博 士 ( 医 学 ) 上 畠 寧 子
学 位 論 文 題 名
Artemis は AIVIP‑activated protein kinase (AMPK) cD 活 性 化 因 子 と して 機 能 す る
学 位 論 文 内 容 の 要旨
【目 的と背 景】
AMP‑activated protein kinase (AMPK)は 細 胞 内AMP/ATP比の 上 昇 によ り活 性化 され るセ リン・ スレ オニ ンキ ナー ゼで 、細胞内のエネルギーセンサーとして機能することが知 ら れて い る 。AMPKは 、 低 酸 素 、 低 グ ル コ ー ス 、 低pHな ど の 細胞 ス ト レス 、或 いは サイ トカ イン刺 激に より 活性 化が 誘導 され、糖、脂質代謝を制御することで細胞のエネルギー 消費 を抑制 する 。ま た、 腫瘍 組織 における低酸素状態の結果生じる低エネルギー適応応答 にお いてもHIF‑1と は独 立し て機 能し、 腫瘍 増殖 に必 須で ある ことが報告されている。こ の よう にAMPKシ グ ナ ル が 癌 細 胞 の 生 存 維 持 と 腫 瘍 の 発 達 に 深く 関 わ って いる こと が明 ら かに な って いる もの の、AMPK自 体の 活性 を制 御す る機 構に つい ては 未だ 不明 な点 が数 多 い。 そ こで 本研 究で は、AMPKシ グナ ルの 制御 機構 を解 析す る目 的でYeast two‑hybrid systemを 用 い てAMPKば2に 結 合 する タ ンパ ク質 の網 羅的 検索 を行 い、 新規 結合 タン パク 質 と し てArtemisを 同 定 し た 。ArtemisはDNA二 重 鎖 切 断 修 復 経 路 で あ る 非 相 同 末 端 結 合 修 復(non‑homologous end‑joining:NHEJ)に お い てDNA‑PK、Ku80/70と 協 調 し て 働 く因 子 と し て 同 定 さ れ た 遺 伝 子 で 、ATMによ るり ン酸 化制 御を 受け てい ると 報告 され てい る。ー方、Cdkl‑cyclinBの制御を介してG2/M cell cycle checkpoint recoveryの制御 を行 ってい ると の報 告も され てお り、DNA修 復以 外に も多 様な 機能を有していると考えら れ る 。 本 研 究 で は 、ArtemisのAMPKの 機 能 制 御 に お け る 役 割 に つ い て 検 討 し た 。
【材 料と 方法 】
`Y'east two‑hybrid法にてAMPKa2の 新規 結合 タン パク 質の 検索 を行 い、Artemisを 同 定 し た 。 次 に、 ヒト 骨肉 種U20S細 胞へ の遺 伝子 導入 系を用 いて 、免 疫沈 降お よび ウエ ス タ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ を 行 い 、 細 胞 内 に お け るArtemisとAMPKの 結 合 性 の 確 認 とAMPK 活 性 化 剤(AICAR)添 加 がArtemis‑AMPK結 合 へ 及 ば す 影 響 の 検 討 を し た 。 さ ら に 、 Artemisの 欠 失 変 異 体 を 用 い てAMPK結 合 卜 メイ ンの 同定を 行っ た。 また 、免 疫螢 光染 色 を 行 いArtemisとAMPKの 細 胞 内 局 在 性 を 共 焦点 レー ザー顕 微鏡 によ り観 察し た。 次に 、 U20S細 胞 お よ び ヒ ト 胎 児 腎 臓HEK‑293細 胞 で のArtemisの 過 剰 発 現 系 、 な ら び に siRNAを 用 い たU20S細 胞 で のArtemis発 現 抑 制 系 に お い て 、AMPKお よ ぴ そ の 下 流 の シ グ ナ ル 伝 達 の 活 性 化 状 態 を 、 リ ン 酸 化 状 態 特 異 的 なAMPK抗 体 、ACC抗 体 お よ ぴS6K 抗体 を用 いた ウエ スタ ンブ ロッ ティ ングに より解析した。また、免疫沈降およびウエスタ ン ブ ロ ッ テ ィ ン グ に よ り 、AMPKの 上 流 キ ナ ー ゼ で あ るLKB1とAMPKお よ びArtemis の 結 合 性 の 検 討 と 、Artemisに お け るLKB1結 合 ド メ イ ン の 決 定 を 行 っ た 。
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【結果】
