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Academic year: 2021

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博 士 ( 農 学 ) 前 田 智 雄

学 位 論 文 題 名

アスパラガス一代雑種の効率的採種法及び 生理活性機能向上に関する基礎的研究

,学位論文内容の要旨

  アスパラガス(Aspara{gus officinalis L.)はユリ科の多年生作物で、世界中で広く栽培されている。日本におい ては、生産者は価格 が安い輸入品との競合によ って厳しい状況にさらされており、輸入品に対抗するための高 品質な品種の育成が 望まれている。アスパラガ スは雌雄異株で他殖性であるため、交配した場合に遺伝的な変 異が多く、収量や品質の安定性が低いことが知られている。このため、品種の育成には、優良な親系統の選抜と クローン培養技術を 組み合わせたー代雑種育種 が用いられてきた。しかし、一代雑種の採種方法についての系 統だった研究はほとんど行われておらず、効率的な採種法の確立が求められていた。一方、アスパラガスには、

さまざまな生理活性を持っことが知られているフラボノイドの一種、ルチンをはじめ、多くのポリフェノール類が含 まれており、「機能性野菜」として注目されている。しかし、アスパラガスの生理活性機能に関する研究はまだ始 まったばかりで、ル チンの品種間差や季節変化 、ルチン以外の成分の生理活 性及び含量などの知見は充 分に 得られていなぃ。これらの知見を得ることは、生理活性機能を向上させた一代雑種の効率的な採種を可能とし、

国産アスパラガスの輸入品に対する競争カを高める上できわめて重要である。

  本研究は、アスパ ラガスの生理活性機能の向 上を目的とした育種を行う際に必要な、一代雑種の効率的な大 量採種方法の確立を 図り、さらに生理活性物質 のルチン及び総ポリフェノール含量について、品種間差、季節 変動及び栽培法によ る含量の変動について検討 した。また、アスパラガスの生理活性を評価するため、若茎粗 抽出物の抗酸化活性評価試験を行った。

I. アスパラガス一代雑種の効 率的採種法に関する基礎的研 究 1. 花粉の効率的な保存法及び 交配適期

  試 験的 に多 数の 交配 組 合せ を作出する際に 必要な技術として、アスパラ ガスの花粉の保存法につい て検 討 し た。その結果 、花粉は、花の状態で容器に 入れ、5℃.低湿条件下で保 存することで、交配可能な 期間

( 約3か月間)を通して保存可能であることがわかった。使用する際には金属メッシュ上ですりっぶすことで簡 単 に交配に供する事が可能であ り、保存花粉は生花から採 種した花粉と同等の交配能カ を維持した。また、

ア スパラガスの交配能カは、北 海道においては雄株、雌株 とも6月中旬から7月下旬が高 く、盛夏に一時的に 低 下した。これは、夏の高温下 では花粉の授精能カが低下したり、雌蕊の活性が低下したりすることが原因で あ ると思われた。また9月以降 に交配した場合、着果はみら れるものの、種子数や種子重が減少することがわ か った。

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2. ミ ツ バ チ を 花 粉 媒 介 者 ( ポ リ ネ ー タ ー ) と し て 利 用 し た 効 率 的 な 大 量 採 種 法   圃 場における訪花昆虫の調査の結果、北海道におけるアスパラガスの主要な訪花昆虫はセイヨウミツバチ であった。セイヨウミツバチをポリネーターとして利用して交配を行った結果、得られた種子の品質に問題はな く、隔離ハウスで効率的な大量採種が可能であることがわかった。最適な雌雄比について3:1, 5:1及び7:1に つ いて検討を行ったところ、雌雄比が3:1及び5:1において採種量が高かった。雌株の生育と株当たり採種量 の 関係を 雌雄比 毎に比較 した結 果、7:1では雄株からの花粉の供給が少なぃことが、採種量が低いことの要 因と考えられたため、最適な雌雄比は3:1なぃし5:1であると考えられた。

n.アスパラガスの生理活性機能に関する基礎的研究

1. 若 茎 中 の ル チ ン 及 び 総 ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 の 品 種 間 差 、 作 型 ・ 規 格 に よ る 差 及 び 季 節 変 動     アスパラガス20品種について、若茎中のルチン及び総ポリフェノール含量の品種問差を検討した結果、ル チン含量及び総ポリフェノール含量には品種により有意差が認められた。また、ルチン及び総ポリフェノール 含 量 の部位 間差を 検討し た結果 、含量 は頭部> 中央部>基部で あった 。作型 問の比 較では 、ルチ ン含量 は 春先を除き、露地栽培の方がハウス栽培よりも多い傾向があった。また総ポリフェノール含量についても、春 先以 外は露 地栽培 の方が 多い傾 向であ ったが 、ルチン 含量ほ どの大 きな差 はなか った。若茎の太さ規格別   に同様の調査を行った結果、細いものほどルチン含量が多く、太くなるにしたがってルチン含量は少なくなっ た。総ポリフェノール含量については、規格や栽培方法による差はルチン含量ほど大きくなかった。ルチン及   び総ポリフェノール含量の季節変動について調査した結果、どちらも春先がもっとも含量が多く、立茎後(7月 以降)に低下する、という傾向であった。ルチンが夏場に大きく減少するのに対し、総ポリフェノール含量の減 少はルチンほど急速ではなかった。これらのことからアスパラガスのルチン及びポリフェノール類の含量には 品種 間差が あり、 さらに その含 量には 遺伝的 要因や栄 養状態 などの 内生的 要因の 他に、栽培条件や光環境 などの外的要因も深く関わっていることが明らかとなった。

