博 士 ( 工 学 ) 納 谷 昌 之
学 位 論 文 題 名
近 接 場 光 に よ る 超 高 空 間 分 解 能 イ メ ー ジ ン グ に 関 す る 研 究 学 位 論 文 内 容 の 要 旨
近接 場光 学は 、従 来より用 いられてきた伝搬光の常識を打ち破る新しい概念である 。その特 徴は、回折限界の制限を受けず、しかも、物 質との相互作用が強いという性質を有するという ことである。近接場光を用いる技術はナノフ ォトニクスと呼ばれ、計測、記録、加工など、多 くの分野への波及が期待されている。その範 囲は3次元的な微小領域で発 生するいわゆる「純 粋な」近接場光のみではなく、全反射で生じ るエバネッセント光や、金属で生じるプラズモン なども含んだ大きな領域となり、産業的にも 重要な技術となりつっある。このような研究開発 に際し、実際には、近接場光の性質自体も十 分に解明されていないこと、近接場光をハンドリ ングする技術が、いまだ未熟であること.などから、さまざまな課題が横たわっていることも事 実である。本研究の目的は、今後、必須の技 術になると予測されるナノフォトニクスの実用化 のための課題を探り、そして、新しい技術構 築を行うことである。企業で研究を行っている筆 者の立場から、ナノフォトニクスの領域として、「純粋な近接場光学」に限定せず、より実用性 の高い、エバネッセント光や表面プラズモン を含む広い範囲を想定した。それらの技術におい て @ 物 質 との 強 い相 互作 用、 ◎回 折限 界の 影響 を受 けな い超 高分 解能 性 を2つの 重要 な性 質として位置付け、それに関する基礎、応用 研究をおこなづた。
本 論 文 は11章 で 構 成 さ れ る 。 第1章 で 序論 、第2章で ナノ フォ トニ クス の原 理を 述べ る。
第3章 が物 質と の強 い相 互作 用性 に関 する 研究 、第4章か ら第10章 が回 折限界の影 響を受け ない超高分解能性に関する研究の報告である 。そして、第11章で本研究全体の結論を述べる。
以下に、それぞれの章の概要を述べる。
第1章 で は 、 本 研 究 の 背 景 、 歴 史 的 経 緯 そ し て 研 究 の 意 義 な ど に っ い て 述 べ る 。 第2章では、本研 究の根幹を成す近接場光(エバネッセント光、表面プラ ズモン、近接場光)
の 発 生 原 理 に つ い て 説 明 す る 。 以 下 に そ れ ぞ れ の 研 究 の 概 要 を 示 す 。 第3章 で は 、 物 質 と の 強 い 相 互 作 用 を 利用 する ナノ フォ トぅ クス 応用 技 術で あるSPRセン サの高性能化について述べる。金属薄膜で生 じる表面プラズモン共鳴を用いるセンシングの高 S/N化や、高スル ープット化を研究のターゲットとし、新たに開発した角 度差分方式および波 長安 定化 レー ザの 導入によ り、従来よりも1桁以上高いS/Nを実現した。さらに、プ リズム一 体成型チップを開発し、高スループット化と いう観点で、世の中で求められる性能を満たすこ とができる技術の可能性を示した。
第4章 では 、本 技術 の根 幹で ある 近接 場光 学顕 微鏡について原理、制御法などの説 明をおこ なう。
第5章 では 、Cモー ド近 接場 光学 顕 微鏡 によ るバ イオ サン プル の観 測に ついて述べ る。人工 的に 作製 が難 しい2 4nmで安 定形 状の サン プル を天然から得て、近接場光の特性に 関する研 究を行った結果について述べる。本研究では 、プローブを単なる近接場アンテナとしてだけで は な く 、 近 接 場 光 一 伝 搬 光 変 換 を す るシ ス テム とし て考 えた こと に大 きな 意義 があ る。
第6章 では 、Cモー ド近 接場 光学 顕 微鏡 によ る液 中バ イオ サン プル の観 測について の研究結
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果を述べる。本研究では、液中のサンプルを光フイー ドバック制御を用いるCモード近接場光 学顕 微鏡 によ って 光学 的に 観測 する 手法 を開 発し 、 液中 観測 が可 能であることを示した。
第7章で はIモ ード 近接 場光 学顕 微鏡 によ る銀 塩結 晶 の観 測に 関す る研究結果を述べる。基 板上に分散した銀塩結晶の観測実験Iにより、Iモード の近接場光学顕微鏡で得られる画像が、
