博 士 ( 医 学 ) 平 賀 博 明
学位論文題名
EstabliShmentofaneWCOntinuouSClearCellSarCOma Ce111ineMOrphologiCalandCytogenetiCCharaCteriZation anddeteCtionofChinlaeriCE ワレS/ 勿ヱこ卩ヱtranSCriptS ( 明 細 胞 肉 腫 由 来 細 胞 株 の 樹 立 と そ の 性 状 )
学位 論文内容の要旨
明細 胞肉 腫は軟部悪性黒色腫とも呼ばれ、若年成人の四肢に好発する稀な悪性腫瘍であ る 。本 腫瘍 の特徴は約半数例にメラニンの産生が見られることと、細胞遺伝学的に12番染 色 体と22番 染色体の相互転座が検出されることである。近年その転座の切断点が明かにさ れ 、22番染 色体 上のE WS遺伝子 と12番染 色体 上のATF.J遺 伝子 が融 合しキメラ転写産物 E WS‑A丁F−iが 生じ てい ること が見 出さ れた。E1恥遺伝子はEwing肉腫に高率に見られる 22番染 色体 の転 座の 切断 点に存 在す る遺 伝子であり、RNA結合ドメインを有する蛋白をコ ードする。ー方、ATF.1(ActivatingTranscriptionalFactor)はATF/CREB蛋白に属する転写 因 子 で あ り 、多 量体 を形 成しDNAと の結 合に 寄与 する と考 えら れて いるbZIPド メイ ンを 有 す る 。12番 染 色 体 と22番 染 色 体 の 相 互 転座 に よ りEWSはC末 端 側 に 位 置す るRNA結合 ド メイ ンを 失い 、替 わり にATF‐1のC末 端側に位置するbZIPドメインが融合する。本腫瘍 に 由来 する 細胞 株は 融合 蛋白EWS−ATFー1の腫瘍発生への関与を明らかにする上で重要で あ るが 、そ の報 告は 極め て少な い。 われ われは、明細胞肉腫に由来する細胞株KAOを樹立 し、その性状について検討した。
【 材料 と方 法】 本細 胞株 は9才 の女 子の 左大腿深部に発生した軟部腫瘍より樹立された。
原 発腫 瘍の 割面の一部には茶褐色の部分が存在し、組織学的には核小体の目立つ類円形の 核 を有 する 腫瘍 細胞 の瀰 慢性あ るい は巣 状の増殖が見られた。また、Fontana−Masson染 色 で陽 性と なるメラニン顆粒が認められ、電子顕微鏡でも各成熟段階のメラノソーム及び プレメラノソームが観察された。病理診断は明細胞肉腫であり、広範切除、ljンバ節郭清、
及びDAV療法(DTIC100mg,VCR0.8mg,ACNV50mg)を5クール施行された。手術材料の一部を1ゲ。
コラゲナーゼを用いた分散培養法でcollagen‐coateddishに初代培養した。培養には10ゲ。FBS 添 加 のRPMI‐1640を 用 い た 。 そ の 後 、3分 の1か ら2分 の1の希 釈で 継代 を続け 、現 在80 数代にいたっている。この細胞株の位相差顕微鏡による形態、倍加時間、免疫組織化学(ABC 法)、電子顕微鏡による観察、ヌードマウスヘの移植性にっき検索した。また、16,17,18 代 の細 胞に ついてトリプシン処理によるG―bandingをおこない核型を決定した。キメラ転 写産物EWS―A丁F一jを検索するために、rcversctranscriptasc.PCR(RT‐PCR)を行った。腫 瘍 細 胞 よ りISOGENを 用 い てtotalRNAを 抽 出し 、 そ の1pgよ り 逆 転 写 酵 素を用 いてcDNA を 作製 した 。これを鋳型とし、E恥とA丁F‐J上の各々のprimcrを用いて、キメラ遺伝子の 切断点を含む部位をPCRで増幅した。さらに、A丁F・Jの塩基配列に一致する、32Pでラベル し たオ リゴ プロ ーブ を用 いたサ ザン ブロ ットハイブリダイゼーションを行い、PCR産物を 確 認し た。 対照として皮膚原発の悪性黒色腫と滑膜肉腫を用いた。PCR産物は、非対称PCR に よ り 一 本 鎖DNAを 作 製 し7‐DEAZAsequenceingkitに よ り 塩 基 配 列 を 決 定 し た 。
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【 結果】樹 立した細 胞株は長紡 錘型ない しはこん棒様の細胞が主体を占め、多角形の細胞 も 交えて、 交錯しつ つ増殖して いた。倍 加時間は約34時間であった。免疫組織化学的には 抗vimentin、 抗メ ラ ノ ーマ 特 異抗 体HMB45抗 体 を用 い た免 疫 染 色で は 陽性 、抗EMA、抗 サ イ卜ケラ チン、抗S−100蛋白抗体 では陰性 であった。電子顕微鏡では腫瘍細胞内に豊富 な 細胞小器 官がみら れ、皮膚原 発悪性黒 色腫で見られるものと同様の異常なメラノソーム が 観察され た。腫瘍 細胞はヌー ドマウス の皮下に容易に腫瘍を形成し、その組織像は原発 腫 瘍のそれ と同様で メラニンの 産生が見 られた。細胞遺伝学的に腫瘍細胞の染色体数は31 か ら103の あ い だ に 分 布 し 、 モ ー ド は58で あ っ た 。12番 と22番 染 色 体 の 相 互 転 座 t(12;22)(q13;q12)、4番から9番、1番から13番染色体への転座t(4;9)(qll;pll)、