1マ'east two‑hybridス クリ ーニングの結果、AMPKロ2の新規結合タンパク質として Artemisを 同 定 した。 また 、U20S細 胞にてArtemisとAMPKの 物理 的結合 を確 認し 、 さらに、両者の結合はAICAR刺激により弱まる傾向が認められた。2Artemisにおける AMPKの 結合 部位 は、l‑150aaの領域 と151‑402aaの領 域で あるこ とが判明した。3免 疫螢 光 染 色 に よりAMPKとArtemisの 核内で の共 局在 を確認 した 。4U20S細胞 に諮 い てArtemisの 導 入 に よ り 、AMPKの 活 性 化 を 示 すThr172のり ン酸 化亢進 、及 びAMPK によ り 直 接 リ ン酸 化さ れるACCのSer79のり ン酸化 亢進 と、mTORシグナ ルを 介し て AMPKに より 抑制 され るS6KのThr389のり`ン酸化低下を認めた。またHEK‑293細胞に お い て もArtemisの 導 入 量 依 存 的 にAMPKのThr172の り ン 酸 化 亢 進 を 認 めた 。5 Artemis、AMPK、LKB1の 三 者 を共 導 入 し た 条 件 下 で はArtemis、AMPKと も にLKB1 との結合量の増加を認め、また、ArtemisにおけるLKB1の結合部位は1‑150aaの領域で ある こ と が 判 明し た。6Artemis siRNAの導 入によ りAMPKのThr172のり ン酸 化低 下 及 ぴ ACCの Ser79リ ン 酸 化 低 下 、 S6KのThr389リ ン 酸 化 亢 進 を 認 め た 。
【考察】
本研究より、AMPKa2の新規結合タンパク質として核内タンパク質であるArtemisを 同 定 し 、 さ ら にArtemisがAMPKお よ びAMPKの 上流 キナ ーゼ であ るLKB1と複 合体 を 形成していることを示した。ストレス応丶答時にはAMPKの核移行が増えること、LKB1も、
STRAD、M025と結合していなぃ状態では核内に存在していることが報告されており、本 研 究の 結果 を考え 合わ せる と、 ストレス条件下では核内でArtemis‑AMPKa‑LKB1の複 合 体が 形成 され、AMPKの活 性化 を誘導する可能性が示唆される。また、LKB1とAMPK の 結合 はArtemisに より増 強さ れる結果から、ArtemisはLKB1→AMPKのシグナル伝達 に お い て 足 場 タン パク 質(scaffold protein)とし て機 能す るこ とが予 想さ れる 。 本 研 究 で はArtemisがAMPKaのThr172のり ン酸化 を促 進す るこ とで、AMPKの下 流 シグナルの制御に関与することを示した。腫瘍細胞におけるAMPKの活性化は細胞増殖や 代謝活動を制御することで、限られた酸素、栄養下におけるエネルギー消費を低下させ、
最終的には腫瘍の微小環境での異化、同化のバランスを保ち腫瘍細胞の生存維持に関与し て い る と 考 え られ る。AMPKは低グ ルコ ース 適応応 答時 にTSC2を りン酸 化し てmTOR シグナルを抑制し細胞増殖を負に制御していることが知られているが、本研究においても U20S細胞での過剰発現実験描よぴノックダウン実験の結果から、ArtemisによるAMPK の 活性 化はmTORシ グナ ルを 抑制 してい るこ とが 示され てお り、ArtemisはAMPKの活 性制御を介して低グルコースなどの細胞ストレスに対する適応応答を促進していると思わ れる。 今後、本研究で得られた知見を基に更に詳細な解析を行うことで、Artemis‑AMPKシグ ナルの分子レベルの理解が深まるだけでなく、腫瘍細胞におけるArtemisの遺伝子変異と 治療抵抗性との相関性など、臨床にも応用可能な知見をもたらすことができると考えてい る。
【 結 語 】
1AMPKa2と 結 合 す る 新 規 タ ン パ ク 質 と し て Artemisを 同 定 し た 。 2ArtemisはAMPKa2の り ン酸 化 の 促 進 を 介 し て 、AMPKのス ト レ ス 適 応 応答 時のシ グ ナ ル 伝 達 の 制 御 に 関 連し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Artemis は A/IP‑activated protein kinase (AMPK) の 活性化因子として機能する
AMPKは細胞内AMP/ATP比の上昇により活性化されるセリン・スレオニンキナーゼで、
