身体部位・映像の違いが触運動錯覚の誘発に与える影響に関する検討
The Haptics Illusion is varied by the differences of body parts and images
1W080317-6 田邊 慧子 指導教員 河合 隆史 教授
TANABE Keiko Prof. KAWAI Takashi
概要:視覚誘発型触運動錯覚(以下、触運動錯覚)とは、実際に触覚刺激を受けていなくても触覚 刺激を与えられているような映像を見ることで、 視覚情報に惑わされ脳が誤った判断をし、触覚 を感じるという錯覚である。本研究では、CG 映像・実写映像の映像呈示方法の違いによって生 じる触運動錯覚の比較、また手・腕・足の身体部位の違いによって生じる触運動錯覚の比較を行 なった。結果、手・腕・足において触運動錯覚は誘発され、部位による差はほとんど無いことが わかった。また、実写映像・CG 映像において触運動錯覚は誘発され、映像の違いによる差はほ とんど無いことがわかった。これらの結果により、触運動錯覚の応用の幅が広がり、VR 技術や リハビリテーション技術の発展、コンテンツの開発等に役立っていくと考えている。
キーワード:錯覚、触覚、3D、ハプティックインタフェース Keywords:Illusion, Haptics, 3D, HapticInterface
1.研究目的
近年、触運動錯覚を扱った研究が多くなされている が、ほとんどが手を対象とした研究であり、他の身体 部位を対象としたものは尐ない。本研究は、触運動錯 覚発生の要因を探るとともに、映像呈示方法の違いと 身体部位の違いによって生じる触運動錯覚の比較を目 的として、触運動錯覚の特性と強度について検討した。
これらの検討によって、触運動錯覚の応用の幅が広が り、VR 技術やリハビリテーション技術の発展、コン テンツの開発等に役立つと期待する。
本研究では、一つ目に、CG 映像と被験者の左手を 3D カメラで反転させた実写映像を比較し、触運動錯 覚に差があるか検討する。この比較の目的は、触運動 錯覚を応用していく際、CG を使うことが多くなると 考えられ、この際CG映像が実写映像と比べてどれほ ど通用するものであるか検証する点にある。
二つ目に、手の甲(以下、手)・腕・足の甲(以下、
足)の三つの部位を比較し、触運動錯覚が誘発される かどうかの検証、また誘発された場合どのような差が あるか検討する。この比較の目的は、触運動錯覚の応 用の幅を広げることにある。
2.実験 2-1実験条件
呈示部位、映像を要因として 3×2の条件を設定し た。呈示部位条件を比較することで、部位による差が わかり、映像条件を比較することで、呈示される映像 による差がわかると考えられる。また、触二点弁別閾 との相関を見ることで、個人差の要因を検討する。
2-2実験環境
鏡を用いたディスプレイシステムを用いて、被験者 の身体と重なるように、映像の身体を呈示した。身体 映像には、CGモデルと、3Dカメラによるリアルタイ ムの実写映像を用いた。作成した実験システムは、手・
腕用と足用の二パターン用意した。(図1)
図1実験システム 手・腕用(単位:mm)
触運動錯覚発生の手順は図 2・3で示す。参加者は 心身ともに健康な男性10名、女性2名の計12名で行 なった。主観評価として5件法を用いたアンケートを 使用した。アンケート後、思ったこと・感じたことを 口答でインタビューした。また、客観評価として触二 点弁別閾の値を測定した。
図2 実写映像条件での触運動錯覚発生の手順
図3 CG映像条件での触運動錯覚発生の手順
3.結果・考察
図4は、触運動錯覚が誘発された際に感じる刺激の 強さを「とても弱くなった」を評定点-2、「とても強く なった」を評定点2として集計したものである。図5 は、触運動錯覚が誘発された際に感じる刺激の幅を「と ても狭くなった」を評定点-2、「とても広くなった」を 評定点2として集計したものである。
図 4・5より、手・腕・足において触運動錯覚は誘 発され、部位の違いによる差はほとんど無いことがわ かった。誘発された触覚は、実際に触られている触覚 とは違うように感じるという人が多かった。一方で、
足において誘発された触覚のみ実際に触られている触 覚と似ていたと答えた人が多くいた。
実写映像・CG映像において触運動錯覚は誘発され、
映像の違いによる差はほとんど無いことがわかった。
錯覚を応用するコンテンツ制作において、CG 映像を 使用しても、錯覚の強度に影響しないことが示唆され た。
また、どの条件においても自分の身体を動く刺激の 強さは弱まり、刺激の幅は狭まっていることから、触 運動錯覚が誘発された際、刺激は弱まり、狭まる傾向 にあるといえる。これは、実際に与えている刺激は一 点のみであり、映像を見て受けていると考えられる刺 激よりも小さいため、刺激が弱く狭く感じられたと考 えられる。
左図4 刺激の強さに関する評価平均 右図5 刺激の幅に関する評価平均
触二点弁別閾の値は、錯覚誘発動作のどの結果とも 相関が低く、感覚の鋭さは錯覚誘発動作に影響を及ぼ すとは言えなかった。触運動錯覚発生における個人差 は、感覚の鋭さによるものではないと考えられる。
4.まとめ
今回の研究では、触運動錯覚発生における個人差の要 因を明らかにすることはできなかった。しかし、腕・
足といった手以外の部位でも触運動錯覚が誘発される ことがわかった。また映像呈示方法として、CG 映像 が実写映像と同等な効果があるということもわかった。
よって、CG 映像を用いた様々な部位のコンテンツ展 開に希望があると考える。触運動錯覚の原理を用いて、
エンターテインメントやリハビリテーションの応用に 繋げていきたい。