2.アスパラガスの抗酸化活性

  ア スパラガ スのヒ 卜に対 する生 理活性について、抗酸化活性について着目し、粗抽出物のDPPHラジカル捕 捉活 性及び 動脈硬 化予防 と関連 がある として 注目され ているLDL抗酸化活性について検討した。その結果、

アス パラガ スの粗 抽出物 にはDPPHラ ジカル捕捉活性が認められた。また、活性の変動は、ルチン及び総ポリ フェノール含量の季節変動及び品種間差の傾向とよくー致したことから、この活性がルチンなどのポリフェノー ル類と密接な関係があることがわかった。さらに、アスパラガスの粗抽出物が、品種や茎の色にかかわらず、

LDL抗 酸化活 性を示す ことが 示され た。LDL抗酸化活性に関しては、ルチンを含まなぃホワイ卜アスパラガス の粗 抽出物 も有色 の品種 と同等 の抗酸 化活性を示すという興味深い結果が得られた。また、アスパラガスで はこ れまでLDLに対する抗酸化活性が報告された例はなく、本研究でこうした活性を有することが明らかにな ったことは意義があると思われる。

  本研究の成果から、アスパラガスにおける機能性育種について、新たな手法を提唱できると考える。すなわち、

ル チン含 量及び 総ポリフ ェノー ル含量 の高い 系統を 選抜し 、保存 花粉を 利用して効率的に一代雑種系統の作 出を行う。さらにそれらから有望なー代雑種を選抜した後に、隔離ハウスにおいてポリネーターとしてミツバチを     ―1125―

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利用 した効率的な大量採種を行 う、という手法である。この 手法によって機能性成分含量が高い一代雑種品種 を育 成することで、輸入品との差別化にっながり、国産アスパラガスの競争カの向上に貢献できるものと期待さ れる 。

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学位論文審査の要旨 主 査    教授    大澤勝次 副 査    教授    増田    清 副 査    教授    荒木    肇 副査   助教授   松浦英幸

学 位 論 文 題 名

アスパラガス一代雑種の効率的採種法及び 生理活性機能向上に関する基礎的研究

  本 論 文 は4章 か ら な り 、 図29、 表6、 引 用 文 献89を 含 む 、 総 ペ ー ジ 数98の 和 文論 文で あり 、ほ かに 参 考論 文3篇が 添え られ てい る 。

  ア スパ ラガ ス(Asparagus o所cf門口ぬL,)はユリ科の多年生作物で、 世界中で広く栽培 さ れ て い る 洋 菜 で あ る 。 日 本 の 生 産 者 は 価 格 が 安 い 輸 入 品 と の 競 合 に よ っ て 厳 し い 状 況 に さ ら さ れ て お り 、 輸 入 品 に 対 抗 し う る 高 品 質 な 品 種 の 育 成 が 望 ま れ て い る 。 し か し 、 わ が 国 で は ア ス パ ラ ガ ス の ー 代 雑 種 採 種 法 に つ い て の 系 統 的 な 研 究 が 少 な く 、 効 率 的 な 採 種 法 が 確 立 し て い な い 。 し た が っ て 、 わ が 国 の ア ス パ ラ ガ ス 品 種 の ほ と ん ど は ア メ リ カ や ヨ ー ロ ッ パ で 育 成 さ れ た 一 代 雑 種 品 種 が 用 い ら れ て い る ら   一 方 、 ア ス パ ラ ガ ス に は フ ラ ポ ノ イ ド の 一 種 、 ル チ ン を は じ め 、 多 く の ポ リ フ ェ ノ ー ル 類 が 含 ま れ る こ と が 知 ら れ る よ う に な り 、 機 能 性 野 菜 と し て 注 目 さ れ 始 め て い る が 、 ア ス パ ラ ガ ス の 生 理 活 性 機 能 の 研 究 は 始 ま っ た ば か り で 、 ル チ ン の 品 種 間 差 や 季 節 変 化 、 ル チ ン 以 外 の 成 分 の 生 理 活 性 機 能 等 の 知 見 は ほ と ん ど な い 。   そ こ で 本 研 究 は 、 ア ス パ ラ ガ ス の 生 理 活 性 機 能 の 向 上 を 目 的 と し た 育 種 の 際 に 必 要 な 、 一 代 雑 種 の 効 率 的 な 大 量 採 種 法 の 確 立 を 図 り 、 さ ら に 生 理 活 性 物 質 の ル チ ン 及 び 総 ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 に つ い て 、 品 種 問 差 、 季 節 変 動 及 び 栽 培 法 に よ る 含 量 の 変 動 を 検 討 し 、 同 時 に 若 茎 粗 抽 出 物 に よ る 抗 酸 化 活 性 評 価 法 を 明 ら か に し た 。

