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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 塩 野 隆 弘

学 位 論 文 題 名

圃場および広域レベルにおける野菜畑の 土壌侵食量推定に関する研究

学位論文内容の要旨

  日本では,1950年代以降に傾斜地の大規模畑地帯が造成されてきた.こうした畑作地帯 では,降雨―流出にともなう土壌侵食(水食)の危険性が大きい,土壌侵食は畑地の作土 を減少させて農地の生産性を低下させ,また,畑地から流出する侵食土砂は下流域の水環 境や動植物生態系に悪影響を与える.こうした畑地帯において持続的かつ環境に配慮した 農業生産を持続するためには,土壌侵食対策を実施することが求められる.土壌侵食対策 の設計・計画では,異なる時間・空間スケールにおける土壌侵食量の把握が必要である.

土壌侵食は,降雨,土壌,地形,植生等の因子に影響されるため,降雨ー流出の発生時期 や作物の生育ステージによって土壌侵食量は大きく変化する..このため,侵食防止作付体 系や侵食防止施設の諸元決定には,短期間の圃場レベルにおける土壌侵食量を把握する必 要がある.一方,対策が必要な地区の選定や対策方法の選定には,広域レベルにおける土 壌侵食量を把握する必要がある,

  そこで,本研究では,黒ボク土からなるキャベツ生産を主体とした高冷地の大規模な傾 斜畑地帯を対象に,短期間の圃場レベルにおける土壌侵食量および広域レベルでの土壌侵 食量の推定手法を提案することを目的とした.短期間の圃場レベルにおける土壌侵食量の 推定手法として,キャペツの生育の影響度を考慮した畝立て圃場における土壌侵食量推定 モデルを構築し,その有効性を検討した.また,広域レベルにおける土壌侵食量の推定手 法 として, 地理情報 システム(GIS)を援用した土壌侵食予測式(USLE)による土壌侵食 量の広域的推定手法を示し,USLEの係数値の決定方法について検討した.以下に,本研 究で得られた結果を示す.

1.キャベツ栽培条件下における畝部の土壌侵食レート式

  キャベツを植えた畝部の実物大模型に人工降雨を与える土壌侵食実験を行い,実験結果 に基づいて畝部の土壌侵食レ一卜式を構築した.また,本式を野外の自然降雨条件下にお ける畝部の土壌侵食観測結果にあてはめ,適用性を検討した.本式は,キャペツの生育の 影響度を考慮した畝立て圃場の土壌侵食量推定モデルを構成するサブモデルと位置づけら れる.人工降雨実験の結果から,畝部の土壌侵食形態は主として裸地領域に雨滴が衝突す ることによる雨滴侵食であり,キャペツの植被によって遮断される雨水が畝部の土壌侵食 に与える影響はみられないことが明らかとなった.畝部の上壌侵食レートは,降雨強度の ほぼ二乗に比例して増加し,畝の横断勾配の増加とともに直線的に増加し,キャベツの楢 被率の増加とともに直線的に減少することが分かった.これらの結果に基づき,降雨強度,

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土壌の受食性係数,畝の横断勾配,キャベツの植被率を変数とする畝部の土壌侵食レー卜 式を構築した.また,本式を野外条件に用いる場合は,時間間隔が5分間以下の平均降雨 強度を用いた場合に適用性が高いことが明らかとなった,

2.キャベツ栽培圃場を対象とした土壌侵食量推定モデル

  キャベツ栽培圃場内に裸地試験区およびキャベツ栽培試験区を設置して土壌侵食の現地 観測を行ない,キャベツ栽培圃場における畝部および畝間部の土壌侵食特性を把握した.

また,キャベツの生育の影響度を考慮した畝立て圃場の土壌侵食量推定モデルを構築し,

その有効性を検討した.畝立て圃場における土壌侵食は,畝部で発生する雨滴侵食と畝間 部を流れる表面流出水の土壌の剥離と侵食土砂の輸送によるものと推察された.キャベツ 栽培試験区の土壌侵食量は裸地試験区に比ぺて小さく,この結果は,両試験区の降雨―流 出特性の違い,キャベツ収穫前におけるキャベツの植生による畝部の土壌侵食量の軽減効 果,キャベツ収穫後における残滓が畝間部の土壌侵食過程におよぼす影響によるものと推 察された.キャベツの生育の影響度を考慮した畝立て圃場の土壌侵食量推定モデルは,表 面流出によって畝聞流路を移動する侵食土砂の連続式を基本式とし,前述の畝部の土壌侵 食レート式と畝間部の土壌侵食レー卜式より構成される,畝間部の土壌侵食レート式の一 部である畝間流れによる土壌の剥離レート式は,水路実験に基づいて決定した.このモデ ルを現地観測データに適用したところ,裸地試験区と収穫前のキャベツ栽培試験区での土 壌侵食量の実測値をよく、推定できた.しかし,収穫後のキャベツ栽培試験区での土壌侵食 量の推定値は実測値を大きく上回り,畝間部の土壌侵食に対する残滓の影響度を評価する 必要性が示唆された.

