立体映像の視差量操作による選好判断と視覚特性
Preference and visual characteristics of represented position of stereoscopic images
1W100407-9 平賀 大貴 指導教員 河合 隆史 教授
HIRAGA Daiki Prof. KAWAI Takashi
概要: 本研究は、3D映像視聴時におけるヒトの認知特性について、選好判断への影響と眼球運動の関係性について考察 し、視線のカスケード現象が生じているかどうかを検討したものである。視線のカスケーディング現象とは、ヒトが好ま しいと感じた対象に視線が自然と向けられ、注視時間が長くなるという心理的側面からみた眼球の運動の特性である。本 研究では、-2.5度、-0.5度、0.5度の3つの視差条件において、無意味図形を使用し、一対比較の選好判断をタスクとして 実験を行った。その中で注視時間や注視回数を測定し、選好度との比較を行った。実験の結果、交差性方向の刺激ほど選 好率が高くなり、さらに注視時間や注視回数の増加は選好度の上昇と対応しているということが明らかとなった。このこ とから、交差性視差を与えた刺激に視線が向けられ、好ましいと判断する傾向があり、視線のカスケード現象が発生して いるということが判断できた。
キーワード:3D映像、視差、眼球運動、無意味図形、選好判断、視線のカスケード現象 Keywords: 3D imeges, disparity, eye movement, novel shape, preference, gaze cascade
1. はじめに
近年、3 D 映像視聴時における認知的な影響を検 討する事例が増加している。その一例に、局所 3D の誘目性に関する研究 1 や交差性視差の付加が選好 されやすいといった研究2がある。またShimojo ら の研究では、視線が向いた対象に注視時間が長くな ることで、その対象を好ましいと判断してしまう視 線のカスケード現象という眼球の特性について考察 している3。本研究では3D映像が持つ誘目性の観点 に着目し、3D映像視聴時における選好判断と眼球運 動の関係性を検討した。その中で視線のカスケード 現象の発生の有無についても考察した。
2. 実験方法
3D 映像視聴時における選好判断と眼球運動の特 性を検討するために一対比較の選好判断実験を行っ た。実験は暗室で行い、24インチ偏光ディスプレイ を視距離 60 センチの位置で参加者に観察してもら った。映像刺激の各刺激間には、真ん中に十字の入 った映像を挟み、前の刺激を見ていた際に動いた視
線の影響を排除した。刺激は画面の左右に表示され、
好ましいと感じた方を直感で選択するものであった。
視差条件は交差性視差-0.5 度、非交差性視差 0.5 度、交差性視差を極度に大きくした-2.5度の 3条件 とした。刺激として用いた無意味図形は 8 種類です べての刺激に対し、各視差条件を付加したので総試 行回数は 384試行となった。実験は参加者の負担も 考慮し、64試行×6セットで行った。
眼球運動測定については EMR-9 を使用し注視時 間、注視回数を測定した。また実験後は立体感と選 好に至った理由に関するアンケート調査を行った。
参加者は正常な視機能を持つ男女22名であった。
図1 実験環境
3. 結果
一対比較により得られた選好率から各視差条件に 対する尺度値をヤードスティックの数直線上に示し
た(図2)。その結果、-2.5度が最も好まれ、次いで-0.5
度、0.5度という順で選好された。また各尺度値間の 差とスチューデント化された値(Yα)を比較した結果
-2.5度と0.5度の間に1%水準で有意差が認められた。
また、0.5度と-0.5度との間、-0.5度と-2.5度の間に も有意傾向が出た。
図2 各視差条件に対するヤードスティック値
さらに、各視差条件別に注視時間、注視回数の平 均を算出した(図3)。そして視差条件を要因とする一 元配置の分散分析を行った結果、主効果が認められ、
下位検定により、各視差条件間に1%水準の有意差が 見られた。注視回数においても同様に各視差条件の
間で1%水準の有意差が認められた。
図3 注視時間
また、事後アンケートからは「つい手前方向のも のを選んでしまった」、「手前方向を反射的に見てし まった」といった回答が得られた。このことから交 差性視差に自然に視線が誘導されることが示唆され た。
4. 考察
実験の結果、ヒトは交差性方向の視差を好ましい と判断し、非交差性方向に進むにつれて好ましくな いと判断する傾向が示唆された。また注視時間、注 視回数ともに交差性方向の刺激ほど高くなるという 結果が得られた。このことから、注視時間や注視回 数の増加は選好度の上昇に対応するという傾向が判 断された。したがって、ヒトは 3D 映像視聴時に交 差性方向に視線が自然に誘導され、注視時間、注視 回数が増加し、好ましいと判断する認知的な特性が あるということが明らかとなった。また注視時間、
注視回数の増加が選好度の増加に対応していること から、視線のカスケード現象も発生していると判断 された。
今回-2.5 度という過度な交差性視差がもっとも好 まれるという結果が得られたがこれはヒトの眼球に おける融像時間が関係したと考えられた。視差の絶 対値量が大きくなるほど、融像に時間はかかる。そ のため輻湊と調節の不一致が生じ、注視時間が増加 してしまい、参加者の意識に上った可能性が考えら れた。今後は、融像時間も考慮した視差量操作と選 好判断の関係性を取り上げ、最適視差の検討を行い たい。また、今回得られた基礎的な知見をもとに広 告分野や教育分野といった実用的なコンテンツへの 応用へと発展させていきたい。
参考文献:
[1] 小井土 慶久, 河合 隆史, “局所立体映像表現の認知 的特性の評価”,人間工学, vol.46, pp252-253 , 2010 [2] 平賀 大貴, 河合 隆史, 盛川 浩志, 三家 礼子, 渡邊
克己, "立体指標に対する視差量操作と選好判断", 人 間工学, Vol.49, pp.36-37 , 2013
[3] Shinsuke shimojo, Claudiu Simion,Eiko Shimojo,Chiristian Scheier, " Gaze bias both reflects and influences preference", Nature Neuroscience,2003