I. ア ス パ ラ ガ ス 一 代 雑 種 の 効 率 的 採 種 法 に 関 す る 基 礎 的 研 究 1. 花 粉 の 効 率 的 な 保 存 法 及 び 交 配 適 期

  多 数 の 交 配 組 合 せ 系 統 を 作 出 す る 際 に 必 要 な ア ス パ ラ ガ ス 花 粉 の 簡 便 な 保 存法 を検 討 し た 。 花 の 状 態 で 容 器 に 入 れ 、5℃ . 低 湿 条 件 下 で 保 存 す る こ と で 、 交 配 可 能 な 期 間 ( 約3か 月 間 ) を 通 し て 保 存 可 能 で あ る こ と 、 金 属 メ ッ シ ュ 上 で 葯 を す り っ ぶ す こ と で 、 保 存 花 粉 は 生 花 か ら 採 種 し た 花 粉 と 同 等 の 交 配 能 カ を 維 持 す る こ と 等 を 明 ら か に し た 。 ア ス パ ラ ガ ス の 交 配 能 カ は 、 北 海 道 に お い て は 雄 株 、 雌 株 と も6月

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中 旬か ら 7 月下 旬 が高 く 、盛 夏 以降 の 交配 で は種 子 数や 種子重が減 少した。

2 .ミツバチを花粉媒介者(ポリネーター)として利用する効率的な大量採種法    北海道におけるアスパラガスの主要な訪花昆虫であるセイヨウミツバチをポリネー ターとして利用した場合、得られる種子の品質に問題はなく、隔離ハウスで効率的な 大量採種が可能であることを明らかにした。ミツバチの最適な雌雄比を検討し、雌 雄 比 が 3 : 1 及 び 5 : 川 こ お い て 採 種 量 が 高 ま る こ と を 明 ら か に し た 。

n. アスパラガスの生理活性機能に関する基礎的研究

1 . 若 茎 中 の ル チ ン 及 び 総 ポ リ フ ェ ノ ー ル 含 量 の 品 種 間 差 及 び 季 節 変 動    アスパラガス20 品種について、若茎中のルチン及び総ポリフェノール含量の品種 間差を検討し、その含量には品種により有意差が認められた。若茎の部位別にルチ ン等の含量を検討した結果、いずれの品種も頭部冫中央部冫基部の順であった。作 型間の比較では、ルチン含量は春先を除き、露地栽培がハウス栽培よりも多い傾向 にあり、総ポリフェノール含量についても、春先以外は露地栽培の方が多い傾向で あったが、ルチン含量ほどの大きな差はなかった。若茎の太さ規格別に同様の調査 を行った結果、細いものほどルチン含量が多く、太くなるにしたがってルチン含量 は少なくなった。総ポリフェノール含量については、規格や栽培方法による差はル チン含量ほど大きくなかった。季節別の調査では、どちらも春先がもっとも含量が 多く、立茎後( 7 月以降)に低下した。ルチンが夏場に大きく減少するのに対し、

総ポリフェノール含量の減少は緩やかであった。

2 .アスパラガスの抗酸化活性

   アスパラガスのヒトに対する生理活性機能について、抗酸化活性に着目し粗抽出物 の DPPH ラジ カル捕捉活 性及び動脈 硬化予防と 関連があるとして注目されている LDL 抗酸化活性 について検討した。アスパラガスの粗抽出物には高い DPPH ラジカ ル捕捉活性が認められた。また、活性の変動は、ルチン及び総ポリフェノール含量 の季節変動及び品種問差の傾向とよく一致したことから、この活性がルチンなどの ポリフェノール類と密接に関係していることを明らかにした。さらに、アスパラガ スの粗抽出物が、品種や茎の色にかかわらず、LDL 抗酸化活性を示すことが示され た。 LDL 抗酸化活性に関しては、ルチンを含まないホワイトアスパラガスの粗抽出 物も有色の品種と同等の抗酸化活性を示した。アスパラガスではこれまで LDL に対 する抗酸化活性の報告例はなく、本研究が初報告である。.

   本研究の成果はアスパラガスにおける機能性育種にっいての新たな手法を提唱する と考える。すなわち、ルチン含量及び総ポリフェノール含量の高い系統を選抜し、保 存花粉を利用して効率的に一代雑種系統を作出し、隔離ハウスにおいてミツバチを利 用した大量採種を行う、という手法である。これによって国産アスパラガスの競争カ の向上に貢献しうると期待される。

   よって審査員一同は、前田智雄が博士(農学)の学位を受けるに十分な資格を有す るものと認めた。

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参照

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