3.野菜畑地帯にお ける土壌侵食量の広域的推定手法

  野菜畑地帯における土壌侵食量の広域的推定手法として,GISを援用して圃場1筆ごと に土壌侵食量を推定する手法を示し,土壌侵食量の推定に用いるUSLEの地形係数,降雨 係数,土壌係数の決定方法を検討した.地形係数については,従来行われてきたメッシュ 単位による算定方法の問題点を指摘し,圃場1筆ごとに係数値を求めることが有効である ことを示した,また,各圃場の地形係数は,地形図より抽出した圃場の区画情報と地形情 報を用いることにより算出することができる.広域レベルにおける降雨係数の算出には,

アメダス10分間降雨データを用いることが有効であることを示した.長期間にわたる土壌 侵食の観測が必要な土壌係数の決定法については,沈砂池を含む農地造成団地での土砂堆 積量調査に基づく簡便な決定法を提示した.これらのUSLEの係数決定法を黒ボク土から なるキャベツ生産を主体とした傾斜野菜畑地帯(18x19km,圃場数11、544筆)に適用して,

各圃場の年平均土壌侵食量の推定結果ならびにその活用事例を示し,本手法の実用性を示 した.

  以上の研究結果から,キャベツ栽培圃場における畝立て直後から収穫時までの期間を対 象とした短期間の土壌侵食量推定モデルと,キャベツ生産を主体とした高冷地の大規模な 傾斜畑地帯の土壌侵食量の広域的推定手法が示された.これらは,キャベツ生産を主体と した高冷地の大規模な野菜地帯における,キャベツの生育ステージに応じた侵食防止対策 の実施,圃場末端の草生帯や沈砂池など侵食防止施設の設計諸元や管理方法の決定に貢献 する.また,畑地帯において侵食対策を必要とする地区の選定と対策手法の選択の検討に 貢献する.

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学位論文審査の要旨 主査    教授    矢沢正士 副査    教授    長澤徹明 副査   教授   長谷川周一 副査   教授   波多野隆介

学 位 論 文 題 名

圃場および広域レベルにおける野菜畑の 土壌侵食量推定に関する研究

  本 論 文 は5章 か ら な り , 図29, 表13, 参 考 文 献160を 含 む131ベ ー ジ の 和 文 論 文 で あ る. 他に 参考 論文7編が 添え られ てい る.

  日 本で は,1950年代 以降 に大 規模 な傾 斜野 菜 畑地 帯が 造成されてきた,このう ちキャベ ツ生 産を 主体 とし た畑 地帯 では ,労 働生 産性 の 向上 と病 害発生防止の観点から縦 畝栽培が 慣行 的に 行わ れて いる .縦 畝栽 培圃 場で は土 壌 侵食 (水 食)の危険度が高く,土 壌侵食に よる 作土 の減 少や 流域 環境 への 悪影 響が 懸念 さ れて いる .こうした畑地帯におい て持続的 かつ 環境 に配 慮し た農 業を 行う ため には ,土 壌 侵食 の対 策が不可欠である.土壌 侵食対策 の合 理的 な設 計・ 計画 には ,土 壌侵 食量 を正 確 に把 握す る必要があるー特に、作 物栽培期 間中 の営 農的 な対 策を 検討 する ため には ,作 物 の生 育状 況を踏まえた短期間の圃 場レベル での 土壌 侵食 量を 把握 する 必要 があ る, また , 対策 が必 要な地区の選定には広域 レベルで の土 壌侵食量を把握する必 要があり,これらが相まって土壌保全対策は有効なもの となる.

  本 研究 は, 黒ボ ク土 から なる キャ ベツ 生産 を 主体 とし た高冷地の大規模傾斜畑 地帯を対 象に ,短 期間 の圃 場レ ベル にお ける 土壌 侵食 量 およ び広 域レベルでの土壌侵食量 の推定手 法を 提案 する こと を目 的と して 行わ れた .

