課題無関連情報として呈示される他者の身体的魅力 に対する注意資源配分
著者 伏田 幸平
URL http://hdl.handle.net/10236/00029082
- 1 -
論 文 内 容 の 要 旨
身体的魅力は観察者の注意に様々な影響を及ぼすことが知られている。本博士論文では課題遂行に必要で はない情報(課題無関連情報)として呈示される他者の身体的魅力が異性愛者の注意資源配分にどのように 影響するのかについて検討した。これを検討するために、事象関連脳電位(ERP)を指標とした心理実験を 行った。
第1章では先行研究の結果に基づき身体的魅力の定義を行った。また注意、特に内発的・外発的注意の違 いや注意資源に関して概説した。これに続き、注意の指標となる ERP の概説を行い、身体的魅力に対する 内発的・外発的注意に関する先行研究を概説した。先行研究の結果から、異性の高い身体的魅力のみが異性 愛者の注意を捕捉する可能性を論じ、本研究の仮説と結果の予測を述べた。
第2章(実験1)では課題無関連情報として呈示される異性の身体的魅力が観察者の注意資源配分にどの 様に影響するかを検討するため、3カテゴリオッドボールパラダイムを用いて、ヒトと家画像の弁別課題を 実施した。異性愛者の被験者に家と異性画像をランダム順で呈示し、低頻度で呈示される家画像に対して反 応を求めた。高・低魅力画像に関してはそれぞれ高もしくは低頻度で呈示されるように操作した。画像の呈 示頻度に関係なく画像呈示後約200 ms 以降で高魅力の画像は低魅力の画像よりも大きな陽性波を惹起した。
ただしこの結果は倒立画像では確認されなかった。つまり、高い身体的魅力のみが観察者の注意を捕捉し、
そこで得られた結果は画像の物理的特徴の影響を反映したものではないことが示された。続いて第3章(実 験2)では実験1の手続きを改変し、異性愛者に対して異性と同性画像を正立呈示した。その結果、画像呈 示後約200 ms 以降で生じる身体的魅力の差は異性画像のみで確認され、異性愛者の注意は異性の高い身体 的魅力によってのみ捕捉されることが確認された。
第4章(実験3)では身体的魅力を課題遂行に必要な情報(課題関連情報)として呈示し、実験1・2の 結果と比較した。実験では2カテゴリオッドボールパラダイムを用いて魅力弁別課題を実施した。異性愛者 の被験者には高・低魅力画像のどちらかを標的刺激として呈示した。その結果、画像の性別に関わらず非標 的刺激として呈示された高魅力の他者に対して陽性波の増大が確認され、実験1・2で確認された注意の捕 捉は課題無関連情報として呈示される異性の身体的魅力に対してのみ生じることが明らかになった。
第5章(実験4)では高・低魅力画像の呈示頻度を等頻度に設定し、ヒトと家の弁別課題を実施した。そ の結果、画像呈示後約200 ms 以降で高魅力の異性画像が大きな陽性波を惹起した。すなわち、異性の高い
氏 名
学 位 の 専 攻 分 野 の 名 称 学 位 記 番 号 学位授与の要件 学位授与年月日 学 位 論 文 題 目
論 文 審 査 委 員 (主査)
(副査)
伏 田 幸 平
課題無関連情報として呈示される他者の身体的魅力に対する注意 資源配分
博 士(心理学)
甲文第198号(文部科学省への報告番号甲第711号)
学位規則第4条第1項該当 2020年2月28日
片 山 順 一 大 竹 恵 子
教 授 教 授
武 田 裕 司
(国立研究開発法人産業技術総合研究所研究チーム長)- 2 -
身体的魅力は観察者にとって顕著な情報であり、彼らの注意を捕捉することが示された。ただし、画像呈示 後約500 ms 以降では異性・同性画像において身体的魅力の差が確認され、高魅力の他者に対する持続的注 意が確認された。
第6章(実験5)では眼球運動を伴う事態でも身体的魅力に対する注意を反映する神経指標として眼球停 留関連脳電位(EFRP)に焦点を当てた。これは眼球停留開始時をオンセットにした ERP である。実験5 では実験2の課題を視線移動を行わなければ遂行できない課題に改変した。その結果、実験2の結果と類似 した結果が確認され、EFRP が身体的魅力に対する注意の指標になることが確認された。この結果を受けて、
第7章(実験6)では、動画刺激を使用して身体的魅力に対する注意資源配分を検討した。異性愛者の被験 者には高・低魅力の異性・同性動画を視聴させ、その際に身体的魅力が課題無関連情報になるような課題を 実施した。その結果、EFRP のラムダ反応は高魅力の異性動画を見ている時の方が低魅力の異性動画を見て いる時よりも大きく、注意資源がトップダウンの影響を受けて高魅力の異性に多く投入されることが確認さ れた。
第8章では実験結果を総括し、課題無関連情報として呈示される身体的魅力に対する注意資源配分に関す る議論を行った。本研究ではたとえ身体的魅力が課題無関連情報であったとしても、異性愛者の注意を捕捉 することを明らかにした。資源は異性のそれに対して多く配分され、同性のそれには配分されないことを明 らかにした。またそれに対する注意資源配分は刺激の呈示頻度・方法によって異なるメカニズムが存在する ことが示唆された。