細胞内のエネルギーセンサーとして機能している。また、腫瘍組織に船げる低酸素状態の 結果生じる低エネルギー適応応答においても、腫瘍増殖に必須であることが報告されてい る。本研究では、AMPKシグナルの制御機構を解析する目的でYeast two‑hybrid system を用いてAMPK82に結合するたんぱく質の網羅的検索を行い、新規結合たんぱく質とし てArtemisを同定した。Artemisは重症複合免疫不全症の原因遺伝子として同定されたも ので、DNA二重鎖切断修復経路である非相同末端結合修復、VくD)J recombination、G2/M ce11cyclecheckpo泣trecoveryの 制 御 に 関 与 し て い る と 報 告 さ れ て い る 。 本研究で は、U20S細胞を用い血temisとAMPKの物理的結合を確認し、免疫蛍光染 色法により核内での共局在を確認した。
また、Artemi8に よりAMPKn2のりン酸化が促進されることを示し、AばtemisがAMPK のりン酸 化を介してACCを介した 脂肪酸代 謝やmTORを介 した腫瘍 増殖の制 御など AMPKシグナル伝達の制御に関与している事を明らかにした。さらに、Artemis、AMPK、 LKB1の三者を 導入した条 件下ではAMPKとLKB1との結合量の増加を認め、Aピtemi8 がLKB1と創MPKの 結合の安定化およびAMPKのりン酸化促進に関っている可能性が示 唆された。
公開発表では、学位論文内容発表の後、副査畠山鎮次教授より、Artemisはホモダイマ ーを形成するかどうか、ATtemis、AMPK、LKBの3量体モデルの解釈について、及ぴ今 後どのような細胞生物学的実験を予定するかにっいての質問があった。申請者はそれに対 し、ArteInisはDNA―PK、ATMの基質となるが、アイソフオーム等の報告はないこと を述べ、3量体モデルについては、本実験では3者それぞれの結合について確認しており、
Artemi8が足場たんぱく質として働くことでシグナル伝達の際にArtemis上でAMPK、 LKBlが隣り合 うように結 合し、LKBlに よるAMPKのりン酸化を促進しているのでは ないかと 述べた。ま た、今後の実験の予定については、AMPKのmTORシグナルやp53 を介したアポトーシスの制御に与えるArtemisの影響について、細胞増殖アッセイやカス パーゼアッセイを用いて検討したいと述べた。
次いで副査今村雅寛教授より、今回は主に骨肉腫細胞を用いて実験を行っているが、他 のがん細胞や正常細胞でも同じような結果が得られるかどうか、およぴストレス環境下で
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HIF‑1と今回の分子の関係にっいての質問があった。申請者はそれに対し、他のがん細胞 に おい て もAMPKによ るmTORの 抑制 は 報 告さ れ て 韜 り、Artemisが 関与 してい る可能 性が十 分あると 推測さ れること 、正常 細胞については、本研究においてHEK‑293細胞で Artemisに よる内 在性觚圧PKのりン 酸化の促 進を確認しており、今後追加実験をして検 討したいと述べた。また種の存続のため、ストレス環境下における代謝に関与した経路が 複 数 あ る こ と で 、 安 全 弁 の よ う に な っ て い る の で は な い か と 述 べ た 。 最後に主査浅香正博教授より、低酸素、低栄養でATte血s遺伝子の発現亢進はみられる か どう か の 質問があ り、今 後ATtemisを 抑制す る事でAMPK系 を介し て腫瘍増 殖抑制 が 生じれば興味深いとの話カミあった。申請者はそれに対し、低酸素、低栄養について遺伝子 発 現 の 亢 進 に つ い て は 検 討 し て お ら ず 、 今 後 検 討 を 行 い た い と 述 べ た 。 こ の 論 文 は 、AMPKに 結 合す る 新 規た ん ぱ く質Artemisを 同 定 し 、Artemi8がAMPK のりン 酸化を介 し、下流シグナル伝達の制御に関っていることを初めて示したもので、
更に詳 細な解析 を行う ことで、Artemis‐AMPKシグナルの分子レベルの理解が深まるだ けでな く、臨床 応用可能な知見をもたらす可能性を示唆したものであり、今後の発展が 期待される。
審査員 一同は、 これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位など も併せ 申請者が 博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。
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