t(1;13)(qll;pll)、および7番染色体のpolysomyは、モードである58の染色体数を持つ 18個 の 分 裂 像 す べ て に 存 在 し た 。RT−PCRで は 、KAOの みに 約950塩基 対 のPCR産 物 を 生 じ、他の 腫瘍ではDNAの増幅は見 られなか った。サ ザンブ口 ットハイ ブリダイゼーショ ン に よ り、 増 幅さ れたPCR産物 のバンド に一致す るシグナル が得られ た。PCR産物 の塩基 配 列 は 、EWS遺 伝子 の 全exon 17個 中 、exon8まで の5 側とATF‑1遺 伝 子 の3 側 が融合 したものであり、Zucmanらにより報告されたものと一致した。
【 考察】本 細胞株は 、ヌードマ ウスの皮 下に腫瘍を形成し、その組織像が原発腫瘍のそれ と 類似する こと、ま た原発腫瘍 、細胞株 、移植腫瘍ともにメラニンの形成が見られること な どより、 原発の明 細胞肉腫の 性格を維 持していると考えられる。細胞遺伝学的には、現 在 ま で に報 告 され て い る18例の 明 細 胞肉 腫 の 核型 の うち11例が12番と22番 染色体 の相 互 転座を有 しており 、本細胞株 の核型も この結果を支持する結果となった。さらに本細胞 株 で も 、こ の 相互 転 座 によ っ て22番 染色 体 上 のE WS遺伝子と12番染色体 上のATF‑1遺伝 子 が 融 合し て おル キメラ転 写産物が 転写され ていること を明らか にした。EWS蛋白はN末 端 側にグル タミン、 チロシン、 セリンに 富む変則的な繰り返し配列を持ち、C末端側にRNA 結 合 ド メイ ン を有 する。ー 方、相互 転座で再 構成された 融合蛋白 ではC末端 側のRNA結合 ド メ イ ンがATF‑1の多量 体形成に 必要なbZIPド メインに 置き換えら れる。ATF‑1は 多量体 を 形 成 しDNAに 結合 す る と考 え られ て い る。 ま た、ATF‑1の 転 写 活性 はcAMPに よって調 整 されてい るが、そ の調整に関与するprotein kinaseAのりン酸化部位をEWS ‑ATF‑1では欠 損 し て いる 。EWSはEwing肉 腫 でFLI‑1など の 転写 因子と融 合蛋白を形 成するが 、その際 EWSは 転 写因 子 の活 性 を 上昇 さ せる 可 能 性が 報 告されてい る。融合 蛋白EWS ‑ATF‑1でも ATF‑1の転 写 活性 がcAMPに は依 存 せずEWSに よっ て 上昇 さ せ られ て い る可 能性 が考えら れる。t(12;22)は明細胞肉腫に特異的でしかも腫瘍発生の初期から存在する染色体異常であ り 、それに よって生 じる融合蛋 白EWS ‑ATF‑1が明細胞肉腫発生に関わっていることは十分 考 えられる 。本細胞 株を用いる ことによ ってこの融合蛋白の機能、特に腫瘍原性に関する 役 割をさら に解明す ることが期 待される 。また、キメラ転写産物を検索するために用いた RT‑PCR法 は核 型 を検索す ることが 困難な固 形腫瘍の 相互転座を 検出する ために有 用な方 法 で あ り 、 今 後 、 骨 軟 部 腫 瘍 の 鑑 別 診 断 に 大 き な 役 割 を 果 た す と 考 え ら れ る 。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨
Establishment of a new continuous clear cell sarcoma cell line rvIorphological and cytogenetic characterization and detection of chimaeric E WS7A TF‑1 transcripts
( 明細胞肉 腫由来細胞株の樹立とその性状)
