厚= 2 mm,マトリ ックス= 512 × 512,再構成FOV(RFOV)= 90 mm,ピクセルサイズ= 0.175 mm × 0.175
mmとした.
臨床用MRIはVantage Titan 3T (Canon Medical Systems Corporation)を使用し,16チ ャンネルフェーズドアレイコイル(16ch Flex SPEEDER Coil M)を使用,T2WIにて撮像 した.撮像条件はTR = 2000 ms,TE = 100 ms,FOV = 94 × 94 mm,マトリックス= 1024 × 1024,空間分解能 = 0.09 mm × 0.09 mm,スライス厚= 2.0 mm,およびNAQ = 4とした.
この検討はCTとMRIの可視能の定性的方法の調査であり,各装置の最大解像度は必 ずしも必要ではない.このため,CTとMRIでは同じ空間解像度(画素サイズ約100 µm)とした.
26
リファレンスと年輪描出能の比較にはCTおよびMRIによって検出された年輪の数を
Optical scannerによって検出された年輪の数で除して得られる百分率を表すFC(fit
coefficient)を用いた.FCは以下の式(4.2)で求められる:
FC = Nm / Ns × 100 (4.2)
FCはfit coefficient,Nm はCTまたはMRIでカウントされた年輪数,Ns はOptical
scannerでカウントされた年輪数である.
年輪のカウントにはCooRecorder 8.1ソフトウェアパッケージ(Cybis Elektronik& Data)を使用した.
27
4.3 結果
4.3.1 含水率調整試料の作成
図4.1は含水率を調整した木材試料であり,上がヒノキ,下がブナである.左側が最も 含水率が高く,右に行くほど含水率が低い木材となる.
図4.1 含水率調整試料 上:ヒノキ,下:ブナ
26
リファレンスと年輪描出能の比較にはCTおよびMRIによって検出された年輪の数を
Optical scannerによって検出された年輪の数で除して得られる百分率を表すFC(fit
coefficient)を用いた.FCは以下の式(4.2)で求められる:
FC = Nm / Ns × 100 (4.2)
FCはfit coefficient,Nm はCTまたはMRIでカウントされた年輪数,Ns はOptical
scannerでカウントされた年輪数である.
年輪のカウントにはCooRecorder 8.1ソフトウェアパッケージ(Cybis Elektronik& Data)を使用した.
27
4.3 結果
4.3.1 含水率調整試料の作成
図4.1は含水率を調整した木材試料であり,上がヒノキ,下がブナである.左側が最も 含水率が高く,右に行くほど含水率が低い木材となる.
図4.1 含水率調整試料 上:ヒノキ,下:ブナ
28
4.3.2 臨床用CTおよびMRIの木材含水率による撮像適応範囲の検討
図4.2および図4.3はそれぞれヒノキとブナの各含水率のCT画像である.最も低い含 水率の試料は高いコントラストを有し,年輪が明瞭に視認できた(図4.2gおよび図 4.3f).気乾の場合,空気を多く含む早材のCT値は低く,細胞密度の高い晩材のCT値は 高かった.木材は含水量が増加するにつれて水分が含まれる領域が増加,それに伴い年輪 の視認性が低下する傾向があり(図4.2b~fおよび図4.3b~e),飽水状態ではヒノキ,ブナ ともに年輪は視認不能であった.早材晩材ともCT値は65 HU前後であったためコントラ ストが消失した(図4.2aおよび図4.3a).
図4.4および図4.5は T2WIで得られたヒノキとブナの画像である.飽水状態では年輪
が明瞭に視認可能であった(図4.4aおよび図4.5a).しかしながら,含水率が低下するに したがって年輪が視認可能な範囲が減少していき(図4.4b,および図4.5b),含水量が 100%未満の場合では信号は検出されなかった(図4.4d〜g,および図4.5c〜f).
29 図4.2 CT(ヒノキ)
(a)280% (saturated), (b)154.3%, (c)100.2%, (d)72.7%, (e)46.3%, (f)29.9%, (g)4.9%(air dry)
図4.3 CT(ブナ)
(a)156.4% (saturated), (b)102.8%, (c)75.7%, (d)53.1%, (e)32.3%, (f)8.5%(air dry)