サンプル―プローブ間距離制御に用いられるシェアフ オース制御に大きく影響をうけ、アーチ ファクトが発生することを示した。さらに、微小部の 散乱などが画像に与える影響について考 察した。
第8章Iモ ード 近接 場光 学顕 微鏡 によ る銀 塩結 晶上 色 素の 螢光 観測 について報告する。銀塩 結晶上に分布する色素の螢光を、回折限界以下の分解 能で観測することに成功した。この測定 によ り、 銀塩 結晶上に分布していても、螢光を 発する部分が限られていることがわかった。
第9章で は発 螢光 色素 を用 いる 光記 録に つい て述べる。筆者らは、光照射によって非螢光 体 から蛍光体に変化する物質を発見した。この物質を用いて近接場光記録再生の実験をおこない、
回折限界以 下の寸法での螢光パターン記録に成功した。
第10章 では 、近 接場 光 リソ グラ フィ に関 する 研究 結果 につ いて 報告 する。マスクを用い る 一括露光型 近接場光リソグラフィに2層 レジストプロセスを導入し、高アスベクトのパターン を得ること に世界で初めて成功した。この章では、実験とともに、数値シミュレーションで得 たいくっか の課題について述べる。これらの実験、シミュレーションにより、実用上、非常に 重要である 、マスク形状、レジスト膜厚、偏光特性と得られるパターンとの相間関係を明らか にした。
第11章では 、本論文全体の結論を述べる。
本 研究 で新 たに 明 らかになった、もしくは新た に実現した結果のうち、主なものは以下のと おりであ る。
(1)金属薄膜で生じる表面プラズ モン共鳴を用いるセンシングにおいて、新たに開発した 角度差分 方式および波長安定化レーザの導入により、従来よりも1桁以上高いS/Nを実現した。
さらに、 プリズム一体成型チップを開発し、高スループット化という観点で、世の中で求めら れる性能 を満たすことができる技術の可能性を示した。
(2)近接場光学顕微鏡で得られる 画像に対するプローブ形状、サンプル―プローブ間距離、
偏光の影 響、プローブ制御法によるアーチファクトの影響を、実験的に観測し、その原理を説 明した。
(3) 光フ イー ドバ ックを用いるCモード近接 場光学顕微鏡によって、液中のバイオサンプ ルを破壊 することなく観測できるとことを示した。
(4)2層 レジ ス トを用いる近接場光リソグラ フィにより、高分解能かつ高アスペクト比の パターニ ングに成功し、この手法が実用的に利用可能であることを示した。さらに、この研究 を通して 、近接場光の面露光においては、近接場光を発生するマスクの周期や被加工物(レジ スト)の 膜厚などに依存する多重反射干渉の影響が強いことを、実験およびシミュレーション で示した 。特に、高屈折率基板界面では、伝搬光で生じるウィナー干渉の影響が大きいことを 予測した 。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
近接場光による超高空間分解能イメージングに関する研究
近接場光の特徴は、回折限界の制限を受けず、しかも、物質との相互作用が強いという ことである。ナノフォトニクスと称される近接場光を用いる研究は、計測、記録、加工な ど 多くの 技術分野への波及が期待されている。その範囲は3次元的な微小領域で発生する いわゆる 純粋な 近接場光のみではなく、全反射で生じるエバネッセント光や、金属で 生じるプラズモンなども含んだ大きな領域となり、産業的にも重要な技術となりつっある。
しかし、実際には、近接場光の性質自体も十分に解明されていなぃこと、近接場光をハン ドリングする技術がいまだ未熟であることなどから、さまざまな課題が横たわっている。
本研究は、ナノフォトニクスの実用化のための課題を探りながら、新しい技術構築を行う ことを目的としている。
本論文は11の章で構成されている。
第1章 では、本研究の背景、歴史的経緯そして研究の意義などにつ〜ヽて述べている。
第2章では、近接場光(エバネッセント光、表面プラズモン、近接場光)の発生原理につい て説明している。
第3章 では、物質との強い相互作用を利用するナノフォトニクス応用技術である表面プ ラズモン共鳴センサの高性能化について述べている。金属薄膜で生じる表面プラズモン共 鳴 を用い るセンシングの高S/N化や、高スループット化をターゲットとし、新たに開発し た角度差分方式および波長安定化レーザの導入により、従来より.も1桁以上高いS/Nを実 現している。
