博 士 ( 医 学 ) 松 澤 学 位 論 文 題 名
等
Magnetic resonance axonography of the rat spinal cord:postmortem effects
(ラッ卜脊髄における磁気共鳴軸索強調画像:死後変化について)
学位論文内容の要旨
緒言:神経外科領域においては、脊髄の詳細な解剖学的構造を画像化する非侵襲的な方法が要求 されている。我々が発表した光の三原色の混合則を利用した磁気共鳴画像は、生きている動物の 脊髄の解剖学的構造を鮮明に描出できる。3次元非等方性コントラスト(3DAC)といわれるこの 手法は、拡散テンソルに対する新しい処理アルゴリズムにより、等方成分を消去することによっ て、拡散テンソルから非等方拡散ベク卜ルを抽出することができる。このアルゴリズムは非常に 簡単なプロセスで実現でき、臨床応用がすぐに可能である。必要なのは、空間の3軸について拡 散強調をおこなった非等方性拡散強調画像三枚のみである。光の三原色の混合則、すなわち三原 色を等量づっ混ぜ合わせると無色になり、また、三原色の混合比率の違いが色の違いとなる特性 がすなわち3DAC処理のニつの重要な点を解決してくれる。っまり、拡散の等方成分の消去と 非等方成分のべクトル表示である。その結果できるイメージは脊髄の水平断のフルカラー表示で あり、その色のスベクトルは神経線維の走行方向と密度を表す(磁気共鳴軸索強調画像、MR axonography)。この論文で、我々は心停止直後からのラットの脊髄のMR axonographyの変 化を追うことにより、病理学的変化に対する3DACの感度を検証した。三原色の混合比率を計 測することにより三次元空間における非等方拡散ベクトルの変化を追跡し、脊髄の特定の部位に おける非等方性の経時的変化を定量的に解析した。
対象蠱よ亜方法:保温装置により体温を37℃に維持され麻酔されたSprague‑Dawleyラットを 使用した。心停止はKC1の静脈内投与によってひきおこされ、経時的に撮像がおこなわれた。
7テスラーの磁気共鳴実験装置を使い、Steskal.Tannerシーケンスによって空間3軸にそれぞ れ拡散強調傾斜磁場をかけたラット頚髄の非等方拡散強調画像を得た。グレイスケールで表示さ れたこれら3つのx,y,z軸方向の非等方拡散強調画像にそれぞれ赤、緑、青の三原色を割り当て た画像を作った。さらにこれら3つの三原色画像を画素子ごとに重ね合わせー枚のフルカラー画 像を作った。この際、光の三原色の混合則により三色が等量存在する部分は白く抜ける(等方成 分の消去)。最後にこのフルカラー画像の白黒を反転する。こうすることによって赤、緑、青の 色の強さの比率が非等方拡散ベク卜ルの方向を表すようにした。
結果:脊髄の正常解剖構造が良好な解像度を持って描出された。非等方成分によってカラーコー ドされた方向は、線維東の走行とよく一致していた。後索、前索、側索は青みを帯びて(Z軸方
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向)描出され、更に 、後索の二次構造である背側 皮質脊髄路、楔状束、薄束 もまた良好に描出さ れ た 。Rexedに よ る 灰 白 質 の 細 胞 層 構 造 の区 別(5、6層と1 4、7層 の区 別) もま た可 能 で あっ た。 楔状束や側索、前索 の様に、生前に拡散の非等方 性が強かった部分は、心停 止後2時間 で速 やか にその非等方性を失 い、心停止後4時間までには プラトーに達した。これらの 領域は完 全に等方拡散には最 後までならず、その非等方性 をいくらか残していた。死 後ごく早期には、通 常 の 組 織 診 断 でも 形態 学 的変 化を とら え るの は困 難と され て おり 、死 後2時間 まで に3DACに よってとらえられる この所見は、神経線維の形態 学的変化よりも機能的変化 を反映していると考 えられた。
圭察:画素子内の水 分子の非等方運動は、拡散強 調画像における輝度の低下 をもたらすが、これ は拡散強調傾斜磁場 をかけた方向に依存する。こ のような方向依存性は、神 経線維の水の非等方 運動に起因しており 、神経線維の走行方向の決定 に役立っと言われている。 厳密には、非等方性 の拡散係数はスカラ 了量としてではなく、二階テ ンソル量として扱わなくて はならず、従って、