明細胞肉 腫は軟部 悪性黒色 腫とも呼 ばれ、若年成人の四肢に好発する稀な悪性腫瘍であ る。本腫 瘍の特徴 は、12番染 色体と22番 染色体の相互転座が検出されることである。転座 に よ り22番 染 色 体 上 のEWS遺 伝子 と12番 染 色 体上 のATF‑1遺 伝子 が 各 々切 断 され 、EWS の5 側とA TF‑1の3 側が融合しキメラ転写産物EWS ‑A TF―Jが生じる。EWS遺伝子はEwing 肉腫 に 見 られる22番 染色体の 転座の切断 点に存在 する遺伝 子であり 、N末端ド メインはC 末端 側 に 融合 す る転 写 因 子の 活 性 を促 進する ことが知 られてい る。ATF‑1はcAMP依 存性 の転 写 因 子である が、EWSとの 融合蛋白で は転写活 性に必要 なN末端側 ドメイン を失って いる。融 合蛋白は 腫瘍発生 に関与し ていると考えられるが、その機能を解析するための明 細胞肉腫 由来細胞 株は極め て少なく 、新しい細胞株が必要とされている。われわれは、明 細 胞 肉 腫 に 由 来 す る 細 胞 株 KAOを 樹 立 し 、 そ の 性 状 に つ い て 検 討 し た 。 本細胞株 は9才の女 子の左大 腿に発生 した軟部 腫瘍より樹 立された 。原発腫瘍にはメラ ニン顆粒 が認めら れ、電子 顕微鏡で もメラノ ソームが観 察された 。手術材料の一部を1% コラゲナーゼを用いた分散培養法でcollagen‑coated dishに初代培養し継代を続け、現在80 数代にい たってい る。樹立 した細胞 株は長紡錘型ないしはこん棒様の細胞が主体を占め、
多角 形 の 細胞 も 交え て 、 交錯 し つ つ増 殖 して い た 。倍 加 時間 は 約34時間で あった。 抗 vimentin、抗メラ ノーマ特 異抗体HMB45抗 体を用い た免疫染 色で陽性であった。電子顕微 鏡では異 常なメラ ノソーム が観察さ れた。腫瘍細胞はヌードマウスの皮下に容易に腫瘍を 形成し、 その組織 像は原発 腫瘍のそ れと同様であった。腫瘍細胞の染色体標本では多数の マーカー 染色体が みられた が、12番と22番染色体の相互転座は、検索したすべての分裂像 に存 在 し た。EWS、ATF‑1の塩 基 配 列に 一致す るprimerを用い たRT‑PCRでは、 約950塩基 対 のPCR産 物 を 生 じ 、 塩 基 配 列 はEWS遺 伝 子 のexon8とATF‑1遺 伝 子 のコ ド ン65が 融合 したもの であった。本細胞株を用いることによって融合蛋白EWS ‑ATF‐1の機能、特に腫瘍 原性に関する役割をさらに解明することが期待される。
また、キ メラ転写 産物を検 索するた めに用い たRT・PCR法は核 型を検索することが困難 な固形腫 瘍の相互 転座を検 出するた めに有用な方法である。現在までに92例の骨軟部腫瘍 を検索し、明細胞肉腫3例、Ewing肉腫を含めたperipheral primitive neuroectodermal tumor
(pPNET)14例 、滑 膜 肉腫14例、 蜂 巣 状横 紋 筋肉 腫2例 、 計33例の 遺 伝子診断 が可能で あっ た 。 明細 胞 肉腫 で は 上記 の キ メラ 転 写産 物 に 加え 、EWS exon7とATF‐Jコ ドン110
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敬志 郎 清和 木田 嶋 吉金 長 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
が融合した新しい転写産物が確認された。また、原発巣が自然消退した皮膚原発悪性黒色 腫の転移巣ではキメラ転写産物が生じておらず、明細胞肉腫との鑑別が可能であった。リ ンバ腫などとの鑑別を要したlarge cell typeのEwing肉腫にもキメラ転写産物EWS‑FLI1が 確認され、確定診断が可能であった。骨原発の滑膜肉腫の存在がキメラ転写産物Sy T‑SSX の存在により明かとなった。
学位申請者平賀博明の学位論文公開発表は、平成10年2月4日午前10時50分より医学 部臨床大講堂において行われた。
主査吉木敬教授から紹介があった後、申請者はスライドを用い約15分にわたって学位論 文内容の発表を行った。その後、長嶋和郎教授より明細胞肉腫におけるメラニン産生の機 序、腫瘍組織あるいは患者の血清における融合蛋白同定の可能性、腫瘍のキメラ遺伝子 knock outによるrevertの可能性、金田清志教授からは腫瘍の遺伝子診断の普遍性、融合遺 伝子の導入による組織型に一致した表現型の発現について、吉木敬教授からは、明細胞肉 腫由来細胞株が希有である理由、当該腫瘍を発生した患者の遺伝子異常の背景、明細胞肉 腫の発生母地、細胞株の長期継代による表現型の変化の有無、明細胞肉腫における他の癌 遺伝子、癌抑制遺伝子の変異の有無について質問があった。いずれの質問に対しても、申 請者は概ね適切な回答を行った。質疑応答の時間は約15分であった。なお、出席者はおよ そ15名であった。
以上、本研究は樹立した細胞株KAOが原発の明細胞肉腫の性格を有し、キメラ転写産物 EWS‑ATF‑Iが発現されていることを明らかにしたものである。さらに対象を発展させ、数 種類の肉腫に関しても、RT‑PCRを用いた遺伝子診断の実例とその有用性を示し、骨軟部 腫瘍診断に非常に貢献した。よって、審査員一同は申請者が博士(医学)の学位を受ける のに十分な資格を有するものと判定した。