1. キャ ペツ 栽培 条 件下 にお ける 畝部 の土 壌侵 食レ ート 式

(1)キ ャベ ツを 植 栽し た畝 部の 実物 大模 型に 人工 降雨 を与 える 土壌 侵食 実 験を 行い ,侵 食 量 と 降 雨 強 度 , 畝 部 の 横 断 勾 配 , キ ャ ベ ツ の 植 被 率 と の 関 係 を 検 討 し た .

(2)人 工降 雨実 験 で観 察さ れた 畝部 の土 壌侵 食は 主と して 雨滴 侵食 であ り ,そ の土 壌侵 食レ ート は降 雨強 度の 二乗 にほ ぼ比 例し た. ま た, 侵食 レー卜は,畝の横断勾配 の増加と と も に 直 線 的 に 増 加 し , 植 被 率 の 増 加 と と も に 直 線 的 に 減 少 し た .

(3)以 上の 実験 結 果に 基づ き, 降雨 強度 ,土 壌の 受食 性係 数, 畝の 横断 勾 配, キャ ベツ の植 被率 を変 数と する 畝部 の土 壌侵 食レ ー卜 式 を構 築し た.本式は,キャベツの 生育の影 響 を 考 慮 し た 畝 立 て 圃 場 の 土 壌 侵 食 量 推 定 モ デ ル を 構 成 す る サ ブ モ デ ル で あ る .

(4) 本 式 を 野 外 条 件 に 適用 する 場合 は, 時間 間隔 が5分 間以 下の 平均 降雨 強度 を用 いる

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ことにより適用性が高くなることを明らかにした.

2.キャベツ栽培圃場を対泉とした土壌侵食量推定モデル

(1)キャベツ栽培圃場における畝部と畝間部の土壌侵食特性を検討するため,圃場内に 裸 地 試 験 区 と キ ャ ベ ツ 栽 培 試 験 区 を 設 置 し て 土 壌 侵 食 量 の 現 地 観 測 を行 っ た.

(2)畝立て圃場における土壌侵食は,畝部で発生する雨滴侵食と畝間を流れる表面流出 水 に よ る 土 壌 の 剥 離 お よ び 侵 食 土 砂 の 輸 送 に よ る こ と を 認 め た .

(3)キャベツ栽培試験区の土壌侵食量は裸地試験区に比べて小さく,この結果は,両試 験区の降雨―流出特性の違い,キャベツ植生による畝部の土壌侵食量の軽減効果,キャベ ツ 収 穫 後 の 残 滓 が 畝 間 の 土 壌 侵 食 過 程 に お よ ぼ す 影 響 に よ る と み な さ れ た .

(4)現地観測結果を踏まえて,表面流出tこよって畝間流路を移動する侵食土砂の連続式 を基本式とするキャベツ栽培圃場を対象とした土壌侵食量推定モデルを構築した,本モデ ルは,前述の畝部の土壌侵食レート式および畝問部の土壌侵食レート式より構成される,

(5)モデルを現地観測データに適用したところ,裸地試験区と収穫前のキャベツ栽培試 験区では実測値をよく再現していた.しかし,収穫後のキャベツ栽培試験区では推定値が 実測値を大きく上回り,キャベツの残滓の影響が畝間部の侵食に大きく寄与しているとみ なされた.

3.野菜畑地帯における土壌侵食量の広域的推定手法

(1) 年平均土壌 侵食量の予測式であるUSLEを,黒ポク土からなる傾斜野菜畑地帯(18 x 19km)にお ける土壌侵 食量の広域推定に適用するため,地形係数,降雨係数,土壌係 数の決定方法の改善を図った,

(2)地形係数にっいては,従来のヌッシュ単位による算定法の問題点を指摘し,圃場1 筆ごとに係数値を求めることが有効であることを示した.

(3) 降雨係数に ついては,観測時間のインターバルが短いAMeDASl0分間降雨デ一夕を 用いることが有効であることを示した.

(4)長期間の土壌侵食観測が必要な土壌係数の決定法については,沈砂池を含む農地造 成団地での土砂堆積調査に基づく簡便な決定法を示した.

(5) 以上の方法 で得られたUSLEの各係数値を用いて傾斜野菜畑地帯における各圃場の 年 平 均 土 壌 侵 食 量 の 推 定 結 果 を 示 し , 本 手 法 の 有 用 性 を 示 し た .

  以上のように,本論文は傾斜野菜畑を対象に,畝立て圃場レベルにおける土壌侵食の物 理過 程を踏まえ た土壌侵 食量の推 定モデルと土壌侵食量の広域推定におけるUSLEの実 用的な適用手法を提示したものであり,その成果は関連学会においても高く評価されてい る.よって審査員一同は,塩野隆弘が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有す るものと認めた.

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参照

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