神経線維束の走行方 向の決定のためには拡散テン ソルの厳密な計算が必要で あるが、この計算プ ロセ スは 、 臨床 応用 のた め には 複雑 で非 現実 的 であ る。3 DAC法を使用することによ り、光の 三原色の混合理論に より簡単に等方成分を消去し 、非等方拡散ベクトルを抽 出する事ができ、す ぐ に 臨 床 応 用 が 可 能 で あ る 。3DAC理 論 に 基づ いたMR axonographyは 、磁 気共 鳴画 像の 一 部 として、非侵襲的で あり容易に実現可能である。 脊髄は種々の長い線維束、 伝導路で構成されて おり、3DACによって コントラストがっきやすい組 織である。この実験でも、 脊髄、特に線維束、
伝導 路の 病 的変 化に 対す る3DACの高 い感 度が 示 され てお り、 種々 の 脊髄 疾患 に対す る応用が 期待 され る 。3DACで 検出 さ れた 非等方性の変化が、形態 的よりも機能的な神経線維の 変化を反 映し てい る こと を考 える と 、MR axonographyは 、軸 索の 変性 疾患 等 の描 出法 として 期待され る。この手法で観測 された非等方性の原因となっ ているものは主にニつ考え られ、軸索流と髄鞘 による制限拡散であ る。この拡散強調で使用した 拡散時間から計算すると、 一次元方向の拡散距 離 は12か ら18Mmで あ る 。 軸 索 や 樹 状 突 起 の 直 径 は2か ら10um程 度 で あ る か ら 、 軸 索 内 の水分子は、軸に垂 直な方向にかなりの程度拡散 の制限を受けていると考え られる。軸索内の細 胞内 小器 官 は一 日あ たり 最 大400mmの 速 度で 移動 して い る。基質の軸索輸送は軸索流 と呼ばれ るこの細胞質内の水 分子の運動によっておこなわ れている。軸索流が拡散係 数の方向依存性の原 因となっている画素 子内の非等方運動の代表的な ものであろう。この論文で 示した非等方性の経 時的変化は、神経線 維の非等方性の変化にはニつの要素が同時に関わっている事を示唆している。
心停 止直 後 から2時 間の 間に 起こ る急 激 な非 等方 性の 減 衰はおそらく軸索流の変化に 起因する も の で あ り 、 心 停 止4時 間 後 に も ま だ 見 ら れ る 非 等 方 性 は 制 限 拡 散 によ るも ので あろ う 。 結 諭 : 磁 気 共 鳴 画 像 に お け る3DACを 利 用 したMR axonographyは、 生 きて いる 動物 の脊 髄 の 解剖 を高 精 度に 画像 化で き る強 カな非侵襲的手法であり 、3DACはまた病的変化に対し ても敏感 であった。今回の実 験では、少なくともニつの独 立した要因が神経線維の水 分子の運動の非等方 性に関与している事 が示唆された。
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学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
Ix/Iagnetic resonance axonography of the rat spinal cord:postmortem effects
(ラッ卜脊髄における磁気共鳴軸索強調画像:死後変化について)
3次元 非等 方 性コ ント ラス ト(3DAC)と 名付 けた 光の三原色の混合則を 利用した磁気共鳴画像 では、拡散テン ソルに対する新しい処理アルゴリズムにより、等方成分を消去することによって、
拡散テンソルか ら非等方拡散ベクトルを抽出 することができる。光の三 原色の混合則、すなわち 三原色を等量づ っ混ぜ合わせると無色になり 、また、三原色の混合比率 の違いが色の違いとなる 特 性が すな わち3DAC処 理の ニつ の重 要な 点 を解 決し てく れ る。 っま り、 拡散の等方成分の消 去と非等方成分 のべクトル表示である。その 結果できるイメージの色の スペクトルは神経線維の 走 行方 向と 密度 を表 す (磁 気共 鳴軸 索強 調 画像 、MR axonography)。本 研究では心停止直後か ら の ラ ッ 卜 の 脊 髄 のMR axonographyの 変化 を追 う こと によ り、 病理 学 的変 化に 対す る3DAC の感度を検証し た。三原色の混合比率を計測 することにより三次元空間 における非等方拡散ベク トルの変化を追 跡し、脊髄の特定の部位にお ける非等方性の経時的変化 を定量的に解析した。7 テ スラ ーの 磁気 共鳴 実 験装置を使い、Steskal.Tannerシーケンスによ って空間3軸にそれぞれ 拡散強調傾斜磁 場をかけたラット頚髄の非等方拡散強調画像を得た。グレ、イスケールで表示され たこれら3つのx,y,z軸方向の非等方拡散強 調画像にそれぞれ赤、緑、 青の三原色を割り当てた 画像を作り、画 素子ごとに重ね合わせ一枚の フルカラー画像を作った。 この際、三色が等量存在 する部分は白く 抜ける(等方成分の消去)。 最後にこのフルカラー画像 の白黒を反転する。こう することによっ て赤、緑、青の色の強さの比 率が非等方拡散ベクトルの 方向を表すようにした。
