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学位論文内容の要旨

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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 齊 藤    哲

学 位 論 文 題 名

台風常襲地域に成立する照葉樹林群落および 主要構成樹種の動態に及ぼす強風の影響

学位論文内容の要旨

第1章序論

森林群落における動 態および樹木群の更新において,これまで,様々な研究で台風の重要 性が指摘されてきた 。しかし,台風の偶発性などの理由で計画的な調査が困難なこともあ り,台風常襲地域の 照葉樹林の群落全体やその構成樹種の動態にとって台風がどのような 役割を果たしている か明らかにされているとはいえない。本研究では,台風常襲地域に成 立する照葉樹林およ びそれを構成する個体群にとって,くり返される強風撹乱は個体群を 増やす方向または減 らす方向のどちらに作用するかを明らかにし,優占種群の決定に影響 を及ばしているかを検証した。

第2章調査地概要―綾リサーチサイト

  本研究は宮崎県綾 町の照葉樹林に設置した長期生態観測地の綾リサーチサ イトで行つ た。照葉樹林とは, モンスーンの影響で温暖・湿潤な気候条件下にある東アジア中緯度地 域に発達した常緑広 葉樹林の総称である。調査地の林冠層はイスノキ,アカガシ,ウラジ ロガシ,タブノキな ど常緑広葉樹が優占し,カラスザンショウ,イヌシデなどの落葉広葉 樹やイヌマキなどの 針葉樹も混生する。亜高木層はサカキ,ヤブツバキとぃったツバキ科 や,ホソバタブ,ヤ ブニッケイなどクスノキ科の木本が優占している。綾リサーチサイト の4ha  (200mx 200m)プロット内では,高木種・亜高木種の生活史を以下の3つの成育ステ ージにわけて,2丶一丶4年ごとに個体群センサスが行われている:成木ステージ(胸高直径 5cm以上),若木ステージ(樹高2m以上,胸高直 径5cm未満),稚樹ステージ (樹高30cm 以上,2m未満)。本 研究ではこれら個体群センサスのデータを元に,1993年に受けた非常 に強い台風13号(T9313)による撹乱の影響について解析した。

  第3章綾リサーチサイトにおける1993年台風13号による撹乱

  綾リサーチサイトの森林群落では,T9313による撹乱で全成木の約10%がなんらかの被害 を受けた。枯死率は撹乱前の1989―1991年間の1. 39Y0 year−1から撹乱を含む1991―1993年 間の2. 65% year‑'へと1.9倍に上昇した。林冠ギャップは撹乱前土地面積の1.6%から撹乱

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後8. 796となり,最大で,385m2のギャップが撹乱後に形成された。T9313は綾リサーチサイ トの最寄りの気象台で最大瞬間風速57. 9ms…,最寄りの測候所で日降水量345mmを記録した。

これらの値は過去報告されている猛烈 な台風やハリケーン,サイクロンと比較しても遜色 なく,T9313の物理的強度は非常に強いものであった。しかし,既報のいくっかの強風撹乱 の強風の物理的強度と森林群落の被害度との関係から判断すると,T9313の高い物理的強度 の割に,綾リサーチサイトの被害度は軽微であった。

  第4章台風撹乱による主要樹種の被害

  枯死割合や各被害タイプの被害割合 の結果から樹種ごとの強風に対する抵抗性の高低が 整理できた。綾リサーチサイトを構成 する主要樹種ではイスノキ,サカキ,ヒサカキが低 い被害割合(く8%)・枯死割合(く5%)を示した。イスノキとサカキは林冠層と亜高木 層に分けて解析した場合も同様に低い 傾向が得られ,この2樹種は サイズの影響によらず 種特性として強風に対する抵抗性が高 いと考えられた。一方,アカガシ,イヌガシ,タブ ノキ,マテバシイは高い被害割合(冫15%).枯死割合(>15%)を示し,強風撹乱の被害を 受けやすい種であった。これらの樹種 も林冠層と亜高木層とも同様の傾向がみられ,種特 性として強風に対する抵抗性が低いと 考えられた。また,被害の受けやすさのサイズ依存 性をみると,全種込みにした場合,全 被害合計の被害割合は幹サイズが大きいほど高い傾 向がみられた。しかし,樹種ごとにみ た場合,樹種ごとのサイズ分布のばらっきから,3 ー5樹種で 傾きと樹冠破損のサイズ依存性がみられたのを除き,被 害割合のサイズ依存性 は明瞭ではなかった。