第 4章 で は 、 近 接 場 光 学 顕 微 鏡 の 原 理 、 制 御 法 な ど の 説 明 を 行 っ て い る 。 第5章 では、コレクションモード(Cモード)近接場光学顕微鏡によるバイオサンプルの 観測について述べている。ここでは、プローブを単なる近接場アンテナとしてだけではな く、近接場光―伝搬光変換をするシステムとして考えている。
第6章では、Cモード近接場光学顕微鏡による液中バイオサンプルの観測について述べて い る。液 中のサンプルを光フイードバック制御を用いるCモード近接場光学顕微鏡によっ て 光 学 的 に 観 測 す る 手 法 を 開 発 し 、 液 中 観 測 が 可 能 で あ る こ と を 示 し て い る 。
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直 幹
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馬 山
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授 授
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教 教
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査 査
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主 副
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第7章では、イルミネーションモード(Iモード)近接場光学顕微鏡による銀塩結晶の観 測結果を述べている。基板上に分散した銀塩結晶の観測実験により、Iモードの近接場光学 顕微鏡で得られる画像が、サンプループローブ間距離制御に用いられるシェアフオース制 御に大きく影響をうけ、アーチファクトが発生することを示している。さらに、微小部の 散乱などが画像に与える影響について考察している。
第8章では、Iモード近接場光学頭微鏡による銀塩結晶上色素の螢光観測について述べて いる。銀塩結晶上に分布する色素の螢光を、回折限界以下の分解能で観測することに成功 している。
第9章では、発螢光色素を用いる光記録について述べている。著者らは、光照射によっ て非螢光体から蛍光体に変化する物質を発見している。この物質を用いて近接場光記録再 生 の実 験 を おこ な ぃ 、 回折 限 界 以下 の 寸 法で の 螢光 パター ン記録に 成功して いる。
第10章 では、近 接場光 リソグラフィに関する研究結果について述べている。マスクを 用いる一括露光型近接場光リソグラフィに2層レジストプロセスを導入し、高アスペクト のパターンを得ることに世界で初めて成功している。実験およびシミュレーションにより、
マスク 形状、 レジスト 膜厚、 偏光特性と得られるパターンとの相関関係を調べている。
第11章は、論文全体の結論となっている。
これを要するに、著者は(1)金属薄膜で生じる表面プラズモン共鳴を用いるセンシン グにおいて、新たに開発した角度差分方式および波長安定化レーザの導入により、従来よ りも1桁以上高いS/Nを実現した。(2)近接場光学顕微鏡で得られる画像に対するプロー ブ形状、サンプル―プローブ間距離、偏光の影響、プローブ制御法によるアーチファクト の影響を、実験的に観測してその原理を説明した。(3)光フイードバックを用いるCモー ド近接場光学顕微鏡によって、液中のバイオサンプルを破壊することなく観測できるとこ とを示した。(4)2層レジストを用いる近接場光リソグラフィにより、高分解能かっ高ア スペクト比のパターニングに成功し、この手法が実用的に利用可能であることを示し、近 接場光の面露光においては、近接場光を発生するマスクの周期や被加工物(レジスト)の 膜厚などに依存する多重反射干渉の影響が強いことを、実験およびシミュレーションで示 した。
本研究によって得た知見はフォトニクス、応用物理学の発展に寄与するところ大なるも のがある。よって著者は、北海道大学博士(工学)の学位を授与される資格あるものと認 める。
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