立体映像の高覚醒度表現と時間知覚
High-arousal representation of stereoscopic image and time perception
1W120486-6 堀内 將 指導教員 河合 隆史 教授
HORIUCHI Masashi Prof. KAWAI Takashi
概要:近年、立体映像が観察者の情緒や時間知覚に及ぼす影響について研究が行われ、立体映像の視差操作によって覚醒度が 増進し、またそれに伴い観察者の内的時間感覚が加速し、評価時間が延長することが確認された。そこで、本研究では先行研 究において実験刺激として用いられたIAPS画像群を「より感情の生起を意図した動画コンテンツ」へ、また実験環境を「覚 醒度の増進を意図したマルチディスプレイでの呈示」に変更し、立体映像をより高覚醒度を喚起する条件で呈示した際の覚醒 度、時間知覚への影響を、SAMシート、評価時間を用いて実験的検討を行った。検討の結果、感情の生起を意図した動画コン テンツとマルチディスプレイを用いて3D映像を視聴すると、覚醒度が増幅することが分かり、また特定の呈示時間において のみ評価時間が延長し時間知覚への影響が確認された。このことから、動画コンテンツを要因とした場合には3D映像による 要因が時間知覚への影響を及ぼすのに必要な条件をより検討する必要があることが分かった。
キーワード:3D映像、感情増幅、動画、マルチディスプレイ、覚醒度、時間知覚
Keywords: stereoscopic, emotional enhancement, motion picture, multi-display, arousal, time perception
1.はじめに
立体映像と情緒反応に関する先行研究では、視差操作、
すなわち 3D の空間範囲の拡大によって視聴者の覚醒 度に直接的な影響を及ぼすことが示された
[1]。また、
覚醒度の高い画像を観察すると評価時間が延長する、
つまり観察者の内的時間感覚が加速するという知見を もとに、立体映像と時間知覚との関連についての研究 が行われた
[2]。その結果、高い覚醒度を誘発する IAPS 画像刺激を 3D で視聴した際に評価時間の延長が確認 され、また意図的な視差操作を加えた 3D 画像を用い ることで時間知覚により大きな影響を及ぼすことが確 認された。本研究では、実験刺激を先行研究で用いた IAPS 画像刺激から、より視聴者の「感情の生起を意図 した動画コンテンツ」に、また実験環境も「覚醒度の 増進を意図したマルチディスプレイでの呈示」に変更 し、視差操作だけでなく実験条件全体に覚醒度を増進 する傾向を付加した場合、視聴者の覚醒度、時間知覚 への影響を検討することで、立体映像の効果的な利用 方法について新たな知見を得ることを目的とした。
2. 評価実験 1:覚醒度への影響 2.1 実験方法
実験刺激として、ひとつは恐怖感情を喚起し、覚醒 度を上昇させることを目的とした刺激として「車の接
近動画」 (Active 刺激、視差:0.99〜-2.19)を、もう ひとつはリラックス状態を喚起する刺激として「箱根 の湖、風景動画」 (Relax 刺激、視差:2.43〜-1.14)
を使用した。
実験参加者は正常な視機能を有する 21-23 歳の大学 生 15 名とした。実験刺激は上述の刺激を使用し、
BrightSign を用いて 49 インチディスプレイを縦に 3 枚並べたマルチディスプレイ(以下、マルチと呼称す る)に呈示した。視距離は約
1200mm であった。感情の主観評価には SAM
[3]を用いた。実験条件は 2 種類の刺激に 以下の 4 条件を設け、計 10 種類の刺激を作成した。
表 2 実験条件
呈示条件 呈示環境 呈示時間(ms) 条件 1 2D マルチ 1000
条件 2 3D マルチ 1000、2000、3000 条件 3 3D 27 インチ 1000
図 1 実験の様子(左:設計図、右:実験環境)
2 それらをランダムに並び替え、1 セット 20 試行 SAM に よる評価を行った。セットの流れを以下に示す。基本 的に 3 面モニターのセンターディスプレイに表示され る指示に従い進める。指示はキャリブレーション画像
「+」→刺激呈示→「SAM を記入してください」の順 に表示され、被験者はこれを繰り返し計 20 回、刺激ご とに SAM を評価する。
2.2 実験結果
2 要因の分散分析、及び多重比較の結果、Active 刺 激の方が Relax 刺激より覚醒度を増進する傾向が示さ れた。また呈示条件を 3D、呈示環境をマルチディスプ レイにした方が、覚醒度が有意に高くなった。
図 2 時間条件結果
3.評価実験 2:時間知覚への影響 3.1 実験方法
実験参加者は、正常な視機能を有する 19-24 歳の大 学生 20 名とした。実験刺激は実験 1 と同じものを使用 し、実験環境は動画の呈示時間を評価するために SAM シートの代わりにテンキーを使用する以外は実験 1 と 同様にした。実験条件は実験刺激に表 3 に示した 2 条 件を設け、計 20 種類の刺激を作成した。ランダムに並 び替え 1 セット 20 試行、計 2 セット、テンキーを用い て呈示時間の主観評価を行なった。実験方法は SAM の 記入が呈示時間の入力に変わるが、それ以外は同様に した。
表 3 実験条件
呈示条件 呈示環境 呈示時間(ms)
条件 1 2D マルチ 1000,2000,3000,4000,5000 条件 2 3D マルチ 1000,2000,3000,4000,5000
3.2 実験結果
呈示時間と呈示条件の 2 要因の分散分析を行ったと ころ、有意差は確認されなかったが、呈示時間 3000ms において刺激と呈示条件に交互作用が確認され、単純 主効果の検定の結果、Active 刺激においてのみ 3D 表 示にすることで 2D 表示より評価時間が有意に長くな る傾向が確認された。
図 3 呈示時間(3000ms)結果
4.まとめ
本研究では刺激、実験環境に意図的に覚醒度を増進 する効果を加えることで立体映像による視差操作が覚 醒度、時間知覚に及ぼす影響について検討した。感情 喚起を意図した実験刺激とマルチディスプレイを用い た検討では、これらの実験条件下において視差操作を 行った場合、視聴者の覚醒度を上昇させることができ ることが分かった。一方で特定の時間条件においての み Active 刺激視聴時に評価時間の延長が認められた。
この事から今回の条件を付加した立体視は、覚醒度の 増進に非常に効果的な手法であることが明らかになっ たが、時間知覚に与える影響は小さいことが分かった。
本研究と過去の研究を合わせると、動画と静止画を 利用した際に、立体視の持つ特性は異なることが分か る。今後の課題として、3D をより効果的に扱う手法を 確立するため、別の映像刺激や環境を用いてさらに検 討があげられる。
参考文献
[1] 熱田大貴他: 立体視映像における感情喚起を促す視差設 計の検討, 人間工学, Vol.50, pp.272-273, 2014.
[2] 河合隆史“立体視画像による覚醒度の増進と時間知覚へ の影響,” Vol.51,2015.
[3] Sandrine Gil & Sylvie Droit-Volet: Emotional time distortions: The fundamental role of arousal, Cognition & Emotion, Vol.26(5), pp.847-862, 2012.