第5章台風撹乱後の主要樹種の回復度

  成木クラスヘの進級割合は,イヌガシ,スダジイ,ヒサカキ,ホソバタブ,ヤブニッケイ,

ユズリハで高く,アカガシ,イスノキ ,ウラジロガシ,サカキ,バリバリノキ,ヤブッバ キで 低かった。この成木クラスヘの進級 割合の結果は,成木直前の若木の本数の多少と T9313後 の 成 長 反 応 の 違 い の ニ つ の 要 因 に 大 き く 影 響 さ れ て い る と 考 え ら れ た 。 第6章強風頻度とくり返される強風撹乱の森林群落動態への影譽

瞬間風速50m s‑l以上の風は九州南部,南西諸島で少なくとも40年 に一度以上の頻度で吹 くと推定され,これら地域の照葉樹林 は頻繁に台風などの強風に曝されている。そうした なか ,綾リサーチサイトにとってT9313規模の強風の再来間隔推定値 は124年であった。

枯死割合と進級割合から主要樹種の強 風撹乱に対する反応は以下の4タイプにまとめられ た:1)鈍 反応タイプ(枯死割合,進級割合ともに小さぃ種):イスノキ,サカキ,2)衰 退タイプ(進級割合に比べ枯死割合が大きい種):アカガシ,ウラジPガシ,タブノキなど,

3)鋭反応タイプ(枯死割合,進級割合ともに大きい種):ホソバ多ブ,ヤブニッケイなど,

4) 増 進 タ イ プ ( 枯 死 割 合 に 比 べ 進 級 割 合 が 大 き い 種 ) : ス ダ ジ イ , ヒ サ カ キ 。   解析の結果,T9313による撹乱に代表されるような強風による大規模撹乱は,各反応タイ プの種群にとって以下のように作用すると推察された。

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鈍反応タイ プは大規模撹乱の有無に関わらず本数を増加させるが,大規模撹乱はこのタイ プの本数増 加の程度を抑える方向に作用する。衰退タイプは撹乱の有無に関わらず幹本数 を減少させ ており,大規模撹乱は幹本数減少をさらに促進させる。一方,鋭反応タイプと 増進タイプ の両種群にとって,一回の大規模撹乱は幹本数を増やす方向に作用し,一時的 に幹本数が 増加する。しかし,大規模撹乱が推定された頻度でくり返されることで,鋭反 応タイプは 減る方向に,増進タイプは増える方向に推移する。

第7章総合考察

  以上の結 果から判断すると,スダジイを除く綾リサーチサイトの優占種の個体群は大規 模撹乱によ って減少するか,または増加の程度を抑えられており,高い強風頻度という特 殊な環境条 件が照葉樹林の優占種を決定づける主要因ではなかった。九州本島および周辺 離島に成立 する成熟した照葉樹林は,強風撹乱に対して高い抵抗性を持っイスノキ,サカ キなどが本 数的に高い優占度を占める種構成をとることから強風撹乱に対して抵抗性を持 った森林群 落であると考えられた。綾リサーチサイトのようた照葉樹林は高い強風頻度と 照 葉 樹 林 の 強 風 に 対 す る 高 い 抵 抗 性 の ニ っ に 起 因 す る 撹 乱 体 制 で あ ると いえ る。

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学 位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授 教 授 助 教 授 教 授

高橋 矢島 渋谷 中静

学 位 論 文 題 名 邦

正 秀 崇 人

透(総合地球環境学研究所)

台風常 襲地域 に成立す る照葉樹林群落および 主要構成 樹種の 動態に及ぼす強風の影響

  本 論 文 は7章 、140頁 の 和 文 論 文 で 、 図27、 表18、 引 用 文 献137か ら な り 、 参 考 論 文 5編が 添えら れてい る。

  森林 群 落 に おけ る 動 態 およ び 樹 木 群の 更 新 に おい て台風 の重要 性が指 摘されて いる。 し か し 、台 風 の 偶 発性 な ど の ため 計 画 的 な調 査 が 困 難なこ ともあり 、台風 常襲地 域の照 葉樹 林 の 動態 に 台 風 が果 た す 役 割は 明 ら か にさ れ て い なぃ。 本論文は 台風常 襲地域 の九州 に成 立 す る 照 葉 樹 林 お よ びそ れ を 構 成す る 樹 木 個体 群 に 強 風撹 乱 が 与 える 影 響 を4 haの長 期 生 態 観測 調 査 地 での14年 間に わ た る 個体 群 セ ン サス から明 らかに した。 センサス から得 ら れ た 各樹 種 の 強 風抵 抗 性 と 強風 頻 度 の 推定 を も と に、く り返され る強風 撹乱が 個体群 を増 やす 方向ま たは減 らす方向 のどち らに作 用する かを推 定した 。