論 文 審 査 結 果 の 要 旨
我々にとって重要な情報は自動的に我々の注意を引き付ける。これは蛇や蜘蛛といった生存を脅かす可能 性のある危険信号はもとより、空腹時の食物等、報酬となり得るポジティブな刺激であっても同様である。
では、身体的魅力、すなわち、顔や体の身体的特徴の魅力は我々の注意を引き付けるのだろうか? 伏田幸 平氏は、本学文学研究科博士課程後期課程入学時から一貫して身体的魅力が我々の注意の及ぼす効果を検討 してきた。特に、課題遂行に必要でない情報(課題無関連情報)に対する脳の反応を検討可能で、かつ時間 分解能に優れた事象関連脳電位(event-related brain potential: ERP)を指標とした多くの実験を系統的に 地道に積み上げることにより、たとえ身体的魅力が課題無関連情報であったとしても、異性愛者の注意を捕 捉することを明確に示した。
本博士論文は8章で構成される。まず第1章では、身体的魅力の定義、注意、ERP の概説に加えて、身 体的魅力に対する内発的・外発的注意に関する先行研究を概説し、身体的魅力が課題遂行に必要な情報(関 連関連情報)であるときには観察者の注意を引き付けるが、これが課題無関連情報であるときに注意を引き 付けるかどうかは統一見解がないことが示された。
続く第2~7章では6つの実験研究が報告されている。第2章(実験1)ではヒトの顔画像が経時的に呈 示される刺激系列に時々呈示される家の画像を検出する課題を課し、顔画像は高魅力・低魅力画像がそれぞ れ高頻度・低頻度、あるいは低頻度・高頻度で呈示された。結果、呈示頻度に関わらず高魅力顔が注意を引 き付けることが示された。さらに、これらの画像を倒立呈示した系列ではこの効果が見られなかったことか ら、得られた魅力の効果は刺激画像の物理的特徴を反映するものではないことを確認した。続く第3章(実 験2)では、異性愛者に対して異性画像と同性画像の系列を呈示したところ、異性の高魅力画像のみが注意 を引くことが示された。
第4章(実験3)では、身体的魅力を課題関連情報とするために、異性愛者に画像の高魅力・低魅力の弁 別を行わせた。その結果、画像の性別に関わらず高魅力画像が注意を引くことが示され、実験1、2で示さ
- 3 -
れた異性画像への注意捕捉は身体的魅力が課題無関連の時のみ生じることが示された。
第5章(実験4)では、実験1・2と同様、顔画像中に低頻度で呈示される家画像の検出を行わせたが、
顔画像の高魅力・低魅力の呈示確率を等しくした。結果として、刺激呈示後200-400 ms の早期の段階では 異性の高魅力画像のみが注意を引くが、続く400-600 ms の後期の段階では、同性・異性刺激とも高魅力画 像が持続的な注意を引くことが示された。
ここまでの実験では、被験者は画面の中央に視線を固定し、そこに刺激を呈示していたが、続く第6章(実 験5)及び第7章(実験6)では、より日常場面に近づけるため、自由に視線を動かすことのできる実験事 態での検討を行った。その際、指標として、自由な眼球運動事態での ERP である眼球停留関連脳電位(eye- fixation-related brain potential: EFRP)を指標として用いた。まず第6章(実験5)では、刺激を画面の3ヶ 所に順次呈示し、眼球運動を行いつつ顔画像の中から家画像の検出を行わせた。その結果、実験2と同様 の結果が得られ、眼球運動を伴う事態において魅力が注意に及ぼす効果を検討するための指標として EFRP が有用であることが示された。
さらに第7章(実験6)では、高魅力・低魅力の人物が登場する動画を観察させているときの EFRP を 検討した。その結果、魅力の高低は課題無関連であったにも関わらず異性の高魅力動画に対してより注意を 向けていたことが示された。
第8章では、これらの実験結果を総括している。一連の実験結果は課題無関連情報として呈示される異性 の高い身体的魅力は異性愛者の注意を引き付けることを明確に示していることを確認し、さらに、この注意 資源配分のメカニズムについて論じている。
本博士論文において伏田氏は、指標とした ERP および EFRP の特性を十分に活かした実験パラダイムを 用いた実験を一つ一つ丁寧に積み上げることによって、たとえ課題遂行には必要なくとも、高い身体的魅力 は我々の注意を捕捉することを明確に示した。本論文では、一貫して身体的魅力が注意に及ぼす影響に焦点 を当ててきた。しかし、この注意への影響から身体的魅力とは何か、あるいはそのメカニズムの解明に迫る にはさらにいくつかのステップが必要であり、これらは氏の今後の課題であろう。他方、ERP・EFRP を指 標として注意捕捉を検討するここでの実験手法は、魅力以外にも、直接評価することが難しい心理過程を探 求することを可能にし、今後の研究の発展が期待されよう。
以上、本論文審査委員3名は論文を慎重に審査し、また2020年1月27日に実施した公開発表会および口頭 試問の結果から判断して、伏田幸平氏が博士(心理学)の学位を授与されるにふさわしいとの結論に達しま したのでここに報告いたします。