この結果できた 画像では、脊髄の正常解剖構 造が良好な解像度を持って 描出された。非等方成分 によってカラー コードされた方向は、線維束 の走行とよく一致していた 。後索、側索、前索、あ る いは 後索 の二 次構 造 であ る背 側皮 質脊 髄 路、 楔状束、薄束もまた良 好に描出された。Rexed による灰白質の 細胞層構造の区別もまた可能 であった。後索や側索、前 索の様に、生前に拡散の 非 等方 性が 強か った 部 分は、心停止後2時間 で速やかにその非等方性を 失い、心停止後4時間ま でにはプラトー に達した。これらの領域は完 全に等方拡散には最後まで ならず、その非等方性を い く ら か残 して いた 。 死後2時間 ま でに3DACによ っ てと らえ られ るこ の 所見 は、 神経 線維 の ―90―
弘雄 男 邦和 部代 坂 阿 田 宮 授授 授 教教 教 査査 査 主副 副
形態学的変化よ りも機能的変化を反映して いると考えられた。非等方性 の拡散係数は厳密には、
スカラー量とし てではなく、二階テンソル 量として扱わなくてはならず 、神経線維束の走行方向 の決定のために は拡散テンソルの正確な計 算が必要であるが、この計算 プ口セスは、臨床応用の た めに は複 雑で 非現 実 的で ある 。3 DAC法を 使用 す ることにより 、光の三原色の混合理論に よ り 簡単 に等 方成 分を 消 去し 、非等方 拡散ベク卜ルを抽出する事が できる。3DACで検出された 非 等 方性 の変 化が 、形 態 的よ りも 機能 的 な神 経線 維の 変化 を 反映 して いる こと を考えると、MR axonographyは 、軸 索の 変性 疾 患等 の描 出法 とし て 期待される。 この手法で観測された非等 方 性の原因となっ ているものは主にニつ考え られ、軸索流と髄鞘による制 限拡散である。本研究で 示した非等方性 の経時的変化は、神経線維 の非等方性の変化にはニつの 要素が関わっている事を 示 唆して いる。心停止直後から2時間 の間に起こる急激な非等方性 の減衰はおそらく軸索流の 変 化 に起因 するものであり、心停止4時 間後にもまだ見られる非等方 性は制限拡散によるもので あ ろ う 。 磁 気 共 鳴 画 像 に お け る3DACを利 用 したMR axonographyは、 脊髄 の解 剖を 高 精度 に画 像 化 で き る 強 カ な 非 侵 襲 的 手 法 で あ り 、 病 的 変 化 に 対 し て も ま た 敏 感 で あ っ た 。 公開発表にお いて、宮坂和男教授より、 拡散係数の定量性に関する質 問、臨床応用に際して考 えられる限界に っき質問があった。ついで 田代邦雄教授より、運動線維 と感覚線維の鑑別の可能 性について、ま た、人間の脱髄疾患に臨床 応用したとき予想される所見 について質問があった。
さらに阿部弘教 授から、脊損ラットなどの 疾患モデルを用いた実験の今 後の展開につき質問があ った。いずれの 質問に対しても、申請者は自らの研究に基づく経験や過去の論文の結果を引用し、
豊富な知識に基 づいて明解に回答した。
本研究により 、非等方拡散を利用した伝 導路の精密な描出が可能とな り、脊髄における非等方 拡散の死後変化 の詳細が明らかになった。 今後本研究の成果は、人間の 脳、脊髄疾患における伝 導 路 障 害 の 画 像 診 断 や 治 療 効 果 判 定 の う え で 、 役 立 つ も の と 期 待 さ れ る 。 審査員一同は これらの成果を高く評価し 、また研究者とレて誠実かつ 熱心であり、申請者が博 士(医学)の学 位を受けるのに充分な資格 を有するものと判定した。
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