  調 査 地 の 樹 木 群 を林 冠 層 と 亜高 木 層 に 分類 し 、 個 体群 セ ン サ スは2〜4年 ご と に 行っ て い る 。1993年9月に 九 州 を 襲っ た 最 大 瞬間 風 速57. 9ms―1の 台風13号 によ る 撹乱後 の成長 反 応 をみ る た め 高木 種 ・ 亜 高木 種 を 成 木( 胸 高 直 径5cm以 上 ) 、若 木 ( 樹 高2m以 上、胸 高 直 径5cm未 満 ) 、 稚 樹 ( 樹 高30cm以 上 、2m未 満 ) の3ス テ ー ジ に 分 類 し 、 進級 割 合 を 調 査 し た 結 果 、 台 風13号 に よ る 撹乱 で 成 木 の約10%が な ん ら かの 被 害 を 受け 、 枯 死 率は 撹 乱前3年間の 平均1. 39%year―  ̄から撹 乱を含む3年間の2.65%year−Iへと1.9倍に上昇し た 。 林冠 ギ ャ ッ プは 撹 乱 前土 地面積 の1.6% から撹 乱後は5倍強の8.7%と なり、 最大で 、 385m2の ギ ャ ッ プが 形 成 さ れた。 主要樹種 のイス ノキと サカキ は林冠 層と亜 高木層 ともに 被 害 割 合や 枯 死 割 合が 低 い こ とか ら 、 種 特性 と し て 強風に 対する抵 抗性が 高く、 アカガ シ、

イ ヌ ガシ 、 タ ブ ノキ 、 マ テ バシ イ は 被 害割 合 ・ 枯 死割合 が高く強 風に対 する抵 抗性が 低い と 考 えら れ た 。 また 、 被 害 割合 の サ イ ズ依 存 性 は 調査地 の全樹種 込みで は幹サ イズが 大き い ほ ど高 い 傾 向 がみ ら れ た が、 樹 種 ご との 被 害 割 合のサ イズ依存 性は明 瞭では なかっ た。

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強風撹乱後の成木クラスへの進級割合は、イヌガシ、スダジイ、ヒサカキ、ホソバタブ、

ヤブニッケイ、ユズリハで高く、アカガシ、イスノキ、ウラジロガシ、サカキ、バリバリ ノキ、ヤブッバキで低かった。成木クラスへの進級割合は、成木直前の若木の本数の多少 と 撹 乱 後 の 成 長 反 応 の 違 い の ニ つ の 要 因 に 大 き く 影 響 さ れ て い た 。   西南日本 の各気象台のデータをもとに岩井法による瞬間風速50msーI以上の風の再来間 隔推定値は40年に一度以上、台風13号規模の強風は124年であった。強風撹乱の繰り返 しに対する 主要樹種の反応を枯死割合と進級割合から1)強風撹乱の有無に関わらず本数 を増加させるが、強風撹乱が本数増加の程度を抑える方向に作用する鈍反応タイプ(枯死 割合、進級割合ともに小さぃ種):イスノキ、サカキ、2)撹乱の有無に関わらず本数を減 少させており、強風撹乱が本数減少をさらに促進させる衰退タイプ(進級割合に比ベ枯死 割合が大きい種):アカガシ、ウラジロガシ、タブノキなど、3)一回の強風撹乱は本数を 増やす方向に作用し、一時的に本数は増加するが、撹乱がくり返されることで減る方向に 作用する鋭反応タイプ(枯死割合、進級割合ともに大きい種):ホソバタブ、ヤブニッケイ など、4)強風撹乱がくり返されることで本数を増加させる方向に推移する増進タイプ(枯 死割合に比べ進級割合が大きい種):スダジイ、ヒサカキ、の4タイプに分類し、強風撹乱 の繰り返し に対する照葉樹林の動態メカニズムを本邦で初めて理論的に考察している。

  以上のように九州における照葉樹林優占種の個体群はスダジイを除き強風撹乱によって 減少するか、または増加の程度を抑えられており、高い強風頻度という特殊な環境条件が 優占種を決定づける主要因ではないが、強風撹乱に対して高い抵抗性を持っイスノキ、サ カキなどが本数的に優占する種構成をとること、照葉樹林は高い強風頻度と強風に対する 高い抵抗性のニっに起因する撹乱体制であることを明らかにし、強風撹乱の繰り返しに対 する照葉樹林群落の動態メカニズムを考察し、九州の照葉樹林は強風抵抗性の高い森林で あると結論づけた。これらの内容は学術的に高く評価されるとともに、森林管理への応用 も可能とするものである。

  よって、審査員一同は、斉藤哲が博士(農学)の学位を受けるのに十分な資格を有する ものと認めた。

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参照

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